北村想が劇作・演出・出演の三役をこなす、春秋2バージョンの二人芝居。『戯曲・アリス人形館』〜春の夜編〜を、名古屋の小劇場と配信でまもなく上演
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左から・出演者の二宮信也、作・演出・出演の北村想
劇作家・北村想と、その意欲的新作を発表する劇団〈avecビーズ〉との共同企画で、春秋連続公演として展開する『戯曲・アリス人形館』。北村が作・演出を手掛けるだけでなく、春と秋、それぞれ異なる役者を相手に出演もする、非常にレアな二人芝居企画だ。その第一弾である《春の夜~first evening~》編が、2021年5月25日(火)~30日(日)に名古屋の「円頓寺Les Piliers」で上演される(30日の楽日のみツイキャスライブ配信もあり)。
『戯曲・アリス人形館』チラシ表
北村が二人芝居の相手役として迎えたのは、名古屋を拠点に活動し、〈avecビーズ〉作品への出演経験もある、俳優の二宮信也(星の女子さん/スクイジーズ)と荘加真美(劇団ジャブジャブサーキット)。両者ともその演技力には定評があり、客演での活躍も多い魅力的な役者で、《春の夜~first evening~》編には二宮、10月下旬の《秋の夜~second evening~》編(詳細は秋に紹介予定)には荘加が出演する。
舞台となるのは、前日に閉店したばかりだという喫茶店「アリス人形館」。《春の夜~first evening~》編は、店の前を通りがかった男(二宮)のナレーションで幕を開ける。その佇まいに惹かれ、窓からふと中を覗き込んだ男は、店主らしき初老の人物(北村)と目が合う。長テーブルの片隅でなにやら書き物をしながらウイスキーグラスを傾ける店主に誘われ、男が店内に足を踏み入れて椅子に座ると、二人はポツリポツリと会話を始める─。
稽古風景より
本作『戯曲・アリス人形館』は、北村が1970年代に営んでいた喫茶店と人形の店「ファルス人形館」(名称は坂口安吾『堕落論』収録作に由来)で見聞きした出来事を軸に書き下ろした作品で、当初は小説として出版するつもりだったという。
「店にいろいろな客が来たから、その時のエピソードなんかを小説にしようと思ってたんですよ。でも今ね、出版不況だからとにかく5000部は売れるような本でないと出版社が出してくれない。そこまで拘る本でもないからなぁと思って、戯曲にしたけど、なんか気に入らない。そこで本当の出来事ばかりの中にひとつだけ虚構のエピソードを入れてミステリーにしようかと思ったんですけど、全然一貫性を持たないんだな、これが(笑)。何回も書き直して、十一稿まで書いたのは覚えてます」と北村。
また、北村は2011年にも流山児祥との二人芝居『夢謡話浮世根問(うたはゆめ うきよのねどい)』(作:北村想/演出:小林七緒)に出演し、全国8都市ツアーも行ったが、10年ぶりに演者として臨む二人芝居は相当勝手が違ったようで、
「あの時はセリフを覚えるのに特に努力はしなくて、立ち稽古に入ったらほとんどセリフが入ってました。今回はセリフが入らない…というか、稽古に入る前に全部覚えたんですよ。でも相手方との稽古に入った時には消えてるんですね。忘れたっていう風じゃなくて、0.5秒くらい寝ちゃうというか、落ちるっていう感じ。それで認知症の簡易テストをやってみたりして、昔、IQテストを受けた時の記憶からすると判断は遅くなってるけど、まぁ間違いはなかったから大丈夫だろうなと。
私は役作りをしないから、役の気持ちになってセリフを出すっていうことはやらないんです。導線に従ってここまで来たらセリフを出す、っていう風な形でやるんで、今回はずっと座ってるからそれもあるのかな、と思って。それともう一つは、ストーリー性がないんですよ、この芝居は。『夢謡話浮世根問』の時はストーリー性があったから追いやすかったんだけど、今回はエピソードの塊だから、どのエピソードがどこに来るか混乱したり、どこを忘れるかもわからないから、とりあえずエピソードの順序だけを書いた紙を置いてやってみたんだけど、やっぱりダメで、今度は順序の紙を見るのを忘れる(笑)」と、困った事態に。
「これはもう、台本通りには出来ない」と腹をくくった北村は、大まかな流れはそのままに、エピソード部分ではその都度思いついた話を入れ込むという大胆な手段に出る。
「簡単な言葉で言えばアドリブですけど、アドリブっていうのはものすごく短いでしょ。私のアドリブは長いから、ひとつの話になっちゃう。その日その日で面白いエピソードとかフッと思いつくと、これ入れてみようかな、と。でも俄芝居とかではなくて、要するに頭の中でホンを書きながらやっていて、芝居の途中でトークイベントが入っちゃってる感じです(笑)。台本通りに出来ないなら、自分が芝居を始めた頃の演劇みたいな、あんな風にいいかげんな感触で芝居が進んでいったらいいじゃないか、と思ったんだよね。時計を見ながら急がなきゃいけないと思ったら、ポンッて飛ばして違うところへ行ったり(笑)。それでいいじゃないか、って」と、北村。
それでは二宮さんが対応に困るのでは(笑)と問うと、
「それはもう、彼が犠牲者というか、運が悪かったというか…」と、笑う北村。相手役に指名した理由を、「あんまりニノ(二宮)のことは考えなくて済むだろうと思って」と答えたのも、共に板の上に立つ役者として、二宮とならどうにかなる、という信頼が根底にあるからだろう。
稽古風景より
一方の二宮は、出演依頼を受けた際や、作品についての感想を尋ねると、
「もう、青天の霹靂ですよ。何回か聞き返しました。スタッフで呼ばれたのかと思いました、って。想さんが役者をされているのをほとんど観たことがないので、どういうお芝居をされるのか全然知らなかったですけど、想さんの世代の、例えば〈てんぷくプロ〉の矢野健太郎さんや、亡くなられた火田詮子さんとは共演させていただいてたので、いよいよラスボスが出てきたな、と(笑)。ホンについては、想さんがいつも喋っていらっしゃるようなことを僕が聞く感じだったので、スッと入れました。ただ、内容が難しかったので、辞書を引いたり調べながら読んで。いつも稽古場でいろんなお話をしてくださるので、それを聞いている感じで、段取りを忘れて聞き入っちゃうこともありますけど(笑)」と返答。
稽古を重ねていくうち、北村の脳内から日々繰り出されてくる新たなエピソードへの対応も慣れてきた様子を見せているという二宮。
「仏様の手の上で泳がされている感じなんで、そこで溺れないよう、ちゃんと泳げるようにしようと思っています」と、意気込みも語った。
尚、感染症防止対策のため劇場の席数は1ステージ12席に制限しており、劇場観劇予約は既に全日満席となっているため、観劇希望の方は5月30日(日)14:00の回のツイキャスライブ プレミア配信でのご視聴を(ツイキャス
公演情報
『戯曲・アリス人形館』春の夜~first evening~
■出演:北村想、二宮信也(星の女子さん/スクイジーズ)
■会場:円頓寺Les Piliers(えんどうじレピリエ/名古屋市西区那古野1-18-2)
■料金:3,000円(ツイキャスプレミア配信は、別途システム手数料100円が必要) ※avecビーズ公式サイトからも配信購入可
■配信方法:ツイキャス プレミア配信 https://twitcasting.tv
■アクセス:名古屋駅から地下街ユニモールを抜け、「国際センター」駅2番出口へ。地下鉄桜通線「国際センター」駅2番出口から北東へ徒歩5分
■問い合わせ:avecビーズ 080-3627-3833
■公式サイト:https://avecbeads.wixsite.com/home/