TVアニメ『かげきしょうじょ!! 』千本木彩花インタビュー 自身の養成所時代と重なる紅華歌劇音楽学校の生活
撮影:池上夢貢
白泉社『メロディ』にて連載中の斉木久美子によるコミックス『かげきしょうじょ!!』のTVアニメ化が決定し、2021年7月3日(土)より放送が開始される。舞台は大正時代からの伝統を持つ未婚の女性だけで構成される「紅華歌劇団」。本作はそんな歌劇団の未来のスターを目指す少女たちが切磋琢磨しあう「紅華歌劇団音楽学校」での日々を描いた青春群像劇となっている。今回、SPICEでは主人公の渡辺さらさ役を演じる声優の千本木彩花に、自身と同じ“役者”を演じる事となった彼女ならではの視点から、本作の魅力を訊ねてみた。また彼女がキャラクターと同様に、まだ“役者のタマゴ”だった頃のちょっぴり恥ずかしい思い出話なども交えつつ、見どころや原作ファンも楽しめるポイントが浮き彫りになったインタビューとなった。
(c)斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
私自身も役者としてすごく勉強になる作品
――まず最初に、本作への出演が決まった時の心境を教えていただけますか?
素直に嬉しかったです。実は元々オーディションでは別の役をメインで受けていたのですが、結果有難いことにさらさ役として選んでいただいて。あと個人的にずっと少女漫画が原作の作品に出たかったというのもあって、なおさら嬉しかったです。本作の音響監督の長崎さんとご一緒させていただいた際に、「また次、よろしくね!」って言われたんですけど「あれ? 次ってなんの話だ?」って考えながら「あ…ハイ!」みたいな腑抜けたお返事をしてしまって(笑)。そのあとでマネージャーさんが「実は『かげきしょうじょ!!』にさらさ役で受かりました」って教えてくれて、「もっと早く教えてよ!!!」って思ったんですけど、そんなサプライズ(?)もあったので、余計印象に残っています(笑)。
――改めて、本作はどんな物語なのでしょうか?
紅華歌劇団という女性だけで構成されている歌劇団に入団することを目的とする「紅華歌劇音楽学校」の生徒さんたちのお話で、私が演じる渡辺さらさちゃんは記念すべき第100期生として狭き門をくぐり抜けて入学する訳なんですけど、そんな未来のトップスターを目指す少女たちが色々なことを吸収して、感じ取って、成長していく物語となっています。
――本作が題材としている少女歌劇をモチーフにしている作品は他にもあれど、ここまでストレートに少女歌劇だけを描き切ったアニメって意外とありそうでなかったのかな、なんて思ったりもしました。
確かにそうかもしれませんね。あと、原作の斉木先生は本当に「なんでこんなに役者の気持ちが分かるんだろう?」というくらい、演技の描写がリアルで。例えば音楽学校の先生からの演技指導のアドバイスとかが的確すぎて「そうそう、お芝居で演じる上でこういうことがすごく大切なんだよね」みたいに、もう頷きすぎて首が取れるくらい共感できる部分だったり、私とかも読んでいて勉強になるような事なんかも描かれているのが、斉木先生のすごい所だな~って思いました。
撮影:池上夢貢
なりたいと願うだけでは夢は叶わない、ということを知っている強さ
――ご自身が演じられる「渡辺さらさ」をどんな風にとらえられていますか?
渡辺さらさちゃんは、身長が178cmもある高身長で、15歳のすごく天真爛漫で元気いっぱいな女の子なので、みんなのムードメーカーというか、常に周囲の人間もさらさちゃんから目が離せないというか、良くも悪くもすごく目立っちゃうような子です。でも別の一面として、まだ15歳ながらも幼い頃から追いかけていた夢を一度諦めるという挫折を経験していて。「なりたいと願うだけじゃ夢は叶わない」みたいな、そういうのって大人になるにつれて誰しも経験することだと思うんですけど、彼女は既にその事を理解しているんです。その上での普段の明るい行いだったり、歌劇団の中でも選ばれた4名しかなれないトップスターに絶対なる! と周囲に宣言していることを踏まえると、彼女がより魅力的なキャラクターに見えてくるんじゃないかなと思います。
(c)斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
――さらさのように背の高いキャラと逆に低いキャラとで何か演じ分けたり、演じる上で気を付けたりする事はありますか?
うーん、さらさちゃんみたいな身長も大きくて裏表のないキャラクターは、何をしていても目立っちゃうし、特に深く考え過ぎず、基本的には自由にのびのびと演じましたね。でも、さらさの場合は、例えば誰かと話すときは必ず相手の目を見て会話するタイプの子なので、そういう時の身長差が生む、ふとした間であったりは意識していたかもしれないですね。
――同じ“演者/表現者”として、自分とさらさの重なる部分や異なる部分はどんな所でしょうか?
同じ役者としてさらさちゃんの持つ、周囲を惹きつける才能みたいなのは憧れるというか、羨ましく思ったりしますね。生まれ持った身長や、育ってきた境遇によって磨かれてきた彼女の内面だったりは、マネしようと思っても出来ることじゃないので、単純に比較できない事かもしれませんが、素直に尊敬するな~って思いながら演じたりもしていましたね。逆に似ているのは、精神的に割と常にフラットでいられる部分ですかね。もちろん落ち込む時は落ち込みもしますけど、すぐに立ち直れるというか、切り替えて次の行動に動ける部分は私も同じなので、さらさのテンション感とか、メンタル的な部分を演じる上では苦労せずにナチュラルに演じられました。とはいえ、私は結構人見知りしちゃうタイプなんですけど、さらさはどんな相手でもガンガン自分のペースに巻き込んで仲良くなれちゃうタイプなので、逆にそういう部分は普段と違って楽しく演じさせていただきました(笑)。
撮影:池上夢貢
自身の養成所時代の半人前だった頃の経験が、さらさちゃんで活きた
――少し主旨は変わるのですが、歌劇音楽学校は声優さんで例えるなら“養成所”だと思います。ズバリ、養成所時代の千本木さんはどんな生徒でしたか?
いやー思い返すだけで恥ずかしいですね~(笑)。言い方はアレですけど、1番“イキってた”時期なんじゃないでしょうか?(笑)。
――千本木さんの養成所時代はまだ高校生でしたよね? 10代の頃は、誰しもそんな時期を経ていると思いますよ(笑)。
はい、16~17歳の高校生の頃に養成所に通っていました。「トップスターに絶対なる!」っていうさらさちゃんじゃないですけど、私も絶対に声優としてデビューするぞ! という気持ちで養成所に通っていましたからね……。でも養成所ってそれこそ紅華歌劇音楽学校と同じで、色んな年齢の人が同級生にいて。30代や40代の方もいましたし、全体的に見たら高校生の比率は少なかったんですが、ただやっぱり皆さんアニメが好きで、声優さんが好きで通っている方ばかりなので、普通に高校生をやっていたら仲良くなることもない世代の人と交流できるのも楽しくて通っていたかもしれません。とはいえライバル同士でもあるので、みんなと仲良く~という感じでもなかったんですけどね。
(c)斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
――今回のさらさ役もオーディションという事でしたが、実際にアニメの中でもトップスターになるためには厳しいオーディションが待っていたりもすると思います。養成所での経験が演技に活きたりした場面もあったのではないでしょうか?
実際に私が通っていた養成所も年に1回オーディションがありまして、進級審査というのが事務所に所属する為のオーディションの1次審査も兼ねているんですけど、その先の本オーディションも同様ですが、その時期になるとクラスメイト同士で「連絡来た?」とか「まだ来てない……」みたいな話になって。ちょっとギクシャクするような、あの独特の空気感みたいなのは経験あります。しかも紅華の場合は掲示板に貼り出されていたりするので余計にセンシティブで「うわーっ!」って思いましたし、共感する部分はありまくりでしたね(笑)。
撮影:池上夢貢
里美星役の七海ひろきさんの演技が気になる…!
――千本木さん以外のメインキャストも皆さん実力派声優さんが勢揃いだと思います。アフレコ時などで他の演者さんのココが凄かった…! みたいなエピソードや監督さんらから受けた印象的なディレクションなど、演技面での裏話などが何かあればお聞かせ下さい。
実は収録がちょうど1年前くらいのタイミングでスタートしたので、感染症対策としてキャストもバラバラになってアフレコを行っていて、他のキャストの方とはあまりご一緒することが出来なかったんです。そんな中でも、基本的にさらさは寮で同室の奈良田愛ちゃん役の花守ゆみりさんと一緒に収録することができたので、逆に二人のお芝居に集中して演じることができましたね。
(c)斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
――じゃあ逆に言うと、千本木さんもいちファンとしてオンエアが楽しみですね!
めちゃめちゃ楽しみです! 特に、さらさが演技の参考にしていた冬組の次期・男役トップスターの里美星さんを演じている七海ひろきさんが、どんなお芝居されていたんだろう~って気になっていて。結局一度もご一緒する機会がなかったので楽しみポイントのひとつです。実際に演技の授業でさらさが歌劇団の本公演の映像を見て、役作りの参考にするというシーンがあり、収録時も里美さんがその公演で演じている役の声を事前にいただいて、それを元に私がさらさを演じる機会があったのですが、役を演じていた里美さんの声しか聞いてないので、普段の里美さんを七海さんがどうやって演じているのか、すごく気になってます(笑)。
――最後にアニメの見どころや、原作ファンの方に向けての意気込みなどあればお願いします!
キャストやスタッフさんも本当にこの『かげきしょうじょ!!』という作品が大好きで、特に米田監督はこれをキッカケに歌劇の世界にハマってしまったみたいで(笑)。そんなみんなの作品への愛が込められた現場だったので、それは絶対、映像に乗っかっていると思います。ぜひ1話と言わず、最後まで楽しんで見ていただけたら幸いです。また、エンディングテーマを花守ゆみりさんと歌わせていただいたので、最後まで音楽や映像に注目していただけると嬉しいです!
インタビュー・文:前田勇介 撮影:池上夢貢