シド アニメ『天官賜福』日本版OPを飾る新曲「慈雨のくちづけ」で挑んだ新境地と歌詞に描いたファンへの想い
シド
シドの新曲は、中国からやってきた話題のアニメ『天官賜福』日本版のオープニングテーマ「慈雨のくちづけ」に決まった。明希(Ba)によるメロディは中華ファンタジー作品にふさわしくオリエンタルな旋律を奏で、マオ(Vo)による歌詞は永遠の愛を尊びながらファンとの強い繋がりをも想起させ、そこにShinji(Gt)とゆうや(Dr)がロマンチックなフレーズと力強いビートを重ねる。まさに従来のシドらしさに新しいチャレンジを加えた新曲リリースのあと、9月からは待望の全国ツアーもスタート。5月15、16日に河口湖ステラシアターで開催された久々の有観客ライブ『SID LIVE 2021 -Star Forest-』をきっかけに、再び精力的に動き出したシドの現在位置を、4人全員の言葉で語ってもらおう。
――新曲の話に入る前に、まずは、久しぶりの有観客ライブになった『SID LIVE 2021 -Star Forest-』を振り返ってもらおうと思います。あの日、あの場所で何を感じましたか。
マオ:単純に、久しぶりに会えたことがお互いにうれしかったし、会えない期間が会いたい気持ちを育ててくれていたということは、SNSやいろんなものを通じて伝わっていたんですけど、ステージに立ってそれを直で感じました。ただ気持ち的には独特だったというか、来られる子の喜びの声と、来られない子の悲しみの声と、来られる子の中で不安の声もあったし、いろんな声が混ざっているのが当日まで続いていたので。独特な空気感で当日を迎えたなと思いつつも、結局はライブが始まってしまえば、会いたかった気持ちが爆発したような、素晴らしいライブになりましたね。
――有観客は1年4か月ぶり。声を出せないとか、いろんな決まりがありましたけど、そのへんは?
マオ:そこに関しては、だいぶ覚悟していたので。お客さんが声を出せないからやりづらいとか、そういったものはほぼ感じずにやれたと思うし、それよりも自分たちらしさを出せるかどうかが大事でしたね。制限の中でも自分たちらしさを出すことによって、ここからの新しい時代を生き残っていけると思うし、それによって今後の自分たちのバンドの方向性も変わってくると思うので、頑張ってやりました。
――Shinjiさんの目には、どんな景色が?
Shinji:やっぱりミュージシャンって、人前に立ってナンボなのかなという感じがすごくしましたね。たとえばこれから音楽を始める人でも、ああいう喜びがなければ、ただ曲を作って終わるみたいな感じになっちゃうと、あんまりミュージシャンになりたいと思う人がいないんじゃないかなと思うぐらいで。僕らはやっぱり人前でバン!とやりたいという目標から始めたこともあるし、本当に気持ちよかったですよ。
――時間的なブランクや、様々な決まりごとの影響は?
Shinji:それが、なかったんですよ。高揚してる気持ちが勝ったような気がします。
――ゆうやさんは?
ゆうや:本当に楽しくて、うれしくて、感謝でした。制限はあったと思うんですけど、いてくれるだけで良くて、みんなのおかげですごくいい2日間を迎えて、終えることができて、やって良かったなと思いましたね。僕らもこういう事態になってからお客さんを入れてライブをやるのが初めてだったので、そういう点では戸惑いがなくはなかったと思うんですけど、ブランクに関しては特に何もなかったです。
――良かった。では明希さん。
明希:1年越しのライブだし、人前でやることが普通ではなくなっちゃうような中で、こうやって会いに来てくれる、聴きに来てくれることにすごく感動しましたね。もちろん精一杯のもの、最高のものを見せるという気持ちは常にあるんですけど、この状況下でこんなに来てくれるということは、最高を超えて行かないと申し訳ない気持ちがあって。1年遅れましたけど、やろうとしたことはできたので、ほっとしてます。
――マスクをしていると感情がわかりにくいと思うんですけど、気持ちは伝わるものですか。
明希:そうですね。表情を見ているとわかります。会場の作りも、そんなに距離感を感じさせない作りで、気持ちは感じやすかったです。
マオ(Vo)
誰かのせいにするのではなく、自分たちができることを一歩ずつやる。そこに集中しないと、人生は一瞬で終わるし、音楽人生はもっと短いだろうし。
――いろんな意味で、ファンとの絆を確かめて、次に進むいいステップになるライブだったと思います。さあ、では新曲の話に移りますけど、7月18日リリースの配信シングル「慈雨のくちづけ」。TVアニメ『天官賜福』オープニングテーマです。
マオ:『天官賜福』は中国の大人気アニメで、その日本版が始まるということで、シドに主題歌の依頼をいただきました。日本でも「中国のアニメがこれから来るぞ」とすごく話題になっていると聞いていたので、そこにキャリア18年の俺たちが、フレッシュな気持ちで一からやらせてもらえることに対しての喜びと、新しいことを一緒にやることによって、ファンのみんなにも新しいシドの一面を見せられるという喜びがありましたね。
――作曲者の明希さん。曲はどんなふうに?
明希:大枠のプロットと、キービジュアルをもらって、そこからイメージをふくらませていった感じですね。アニメの世界観や、登場人物の服装や髪型、年代や環境も含めたところでイメージして、メロディは作っていきました。
――架空の時代の、ファンタジーな世界観ですよね。
明希:そうですね。でもシナリオをもらって書いたわけではなくて、設定やキービジュアルだけを頼りに作っていったので、取っ掛かりはそこでした。
――メロディと、特にアレンジには中華要素を強く感じますけど、それも最初にあった?
明希:そういうところを意識してほしいというオーダーはありました。どうせだったら思い切り行こうと思いましたね。
――イントロの、琴のように聴こえる音色、あれは何の楽器?
明希:あれは古箏(こそう)という楽器らしいです。僕もあんまり詳しくないんですけど、DTM系のソフトを扱っているところへ行くと、民族楽器に特化したプラグインを売っていて。それを持っている人に手伝ってもらって、手探りでやっていきました。
――そのあとに二胡みたいな音も出てくる。すごく雰囲気が出てると思います。ドラム的には、どのへんがポイントになる曲ですか。
ゆうや:俺ももうちょっと気を利かせて、銅鑼かなんか入れたら良かったのかもしれないと思いますね。気が利かなかったです(笑)。中国の楽器って、僕らが第一印象として受けるのは、ちょっと漂ったような、幻想的な感じがするじゃないですか。山の上に雲がかかっていて、遠くで滝が流れて、目の前に竹藪があって、その中にほんわかと漂っている音というか。
――なんとなく、わかります(笑)。
ゆうや:位置的には、上の方にいる感じなんですよね。いわゆるウワモノの音として、独特の匂いがある。その匂いを崩さないようにしつつ、それとはまったく対照的にバンドサウンドというものがあって。この曲は音数がそんなに多くなくて、一個一個の音がよく聴こえるので、ドラムはロックドラムではあるんですけど、音質にはすごくこだわってやりました。
――イントロを聴くとバラードかな?と思って、でもリズム自体にはすごく推進力がある。
ゆうや:ミドルテンポとはいえ、前へ前へ出ていく感じがありますよね。それは打ち込みの、ループものの要素がけっこう強いと思います。16分音符で刻まれる感じが、推進力につながってると思います。
Shinji(Gt)
久しぶりの地方公演もあるので、一個一個大事にやりたい。東京まで来ることも今は難しいと思うので、こっちから出向けるのがうれしいです。
――面白い曲ですよね。ギターに関しては、どんなアプローチを?
Shinji:弾いてることはロックなんですけど、そこまでハードにはしないように。ギターはLR(左右チャンネル)で鳴ってることが多いんですけど、この曲は片方でしか鳴ってないとか、意外とシンプルなんですよ。中国系の楽器も入ってますし、ギターはよりシンプルに、僕としては演奏しやすかったですね。おっしゃっていただいたように、遅めの曲のわりには楽器で疾走感を出しているので、シンプルだけど構築された楽曲だなと思います。
――あと気になったのが、間奏のところ。転調して、ギターソロが始まったと思ったら、マオさんのヴォーカルが掛け合いのようにかぶってきて。あれ?と思ったら、その次のセクションでちゃんとギターソロがあるという、面白い構成だなと思ったんですね。
Shinji:面白いですよね。最初にデータをもらった時に、“おっ”と思いました。ああいう(ギターとヴォーカルの)掛け合いがあると、面白いですよ。普通は、歌が出てきたらギターは後ろに引くものですけど、新しいですよね。で、終わったと思ったら、ベースソロがあって、その上でギターがけっこう難しいことをやってる。
――あの間奏のアイディアは、明希さん?
明希:そうです。要は、イントロ→A→B→サビ、という構成を壊さないと、新しく感じてもらえないなと思ったので。それでイントロの前にもう一つ出だしのメロディを作ったりとか、2Bのあとはサビじゃなくてギターソロにしたりとか。そのギターソロのところも、ヴォーカルと一緒にせめぎあうみたいな、同時にやりあうというか、一つを聴かせなくてもいいんじゃないか?という。ギターソロっぽいところですけど、呼び名は何でもよくて、“間奏”と大きくまとめるしかないと思うんですけど、そういうイメージで作っていきました。
――相当にチャレンジした曲ですね。あらためて話を聞くと。
明希:“新しさって何だろう?”というのが、毎回のテーマなんですけど、“このフレーズが新しいんです”というものはやっぱり伝わりづらくて。新しさが伝わりやすいのは、メロディであり歌詞であり、そして“構成”だろうと。僕は曲を作る人間として、メロディと構成で新しさをうまく表現できたらいいなと思って、作りましたね。気づいてもらってうれしいです。
――そしてマオさんの歌詞。アニメのストーリーを踏まえて書いたものですか。
マオ:最初はそこまで詳しいストーリーは上がっていなかったんですけど、大まかなプロットが決まったあたりで書き始めました。
――メインテーマは、何でしょう。
マオ:メインテーマは、“再会”ですね。最初はちょっと別れの要素も入れようと思ったんですけど、そこはなくして、“再会”と、そこからの“永遠の愛”“包み込む愛”といったものをテーマにして書きました。今の時代にもハマるような、時代が求めているような歌詞にしたいと思って、優しく包み込んでくれるような、乾いた心に沁み込んでくる水分のような要素を入れたいなと思って、「慈雨のくちづけ」というタイトルにしました。今の時代、みんな心が乾いてると思うんですよ。それを潤せるような要素がほしいなと思って書きました。
――《表面張力で繋いでた日々》というフレーズが印象的で。“表面張力”というワード、歌詞で初めて聞いた気がします。
マオ:俺も初めてだと思います(笑)。
――いいフレーズです。パッと浮かんだんですか。
マオ:“溢れ出す”ってどういうイメージかな?と考えた時に、今は本当に、ライブで会えない時期が続いたり、そういったみんなの気持ちをいっぱい感じていたので。そして久しぶりに会えた時に気持ちが溢れ出す、その直前はどんな感じだろう?と思ったら、もう容量をはみ出しているのに、表面張力でぐっとこらえているような思いを、もしかしたらファンのみんなも感じているのかな?と思った時に、“表面張力”という言葉が浮かびましたね。
――やっぱり、アニメの曲でありつつ、シドの現在の思いもしっかり出ている。
マオ:そうですね。
――さっき話題に出ていた、間奏でギターとヴォーカルがせめぎあうパート。マオさん的には、どう思ったんですか。
マオ:あそこは僕も、最初に食いつきました。“これ面白いな”と思って。でもここに歌詞を入れるのか入れないのか、迷ったんですよ。
――確かにここは、歌詞のないフェイクやハミングだけでも、ありといえばあり。
マオ:それでも行けるけど、ここに大事な言葉を入れれば、余計に響くと思ったんですね。“ここ面白い”って、自分が気になったということは、聴いてくれる人たちも気になる場所だと思うので。そこに、テーマに沿った言葉を入れたいなという気持ちで歌詞を書きました。
――《ああ どうか 覚めない 永遠の夢を》ですね。
マオ:そうです。
明希(Ba)
20周年も目前ですけど、また可能性を感じてもらえるようなステージにしたいと思います。
――新しいチャレンジをたくさん盛り込んだ曲だと思うので、ライブで聴けるのを楽しみにしています。というわけで、久しぶりのツアーが9月3日からスタートすることが決まりました。今、どんなことを考えていますか。
マオ:たぶんファンのみんなと同じような気持ちだと思いますね。ツアーが発表された喜びと、“久しぶりだからどこに見に行こう”とか、そういったワクワク感から一緒に共有できるのがツアーだなと思うし、それはもう始まっていると思います。あとは現実的なところで言うと、状況は日々変わっていくので、そこに合わせた最大限のステージをどうやって見せるか?というところは俺たち次第だと思うし、シドチームのみんなで感染対策をしっかりやるので、お客さんには安心して来てほしいです。みんなも普段は大変だと思うし、いろんなことがあって気持ちが揺れたり、悲しくてつらいことがいっぱいあったりすると思うので、そういったことを全部忘れてもらえるような環境を俺たちが作って、引っ張っていくつもりでやりたいなと思います。
――アルバムツアーではないので、セットリストがどうなるのか、気になるところではあります。何かテーマはありますか。
マオ:それはまだまったく考えていないです。たぶんそれを今から考えても、また変わってくると思うんですよ。その時のテンションで決めたいと思うし、よりリアルなシドを伝えたいので、もうちょっと近づいてきたら考えようかなと思います。
――了解です。ではShinjiさん。ツアーへの抱負を。
Shinji:2年振り、なんですかね。
――『承認欲求』ツアーの延期公演が1月にあったと思うので、1年半ちょっとですか。
Shinji:アルバムツアーはどんどん成長していく感じがありますけど、今回はアルバムツアーではないし、久しぶりの地方公演もあったりするので。当たり前のことですけど、一個一個大事にやりたいですよね。なかなか東京まで来ることも、今は難しいと思うので、こっちから出向けるのがうれしいです。
ゆうや(Dr)
こういう事態になって、残念な部分だけが多くなったような感じですけど、そうでもないんじゃないかな?と思う。
――ゆうやさんも、抱負を。
ゆうや:この間久しぶりのライブを『Star Forest』としてやらせてもらって、お客さんを入れた生の感覚を久々に感じることができたんですけど、それぞれの判断で、本当は行きたかったけど行けなかった方々も、全国にいっぱいいたと思うので。今回はそのぶんも、その子たちのいる場所へ我々のほうから出向いて、“今シドはこんな感じでやってます”というものを、近況報告じゃないですけど、僕らが『Star Forest』の2日間ですごく感じたものをみなさんにも体験してもらいたいというか、僕らと同じ気持ちにみんなもなってもらえたらいいなということで、各地方を回れたらいいなと思ってます。
――最近はミュージシャンもいろいろ、工夫していますよね。お客さんも、ライブの楽しみ方をもう一回考えようという動きになっていると思います。
ゆうや:僕が思うのは、ライブに行くということに関しては、こういう事態になる前から本質として思っていた部分に、逆に近づいてきているのかな?とちょっと思っていて。昔に比べると音楽の世界も、普通の会社とかもそうかもしれないですけど、わりと自由な発想でできている気がするんですよ。やりたいものをちゃんと選んでやる、という時代な気がしていて、その判断は自分がするもので、“これをやりたい”“これを見たい”というものに絞って行ける時代な気がするんですね。こういう事態になって、残念な部分だけが多くなったような感じですけど、そうでもないんじゃないかな?と思うので。
――自分の判断で楽しみ方を変えられるというのは、確かにそうだと思いますね。では明希さん。
明希:このご時世にツアーをやれるというのは、応援してくださる人たちあってこそだと思うので。来てくださる人たちには、本気で幸せになってほしいというか、ライブに来てよかったと思えるステージをやれるように頑張りたいと思いますね。20周年も目前ですけど、また可能性を感じてもらえるようなステージにしたいと思います。
――マオさん。時代の変わり目で、シドも新しいチャレンジを始めて、ここからまた何かが始まる気がしています。
マオ:そうですね。こういう時って、自分が制限されちゃうと、誰かのせいにしたくなるじゃないですか。それって全世界が同じ状況で、同じように苦しんでいるので、誰かのせいにするのではなく、自分たちができることを一歩ずつやる。そこに集中しないと、人生は一瞬で終わっていくし、音楽人生はもっと短いだろうし。一本ずつのライブを大切に噛みしめながら、ツアーをやっていきたいなと思ってます。
取材・文=宮本英夫
リリース情報
アニメ情報
ライブ情報
放送情報
・ ヴィジュアル系主義 シド ナレーション:小野大輔
7月21日(水) 深夜0:15 <WOWOWライブ><WOWOWオンデマンド:アーカイブ配信あり>
・ シド Music Video Collection
7月21日(水) 深夜1:15 <WOWOWライブ><WOWOWオンデマンド:放送同時配信のみ>
・ シド 「SID LIVE 2021 ~結成記念日ライブ~」
7月21日(水) 深夜3:15 <WOWOWライブ><WOWOWオンデマンド:アーカイブ配信あり>
・ シド 「SID Premium Stage presented by WOWOW『ヴィジュアル系主義』」
7月25日(日) 午後3:00 <WOWOWライブ><WOWOWオンデマンド:アーカイブ配信あり>
・ ヴィジュアル系主義 –Member’s ver.–
<メンバー個別番組4人分WOWOWオンデマンドで配信中>
【番組サイト】
https://www.wowow.co.jp/visual/