はせひろいちが、“コロナディケイド”を描く!? 1年9ヶ月ぶりとなるジャブジャブサーキット公演が、まもなく名古屋で開幕

インタビュー
舞台
2021.7.6
 出演者一同と作・演出家。前列左から・林優花、空沢しんか、荘加真美、作・演出のはせひろいち。後列左から・髙橋ケンヂ、咲田とばこ、コヤマアキヒロ、栗木己義

出演者一同と作・演出家。前列左から・林優花、空沢しんか、荘加真美、作・演出のはせひろいち。後列左から・髙橋ケンヂ、咲田とばこ、コヤマアキヒロ、栗木己義

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昨年2020年に劇団創立35周年を迎えた、岐阜の〈劇団ジャブジャブサーキット〉。本来ならば35周年を記念して、主宰で劇作家・演出家のはせひろいちが書き下ろした新作『桜ゾンビ』を、昨年の夏から秋にかけて名古屋・大阪・東京・松山とツアー公演を行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響により、4都市すべての公演がやむなく延期となってしまった。

それから約1年の活動休止期間を経て、このたび“番外リハビリ公演”と称し、『サワ氏の仕業・特別編~「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ~』を行うことが決定。ひとまず7月8日(木)~11日(日)にホームグラウンドである名古屋の「七ツ寺共同スタジオ」で上演し、9月20日(月・祝)には名古屋公演の収録映像を大阪の「ウイングフィールド」で上映。さらに12月16(木)~19日(日)には、「こまばアゴラ劇場」で東京公演も予定している(大阪の上映会及び東京公演の詳細については後日、劇団公式サイトで確認を)。

劇団ジャブジャブサーキット 番外リハビリ公演『サワ氏の仕業・特別編〜「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ〜』チラシ表

劇団ジャブジャブサーキット 番外リハビリ公演『サワ氏の仕業・特別編〜「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ〜』チラシ表


35周年記念は一旦保留となったが、2019年の前作『小刻みに 戸惑う 神様』以来、久々の公演となる今作。タイトルの『サワ氏の仕業』とは、〈劇団ジャブジャブサーキット〉が“不定期かつ気まぐれに贈る短編集の総称”として1990年代から度々上演しているシリーズで、はせ曰く、「ちょっと抽象的だったり、実験性とか遊び心のあるものを、本公演以外でやりたくなった時にやる」という位置付けの作品とか。今回は、演劇雑誌「テアトロ」の2020年10月号に寄稿した超短編『研究員Cの画策』を起点として、この一年の間に書き溜めた複数の短編を再構成し、「この時代でしか出来ないこと」を模索するという。

ジャブジャブ公演には久々となる、咲田とばこ、コヤマアキヒロの出演も楽しみな今回の企画。「とある楽器の生演奏コラボ」など劇団初の試みもあり、見どころも多そうな本作について、また、コロナの影響を通してはせが感じた演劇への想いなどを伺うべく、岐阜の稽古場へ足を運んだ。


── これまでの『サワ氏の仕業』シリーズでは、短編や中編を2~3本上演するという形が多かったと思いますが、今回も3本ほどで構成される感じですか?

最初は短編を繋いで、最後のまとめがちょっとリンクするみたいな感じで連作短編みたいになればいいや、と思ってたんですけど、書いてる途中にそれもどうだと思いだして。話の主軸としては3つの世界があるんですけど、ぐちゃぐちゃに同時進行していってるので、あまり短編集とか、連作短編っていうニュアンスじゃなくなってますね。むしろ、ちょっと説明の少ない普通のうちの芝居の、結構抽象的な作品ね、っていう感じだと思います。

── 別々の作品ではなく、物語も登場人物もリンクしているんですね。

そうですね。ギャンブラー達がいる空間と、終末期医療に関わってるらしきグループのいる空間があって、その両方を行き来してる人達がいる。その行き来してる人達は、生きてるのか死んでるのか、人なのか人じゃないのかよくわからない存在…っていう感じかな。そんな人達がちょっと遊びでいろいろ絡んでるような。大きく言うと、その3つの世界がぐちゃぐちゃしてる。だから、あんまり『サワ氏の仕業』にする必要はなかったのかもしれないけど、まぁリハビリ公演なので(笑)。もっといい加減にやれたらいいな、と思ったんですけど、やっぱやりだすとこうなっちゃう。

── 「テアトロ」に寄稿された、超短編戯曲をベースに書かれたとか。

〈想定劇場〉という特集で、「もしも私が日本の総理大臣になったら」とか、「新国立劇場の芸術監督になったら」というお題で書いてほしい、と言われたんですけど、そんなの嫌だなと思って、「もし私が劇作家になったら」っていうタイトルで書いたんです(笑)。つまり、ここのところ確かに上演が約束されてからしか戯曲を書いてないから、上演予定がなくても、好きな行数で書いてもいいですか? と聞いたら、いいですと言われたので、コロナを題材にした2~3分の寸劇を書いて。これをそのまま冒頭に持ってきて、そこから話が始まっていく感じですね。

稽古風景より

稽古風景より

── 今回、演出面で工夫されている点は、どんなところですか?

一番大きく違うのは、いつもだとリアルなワンシチュエーションなので、どこまでも細かくセットを建て込めるんですけど、今回はゴロゴロ世界が変わっていくので、いかに抽象的に勝負できるか、ということですね。『猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方』(2016年上演)も場面がどんどん変わってくような作品でしたけど、あれよりはもうちょっと落ち着いた感じでいきたいな、とは思ってます。あと目標としては、形から入らないと何も変わっていかない集団なので、とりあえず移動はハイエースで行けるようにして。いつも東京公演とか2トントラックで行ってるんですけど、それをハイエースクラスに落とす。3m以上のセットは作らない、というのが一番の目標です(笑)。

── 後藤徹也さんと片羽さんは、今回が初めての客演ですよね。

後藤さんは学生劇団の経験者で、僕が公演を観に行ったりワークショップをしに行ったこともあるし、長久手の「戯曲セミナー」(愛知の「長久手市文化の家」が開講しているアートリビング講座で、はせが長年に渡り講師を務めている)に参加してもらったこともある若手です。片羽さんは、元々は岐阜の劇団で舞台美術や役者をやっていた人で、「とある楽器の生演奏コラボ」の奏者。今は東京で活動されているんですけど、今回出演してもらうことになりました。

── 名古屋公演の後、東京公演は5ヶ月先と結構空きますが、その間に内容や演出を変える可能性も?

どうかなぁ。名古屋公演をやってみないとわからないけど、逆に言うと建て込むわけじゃないので、どこでも上演出来るようなネオオーソドックスなものが出来たらいいな、っていう思いもひとつあるんです。やっぱりコンパクトな方がいいなぁとも思うので、コロナさえ終われば、フットワーク良く動けるといいな、と。

── 状況が良くなれば、また別の土地での上演も。以前の作品では、仙台なども行かれていましたものね。

仙台も行きたいなぁ。行けるといいですね。

稽古風景より

稽古風景より

── 観客の前で生上演する公演は諦めて、映像配信で公演を行う団体なども増えましたが、はせさんは配信公演については、どのようにお考えですか?

配信についての考えはわりと明確で、舞台で撮影したものをアーカイブでどんどん配信するのは全然気にならないですけど、映像配信のために作品創りをするのはちょっとまだ抵抗感があって。やり出せばきっと、楽しいことも見つかるだろうとは思いつつ、なんかそういうことを上手くなりたくないっていう変な抵抗感があるんです。最悪、無観客でもいいんだけど、あくまでもここにお客さんが居る、という設定でやる。後で編集したり、ここだけちょっと今日撮りましょうとか、そういうのはちょっと嫌だな、と思ったり。でも別に映画は嫌いな訳でもないから、やるとなったら奥深すぎることもわかってるし、舞台映像だからといって、ズームもせずに固定カメラで、っていう風でもないのね。ある程度楽しめれば、多少のズームとかクローズアップとかはした方が作品的、俳優的にも面白いだろうと思ってるので、実際にウチで販売してるDVDとか記録映像とかも編集は必ずしてもらってるんです。だからそれが嫌いなわけでもないんですけど、“配信のための創り”っていうのが、やっぱりどうも自分の中でわかんなくなっちゃってる。だから例えばツイキャスみたいな形で、上演したものを「どうぞご覧ください」っていうのはアリだと思うんです。そういうことをやっても絶対に生の舞台の方が面白いに決まってるので、それは別にいいんです。

自分にとって忘れられないお芝居ってあるじゃないですか。そういうのって、記憶としては完全にズームアップして観てる。劇場の客席からそんなにしっかり見えてるはずもないのに、すごい女優さんの表情とか今でも目に浮かんだり。勝手にクローズアップしてますもんね。だからやっぱり舞台を観る時には、同一空間、同一時空っていうのがとても大事で、そうすると人間はね、勝手に脳内のズームアップ機能とか編成機能とかが働いて、どうでもいいところはちゃんとカットしながら観てるはずで、それに映像が敵うわけがないので。逆に言うと、固定映像を後から劇場以外の場所で観ても、脳のズーム機能は働かないと僕は思ってて、そうするとストーリーを追うとか、俳優の表情とかを楽しむとか、やっぱりちょっとチャンネルが違ってくるんだろうな、と思うんですよ。

ウチの芝居は言葉通りのことをその人物が思ってないことも多いから、例えば「昨日は本当に楽しかったわ」って言った時に、実は全然楽しいと思ってないっていうことが同じ時空だと多少離れててもすごく伝わるものが、映像で一旦処理されたり時間が違ったりすると、「あぁ、これはたぶん本心じゃないな」と思いながらも、もうちょっと伝わってないんですよね、きっと。だから情報じゃないんですよね、やっぱり芝居って。関係性とか、ちょっと気持ち悪い言葉で言うと空気とか、そう言ったものを込みで、実際に我々から10mぐらいのところに居る人間がやってることに敵うわけがなくて。それを映像だとか、もっと別の視覚効果とか混ぜていけばそれは面白いし、大変だし、すごいものが出来るかもしれないけど、それをお芝居とは呼びたくないな、みたいな思いがあるんです。

── 映像になっている時点で、それが生配信だとしてもなぜかFIXされてしまっている感じで、生の舞台では感じられる温度とか揺らぎ、みたいなものが無いですよね。それがちょっと味気ないな、と感じることはあります。

そうなんだよね。なんででしょうね。やっぱり場所が離れてたり、時間がズレてたりするとしか思えないですよね。だからまぁ、配信のための作品創りはたぶんしないと思います。今回も「ウイングフィールド」さんから、なんかそういうことしませんか?って言われたんだけど、「名古屋で撮ったものを、そのまま大きいスクリーンで映すならいいです」って言って。それで大阪は上映会みたいな形でやることになったんです。上演に行けなくて本当に申し訳ないんですが、当日は一応、アフタートークぐらいは僕1人は行こうと思ってるんですけど。

稽古風景より

稽古風景より

── 最近の「テアトロ」に寄稿されたエッセイでは、稽古場について書かれていますね。「戯曲の構想時期、人知れず、僕は一人でここを訪れ、2時間ほど佇むことにしている。いわゆるルーティーンって奴だ。「捨てられない」モノ達に囲まれていると、具体的な会話や新しいモチーフが、ふっと生まれて来るから面白い。我楽多の密集により、右脳を刺激される。それに加え、その集積体の個々が、過去の物語性を孕んでいるから、左脳に具体的な論理として定着されやすいのでは…」とのことですが、この慣習は今作の執筆の際も?

そうですね。でもあれはちょっとカッコ良く書きすぎてますけども、何かのついでに来て、どうかなぁとか考えたり、隣が道具倉庫なんで、こいつらどっかで使ってやらないと可哀想だな、とか。

── 道具に触発されて書かれることも多いんですね。でも、前回お邪魔した時より、モノが減りました?

ちょっと減りました。去年は早々に公演を延期しましたけど、何かちょっとやろうよとか中途半端な案がいっぱいあったんですけど、やっぱり我々は旅公演が主体だったんだな、っていうのがすごくあって。いくらなんでも旅は出来ないので、一年休もうっていうことになったんです。中途半端な活動は一切やめてたんですけど、まぁでも少しリハビリしとこうかって動き出しながら、「稽古場片付けようぜ」って、不要な物を全部捨てたり。自分たちで出来ることは、身体の動くうちにやっておこう、と。

コロナの影響で世の中が変わって、代名詞のように「試されてる」みたいなことも言われてますけど、確かにいろんなことが変わるチャンスなのは違いないだろうな、とは思ってて。ウチの場合は元々、35周年にちょっとひと花火上げて、そこから方向転換するか休止に入るかしていこうね、って言う話は漠然としてたんですよ。集団の寿命みたいなものとか、そろそろ方向性を考えなくてはいけない時期と、まさにコロナがぶつかっちゃったから、どっちが本当のことなのかがわからなくなってるっていうのもあるんですけど。

でも、演劇とか演劇界が、消費社会だったり、早い結論を求められたりするところでなんとなく踊らされてたのが、とりあえずコロナを言い訳に一遍なんか落ち着いた感じというか、カッコ良く言えば、これで本質がちゃんと残っていくようなことになってくといいな、っていう気はすごくしてます。あんまり言うと、さっき話した配信嫌いっていうのとリンクしてきちゃうかもしれないけど(笑)。だから上演回数が少なかろうが、お客さんが減ろうが、でもやっぱり生の舞台でお客さんと同一空間、同一時間を共有できる貴重さ、を噛み締めてやる公演になるような気がしますね。

取材・文=望月勝美

公演情報

劇団ジャブジャブサーキット 番外リハビリ公演
『サワ氏の仕業・特別編〜
「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ~』
 
■作・演出:はせひろいち
■出演:栗木己義、咲田とばこ、荘加真美、空沢しんか、髙橋ケンヂ、林優花(以上、劇団ジャブジャブサーキット)、コヤマアキヒロ(フリー)、後藤徹也(フリー)、片羽(虚無女)

■日時:2021年7月8日(木)19:30、9日(金)14:00・19:30、10日(土)13:00・18:00、11日(日)11:00・16:00 ※10日(土)18:00の回終演後には、ゲストに作家の諏訪哲史氏を招いてアフタートークを開催予定
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般2,800円 学生2,000円(当日、受付で学生証を提示) ※当日券3,000円は席に余裕のある場合のみ販売予定
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
■問い合わせ:劇団ジャブジャブサーキット 090-8544-4480  jjcoffice@yahoo.co.jp
■公式サイト:https://jjcofficehp.wixsite.com/toppage
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