内藤裕敬が作・演出する男女四人の濃密な会話劇『魔術』がこの春、いよいよ開幕
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作・演出 内藤裕敬 撮影:福岡諒祠
人と人との距離と密度を微分積分するといろいろなものが見えてくる
中山美穂、萩原聖人、橋本淳、勝村政信による話題の四人芝居『魔術』の作・演出を手掛けるのは、南河内万歳一座主宰の内藤裕敬。自らの劇団公演で上演してきた数々のロマンあふれる名作だけでなく、薬師丸ひろ子主演の舞台『すうねるところ』(2014年)など外部の舞台でも繊細な演出で大勢の観客の心を震わせてきた彼は、現代演劇界を語るのに欠かせない劇作家、演出家の一人だ。その最新作『魔術』は、おでんの屋台を囲む男女四人の濃密な会話劇となる。今回は果たしてどんな世界を紡ぎ出そうとしているのか、話を聞いた。
――今回、中山美穂さんと一緒に芝居を作るにあたって、彼女に感じた魅力とは。
まず、すごくシャープなイメージがあるでしょ、彼女って。それも都会的なシャープさ。野良猫でも、田舎にいる野良猫とは違うんです。まず、あの油断できないようなシャープさが魅力だなと思いましたね。そして今回彼女に演じてもらう役としては、ちょっと都会の中を漂流しているような感じが出せたらいいなと思っているところです。
――中山さんのどんな面を引き出したいと思われていますか。
舞台はこれが初めてだというお話なのでご本人も緊張なさっているかもしれませんが、なにしろ既に存在感がある方ですからね。その存在感を舞台ならではの新しい感じで、立体化してみたいです。
――では、今までとちょっと違う中山さんが見られるかもしれませんね。
そうですね。映像とはまた違う形でジタバタしていただこうかなと思います(笑)。
作・演出 内藤裕敬 撮影:福岡諒祠
――物語としては、どういうお話になるんでしょうか。
シンプルに、舞台の上にはおでんの屋台がひとつぽつんとあるだけです。その屋台に4人の男女がたどり着くのですが、屋台に来るまでの間にどんどん周りから人が消えていって。それで「なんだか人がいなくなっちゃっている気がする」、「町にはもっと人が歩いていたはずなのに誰もいないのはどうして?」、「いや、そんなことないよ、偶然だろう」と会話は進んでいくわけです。そこには、それぞれに人との密度や距離を失っていったという背景がある。つまり今って、関係性として他者との距離が離れてしまっているじゃないですか。そうやってみんな孤独になってしまっている。そんなことが現実となって見えてくるような話にする予定です。それって何かの魔術にかかったみたいだよね、ということですよ。特にここ数年は、僕らもなんだかちょっと魔術にでもかかったような感覚がありますもんね。ま、実際には魔術なんてものにはかかっちゃいないんですけども。
――確かに、最近はとても変な空気の世の中になっている気がします。
そうでしょ。どうしてこうなっちゃっているんだろうとか、自分の意図することとは別に自分の現在があるというか。その誤差みたいなものがリアルに感じられることってすごくあるじゃないですか。だから、そういう経験や感覚をお持ちになったことのある方ならば、観ていてすごくリアルに感じる物語になるんじゃないでしょうか。物語としてはそうやっていろんな意味で距離と密度を失ってしまった登場人物たちが、そこからどうなっていくのか・・・という流れになります。
作・演出 内藤裕敬 撮影:福岡諒祠
――このようなテーマの物語を書こうと思われたきっかけは。
人と人との距離と密度というものが、ここのところすごく気になっていたんです。最初にそれを思ったのは長崎の軍艦島に行った時。あそこって、あの小さい島にかつては5000人が暮らしていて。当時の東京の人口密度よりも高かったそうです。東京より高いということは世界一だったんじゃないかと思うのですが、それが炭鉱の閉山により一瞬にして廃墟になったわけで。今まで世界一だった密度が一瞬にしてゼロになる。そう考えるととてもショックで、その後、そういうフィルターでものごとを見ることが多くなったんです。そうすると意外に雑多な世間で今は暮らしているんだけれど、意外と自分たちも距離と密度というものは精神的には遠いものだなということを感じて。だってたとえば満員電車で押し合いへし合いしながらも、みんなただ押し黙って周りを黙殺しているばかりじゃないですか。
――異様な光景ではありますよね。
ぎゅっと密度は固まっているのに、みんなひとりっきりですからね。そこでも非常にアンバランスな距離と密度というものを感じる。しかもそのあと実際に福島の原発事故があって一瞬にして人が生活しているところから去り、まったくいなくなるということがあったわけですから。とはいえ、別にそのことをコアに描こうと思っているわけではありませんが。つまり人が生きて暮らしていくという中で、その距離と密度を微分積分するといろいろなものが見えてくるよね、ということなんです。
作・演出 内藤裕敬 撮影:福岡諒祠
――内藤さんから中山さんにこうやってほしいなという希望はあったりしますか。
いや、まだ今日の時点では稽古も始まっていないのでね。とりあえず、僕は演出家としてはあまり「こうしてくれ」みたいな要求はしないんじゃないかと思います。たとえば「僕はこういうイメージを持っています」とか「ここの会話は彼の言葉をどう受けて、どうなります? それを見せてちょうだい」という感じで、もともとあまり「こうしてほしい」とは言わないほうなので。ただ単に自分の書いた戯曲が役者たちの身体からどういう風に言葉として出てくるのかを、今は楽しみにしているだけです。
――むしろ、俳優たちが全然予想外のことをやってきたとしても。
全然構わない。むしろウェルカムですよ(笑)。
――中山さん以外の3人の男性キャストはどういう狙いで選ばれたんですか。
橋本さんとは今回初めてご一緒するので、まだよくわからないんだけど。ただとりあえず考え方が硬派だね。とにかくしっかりとしたセリフの舞台をやりたいというご要望があるそうなので、だったら聖人と勝村と俺の3人で鍛えに鍛えて可愛がろうぜ!みたいに思っています(笑)。その聖人くんと勝村くんとはもう古い付き合いで、かつては一緒にしょっちゅう飲んでいましたからね。だから今回も、細かいことを言うよりもみんな好き勝手にやってよという感じ。ま、それをあとで削ればいいので(笑)。特に彼らの場合は、何よりも舞台が好きな人たちだからね。ただいい舞台を作りたいという思いでやっている人たちとやる仕事は、本当に楽しい。決して自分がどうとかこうとかではないのでね。
作・演出 内藤裕敬 撮影:福岡諒祠
――ひたすら作品を良くしたいという思いで動いてくれるから。
そう。だからこその安心感がある。でも実際に稽古でどうなるかはまだわからないですけど。だって、こういうワンシチュエーションのガチンコの会話劇で勝村くんと聖人くんとご一緒したことがないので、僕がどう会話を作ってシーンを仕上げるか、みたいなことまではご存知ないはず。だから僕が言うことを彼らがどう受け止めるかで、かなり流れが変わりそうな気がするんです。そうなるとますます現場に入ってみないとわからない。
――稽古に入るのが楽しみですね。毎日違うことが生まれそうです。
でも基本的に、僕のやる稽古は楽しいですから! 辛いって言う人はまずいませんし。それに今回は本当に僕自身も楽しみなことばかりなので、一刻も早く稽古がしたいですよ。
――では最後に、内藤さんからお客様へお誘いの言葉をいただけますか。
この芝居は間違いなくいいものになりますよ! 非常に濃密な時間を作れると思いますので、特にそういうお芝居がお好きな方はぜひとも劇場までお越しください!!
作・演出 内藤裕敬 撮影:福岡諒祠
■日時:
東京公演:2016年3月27日(日)~4月10日(日)
兵庫公演:2016年4月15日(金)~4月17日(日)
■会場:
東京公演:本多劇場、
兵庫公演:兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
■作・演出:内藤裕敬
■出演:中山美穂、萩原聖人、橋本淳、勝村政信
■公式サイト:http://www.ktv.jp/event/majutsu/
■プレオーダー受付:2015/12/15(火)12:00~2015/12/21(月)18:00
■一般発売:東京公演 2016/1/16(土)10:00~
兵庫公演 2016/1/31(日)10:00~