たこやきレインボーを卒業した堀くるみが舞台『丸尾不動産』で新たなスタートを切るーー「演技についての考え方が変わりました」
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堀くるみ
2021年にメンバー全員が卒業したアイドルグループ、たこやきレインボー。9年間、グループの一員として活動していた堀くるみが新しい一歩を踏み出した。9月4日(土)に公演初日を迎える人気舞台の第3弾『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』で、本格的に芝居に挑戦している。同作で堀が演じるのは、ある事情をかかえて、寂れた町のスナックで働き始める謎の女性・クリコ。怪しい動きをみせる不動産営業マン・菅谷(兵動大樹)や、ワケありでスナックを経営する林田(桂吉弥)らの事情に巻き込まれていく。今回は堀に、初めてづくしの稽古のこと、そしてたこやきレインボー卒業後の進路などについて話を訊いた。
堀くるみ
――今回の『本日、家で再会します』はどのような経緯で出演することになったのでしょうか。
前作『本日、家に化けて出ます』(2019年)にたこやきレインボーのメンバーだった清井咲希が出演していたこともあり、作品を鑑賞させていただいたんです。出演者のみなさんの自由で軽快な喋りや、笑いと家族の絆を感じる温かい物語がすごくおもしろくて。今回「第3弾もある」と伺い、「ぜひ出演したい」と思いました。そして演出家の木村淳さんによる、オーディションも兼ねた演技ワークショップに参加することになったんです。オーディションに受かるかどうかは別として、「こんなにおもしろい作品を手がけている木村さんの演技指導が受けられるなんて」と稽古場へ行くのが楽しみでした。
――『本日、家に化けて出ます』上演当時、清井さんから稽古の話などを聞いていましたか。
清井は、「兵動さん、吉弥さんたちがすごく自由にアドリブを入れてきて、稽古のときから遊びを交えるからおもしろすぎる!」と言っていました。「普通にお客さんとして舞台を観ている気分」だったと。確かに自分も稽古に参加してみたら、みなさんの自由さを実感できました。どんどん遊びを入れながら話を膨らませていかれるので、台本を見ながら「え、今どこ?」となります。元々しっかりと作り込まれたお話だけど、より見応えのある物語になっているのではないでしょうか。
――兵動さんは特にいろんなアドリブを挟んでこられますよね。
兵動さんと絡むシーンが多いこともあり、いろんなアドバイスをしてくださいます。「次、ここはこうやってみたら?」と言っていただいたり。私は演技がほぼ初めてなので踏み出せない部分も多いんですけど、「台本通りのそのままの気持ちではなく、ここはちょっと遊んでみたら? 木村さんが「違う」と言えば、また変えたらエエやん」と。出番を待っているときも「テンション、アゲアゲで」と声をかけてくださったりして、すごく気遣っていただいています。
堀くるみ
――どういうシーンで、兵動さんからのアドバイスがあったんですか。
たとえば、林田さんが経営するスナックにクリコがアルバイトとして入り込むところがあって、そこである人物と鉢合わせするんです。クリコは愛想を振りまいてその場を乗り切ろうとするんですけど、兵動さんから「愛想の振りまき方をもっと大げさに、むしろ胡散臭すぎる方が良いんじゃないか」とアドバイスをしていただきました。そこで身振り手振りの大きさを意識するようになったんです。「え、なんで?」というリアクションも、普段の10倍くらいオーバーにやってみたり。
――劇中、堀さんが兵動さんに強く当たる場面もありますよね。
叩いたりとか、蹴ったりするシーンがあります。蹴りすぎて、兵動さんに「大丈夫ですか?」と声をかけたら、「いやいや、もっと思いっきりきてください」と。だから安心して蹴っています(笑)。
――吉弥さんとも、これまで何度かお仕事をご一緒されてきましたよね。
たこやきレインボー時代にお会いしていたのですが、「こうやろ?」とたこやきレインボーのポーズで挨拶してくださったりして。そういうところから吉弥さんの優しさが伝わってきます。真面目にお芝居にも向き合っていらっしゃって、本当に尊敬できます。作品の中では、兵動さん、太一郎さんへの冷静なツッコミがおもしろいですよね。全体をまとめてくださっている印象です。
堀くるみ
――今回、本格的にお芝居に取り組んでみて新しい発見が多いと思います。
たこやきレインボーに入る前にお芝居のレッスンもやっていたのですが、そこではあくまで基礎の基礎みたいな感じだったんです。しっかりとした土台はまだできていませんでした。今回、木村さんからご指導いただいて、まず取り組んだのは「自分が演じるキャラクターについて考える」ということでした。この人物は怒ったとき、どういう怒り方をするのか。どんな環境で育ってきたのか。今回のクリコで言えば、たとえば彼女はどんな人を好きになるのかとか。「きっと友だちも少なくて、趣味もあまりないから、好きな人ができたら依存していくんじゃないか」とキャラクターをさらに掘り下げていきました。「クリコは夜中に呼び出されても行くタイプじゃないか」とか。芯があるようでないイメージ。そうやって自分なりにクリコ像を作っていきました。
――そういう部分が演技のおもしろさでもありますよね。
本当におもしろいです。読み合わせから2週間以上が経って、台詞も体に染み付いてきました。クリコというキャラクターとしてのリアルさが出てくるようになりました。
――現状の課題はどういうところにあると考えていますか。
これから初日を迎えるまでの私の課題は、いろんなパターンで演技をやってみること。各場面、自分なりの工夫を入れていきたいです。あと舞台は、生の声をお客様に届けることになりますよね。そこが難しそう。共演のみなさんは声量もものすごいですし。(佐藤)太一郎さんは特に迫力があります! たこやきレインボーのときは歌やダンスを後ろまで届ける意識でずっとやっていました。だけど会話となるとやっぱり難しい。そこは木村さんたちに指導をしていただいて、クリアしていきたいです。
堀くるみ
――たこやきレインボーを卒業することが決まった時点で、次の進路として「芝居をやろう」と考えていたんですか。
私はもともと女優になることが夢でした。映画、ドラマに参加させていただくこともあり、「お芝居をもっとやりたい」という気持ちが大きくなっていました。女優さんへの憧れはずっと持っていましたね。
――初日が迫ってきましたが、不安はありませんか。
意外とないんです。「絶対になんとかなる」と思っていて。「私はクリコちゃんなんだ」と役に入り込んでいれば何でもできる気がしています。あと共演のみなさんの存在が心強いです。何かあってもみなさんがいてくれたら「大丈夫、安心」という感じです。ここまでの稽古でも濃い時間を過ごしているので、大きな不安はありません。
――『丸尾不動産』での経験は、今後の堀さんのキャリアにも生かされてきそうですね。
木村さんから「お芝居は嘘の世界だけど、その世界に生きる人物としてのリアルな感情を動かしていく」と指導していただいて、その部分はこれからも大事にしていきたいです。演技についての考え方が変わりました。これからもお芝居をする機会があれば、そこを根っこにしていきたいです。
堀くるみ
取材・文=田辺ユウキ 写真=田浦ボン