生誕100年、デュレンマット『物理学者たち』上演!ノゾエ征爾×草刈民代インタビュー

2021.9.13
インタビュー
舞台

左からノゾエ征爾、草刈民代(提供:ワタナベエンターテインメント)

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「ユーモアは賢さの仮面。仮面をつけない賢さは容赦がなさすぎる」。スイスを代表する劇作家フリードリヒ・デュレンマットの言葉だ。シリアスな題材を喜劇として仕上げるその才で、『ミシシッピ氏の結婚』『老貴婦人の訪問』などの代表作を世に残した。その死から30年以上が経過したが、ドイツ語圏における劇作家として、今もなお世界各地で作品が上演されている。今年で生誕100年を迎えたデュレンマットの『物理学者たち』ノゾエ征爾の上演台本・演出によって幕を明ける(2021年9月19日~26日、東京・本多劇場)。高名な物理学者を名乗る男たちの狂気めいた倒錯の世界を描くコメディーだ。本作のなかでもきわめて謎めいた存在感を示す、サナトリウムの院長役を演じる草刈民代と、演出のノゾエに話を聞いた。
 

◆答えを決めずに、思いついたこともやってみる

——『物理学者たち』の企画がスタートしたときのことについて教えてください。

ノゾエ:僕は正直、デュレンマットのことは知らなかったんです。演出の話をいただいて、どういった作家なのか事前知識を入れないまま戯曲を読みました。ト書きが長く、前半と後半で反転する内容に魅力的な歪みを感じました。言葉の難解さはあるにせよ、シンプルな構造で、興味深く読ませていただきました。僕には書けないタイプの戯曲です。

——翻訳された戯曲を上演台本にする際、気を留めていた点はありますか。

ノゾエ:本多劇場という場所のサイズ感で、現代のお客さんが観に来るにあたって、もう少し届くものにするためには、言葉を分かりやすくしたいと思いました。構造そのものはほとんど変えていません。

——草刈さんは上演台本を読んでどんな印象がありましたか?

草刈:面白い台詞がたくさんあって、そこにノゾエさんの言葉のセンスが表れていると思いました。正直、初めて台本を読んだときには、(私との)世代の差でノゾエさんのセンスについていけなかったらどうしようと心配になったところもあったのですが、稽古をしていくうちにだんだんとわかってきました。これから演出上で加える面白さと、ノゾエさんの書いた会話の面白さがリンクしていくと思います。

——草刈さんとノゾエさんは初タッグです。実際に演出を受けてみて、何か発見はありましたか?

草刈:ノゾエさんは頭のなかであらゆる可能性を考えていると思うのですが、稽古はじっくりと進んでいます。私は初めてですし、難しい戯曲でもありますので、できる限りのことをノゾエさんに見せていきたいと思っています。

ノゾエ:演出上の具体的なイメージがあったとしても、なるべく僕は稽古場でそれを言わないようにしています。役者さんから出てくるものが大事だからです。僕から言うことは、指示ではなく、あくまでも提案です。提案をしたり、役者さんの意見を取り入れたりしていると、いい意味で僕が抱いた当初のイメージが消えていきます。やっぱり、その役者さんだからこそ出てくるものが活きるのを見ているのがうれしいんです。答えを決めずに、瞬間的に思いついたこともやってみる。その積み重ねです。

草刈:「ここに立ってみましょうか」「この台詞は、この人に向けて言ってみましょうか」というような提案から具体的なイメージにつなげていったり。それと、日本語は語尾で微妙なニュアンスが表現されますが、そういうところがしっくりこないところは話し合ったり、ノゾエさんの意図を聞いたりしながらやっています。

草刈民代(提供:ワタナベエンターテインメント)


 

◆自分のなかのものを総動員して

 

ノゾエ:草刈さんとのやりとりで面白いのは、僕たちがこれまでやってきた小劇場系の芝居の進め方と少し異なる点ですね。草刈さんからの提案で、僕は脳を刺激してもらっています(笑)。

草刈:もともと私はバレリーナとして活動をしてきましたので、外国の人たちと仕事をすることも多かったんです。外国人と踊る場合は思いを伝える意思を強く持たないと、思うようにコミュニケーションが取れません。もしかしたらそういうところが違うのかもしれませんね。「なんか私、聞きすぎ?」と思うことはありました(笑)。

ノゾエ:いえいえ(笑)。

草刈:やっぱり、演出家や振付家が目指すところに向かっていくのが役者やダンサーの役割。受け身だけでは作品はできないですし、自分のなかのものを総動員していかないと。それならどんどん聞いていくしかないなと思って。そうすると、ノゾエさんの考えていることも少しずつ分かるようになってきますし。

ノゾエ征爾(提供:ワタナベエンターテインメント)


 

◆生々しさを持ち続ける

——感染症対策で、出番のない俳優さんは稽古場にいないことが多いです。

ノゾエ:そこはたしかに難しいですね。たとえば、ある役者さんに投げかける演出があるとして、実は別の役者さんにも伝わっていてほしいことがあります。そうして徐々に感覚や空気が共有されていく。今はそういう方法がとれないのですが、ネガティブになってしまってもダメで、この状況で演劇をやるにはどうするのがベストかを考えながら取り組んでいます。最少人数の稽古場での進め方は、これまでと違う筋肉を使っている感じです。

草刈:踊りの場合だと、パートごとに稽古して、通し稽古から合わせるというのが一般的な稽古の進め方だったので、私はあんまり違和感を感じていません。映像の場合もそうやって撮影していきますし。どういう状況であれ、どうにかして役を形にしたいです。まだぜんぜん到達できていないから、そればかり考えています。

ノゾエ:役者さんたちと、作品や役どころについてずっと考えていきたいですね。思考を止めず、役を生き続ける。そうしたほうが役の輪郭が深まると思うんですよね。日常での僕らも、「自分はこういう人間です」と言い切れることなんてなくて、自分を疑ったり、反省したり、後悔したりしている。考え続けることで、舞台上の人たちが人間味を持ち続けていけると思うんです。

取材・文=田中大介

公演情報

ワタナベエンターテインメント
Diverse Theater 『物理学者たち』

 

 
■作:フリードリヒ・デュレンマット
■翻訳:山本佳樹
■上演台本・演出:ノゾエ征爾
■プロデューサー:渡辺ミキ 綿貫凜

 
【キャスト】
草刈民代 温水洋一 入江雅人 中山祐一朗 坪倉由幸(我が家) 吉本菜穂子 瀬戸さおり 川上友里 竹口龍茶  花戸祐介 鈴木真之介 ノゾエ征爾

 
■日時・会場:2021年9月19日(日)~26日(日)@本多劇場
料金】
一般/7,800円
プレビュー/6,000円<19日(日)18:00公演>
U20/4,000円<20歳以下・平日限定・枚数限定>
※全席指定席・前売当日共

 
■後援:在日スイス大使館 ドイツ連邦共和国大使館
■主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
■公式サイト: https://physicists.westage.jp/
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