映画『シャン・チー』急逝したスタント・コーディネーター ブラッド・アランさんが担った役割とは? 作品の核となったアクションの創造
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(C)Marvel Studios 2021
公開中の映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU/映画『アベンジャーズ』などを中心とした一連の作品)初となるアジア系ヒーローをメインロールに据えた作品。『アイアンマン』シリーズや、『アントマン』にも登場した犯罪組織“テン・リングス”の謎が明かされる映画だ。『ショート・ターム』『黒い司法 0%からの奇跡』などのデスティン・ダニエル・クレットン監督がメガホンをとった本作では、主人公のシャン・チー役で『96時間 ザ・シリーズ』などのシム・リウが主演するほか、『恋する惑星』や『インファナル・アフェア』シリーズのトニー・レオンがシャン・チーの父親役で出演。中国未公開にも関わらず、世界興収は3億6,550万4,136ドル(約400億円)に到達し、全米では9月3日の封切から4週連続で週末興行成績1位となり、2021年米国内最大のヒットを記録している(9月28日現在/IMDB調べ)。
(C)Marvel Studios 2021
そんな『シャン・チー』の大きな魅力が、これまでのMCU作品とは一線を画した“武術”を主体としたアクションだ。シム・リウを始めとした主要キャスト自身のパフォーマンスもさることながら、アクション構築の軸となったのは、第二班監督/スーパーバイジング・スタント・コーディネーターのブラッド・アランさんや、ファイト・コーディネーターのアンディ・チェンら。しかし、アランさんは、映画公開直前の2021年8月7日に48歳の若さで亡くなっている。
オーストラリア出身のブラッド・アラン(ブラッドリー・ジェームス・アラン)さんは、香港映画界で成家班(ジャッキー・チェンスタントチーム)初の非アジア人メンバーとして知られた人物。パフォーマーとしては、『ゴージャス』でジャッキーと死闘を繰り広げた姿を記憶している映画ファンも多いだろう。近年は、様々なハリウッド映画のアクション・コレオグラファー(振り付け)や、スタント・コーディネーター/第二班監督として活躍しており、特にマシュー・ヴォーン監督の『キック・アス』や『キングスマン』シリーズ、DC映画『ワンダーウーマン』、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』など、アクションが作品の軸になりつつあるハリウッド大作で存在感を発揮してきた。
ブラッド・アランさんのアクションリール
では、「第二班監督/スーパーバイジング・スタント・コーディネーター」として、のアランさんは具体的にどのような役割を果たしたのか? クレットン監督や製作陣の言葉からは、その影響が非常に多岐にわたっていたことがうかがえる。
作品の核となったアクション
(C)Marvel Studios 2021
武術がアクションシーンのみならず、作品そのものの核となるため、創作チームにとっては製作の初期段階から「ファイト・シーンに真実味を持たせること」が大きなカギを握るものとなっていたという。製作総指揮のチャールズ・ニューワース氏は、「それは簡単なことではありませんでした。なぜなら、それをするにはマーシャル・アーツの豊富なスタイルとテクニックが必要とされるからです。こういうタイプの映画をやった経験を持つスタント・コーディネーターたち、ファイト・コーディネーターたち、第二ユニット監督を、私たちは世界的に探し回りました」と語っている。
こうして、クレットン監督とプロデューサーたちは、第二班監督/スーパーバイジング・スタント・コーディネーターとして、アランさんを起用。そして、アランさんは、世界中から殺陣のエキスパートたちを、モンゴルからは馬乗りや弓のエリートたちを、アメリカとオーストラリアとカナダから身体操作アーティストやパルクールの達人たちを集めたという。
(C)Marvel Studios 2021
また、メインキャストが数ヶ月にわたるトレーニングをへて、多くのアクションを自らこなしている本作だが、範囲を超えた技量が求められる特定のアクションにはスタントダブルが必須に。アランさんは、個々のキャラクターのファイティング・スタイルに合わせたスタントダブルをコーディネートしたという。ニューワース氏は「我々には20年、人によっては30年も訓練をしてきた、驚異的なスタントダブルのチームがついていました」とその仕事ぶりを評価している。
美術とアクション
(C)Marvel Studios 2021
本作のアクションは、美術にも大きく関わることとなった。プロダクション・デザインを担当したスー・チャン氏はチャン・イーモウ監督やアン・リー監督の映画を参考にしたほか、香港映画のアクション大作も見直し、それらが構造的にどう撮影されていたのかについて研究した結果、「カンフーなどのマーシャル・アーツを撮影するためには、多くのショットが必要になることになるため、床がとても重要であることに私は気づきました」「壁や柱や小道具や備品といったものも使うことができるようにセットを組まなければなりません」と語っている。つまり、アクションのためのプロダクション・デザインが必要となったのである。
こうして、撮影時には視覚効果スーパーバイザーの仕事部屋の隣にアランさん率いるスタント・チームが控え、継続的にプロダクション・デザイナーのスー・チャンと相互にやり取りするかたちで仕事が進められた。スー・チャンのチームはセットを組み立てながら、スタント・チームが実際に登ったり飛び降りたりできるよう確保。また、スタント・ワークでも、演者が衣裳を着たまま自由に動けるように、衣装デザイナーのキム・バレット氏とも話し合いながら仕事を進めたという。
(C)Marvel Studios 2021
マーベル・スタジオ社長で、製作総指揮を務めるケビン・ファイギ氏は、アランさんや同じく成家班出身のアンディ・チャン氏ら香港アクションにルーツを持つ才能たちとの仕事について、次のように語っている。「素晴らしかったよ。そして、明らかに香港のコリオグラフィー(振付)は、20年にわたってハリウッド映画にインパクトを与えている」さらに、「映画のファンで、香港のアクション映画のファンじゃないのは不可能だよ。彼らは、アクション映画でなにをやれるかにおいて先駆者であり、それを明確にした」「23年前、すべての素晴らしい香港のコリオグラファーたちが『マトリックス』を手がけ、それから『X-MEN』や、初期のマーベル映画のいくつかを手がけ、映画におけるアクションを定義づけたんだ。だから、彼らはみんなレジェンドだよ。そして亡くなったブラッド・アランは、そういったことにとても深く関わっていて、そのチームに受け入れられていた。彼らは素晴らしいんだ」と敬意を表している。
アランさんの訃報を受け、マーベル・スタジオは完成していたクレジットを急きょ修正。スーパーバイジング・スタント・コーディネーター/第二班監督のクレジットに加え、ポストクレジットシーンでアランさんに献辞を贈っている。
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は公開中。