劇作家・演出家の渡山博崇による私戯曲三部作を、3週に渡って名古屋の「円頓寺Les Piliers」で上演

2021.11.10
インタビュー
舞台

『富山家の人々とその他の独白』 一幕「1994年の富山家」出演者と作・演出家、演出助手。前列左から・二宮信也、すぎうらまこ 後列左から・作・演出の渡山博崇、五紀結女、高木彩加、演出助手のN井タロ

画像を全て表示(6件)


〈星の女子さん〉を率いる劇作家・演出家の渡山博崇による書き下ろし新作三部作『富山家の人々とその他の独白』が、11月11日(木)から毎週末、3週に渡って名古屋の「円頓寺Les Piliers」で上演される。

渡山博崇の私戯曲として、現実の一家族のエピソードに虚構の登場人物を加え、“虚実の定まらない不思議なお話”に仕立てたという本作。11月11日(木)~14日(日)は第一幕「1994年の富山家」、11月18日(木)~21日(日)に第二幕「2002年の富山家」を、そして11月25日(木)~28日(日)は第三幕「2008年の富山家」と、一家の日常の出来事が年代を追って三幕で綴られ、単体でも、三作通して観ても楽しめる構成になっている。

星の女子さん『富山家の人々とその他の独白』チラシ表

渡山及び〈星の女子さん〉といえば、これまで寓話をモチーフとした世界に現代社会の構造や世情を織り交ぜた、どこかシュールでおかしみのある「物語」を構築することを得意としてきたが、渡山は今作のチラシに、「構造も仕掛けもなく、ただ話をしている。そんな戯曲を書きたくなったのですが、なにを書けばよいかわからなくなったので、自分のことを書くことにしました。家族を巻き添えにして、実際にあったことを元にしました。意味もなく、どうしようもなく、ただ生きている人を見たいなと思っています」と記載。

また近年は新作と並行して、これまで行ってこなかった再演にも着手。過去作品を上演しやすいサイズ感と時代に合わせた空気感で創り直す【REシリーズ】をスタートさせたり(2019年に第1弾『水辺のメリー』、2021年4月に第2弾『ヤングレ』を上演)、渡山の出身地である奄美大島(鹿児島県)のエピソードを戯曲に色濃く反映させるなど、40歳を超え、これまで歩んできた道のりや作品を振り返る作業に興味を持ち始めたようだ。
「歳を取ったんでしょうね。ルーツみたいなことが面白くなってきちゃって」と渡山。

それでも、今作のように自身の過去や家族間で起きた出来事の記憶を掘り起こし、それらと正面から向き合って戯曲を書き進めていく作業は楽しいことばかりではなかったようで、
「実際に書こうと思うと、苦痛で書けなくて。嫌なことはやらない、と決めてるからなかなか書かない(笑)。でも上演を決めた以上、嫌でも書かなきゃいけないじゃないですか。そのうちにオリンピックが始まって、コロナの感染者も東京でワーッと増えて、今度は公演主催者としての気持ちが落ち着かなくなり。それでもこれ以上ひどくならないだろうという状況になったらようやく自分の気持ちも落ち着き始めて、少しずつ書けるようになって。11月に公演なんて本当に出来るのかな? と思いながら書くのもしんどかったんですけど、ここしばらくもうずっとそうしてやってきたので、覚悟を決めてやるしかない、と。最初はもうちょっとテクニカルに、ケラさんの『フローズン・ビーチ』みたいに描く年代を8年刻みで綺麗に構成を…とか思ったんですけど、2002年の次は2008年の方が僕の書きたいことがあったので法則性では書かないようにしました」と。

一幕「1994年の富山家」稽古風景より  ©佐藤アクロス

さらに前述のチラシコメントでも述べているとおり今回は、おとぎ話のような体裁でひとつの世界観を作り込んで物語を構築していく従来の創り方とは、全く異なる取り組み方で執筆にあたったという。
「いかに自分の無意識に書かせるか、ということだけ考えました。だから構成とか起承転結みたいなことは何も考えないようにして、少しでも考えちゃったらその日は書くのは止めて。でも、俳優が台本を待ってるから急ぎつつ。とにかくずっとPCの前に居て、出てくるのを待ってるっていう。久々の“神降り待ち”ですね。とはいえ、あまり辻褄の合わないことや訳のわからないものを見せてもあれなので、観やすいようにナレーションを入れたり。でもただのナレーションじゃつまらないので、めちゃくちゃお喋りなナレーションにして、何故そんなお喋りするのかという仕掛けもほどこして……というふうに、どうしても「お話」の仕組みができてしまい、それがもどかしく感じたりもしたのですが。何も考えないのは難しかったです。

あと、各話それぞれ実家族だけでやると私怨の塊みたいなのが出てきちゃうから、架空の人物を入れてちょっと中和させよう、ということをやって。一幕だと次女の友人、二幕だと長男の恋人という、実際には居なかった人を加えることでフィクションの様相を濃い目にしたんです。そしたらもう、観る人はどれが本当か嘘か全くわからない。私戯曲ゆうても…みたいな(笑)。全部本当のようにも思えるし、全部嘘にも見えるし、っていう変な感じにはなりましたね。結局フィクションじゃん、と。私戯曲ってなんだろうなと。ネームバリューのある人だったら、その人の私戯曲って面白がられる気はしますが、無名の人の私戯曲は果たして面白がられるのかしらと、我ながら、思いはしました。でも、僕も普通の人で、その普通の人の生活を見る、聞く、知る、っていうのは面白いじゃん、と思い直したんです。社会学者の岸政彦さんが編集した「東京の生活史」という分厚い本があるんですが、東京で住んでる150人位の話を、余計な編集とかしないで、なるべくそのまま言ったことを聞き取って書くっていう。150人分の、人のそれぞれすぎるインタビュー集。発売前から気になっていて、最近届いたのですが、これは今作を書く前に読みたかったな、と思うほど面白かった。書く前に読めていたら、もっと無茶苦茶なホンになったかもですが(笑)」

一幕「1994年の富山家」稽古風景より  ©佐藤アクロス

〈星の女子さん〉では、2019年の『私立探偵 西郷九郎と九人の女』でも今回のように、同じシチュエーションの中で展開される全3話を1週ずつ、3週に渡って上演するロングラン公演を行っている。私立探偵の事務所を舞台にした前作では、本棚や机に並ぶ本や書類、小物に至るまで本物さながらに舞台美術を作り込んでいたが、今作ではどうなるのだろうか?
「予算の都合もあって前回ほどは作り込めないと思いますけど、年代ごとの小道具…例えば、「1994年の富山家」では当時我が家で現役だった緑電話を置いたり、それが「2002年の富山家」ではFAX電話になっていたりします。内容的にも、素材やディテールは意外と本当のことばかり使っていたりします。ただ、実際はそのタイミングではなかったとか、こっちの方が収まりがいいからとか、あちこちから引っ張ってきたり組み合わせ方が嘘になっていたりと、作為が少しある感じで」

これまでの作品とはまた違った意味合いで虚実がないまぜとなった今作の稽古を重ねていくうちに、「絶対にこの人たち(一家の父役の二宮信也、母役のすぎうらまこ)、僕の父や母のことは知らないし写真すら見せたことがないのに、お父さんやお母さんに見えたりする時があって、マジかよ!って(笑)」という奇妙な感覚も味わっているという渡山。また、奄美大島在住の実妹がギターで演奏する島唄(奄美民謡)を3話共通のエンディング曲にするという、私戯曲らしい味付けも行っている。

★稽古風景3 一幕「1994年の富山家」稽古風景より  ©佐藤アクロス

本作を書き上げてみて、改めて感じたことを尋ねると、
「一幕はわりと遠い思い出で、だいぶ昇華されてる事柄なので平気な感じだったんですけど、二幕あたりから途端に苦しくて。後で読み返して、あぁこれほんとに書きたくないんだな、っていうのがよくわかる、本当に不細工なやり取りになったりしていてちょっと笑うんですけど、やっぱり書きたくないことが多かったのか、二幕だけ少し短いんですよね(笑)。三幕になると逆に、もうちょっと自分を突き放して書いてる。あぁ、こういうところに僕はまだ引っ掛かりを覚えてるんだな、と問題意識を自覚したり、自分の人生の分岐点がここにあったんだな、っていうのが見えたりしました」とのこと。

こうした経験が今後の作劇にどのように関わってくるのかも興味深いところだが、来年2022年の一年間は、〈星の女子さん〉としての公演は行わないのだとか。そのこともあり、今作では演出というより役者の演技指導に注力したという。
「演出は、いつもよりはリアルというか、あんまりシュールなギャグに逃げないようにして(笑)。役の心理、自分の心理にそれぞれ踏み込んでもらえるようにしました。そこに嘘があるかどうか、本当のこととして思えているかどうか、っていうところでやっています。来年一年本番がやれないので役者に課題じゃないですけど、もうちょっと深いところまで面倒見なきゃな、と思って。劇団員に対しては数年後までちゃんと面倒見るから、ということで言えている部分が結構あって、こういう芝居をやっていくと劇団員というか、所属俳優の有り難みはすごく感じますね。こういうことに付き合ってくれる俳優は有り難いです。来年は、普通に稽古だけしようかなと話してるんですよ。別役実さんの戯曲をただ読んでみるとか。そういう探究心のままに、もうちょっと演劇を遊んでみようかなと」

今回のようなロングラン形式での上演も、【REシリーズ】のように継続していく意向はあるのだろうか?
「これはこれで1年に1回ぐらいやりたいんですけど、何がしんどいって、ホンを書くのが(笑)。でも、これを続けて行って、いずれ3時間モノをひと通しで上演したいんですね。『私立探偵 西郷九郎と九人の女』の1・2・3話連続上演とか、今回の3話連続上演とか。本当は3時間ぐらいの長尺の物語を書きたい、っていうのがずっとあったんですけど、なかなかそれを一気に発表する機会というか、体力がまだまだかなと。でもいずれやってみたいですし、『私立探偵 西郷九郎…』の続編もやりたいですね」

一幕「1994年の富山家」稽古風景より  ©佐藤アクロス

取材・文=望月勝美

公演情報

星の女子さん⑱『富山家の人々とその他の独白』

■作・演出:渡山博崇
■出演:一幕「1994年の富山家」二宮信也、すぎうらまこ、五紀結女、高木彩加(妄烈キネマレコード)、平手さやか(声の出演)/二幕「2002年の富山家」二宮信也、すぎうらまこ、五紀結女、青木謙樹、未彩紀、平手さやか(声の出演)/三幕「2008年の富山家」二宮信也、すぎうらまこ、五紀結女、青木謙樹、くらっしゅのりお(妄烈キネマレコード)、平手さやか(声の出演)


■日時:一幕「1994年の富山家」2021年11月11日(木)19:30、12日(金)19:30、13日(土)13:00・18:00、14日(日)11:00・15:00/二幕「2002年の富山家」11月18日(木)19:30、19日(金)19:30、20日(土)13:00・18:00、21日(日)11:00・15:00/三幕「2008年の富山家」11月25日(木)19:30、26日(金)19:30、27日(土)13:00・18:00、28日(日)11:00・15:00
■会場:円頓寺Les Piliers(えんどうじレピリエ/名古屋市西区那古野1-18-2)
■料金:一般2,500円、U-25 2,000円 ※前売・当日共
■アクセス:名古屋駅から地下街ユニモールを抜け、「国際センター」駅2番出口へ。地下鉄桜通線「国際センター」駅2番出口から北東へ徒歩5分
■問い合わせ:星の女子さん hoshinojyoshisan@yahoo.co.jp 090-9926-0091(とやま)
■公式サイト:http://hoshinojyoshisan.wixsite.com/hoshinojyoshisan