荒木宏文×毛利亘宏、演劇の今までと未来への思い――演劇の毛利さん-The Entertainment Theater Vol.1『天使は桜に舞い降りて』クロストーク
-
ポスト -
シェア - 送る
毛利亘宏、荒木宏文
2022年1月より東京、愛知、大阪にて上演される 演劇の毛利さん-The Entertainment Theater Vol.1『天使は桜に舞い降りて』。劇作家、演出家の毛利亘宏(少年社中)が企画・製作するプロジェクトの本格始動となる第一弾作品として、「桜」から生まれる“再生”をテーマにした物語が描かれる。主演を務める荒木宏文と作・演出の毛利に、本作への思いや桜にまつわるエピソードなどを語ってもらった。
――お二人がご一緒されるのは『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス2015-』以来とのことですが、心境は?
毛利:オリジナル作品では初めてだから、実質初めましてといったところですね。率直に、すごく楽しみにしています。
荒木:後輩たちがたくさんお世話になっていますが、自分もこうしてご一緒できる機会を得られて嬉しいです。毛利さんが描く世界観を味わえることが楽しみですし、オリジナル作品ということで、ここ最近出演してきた作品とは違う取り組み方をしていかなければいけないジャンルだとも感じています。
――“演劇の毛利さん–The Entertainment Theater”プロジェクトが、2021年1月に“Vol.0”として上演された音楽劇『星の飛行士』を経て、ついに本格始動となります。改めて、どんなコンセプトか教えてください。
毛利:劇団やシリーズものなど、いろんな作品を継続して作っていく中で、一回こっきりのチーム、カンパニーでのものづくりに興味を持ったんです。たった一回の作品のために仲間が集まって、頭を抱えながら、激論を交わしながら演劇の楽しさを存分に味わい尽くしたいなと。だから僕の一番やりたいことをやりますし、純度の高くて濃い毛利亘宏を役者にも味わってもらいます。
毛利亘宏
――第一弾として書かれた本作は、どのように着想を得たのでしょうか。
毛利:時代が時代なので、ハッピーエンドなお話を作ろうと。同時に、できるだけ人間の悪性と善性を織り交ぜつつ、桜というメタファーで包み込みながら描きたいと思いました。桜って、日本人にとってはとても大切な存在。毎年必ず咲いて人が集まるハレの場でもありますが、この2年はその情景がなかった。桜をメタファーに使うことで、ある種の「再生」を描き出したいなと思っています。
――そうして描かれたのが、人間がいなくなった世界の桜と天使たちの物語。脚本を読まれて、荒木さんが最初に感じたことは?
荒木:善と悪の表裏一体。何をもって正義とするかということを考えました。正義って、ある種の力業で提示しているんだと思うんです。負ければ悪になる。悪だと呼ばれている事柄も、人によっては正義ですし。光があって闇があるということを、改めて感じました。
――桜にまつわる4作品が登場しますが、構成にはどんな意図が?
毛利:僕自身がこういった形のお話が好きで、得意なんです。最初に坂口安吾の『桜の森の満開の下』を組み込んでいたのですが、この作品だけだとどうしても暗くなってしまうんです。ハッピーエンドを目指しつつ、僕の好きな『桜の樹の下には』(梶井基次郎)や『十六桜』(小泉八雲)、歌舞伎の『義経千本桜』の作品要素を入れ込みました。
――「桜」と「天使」の組み合わせも意外性がありました。
毛利:和洋折衷みたいな感じですよね(笑)。日本人が桜に救いを求める心情と、人々から救いを求められる天使や神様という存在を組み合わせてみました。
荒木:僕も個人的に、桜という花が好きです。日本を代表する花ですし、誇らしさを感じます。
毛利:桜って、どんな人々の記憶にも残っている存在だと思うんです。10年後も変わらず咲いていて、僕らだけ年を取っていって……桜の下には、きっと僕らの記憶や物語が埋まっているんですよね。
荒木宏文
――お二人の桜にまつわる思い出は?
荒木:祖父が生前、手紙に桜の押し花を入れて送ってくれていました。
毛利:素敵。
荒木:手紙をくれるのは、桜のシーズンだけだったんです。「こんな大人になりたい」と心の底から憧れたおじいちゃんが、すごくきれいな字で綴ってくれた手紙が大好きでした。数年間しか受け取ることが叶わなかったんですけど、僕にとっては一年のスタートや節目を意識するきっかけでもありましたね。
毛利:桜といえば、愛知公演を行う名古屋市公会堂がある鶴舞公園は桜の名所ですし、偶然にも僕の実家の近くなんです。
荒木:毛利さんの地元なんですね。
毛利:(少年社中の)劇団員でもあるキャストの井俣太良と川本裕之とは、高校1年からずっと一緒に演劇をやっているんですけど、今年でちょうど30年。演劇を始めた場所で仲間と節目を迎えられることに、なんとなくご縁があるなと。
荒木:愛知公演ができてよかったです。3人にとっては記念になりますね。
毛利:ごく身内の、ミニマムなメモリアルイヤーだけどね(笑)。愛知公演にはちょっと運命を感じています。
――この取材時点では稽古開始前ではありますが、役作りにおける現状のビジョンは?
荒木:今回、どうなっていくのかがまだわからないです。正直、僕自身もはじめて演じるような役柄になるかもしれません……。周りに影響を与えたり、与えられたりしながら見つけていくことになると思います。
毛利:僕も早く稽古で見てみたいと思っています。
荒木:シーンごとの物語の色や抑揚が、リアクションの大きさで濃度が変わってくる。矛盾が生まれないバランスで色を見せていかなきゃならないお芝居になるんじゃないかと思っています。リアクションを大きくすると物語性が強くなるだろうけど、大きくなりすぎると人間性の薄さが生まれてしまう。バランスをとるのが、すごく難しい作業だし、オリジナルだから事前資料がない。お客さんには、舞台上で伝わってくるものがすべてになる。深め方や役作りが甘いと(演じるラウムの)リアリティが持てなくなるだろうなと。
毛利亘宏
――その難しさもまた、役者としては楽しみな部分では?
荒木:楽しいと言えるほど楽観的な作業ではないと僕は思っていますが、演劇の面白みではあります。未知の世界と触れるから、そこに対して楽しんでいる気持ちはあるのかもしれない。役者をやっていく上で魅力となる部分ではあるので、気持ちとしては必ず持っていたいですね。
――演出家として、荒木さんに期待されることは?
毛利:僕が持っていた荒木のイメージはある意味正しかったんだろうなと。
荒木:そうですよね(笑)。
毛利:だからこそ、挑戦して欲しいというか、物語が進むにつれていかに表情を変えていくのか、攻めにまわった時に荒木宏文がどう見せてくれるのかっていうところを楽しみにしています。
――ラウムという人物を作り上げるなかで荒木さんから抽出した要素はあるのでしょうか?
毛利:そうですね。荒木のことをずっと考えていました。もはや好きになっていました(笑)。
荒木:(笑)。
毛利:(荒木が出演する)『獣拳戦隊ゲキレンジャー』を見ました。見て感じたのが、あの時の妖艶さはそのままに、いい感じに年を取ったなと。今の荒木が持つ大人の色気と、あの頃の少年性みたいなものが両方乗っかった荒木を見たいなという思いが僕の中で生まれました。
荒木:なるほど……。
毛利:カッコよくて完璧で、頭もいいしすごい人なんだけど、それを崩す瞬間をちょっと見てみたい(笑)。
荒木:いえいえ。結構、崩してますよ(笑)。
――荒木さん自身としては、当時から変わった部分はどんなところですか?
荒木:大人になったことですかね。演劇界の将来を考えるようになりました。それは、僕のいなくなった世界でもあるんですけど。若いスタッフや後輩たち、志を厚く持って没頭したいって思っている人たちが損をするような世界にはしたくないし、熱のある人を大切にしたい。純粋に芸術を作っていける世界になってほしいから、自分はそこに労力を使うべきだと思っています。
荒木宏文
――演劇人として、今の状況に感じていることは?
荒木:演劇を残していくためには、厳しい目で見られた上での課題をすべてクリアしていかなければいけないということ。その不安はお客さんに提示する必要はありませんが、お客さんには演劇で心を救われているということを体感してほしい。だから、この作品はハッピーエンドにしなきゃいけない。疲れた心をエンタメで癒すこと、それが生きる上でどれほど必要なことかというのを感じとってもらわなきゃいけないと思っています。
毛利:コロナ禍の前って、演劇界がだいぶ盛り上がっていたように思います。2.5次元作品をきっかけに劇団の公演を見に来てくれるお客さんも増えて、80年代以来の盛り上がりを見せていましたが、新型コロナウィルスの影響で、ゼロとは言わないまでも、底に近いところまでガクンと落ちてしまった。とはいえ、ずっと前から芝居をしている身としては、お客が入らない状況自体も経験しているから、ゼロになっても、またゼロから始めればいいやって、今はそんな気持ちでいます。
――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
毛利:少しずつコロナ禍以前に戻っていきたいですし、僕らは変わらず劇場にいます。気が向いたら劇場に来てください。ずっと待っています。
荒木:年明け一発目の公演です。2022年も明るく迎えられるように、勢いをつけていけたら。明るい未来を見ていただきたいという思いを込めて公演したいと思っていますので、お時間が合いましたらぜひ劇場にいらしてください。
取材・文=潮田茗、撮影=荒川潤
公演情報
『天使は桜に舞い降りて』
<東京公演>2022年1月6日(木)~ 16日(日)サンシャイン劇場
<愛知公演>2022年1月22日(土)・23日(日)名古屋市公会堂 大ホール
<大阪公演>2022年1月28日(金)~1月30日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
■出演:
荒木宏文 夢咲ねね
三津谷亮 伊崎龍次郎 大薮丘 星元裕月 相澤莉多
エリザベス・マリー ザンヨウコ 川本裕之 井俣太良 山本亨
■
■公演Twitter @e_mouri