温泉ドラゴン『続・五稜郭残党伝』上演中──シライケイタ、阪本篤、筑波竜一、いわいのふ健に聞く
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温泉ドラゴンの『続・五稜郭残党伝』が、すみだパークシアター倉にて上演中だ(2021年12月27日まで)。『五稜郭残党伝』の続篇にあたる。前作で描かれた五稜郭開城から5年が経った明治7年、開拓が進む北海道のあちらこちらで、「共和国騎兵隊」を名乗る盗賊団が出没していた。盗賊団を率いる頭目は、五稜郭の残党である兵頭俊作。兵頭には心に秘めた志があり、それを実現するための行動だったのだ。そんななか、かつて兵頭とともに闘った同志である矢島従太郎が、討伐隊の相談役として送り込まれる。昨年、10周年を迎えて、活動がますます盛んな温泉ドラゴンの、脚本・演出のシライケイタ、そして俳優たち(阪本篤、筑波竜一、いわいのふ健)に話を聞いた。
温泉ドラゴン公演『続・五稜郭残党伝』、左から、シライケイタ、阪本篤、いわいのふ健、筑波竜一。
■劇団創立10周年を超えて
──去年は温泉ドラゴン創立10周年でしたね。
シライ そうです。コロナで4月の公演が中止になっちゃって。
──2019年12月にサンモール・スタジオで、前作に当たる『五稜郭残党伝』が上演されましたが、温泉ドラゴンにとって『続・五稜郭残党伝』は、10周年を迎えた後、最初の舞台になります。
シライ 『五稜郭残党伝』は、まる2年前になりますね。
──『五稜郭残党伝』に続いて、今回も舞台が北海道。時代は明治7年。前作で五稜郭に立てこもったのが明治2年だから、あれから5年が経過している。今回は北海道で共和国設立の夢を持ち続ける「共和国騎兵隊」の隊長・兵頭俊作を演じるのが阪本篤さん。その手助けをするアイヌ民族で、土地勘もあり、狩猟が得意なトキノチを演じるのが筑波竜一さん。一方、それを生捕りしようと追いかける「新政府討伐隊」の相談役・矢島従太郎を演じるのが、いわいのふ健さん。
いわいのふ そうですね。ただ、前回と大きくちがうのは、逃げる人数が多い。
阪本 前回は逃げるのは主にふたりで、それに先住民のアイヌと真奈という娘が加わり、合わせて4人でした。
シライ 今回はどちらかというと、群像劇っぽい感じになっていますね。
■「共和国騎兵隊」VS「新政府討伐隊」
──矢島従太郎は俵担ぎをしていたところ、請われて「新政府討伐隊」に加わり、「共和国騎兵隊」を追うことになるります。本当は逃げる方をやりたかった?
いわいのふ いや、劇団員としては別に。前回は逃げる方だったんで、今度は追いかけたかったんですよね。
──では、逃げる方のおふたりはどんな感じですか。
筑波 前回もぼくは逃げるほうだった。
──アイヌの民族衣装がとてもよくお似合いでした。
シライ 今回も見間違うぐらい……
筑波 前回と芝居が変わっているかどうかは、わからないですけど(笑)。
阪本 今回、ぼくは逃げる方ですけど、前回とちがうところは、追いかけてくる「新政府討伐隊」の相談役・矢島従太郎が元同僚なので、まったく新政府側に付いているわけではない。心のどこかに「共和国騎兵隊」に対する憧れというか、理想に生きることを肯定する場面も、芝居には描かれています。
──矢島従太郎のなかに、そんな思いが燻(くすぶ)っているんでしょうか。
いわいのふ そうですね。芝居のなかでは詳しく説明されませんが、設定として、そういう気持ちは確かにありますよね。前作の『五稜郭残党伝』とは、そもそものスタートがちがいます。今回は、単純に脱走するのではなく、共和国建国を夢見ている。
──そう考えると、かつては同じ夢を見たというか、理想を追い求めたふたりが、ちがう陣営に分かれて闘わざるをえない。
シライ 根本的に今回は、逃げる人たちではなく、闘おうとする人たちだから、思想性を帯びている。そこが前回とはまったくちがいますよね。
温泉ドラゴン公演『続・五稜郭残党伝』稽古場風景。
■自由と平等という理想
──「共和国騎兵隊」の隊員たちは、思想性を帯びている割には、意外と脆(もろ)いところがありますね。組織を拡大しようとすればするほど、結束が内側から崩壊を始めてしまう。
シライ それは原作者の佐々木譲さんも意識して書かれたみたいで、連合赤軍の活動に対するオマージュみたいなところもあるようですね。
筑波 役的には、ぼくはアイヌ側で、軍人側とはまたちがうと思うんですけど……
──「共和国騎兵隊」の人たちを、地理的にも狩猟的にもアシストする役どころですね。
筑波 和人に虐げられている状況があり、そこに差別をしない男が3人いたので、行動をともにする。そのシーンは舞台では描かれませんが、そこから始まっている。思想よりも、差別をされないことだったり、人間関係だったりが、いっしょにいる理由なのかなと思うんですよね。
──阪本さんはどうですか。阪本さんが演じる兵頭俊作は「共和国騎兵隊」の責任者ですよね。
阪本 戊辰戦争から函館の五稜郭の戦いまで、兵頭は榎本武揚とずっと旧幕府軍として戦い、その後、3人で逃げることになる。そこまで榎本に付いていった理由は、自由と平等という理想にある。江戸時代末期の身分制度が厳しいときに、そのような理想を説き続けたことに共鳴したと思うんです。稽古でも、その考えかたはすばらしいと信じてやっているんですよ。
だから、兵頭は誰に対しても、問われれば、逃げないで丁寧に説明する。そういう面に魅力を感じて、トキノチや仲間たちが付いてきてくれるのかなと。
──「共和国騎兵隊」の初期メンバーである3人は、アイヌの人に対しても、きちんと名前で呼ぶ。仲間として付き合っている印象を受けます。当たり前のことですが、そういうところは共和国を夢見る人たちだなと思います。
温泉ドラゴン公演『続・五稜郭残党伝』稽古場風景。
■面白さの熱量で勝負したい
──かつての同僚を追いかける立場になった矢島従太郎を演じる、いわいのふさんですが、兵頭と同じくらい兵法に通じていて、しかも剣も立つという役柄ですね。
いわいのふ そういう設定は置いといて、台本を読んだ印象から、どうやったら面白いかなをいつも考えて演じるんですよ。
矢島従太郎の立場からいうと、いっしょに劇団をやっていたけど、ぼくが先に辞めて、それから10年後ぐらいに再会して、「おまえら、まだやってんのか、そんなこと」という状況と似てるんじゃないか。それは社会的には小さなことかもしれませんが、そういうリアルな部分はすごく大切だなと思っていて。
とにかく必死に生きていて、俵担ぎをやっていたところに声をかけられ、また軍人になり、かつての仲間を追いかけることになった。完遂しないと、結局、俵担ぎに戻っちゃうわけで、そこがいちばんでかいですよね。
その生きかたは、いまの人たちにも通じるところはあるかもしれない。また、理想を語っているように見えるけれど、それって本当に理想なのかということでもある。芝居に関しては、その熱量の勝負で、面白かった方が勝ちみたいな感じでやっているんです。
──バトルシーンもふんだんにあるし、見る人は興奮しながら、舞台を楽しめそうですね。
いわいのふ そんなふうに見てほしいなと思って。理想を語り合うとか、過去の仲間がということよりも、常にぶつかりあった結果がそこにあるみたいな芝居になったらいいかなと。
温泉ドラゴン公演『続・五稜郭残党伝』稽古場風景。
■温泉ドラゴンの魅力
──温泉ドラゴンの人たちは、仲間意識は強いんだけど、同時にそれぞれが独立している感じがしますね。
シライ そうですか。それは、この前作が、ということですか。
──前作も、他の作品も。だから、今回もそんな舞台が見られたらいいなと。それぞれ独立してるけど、弱い者にはやさしかったりする。そういうところも、いいですね。
いわいのふ 褒めていただいて(笑)。
シライ ぼく自身が、若いころ、群れるのが嫌いで、友達がいっぱいまわりにいるようなタイプじゃなかったんです。それで演劇を始めたときに、いっぱい仲間ができることが、こそばゆくもあり、心地よくもあって、ずっと続けてきた。ただ、劇団に所属したのは温泉ドラゴンが初めてで、実の家族以外に居場所ができたという感覚はありますね。
──全員男ばかりで5人というのも、温泉ドラゴンらしい。
筑波 いま、アイヌの役をやっていて、けっこう静かな感じにあるんです。そうじゃないと自然とか風とか空とか、いろんなものの音を聞けないし、見ていられない。そうやって少し離れたところから見たり、聞いたりしていることと、アイヌを演じることが重なっていったらいいかなと思ってはいるんですけど。
シライ 元々そういう感じじゃん、酒飲んでないときは(笑)。静かに、割と片隅で観察してるという雰囲気だよね。
──トキノチという役に合ってるかも。
シライ そうですね。大陸的でおおらかなところも竜一の魅力だし。休みの日はただただ散歩をするんだみたいなことを言っていた時期もあったし。
──先ほど日本赤軍の話が出ましたが、佐々木譲の原作は、1970年前後の映画『イージーライダー』や『明日に向って撃て!』のように、政府の方針に対する若者の側からの異議申し立てでもある。
阪本 原作の『北辰群盗録』を読んでいたとき、コッポラ監督の『地獄の黙示録』と似てるなと感じたんです。カンボジアの奥地で独立国を作っていると言われる米軍のカーツ大佐を探しに行くんですが、兵頭俊作とイメージが重なる部分がある。『地獄の黙示録』でも「考えを変えろ」と要求されるんですが、果たしてどちらが正しいのか。
いわいのふ そこの戦いを見てほしいですよね、かけひきを。理想を追い求めた末に、最後はどうなるか。
筑波 もちろん物語も見どころですし、いま、ふたりが言ったみたいなところはありますし。ただ、ぼくは単純に自分が出ていないシーンで、稽古見てるだけで「なんだよ、かっこいいな」とか思っちゃうんです。どんどん役者の個性が出てきて、それはケイタさんの演出の特長だと思うんですけど。ぼくはそういう芝居が大好きなんで、かっこいいおじさん、若者たちもそうですけど、それをぜひ見に来ていただきたいなと思います。
取材・文/野中広樹
公演情報
■会場:すみだパークシアター倉
■脚本・演出:シライケイタ
■公式サイト:https://www.onsendragon.com/