丸山泰右インタビュー 人との出会いを原動力に辿り着いた俳優という仕事 /『ミュージカル・リレイヤーズ』file.10
-
ポスト -
シェア - 送る
「いつも人との出会いで人生が進んでいる気がします」
これまでを振り返りながらしみじみそう語ってくれたのは、俳優・MC・ダンサー・タップ講師としてマルチに活躍する丸山泰右だ。紆余曲折しながらも人との出会いを通して芸の道へ導かれ、彼は今舞台の上に立っている。
今回で3度目の出演となる『ラ・カージュ・オ・フォール』の稽古の合間を縫ってインタビューに応じてくれた丸山は、終始非常に穏やかな語り口で、俳優という仕事への愛を語ってくれた。
バスケ少年が俳優を志した意外なきっかけ
――エンターテインメントの世界に興味を持ったきっかけを教えてください。
僕はごく普通の家庭に育ちました。最近、父親から「お前はなんで芸の道に行ったんだろう」と言われたくらい(笑)。「人と違うことがしたい」「特別になりたい」そんな想いからか、幼少期はとにかく1位になりたがる子どもだったようです。
小学3年生のときに地域のミニバスケットボールに参加するようになってから、10年程バスケを続けていました。中学生のときには「いずれ僕はバスケで食べていくんだろうな」と思っていたんです。ただ、高校に入ってから10代の挫折を味わいます。世界の広さを知ると同時に、自分にはプレイヤーとして足りない部分があることに気付いてしまったんです。その頃にバスケの試合で足の靭帯を切る怪我をしたこともあって、ガラッと方向性を変えることにしました。そのときに出てきたのが、俳優の仕事です。
――なぜ突然俳優になりたいと思ったのでしょうか?
高校の修学旅行で沖縄に行ったとき、ひめゆり学徒隊の方の戦争体験を聞いたんです。それが、僕の人生ですごく衝撃でした。それまで自分はすごく平穏に育ってきたので、実体験として戦争の話を聞くことで初めて恐怖を感じました。映画の中にも戦争を扱う作品があるじゃないですか。そういう作品に出ることで、歴史の一部になれるんじゃないかって思ったんです。ひめゆり学徒隊の方のお話は実体験なので、もちろん映画とは全く質感は異なると思います。けれど “人に影響を与える”というところにロマンを感じて、俳優という道に行きたいと思い始めたんですよね。
父が洋画好きだったので、休日にDVDをレンタルして家でよく一緒に映画を観ていました。それも俳優という仕事を意識し始めたひとつだと思います。あと僕、大杉漣さんが昔から好きなんです。『世にも奇妙な物語』のシリーズで大杉さんが出演した『夜汽車の男』(2002年3月放送)という回があって、電車の中で一人の男がお弁当を食べているだけなんですよ。そこにアテレコで、どのおかずでご飯をどれくらい食べるかとかを徹底的に考えていくという、ほんの10数分の作品。観終わったときに家族全員で「すごくない!?」って話したことまで覚えています。日常のなんてことのないものにドラマを生むことができる、俳優のすごさを感じました。それ以来、大杉漣さんが憧れの方なんです。
――とても意外なきっかけですね。俳優の道に進もうと決めてから、まず何を始めましたか?
高校の担任の先生に相談しました。すごく真剣に受け止めてくれて、背中を押してくれたんです。僕のいた高校はかつては演劇部の強豪校で、いろんな舞台の招待状が毎年届いていたようなんです。相談した数日後には先生が招待状を渡してくれて、小劇場の舞台を観に行くことができました。いろんな作品を観たんですけど、もう全部が新鮮で! 生の空間で人が笑ったり泣いたりしていて、映画の世界とは全く違いました。演劇の勉強は一度もしたことがなかったので、それから演劇の専門学校に通うことにしたんです。
「完全に俳優を辞めようと思っていました」
――専門学校で演劇を学んでから、俳優座の研究所に入られたそうですね。
そうです。専門学校に入って間もない頃、劇団四季の『ライオンキング』を観に行きました。1階席の前から7列目くらいのセンターブロックという良い席で「わー! シンバやりたい!」みたいな(笑)。それですぐに劇団四季に書類を送ったんですが、まあ勉強も始めたばかりの頃だったのでダメでしたね。専門学校には劇団四季の先生と新劇と呼ばれる文学座や劇団昴の先生がいらっしゃって、大きく2つの道がありました。四季に落ちた自分はミュージカルじゃなくて新劇が向いているのかなと思い、2年間演劇の勉強をしました。そして専門学校卒業後に俳優座の研究所に入り、1年で辞め、その後は水泳の先生をやっていました。
――バスケ、演劇、からの水泳!? 一体何が……?
俳優座の研究所に入って芝居漬けの日々を過ごす中で、体を壊しちゃったんです。戦争後遺症の役をやらせていただいたのですが、なかなかうまくいかず、自分の健康的なオーラがダメなのかなと思って断食みたいなことをしたんです。そしたらどんどん食べられなくなって、それでも朝から晩まで稽古して、精神的にも落ちていき……結果的に入院したんです。そのときに「この仕事は向いていないんだな」という判子を自分で押しちゃったんですね。それでしばらくはジムで水泳を教えながら食べていこうかなと。当時は完全に俳優を辞めようと思っていました。
――役作りで根詰め過ぎて体を壊し、俳優業から離れたんですね。そこからどうやってテーマパークのキャストへ繋がっていくのでしょうか?
いやあ、本当に面白い人生で。ジャズダンスの第一人者の名倉加代子さんのお弟子さんが、たまたまジムでレッスンをしていたんです。そのレッスンを受講したとき、講師の方から「もったいないからどこかのダンススタジオに通ってみなよ」と言ってもらえて。専門学校時代の友人の紹介で、今僕が所属しているM&Sカンパニーの社長のレッスンに行くことになったんです。そこで社長に目をつけられ(笑)、「オーディションを受けないか? それくらいの身長のやつを探しているんだ」と。それがテーマパークのスタントの仕事で、トントントンとダンサーへの道が拓けてきたんです。
――ものすごい急展開ですね! ダンスと言えば丸山さんはタップのイメージが強いのですが、いつから始めたのでしょうか?
専門学校のときに出会いました。ミュージカル『アニー』の旧演出にタップキッズというシーンがあったのですが、その振り付けをしていた藤井真梨子先生のお弟子さんが、僕にタップを教えてくれたんです。それ以来まるでライフワークのような感覚で、毎朝、毎夕、ずっとタップをするくらいドハマリしました。俳優座の養成所に入ってからも、実はタップのレッスンだけは通い続けていたんです。
――タップのどんなところに魅力を感じますか?
自分で奏でられるところ、ですかね。明確にこの技ができるようになったということがわかりやすいのも僕にとっては魅力です。いろんなダンスがある中で不思議とヒットしたんですよね。タップの道を極めてみたいというのはずっと思っていました。たとえ踊らない役であったとしても、自分の武器として一つ持っていたいものです。
ターニングポイントは人との出会い
――5年間のテーマパークのキャスト時代を経てミュージカルの世界に入られるわけですが、何かきっかけがあったのでしょうか?
今でも仲良くさせてもらっているんですが、テーマパークにはブロードウェイの舞台に出ていたような海外のキャストも多くいました。彼らは決して上手い下手で判断しないんですよ。「泰右の声いいじゃん。歌いなよ」と言ってくれて、ちょっとでもできたら「フゥ〜!」って盛り上がってくれるんです(笑)。この感覚がすごく衝撃的で! 彼らとの出会いで劇団四季に落ちた過去をネガティブに捉えることがなくなり、ミュージカルに挑戦してみようかなと思えるようになっていったんです。人前で歌うことがとんでもないことだというのはわかっていたので、友人や先輩の力を借りながらLIVEイベントをやることから始めました。それから徐々にオーディションを受けるようになり、2013年の『王様と私』がミュージカルの初舞台になります。
――初めてのミュージカル出演はいかがでしたか?
ミュージカルってこうやって作るんだ、ということを目の当たりにしましたね。それぞれが持っている武器を駆使して一つの作品を作り上げるという感じで、職人が多い世界だなという印象を受けました。自分はとにかく緊張していて、まだまだだなあと。一作目としてとても勉強になる作品だったと思います。
――それ以来舞台での活躍が続きますが、ターニングポイントとなった作品はありますか?
作品というより、人との出会いのターニングポイントがありました。まず『南太平洋』(2015年、2016年)でご一緒した俳優座の大先輩の磯部勉さん。出会ったのは『王様と私』(2013年)で、その後も何度か共演させていただいています。『南太平洋』では二人で台本1ページくらいの掛け合いをするシーンがあって、その芝居を作っているときにものすごく充実感があったんです。自分はやっぱりお芝居が好きなんだな、これが自分の原点なんだなと改めて感じました。
あと2017年の『フランケンシュタイン』初演は、アンサンブルがツワモノ揃いで濃かったですねえ(笑)。ぴーちゃん(山田裕美子)、やっきーさん(安福毅)、はらしんさん(原慎一郎)……僕の中で雷が落ちた作品です。初演も再演も闘技場で戦う人を演じましたが、ミュージカルって何でもやるんだなと思い知らされました。
『フランケンシュタイン』の演出の板さんこと板垣恭一さんとの出会いもターニングポイントです。僕が30歳過ぎたくらいのときで、社会や仕事、エンターテインメントに対するもどかしい想いがうまく言葉にできない時期がありました。たまたま稽古の帰りに板さんと一緒になったときにそれを相談したら「今からちょっと飲みに行こう」と誘ってくださって。そこで「今のたいちゃんは語彙力を欲している時期。だから誰か尊敬する人や偉人のエッセイを読んで、自分から言葉を取りにいくといいよ。感銘を受けるとそれが自分の語彙力になるから」とアドバイスをいただいたんです。役者というものは言葉を使う仕事でもあります。この時期に僕の語彙力を深めるという意味でも、大きな出会いだったと思います。
――この連載に前回登場し、『フランケンシュタイン』で共演された山田裕美子さんから「繊細な部分をちゃんと持っていて、当たり前に気遣いができる人」と丸山さんを紹介いただきました。
僕、喋ることがすごく好きなんですね。ぴーちゃんはそのことを言ってくれたのかなあ。あるとき先輩から「たいちゃんはすごく人の話を聞くよね。それってすごいことだからね」と言っていただいたこともありました。でも、僕自身はそれを全然すごいことだと思っていないんですよ。普段、何気ない会話をするだけで、その日一日元気に過ごせることってあるじゃないですか。舞台を観てくださったファンの方から感想をいただくのもコミュニケーションだと思っていますし、すごく力をもらえるんですよね。コミュニケーションの仕事をしているからこそ、いつまでも会話は大事にしていきたいと思います。ただ、今はコロナめ〜って感じですね(笑)。
「スウィングは技術のみならず、精神力を必要とする仕事」
――2017年の『ビリー・エリオット』日本初演で、スウィングを務めていらっしゃいますね。
はい。スウィングというのは、怪我や病気など万が一のことがあったときに代わりを務められるよう、複数の役をできるように備えてカンパニーを支える仕事です。そのとき僕は1つ役もいただいていたのですが、アンサンブル10枠を僕と加賀谷真聡くんの二人で大まかに分担して、5枠ずつスウィングを務めました。
スウィングの僕らはひたすらみんなの稽古を見て、メモをして、別部屋に残って実際に動いてみる、というやり方で稽古をしていたんです。本当に加賀谷くんくらいちゃんとしたスキルがないと成り立たない仕事だと感じました。当時の日本のミュージカル界にはスウィングがあまり浸透しておらず、「お勉強でしょ?」みたいな空気がどこかに存在していて……。コロナ禍になってスウィングの重要性が露骨になってきたと思うので、その重要性と大変さがもっと浸透していったらいいなと思います。
――スウィングの仕事の大変さはどんなところに感じましたか?
スウィングとして舞台に出演するかどうかというのは、事前にわかることではないんです。一度も出演しないことだってあり得ます。それでも当日何かあったときのためにいつでも舞台に立てるよう、準備しておく必要があります。カンパニーによって体制は違うかもしれませんが、当時は出演の有無に関わらず毎日劇場にいました。技術のみならず、精神力を必要とする仕事ですね。決して簡単にできることではないと思います。
最近、ブロードウェイで上演中のミュージカル『ザ・ミュージックマン』でスウィングの方が急遽ヒロインを演じることになり、主演のヒュー・ジャックマンさんが称賛していました。スウィングが公のものとして広まっていて僕も嬉しかったですし、日本でもいずれそうなっていったらいいなと思います。縁の下の力持ちって、すごく熱くて素敵な仕事ですよね。
――ところで丸山さんのオフィシャルサイトを拝見して気になっていたのですが、“おにぎりくん”って何ですか?
僕の相棒です(笑)。小学生の頃に姉と二人で4コマ漫画を描くのがブームになったことがあったのですが、僕はどうしても上手く人を描けなかったんです。そんなとき「おにぎりなら描けるかもしれない」と思って、おにぎりくんというキャラクターを生み出しました(笑)。その後、俳優になってから恥ずかしながらサインをさせていただく機会がありまして、サインと一緒におにぎりくんを描き始めたんです。最初はみんなに不思議がられましたが、ファンの方が愛してくださって、今ではグッズやLINEスタンプになっています。
――ちなみに、おにぎりくんの中には何が入っているのでしょうか?
いろんな方に聞かれるんですけど、答えないようにしています(笑)。人それぞれのおにぎりくんがあるということで……こんな回答で大丈夫でしょうか?(笑)
――はい! ありがとうございます(笑)。ところでこの連載では注目の役者さんを紹介していただいています。丸山さんの注目の方は?
ぶーちゃんこと、高木裕和くん。2021年にスウィングを4つも務めていて、「スウィングの話を聞くならこの人でしょ!」という方です。『王様と私』、『ラ・カージュ・オ・フォール』などいろんな作品で共演していて、背格好もちょっと自分と似ているところがあります。この人の悪口は聞いたことがないというくらい、本当にみんなに愛されていて、彼自身が愛の人です。以前、振付の仕事でどうしても一人じゃ難しい状況に陥ったとき、真っ先に声をかけてサポートしていただいたこともあります。そんな熱い友人です。
――最後に、今どんな気持ちでお仕事に向き合っていらっしゃるのか、そしてこれからに向けての想いを聞かせてください。
今はとにかく『ラ・カージュ・オ・フォール』で演じるメルセデスという役にどうやったら説得力が生まれるか、というところにアプローチしています。メルセデスは市村(正親)さん演じるゲイクラブのスター・ザザの二番手という役どころ。この作品を、役を、お客様にどうやって届けようかということだけを毎日考えています。
これからの目標としては、「この人が出ていると安心するよね」という俳優になりたいです。僕の憧れている俳優さんたちが、そういう存在の方が多いんですよね。たくさんの役と出会い、学んで、吸収してということを繰り返し、いつかいろんな人にそう思ってもらえる俳優になれたらいいなと思います。
取材・文=松村 蘭(らんねえ)
丸山泰右プロフィール
公演情報
会場:日生劇場
ジョルジュ 鹿賀丈史
ザザことアルバン 市村正親
アンヌ 小南満佑子
ハンナ 真島茂樹
ジャクリーヌ 香寿たつき
エドワール・ダンドン 今井清隆
マリー・ダンドン 森 公美子
翻訳:丹野郁弓/訳詞:岩谷時子、滝弘太郎、青井陽治/演出:山田和也/オリジナル振付:スコット・サーモン
公演情報
脚本:リチャード・モリス ディック・スキャンラン
新音楽:ジニーン・テソーリ 新歌詞:ディック・スキャンラン
原作/ユニバーサル・ピクチャーズ同名映画脚本:リチャード・モリス
演出/翻訳:小林 香
出演:朝夏まなと 中河内雅貴 実咲凜音 廣瀬友祐 保坂知寿 一路真輝 ほか
2022年9月7日(水)~9月26日(月)シアタークリエ
一般発売:2022年6月25日(土)
料金(全席指定・税込):11,500円
2022年10月1日(土) ~10月2日(日) 新歌舞伎座
公式サイト:https://www.tohostage.com/modern_millie/