新国立劇場バレエ団の木下嘉人&木村優里が語る「吉田都セレクション」~自身の振付作品がファン投票で選ばれて再演

2022.2.7
インタビュー
舞台

新国立劇場バレエ団 木下嘉人、木村優里

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英国で長年プリンシパル・ダンサーとして活躍した吉田都が芸術監督に就任し、2シーズン目を迎えた新国立劇場バレエ団が今年2月、その名も「吉田都セレクション」を開催する。上演されるのは、人気演目『アラジン』『こうもり』からの抜粋と、昨年11月のダンス公演「DANCE to the Future: 2021 Selection」で発表されたダンサー振付作より、バレエ団として初の試みとなるファン投票で選ばれた3作品。『人形姫』『Passacaglia』を振付けた木下嘉人と、『Coppélia Spiritoso』を振付けた木村優里に、選ばれた実感や創作過程を聞いた。

『アラジン』 (撮影:鹿摩隆司)

『こうもり』 (撮影:鹿摩隆司)


 

■「何を伝えたいかより、何を感じていただけるか」(木下嘉人)

――木下さん。まずは、ご自身の振付作がファンの皆さんに選ばれたと知った時の率直な思いをお聞かせください。

木下 「嬉しい」のひとことに尽きます。選ばれたらいいなあと思ってはいましたが、2作も選ばれたと聞いた時は鳥肌が立ちましたね。投票期間中からドキドキして、「今どうなっていますか?」と聞きに行ったりしていたんですよ(笑)。選んでいただいたことも、自分のやりたいことができたと感じた作品をまた上演する機会をいただけたことも、本当に嬉しいです。

――「やりたいことができた」とのことですが、2作品の着想はどこから?

木下 僕はいつも、「いつかこの曲に振付けたい」と思う曲に出会ったら、頭のなかに残すようにしています。今回使った音楽はどちらもその一つで、『人魚姫』に関しては、バレエ団から創作にあたって出された「物語」というテーマに基づいて選びました。海外ドラマ『ロスト』のエンディング曲なのですが、無人島を舞台にしたドラマのイメージと、夢のなかにいるような曲のイメージが重なった時、人魚姫の物語が浮かんできました。もう一作については、自由に好きなものを作って良いとのことだったので、それならハインリヒ・ビーバーさんの曲だなと。以前から、この曲に振付けるなら絶対に2カップルか3カップルだと思っていたので、2カップルの『Passacaglia』を作らせていただきました。

『人魚姫』 (撮影:瀬戸秀美)

――まずは音楽ありき、なのですね。

木下 今の段階ではそうですね。そして曲を聴いていると、この曲想にはこのダンサーがマッチする、というイメージがパッと湧いてくる。たとえば『Passacaglia』なら、最初に小野絢子さんが歩いてきて、そこに福岡雄大さんが加わったらそれだけでもう絵になるな、という感じです。とはいえもちろん、ダンサーが実際に動くことで、振付の意味が何倍にも膨れ上がるような感覚があるので、助けられている部分はかなり大きいです。

――そもそも、振付することに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。経験を重ねてきた今、感じる楽しさや難しさとあわせてお聞かせください。

木下 僕は16歳から海外に留学していて、ウクライナやドイツのカンパニーで踊っていました。ドイツでは芸術監督が振付したコンテンポラリー作品を踊る機会が多く、「コンテって自由で楽しいな」と思うようになって。そんな時に、向こうでもダンサーがダンサーに振付ける企画があり、試行錯誤しながら作ってみたらすごく楽しかったことが始まりです。自分のイメージをダンサーと共有することは、経験を重ねてもやっぱり難しい。でもそのなかで様々な発見があり、出来上がった時には大きな喜びもあるので、やはり好きなんだと思います。

『Passacaglia』 (撮影:瀬戸秀美)

――コンテンポラリー作品には、取っつきにくいという印象をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。そういう方に、木下さんから魅力を伝えるとしたら?

木下 難しいですね! 本当に自由度の高いジャンルなので、ひとくちにコンテと言っても色々な作品がありますし、観方が決まっているわけでもありません。『人魚姫』では物語性を重視しているので、普段クラシックバレエに親しんでらっしゃる方にもご覧いただきやすいとは思います。僕にとっては、「自分が何を伝えたいか」より、「お客様がどう感じるか」のほうが大きいんです。だから僕としては、とにかく観ていただいて、それぞれ皆様が思うようにご自由に作品を感じていただきたいと思っています。

――最後に改めて、楽しみにしてらっしゃるファンの方にメッセージをお願いします。

木下 まずは、僕の作品に投票してくださって本当にありがとうございました。11月は中劇場での公演でしたが、今回はより大きなオペラパレスが会場ということで、今は振りを大きく見せたり、ライトの加減を変えたりといった調整をしているところ。よりブラッシュアップした作品をお届けできるよう頑張りますので、ぜひオペラパレスに足をお運びください。

木下嘉人


 

■「振付って、こんなに大変なんだ!と思いました」(木村優里)

――木村さん。ご自身の振付作がファンの皆さんに選ばれたと知った時の率直な思いをお聞かせください。

木村 あの…本当にびっくりしました(笑)。選んでいただいたことがまず信じられなかったですし、初めて振付した作品をまさかもう一度上演できるとも思っていなかったので、とにかく驚きが一番大きくて。投票してくださった皆さんに、感謝の気持ちでいっぱいです。

――『Coppélia Spiritoso』は、どのように着想された作品なのでしょうか。

木村 コッペリアはバレエの『コッペリア』に出てくるお人形で、スピリトーゾは「精神を込めて」とか「元気よく」を意味する音楽用語。バレエの『コッペリア』に出てくるお人形が持っている本が気になっていて、その本を軸に、魂を吹き込まれた奇妙で可愛らしいお人形の物語を作ってみようと思いました。人生という限られた時間のなかで、役目を持って命を与えられているとしたら、愛してくれる誰かのためにあなたは何をしますか?というのがこの作品のテーマ。“時間”と“命”を表現するために、砂時計というアイテムを入れています。

『Coppélia Spiritoso』 (撮影:瀬戸秀美)

――木村さんご自身と木村優子さん、女性二人のデュエットにした理由は?

木村 キュートでシュールな世界観をどうしても出したくて、一人でやるよりどなたかと一緒にと思った時、優子ちゃんがぴったりだと思ってお願いしました。優子ちゃんには何ともいえない天真な可愛い雰囲気があって、何をしていてもどこか面白い(笑)。一緒にリハーサルをするうちに、こんな動きもしてほしいという“妄想”がどんどん膨らんでいきました。優子ちゃんとは、名前が似ているだけじゃなく年齢も血液型も出身地も一緒で、他にも色々、ちょっと恐ろしくなるほど共通点があるんです(笑)。そんな感じの仲なので、今回も楽しくリハーサルできそうです。

――ちなみに、今回初めて振付に挑戦されたきっかけというのは。

木村 研修所時代からずっと、ダンサーの方が振付された作品を観ながら、すごいな、自分には到底できないなと思っていました。挑戦させていただいたのは、おととしのコンポジション・プロジェクトという企画で遠藤康行さんご指導のもと、ダンサー同士がアイディアを出し合いながらワークショップを重ねて行き、作品を創作するという機会があり、せっかくだから最初の一歩を踏み出してみようという思いが湧いたからです。普段は踊るだけの私たちですが、舞台作りにはたくさんの方が関わっていて、皆さんの熱意とプロとしてのお仕事があって初めて成り立つのだと体感できて、大変でしたが本当に勉強になりました。

『Coppélia Spiritoso』 (撮影:瀬戸秀美)

――では、今後も続けていきたいと…?

木村 うーん、それはまだ分からない、というのが正直なところです。誰も観たことがないものを自分の頭のなかで起こすってこんなに難しいんだ!って、本当にただただ圧倒される毎日だったので…。音楽や照明がほんのちょっと変わるだけで、お客様の受ける印象が大きく違ってしまうから、毎日が細かくて綿密な作業の連続。家に帰ってもずーっと作品のことばかり考えて、眠れないことも多かったので、生半可な気持ちで「またやりたい」とは言えないですね。でもその大変さが気にならないくらいの情熱が湧いてきたら、また挑戦させていただくこともあるのかなと思います。

――その日を心待ちにしています! そして木村さんは今回、『こうもり』にも主演されますね。

木村 はい、「グラン・カフェ」というシーンの抜粋でベラ役を踊らせていただきます。コンテンポラリーと『こうもり』では重心が違うので、両方の作品を一日で踊る日には、うまく身体を持っていけるか今から心配です。両方のリハーサルを毎日して、慣れていくしかないと思っています。今は『こうもり』のリハーサルが始まったところなのですが、憧れの湯川麻美子さんにご指導いただいています。研修所時代に拝見した湯川さんのベラ役、大好きで今でもものすごく印象に残っているので、素晴らしいお手本が間近で観られることが本当に幸せで、今はそれを一生懸命吸収しているところ。『Coppélia Spiritoso』も『こうもり』もお客様に楽しんでいただけるよう、精一杯頑張ります。

木村優里

取材・文=町田麻子

公演情報

新国立劇場バレエ団「吉田都セレクション」
新国立劇場バレエ団 Choreographic Group作品より『Coppélia Spiritoso』『人魚姫』『Passacaglia』/『アラジン』より 「序曲」「砂漠への旅」 「財宝の洞窟」/『こうもり』より 「グラン・カフェ」
 
■会場:新国立劇場 オペラパレス
■公演期間:2022年2月19日(土)~2月23日(水・祝)
2022年2月19日(土)14:00
2022年2月20日(日)14:00
2022年2月23日(水・祝)14:00
■予定上演時間:約2時間(休憩含む)

 
<プログラム>

新国立劇場バレエ団Choreographic Group作品より

『Coppélia Spiritoso』

■振付:木村優里
■音楽:レオ・ドリーブ 他
■出演:木村優子、木村優里

 
『人魚姫』
■振付:木下嘉人
■音楽:マイケル・ジアッチーノ
■出演:米沢唯、渡邊峻郁

 
『Passacaglia』
■振付:木下嘉人
■音楽:ハインリヒ・ビーバー
■出演:小野絢子、福岡雄大、五月女遥、木下嘉人

 
『アラジン』より「序曲」「砂漠への旅」「財宝の洞窟」
■振付:デヴィッド・ビントレー
■音楽:カール・デイヴィス
■美術:ディック・バード
■衣裳:スー・ブレイン
■照明:マーク・ジョナサン
■出演:
【アラジン】奥村康祐
【ダイヤモンド】米沢唯(19日、23日)、横山柊子(20日)
【サファイア】柴山紗帆
【ルビー】奥田花純、渡邊峻郁

 
『こうもり』より「グラン・カフェ」
■振付:ローラン・プティ
■音楽:ヨハン・シュトラウスⅡ世
■編曲:ダグラス・ガムレイ
■美術:ジャン=ミッシェル・ウィルモット
■衣裳:ルイザ・スピナテッリ
■照明:マリオン・ユーレット、パトリス・ルシュヴァリエ
■出演:
【ベラ】小野絢子(19日、23日)、木村優里(20日)
【ヨハン】福岡雄大(19日、23日)、井澤 駿 (20日)
【ウルリック】福田圭吾

 
■指揮:冨田実里
■管弦楽:東京交響楽団

 
※ロビー開場は開演60分前、客席開場は開演45分前です。開演後のご入場は制限させていただきます。
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、託児サービス、バックステージツアーは当面休止させていただきます。
※新型コロナウイルス感染拡大予防を目的とした混雑緩和のため、分散来場にご協力ください。
お席の階によって、下記時間帯にご来場されることをおすすめいたします。
・2,3,4階のお客様:開演 30分前まで
・1階のお客様:開演30分前~ 開演15分前 まで

 
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