今からでも聴いてもらいたい「楽曲とコンテンツの相互作用」 2021年キャラクターコンテンツ楽曲5選
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00年代から2020年代へとまたがっていった10年とすこしの間で、アニメ作品ならびにアニメソングは日本のユース世代から20歳代を基盤としつつ、幼い頃からアニメに慣れ親しんできた大人たちを中心に新たに大きな評価を得てきた。
アニメ・マンガ・ライトノベル・ゲームはそれぞれに人気作品を定期的に生み出し、2010年代の前半には水樹奈々が、後半にはLiSAが、それぞれに強い支持をうけて大ブレイクし、彼女たちの一挙手一投足にいわゆる一般の人からの注目が集まるレベルにまでに至った。
それに伴い、声優や歌手らの活動領域は自然と広がっていき、もはやアニメ・ゲーム・マンガといったメディアという区分けや出自を通り越し、「アニメルックなキャラクターコンテンツ領域」という巨視的な捉え方が、現在ではファンの無意識のなかに認識されているようである。
2010年代後半からVTuberが大きな人気を得始めたことや、ボーカロイド音楽やそこにルーツをもったアーティストが大きな飛躍を遂げたことも踏まえれば、「アニメルックなキャラクターコンテンツ領域での音楽」という、とてつもなく広大なキャラクターコンテンツソングのシーンが見えてくるだろう。
さてそういった巨大なフィールドにあって、ストーリーラインやキャラクター性などをうまく吸収して表現したり、音楽的アイディアとインパクトを活かすなどして、より多くのリスナーにも刺さるような楽曲はあるだろうか。
「作品の世界観を補強・拡張する」というアニメソング本来の役割を担いながら、作品のファンのみならず、作品を一切知らないようなかたがたにも深く印象付けられるであろう楽曲を選んだ。
中庸なポップスでは聴くことのないようなド派手なサウンド、一聴してなにをしているのか分からないほどの複雑さ、様々なサウンドとテクスチャーを併せ持ったがゆえのアクロバティックな曲進行を持った楽曲もあれば、声と音が重なり合ってもなお失わない透明感を持った楽曲、作品のメッセージを受け取った歌詞とその意味で訴えてくる曲もある。
その結果、作品や参加アーティストの有名・無名には関わらず、チョイスさせてもらった楽曲には、いまの日本で知らぬ者はいないだろう大ヒット曲もあれば、作品やアーティストのファンのみが知る曲も並んだ。ぜひ楽しんでもらいたい。
DIALOGUE+ 「人生イージー?」
テレビアニメ『弱キャラ友崎くん』OPテーマ
「アニメソング」が愛される理由とは何だろう? と考えたとき、いま生きている世界から別世界にぶっ飛んでしまえるような、ふとした時に思う願望をかなえてくれる音楽として受け取られているのではないかと思う。
別の世界というのが、アニメの世界であり、ゲームの世界であり、創作世界のキャラクターらが生きる世界やムードを味わえるような、とにかく「いま自分が住まう世界」とは別世界に一気に引き込んでくれる音楽。
時に音楽は現実社会と同じようなシリアスなテーマをリスナーに提示したり、荒んだ心を落ち着かせ、癒してくれるものもあるが、聴いた瞬間に思わず笑って楽しませてくれるような音楽だってある。そんな現実とは違う領域から気持ちを変化させてくれる役割をアニメソングやゲームソングが担っているとおもう。
「そりゃないだろ?」という埒外かつしたたかな想像力で生み出されるいくつものアニメ・漫画・ゲームといった作品群。そこに端を発した音楽は、いまや日本のポップミュージック史でいえば、昭和であればザ・ドリフターズや植木等、平成であればとんねるず・ダウンタウン・ウッチャンナンチャンらが折をみて活動してきた「コミックソング」のような役割に近しい。
声優育成ゲーム「CUE!」に参加していた女性声優8人によって結成されたDIALOGUE+は、UNISON SQUARE GARDENのベーシストであり、アニソン作曲家としてもシーンに影響力をもつ田淵智也のプロデュースによるグループだ。
彼女らが唄う楽曲は、どこか埒外な想像力でポップソングの「フツウ」を壊しつつ、絶妙なバランスのなかでこそ輝く楽曲が多い。
フツウじゃ構築しえないサウンド、フツウじゃ歌わないメロディ、フツウじゃ書かない歌詞をスっと入れ込むことで醸し出されるのは、シリアスなムードとは無縁のアッパーで快活なムード。DIALOGUE+の女性8人が生み出すキラっとしたイメージは、時にきらびやかで、時にバカらしくもある。
テレビアニメ『弱キャラ友崎くん』OPテーマに起用された「人生イージー?」は、まさにそんな狙いをバッチリと表現した会心の1曲だろう。せわしなくビルドアップしていく鍵盤楽器・ドラム・ベース・シンセサイザーによるイントロから、快感と不快感のギリギリを攻めるかのようなハーモニーとメロディがある。
リズムパターンが変わったり転調するタイミングでギターやドラムスがオブリガード(オカズ)のフレーズを入れることで、ポップスとしておかしく聴こえないようなバランスを保っている。
「人生を生きる」というテーマにした歌詞は、どこか普段の生活の中で負けそうになる人に向けた応援ソングとなり、8人によるボーカルリレーでエネルギッシュに響く。ロールプレイングゲームを模した歌詞を、演技っぽいボーカルやゲーム音で盛り上げ、どこか自分をメタ的にみた視点をユニークに意識させてくれる。
音色のチョイス・メロディやフレージング・歌詞の言葉遣い、どれかが間違えてしまったり行き過ぎた表現をしてしまえば「おかしくないか?この部分」とリスナーに思われてしまう、人の快/不快のスイッチはかなりシビアだ。フツーのポップソングならそんなチャレンジをする必要がない、もっと穏当でいいし、もっと聴きやすくしてもいいはず。だがこの曲はあえて「バランスを崩す」ように、エッジかつラディカルな作曲と表現を試みた。
まるで「人生」という自身の予想通りにいかない事象そのものを表現するかのように、まるで「アニメソング」という埒外な想像力を許してもらえるからこそ狙える快感・役割を全うするように、なによりDIALOGUE+の女性8人が生み出すパっと花開くようなブライトな表情を届けるために。
作詞・作曲は田淵智也、編曲は田中秀和。ブッ飛んだアイディアを詰め込んだミュージックでおもわず笑ってしまうインパクトは、「アニメソング」は「コミックソング」になりえることを示す素晴らしき解答例だろう。
JYOCHO 「みんなおなじ」
テレビアニメ『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』』EDテーマ
「JYOCHOがアニメソングを書き下ろして制作する」筆者はまずその言葉をみて、すこしひっくり返りそうになってしまったのを覚えている。
京都を拠点に活動し、卓越した技巧と楽曲構築力で一気に注目を集めていたマスロックバンドだった宇宙コンビニ。彼らが2015年に解散したのち、ギタリストのだいじろーがソロプロジェクトとしてスタートしたのがJYOCHO(読み:じょうちょ)だった。
当初は流動的なメンバーも作品やライブを経るごとに固定化し、複雑なフレージングでリードするだいじろーのギターとsindeeのボトムを支えるベースサウンド、はやしゆうきのフルートの流麗な音色、猫田ねたこのクリーンな歌声とが共鳴し合い、複雑変化していく拍子やアンサンブルにポップかつ心地よさが共存したバンドアンサンブルを構築した。
その無二の世界観は日本よりも海外でのファンを増やすことになり、日本国内のライブだけではなく、2017年にはカナダでのツアーを敢行し、その後にはフィリピン・シンガポール・台湾などのアジア圏を中心にしてライブツアーも経験し、その影響力の強さを感じさせてくれる。
2018年にテレビアニメ「伊藤潤二『コレクション』」エンディングテーマに「互いの宇宙」を制作し、今回が2度目のアニメタイアップ。「真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」は投稿サイト「小説家になろう」から大きく支持を伸ばしていったライトノベル作品であり、そのタイトルのように物語の大筋は「ゆったりとした生活を送る」ことにある。現在でも本家サイトで連載が続いている小説なので、続きが気になるところだ。
時間にも追われず、ストレスレスに生活しようとするスローライフという生き方は、アニメ作品のフィクションとしてではなく、現実に生きる僕らにとってのある意味憧れであり、リアルな生活様式の一つなのはご存知の通り。とはいえそんな悠々自適な生き方ができないがゆえに、こうしてフィクションのなかで表現されているわけだが、音楽シーンを覗いてみれば「スローライフ」を感じさせてくれたり、表現してくれる音楽はたしかにある。
ふだんはエレキを持つだいじろーは、今作では全編でアコースティックギターを奏で続ける。持ち前のテクニカルなフレージングは変わらず、アコギの温かみある音色を活かすように、バンドアンサンブルはゆったりと柔らかい質感で広がっていく。
「初めてお話をいただいた時に、 "あたたかい みんなの曲にしたい" と直感しました。」というだいじろーの言葉通りに放出されたJYOCHOの音楽は、どこか明るく、陽気なムードにも聴こえてくるし、同アニメ作品の世界観を広げてくれる楽曲なのは間違いないだろう。
ポストロックやマスロックが聴くものの心に鮮烈な激しさや影を落とすような憂いをもたらす音楽として、もしくは聞き手やリスナーをどうしても選んでしまう音楽として愛されていたなかで、彼らのその手つきは前述した、ポストロックやマスロックというジャンルを飛び越えるクリエイティビティを持った音楽として自立しているといえよう。
YOASOBI 「怪物」
テレビアニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマ
2021年1月6日に音楽配信サービスにて、2021年3月24日にはシングル「怪物/優しい彗星」といてリリースされ、テレビアニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマに起用された「怪物」。
マンガ/アニメ作品としてヒットした『BEASTARS』は、オオカミ・ライオン・ウサギ・シカ・トラ・ゾウといった肉食獣/草食獣を人間として描き、主人公レゴシを含めた登場人物らが全寮制学校でさまざまな問題や出会いをとおし、変化していく群像劇となっている。
この曲は、YOASOBIによる書き下ろし楽曲となっており、『BEASTARS』のストーリーをかなり咀嚼したうえで歌詞を書いたことを、コンポーザーを務めるAyaseは答えている。
Ayase「今回に関しては、お話をいただいた段階で原作は全部読んでいて、アニメの第1期も拝見して自分の中でいろいろイメージを固めていく中で、板垣先生から2篇の書き下ろし小説(『自分の胸に自分の耳を押し当てて』/『獅子座流星群のままに』)をいただきました。それを何度も何度も読み返して作っていきましたね。」
(2021年2月17日 livedoor news創作に共通するのは「楽しむ」と「根性」。板垣巴留×YOASOBI、若きクリエイター対談 インタビューより抜粋)
肉食/草食、雄/雌、善/悪、加害者/被害者、そのほか偏見や差別意識がいわゆる弱肉強食という自然界の掟ではなく、人間世界の軋轢としてところどころに顔を覗かせてくる本作品は、不均衡で不平等な生物界のバランスを人間社会へとスケールチェンジして描いている。
レゴシはこの第2期アニメのなかで、それまでの自分から変化しようと争い、血を流すことを厭わない。本能的で動物的な衝動に駆られる肉食獣としての自分を「変える」という、生物学的には不可能じゃないか?と思えるようなトライを試みようとする。
問題はあくまで自分自身のなかにあり、その解決には内なる自分との対話しかないとも暗に示している本作、己との対話ができなくなった者がどうなってしまうのか、それについてもこの作品の物語は教えてくれる。
さて、そんな本作を咀嚼して制作された楽曲は、それまでのYOASOBIでは作りえなかった楽曲となって届けられた。
歪んだシンセベースサウンド、圧の強いキックサウンドにハンドクラップ、そこに鍵盤のクリーンな音色がハーモニーを奏で、サビの終わりには打って変わって今度はシンセサイザーの濁った音が入り込む。
BPMも彼らの楽曲のなかでも速めということもあり、各楽器がなぞるフレーズやメロディラインの上下ともかなりせわしない。シンセサイザーの複数の音色がさまざまに絡みあい、EDM〜エレクトロなトラックにも連なる音の抜き差しやリズムパターンも、歌詞が表現するメッセージ性に呼応するかのようにドンドンと変化していく。
ikuraのボーカルを3トラックに分け、Aメロ―Bメロ―サビと流れていくなかでボーカルのトラック数やボーカルエフェクトなどで変化をつけられ、重厚なサウンドのなかでももっとも映えて聴こえる。
主人公のレゴシ視点で描かれた「怪物」の歌詞は、怒りと諦めが波打つように押し寄せ、鬱屈とした心境をビビッドに捉える。自分の心の闇のなかへと突き進み、「正しさとは?間違いとは?」と自問自答を繰り返し、さまよい、決意する。この歌詞の流れにボーカルプロダクションが呼応しているのも注目すべきだろう。
理路整然とどこかシステマティックに進行していく曲展開、だが音と言葉は「心の歪み」を捉えている。この対照的な表現は、まさに『BEASTARS』という作品性やメッセージを具現化したかのよう。この曲はさまざまな不安を解きつつ、さまざまな不均衡や不平等といった壁や谷を超え、断絶したものとの距離を埋めようとする姿として表現された。その鮮やかな手腕によって、この曲は『BEASTARS』という作品を知らぬ人々の心をも捉えてみせた。
その結果、2021年11月には2021年リリース楽曲で初の3億回突破を記録し、同曲が収録された『THE BOOK 2』も前作『THE BOOK』にも負けないチャートアクションを示した。アメリカのTIME誌の特集『The 10 Best Songs of 2021』ではFarruko、Taylor Swift、Doja Cat、Olivia Rodrigoらとともに5位にランクインした。
fhána 「愛のシュプリーム!」
TVアニメ『小林さんちのメイドラゴンS』OPテーマ曲
動物やファンタジーの中に出てくる架空の生物を擬人化して描き、彼らの対立と融和をメッセージにしたマンガ・アニメ作品は確かに多い。2021年では『BEASTARS』第2期シリーズとともに、『小林さんちのメイドラゴンS』も印象的な一作として数えても良いだろう。
とある街で暮らすOLの小林さんは、酔った勢いで異世界のドラゴン・トールを救ってしまい、彼女と共に生活していくようになる。人間界のルール、異世界のルールをお互いに理解し合いつつ、おなじく異世界からさまざまなドラゴンがやってきて、別々の理由から居を構えて生活していく。
人間とドラゴンとの間、ドラゴン同士、そして人間同士のなかでも、それぞれが別々の見解や常識を持っていることが描かれる。本作は『BEASTARS』ほどのストレスフルな状況とはほど遠く、バラエティある色合いと柔らかなキャラクターデザイン、どの場面を切っても笑顔が絶えることないコメディタッチな作品だ。
「トールは小林さんを愛している」という直球な(いわゆるジェンダーレスな)愛情表現をひとつとっても、数秒のうちにギャグとして描くこともあれば、1話まるっと使ってドラマティックに描くこともある。この2期をとおして小林さんやトールを含めた登場人物らは、種族を超え、住む街や国を超えて、キミとボクは別々の存在であり、立場や考えを認め合うことを学ぶ。
さまざまな不均衡や不平等といった壁や谷を認め、彼らはムリに距離を詰めることも、ムリに変わろうとすることもなく、ゆるやかに社会の中で繋がり合う。その姿はどこか古き良きコミュニティのようであり、自分の仲間として受け入れる物語として受け取ることができよう。
だからこそfhanaが生み出した「愛のシュプリーム!」は、暗さや後ろめたさといった影はできるだけ省かれ、底抜けな明るさだけが残ったのだるようになったのだ、そんな断言をしたくなる。
「Sing Along、Swing Along」と唄うイントロのコーラスワークに始まり、Kevinとtowanaによるラップから始まるこの曲。マイナーコードとメジャーコードの行き来で特徴的なメロディでフロウしていくAメロBメロを抜ければ、「メイドラゴン」×fhanaでうみだした大ヒット曲「青空のラプソディ」にも負けないくらいのフックのあるサビへと突入していく。
ハンドクラップとコーラスワーク、2人のラップリレー、タイトなバンドアンサンブルに乗っかっていくストリングス&ブラス隊、フックとなる部分や楽器の多さ。ゴチャつきそうなところでも、非常に軽快でリズミカルなグルーヴと、アニソンDNAを色濃く感じさせる展開がスピーディーに繰り広げられ、何度聴いてもスリリングな感触を心に残してくれる。
音楽ファンの方にとって「シュプリーム(Supreme)」という単語は、モータウンを代表する伝説的な女性ボーカルグループであるThe Supremesを思わせるし、歌詞中には「至上の愛」という言葉が出てきてジョン・コルトレーンの傑作『至上の愛』(邦訳:A Love Supreme)との繋がりを頭をよぎるであろう。
もう一度書かせていただくが、本作品は何気ない日常生活のなかで緩やかにドラゴンと人間の間にある壁と理解を描いたにまつわる物語だ。そんな作品のために、ソウル、ディスコ、ファンク、ゴスペルにヒップホップといったアフリカン・アメリカンが60年以上にも及ぶポップ・ミュージック史で生み出してきた様々な音楽とスピリットを持ち寄って、大らかかつ高らかに「愛」を唄うのは的外れではないだろう。
その重みと軽快さは、アニメーション作品がもつシリアスさとコミカルさへと通じていく。紛れもない名曲だ。
Giga、鳳凰火凛 (CV: 健屋花那) 「CHAMPION GIRL」
電音部
最後はアニメタイアップではない、ちょっと番外編的な一曲を。
原案・原作をバンダイナムコエンターテインメントがつとめ、キャラクターデザインはMika Pikazo、音楽を原作としたキャラクタープロジェクトとして進行する電音部。2021年6月30日には『電音部 ベストアルバム -シーズン.0-』をリリースし、現在ではオンラインを中心にしてライブイベントを実施している。
意外に思われるだろうが、電音部はいまのところ音楽作品・グッズ・ライブ興行での展開のみになっており、ゲーム作品やアニメ作品などへの展開はしていない。
ライブイベントや音楽リリースのみで得られる知名度はさすがに限りがあるのは自明。だが、「イベントや現場から生まれている」「音楽原作」というフィロソフィーやフィーリングを大切にしているのが伝わってくる。そのフィロソフィーを分かりやすく伝えてくれるのは、2021年5月29日より40週連続デジタルリリースを開始していることだろう。
2010年代の日本におけるネットシーン、特に音楽においては、マルチネレコードのブレイクを端を発し、soundcloud、bandcamp、またはmediafireを中心にしたオンラインストレージサービスを介して、クラブミュージックに大きくリファレンスされた楽曲たちが多数リリースされ、それが受け入れられていき、一つのシーンが作られた側面があると思える。
ここにニコニコ動画の初音ミク〜ボーカロイド音楽でブレイクしていったトラックメイカーらも合流したことで、様々な出自、音楽的なバックボーンを持ったこれまでに多くのトラックメイカーが本作の音楽を彩ってきた
kz、tofubeats、TAKU INOUE、ケンモチヒデフミ、banvox、パソコン音楽クラブ、KOTONOHOUSE、TEMPLIME、Masayoshi Iimori、Tomggg、YUC'e、Aiobahn、PSYQUI、Moe Shop、Nor……国内外、年齢・性別不問、得意とするサウンドもバラバラ。だが「2010年代のジャパニーズ・インターネット・ダンスミュージック」にさまざま共鳴したトラックメイカーが揃った。
そのなかから、ここではトラックメイカーGigaと鳳凰火凛 (CV: 健屋花那)による「CHAMPION GIRL」を選ばせてもらおうと思う。ここまで紹介した4曲とこの曲は、実は出自が違うのはお分かりだろうか。アニソンやゲーソンというと、「バックグラウンドに何かしらの物語・文脈が強く息づいている」ということが重要だと思われるだろう。だがこの曲、むしろ「電音部」には現状そういった要素は希薄だ。
むしろここにあるのは、トラックメイカーとボーカルとがいかに手に取り、「鳳凰火凛」という存在を音楽でどのように形作っていくのか? という部分になる。文脈を受け継いで音楽をクリエイトするのではなく、音楽の力でキャラクターを象っていく、そのような手つきになっている。
作中で最強の存在として描かれる帝音国際学院電音部の中心人物、ステージ上での完璧な美しさと強気な女性像でカリスマ的な人気を誇るのが「鳳凰火凛」だ。
そんな彼女のキャラクター像を音楽でどのように描くのか。2020年に発表された「Shining Lights (feat. PSYQUI)」は、ハードかつ硬質なキックサウンドとベースサウンドにトランシーなシンセサイザーが加わったハッピーハードコアやレイブにも近しいほどの高圧なトラックを発表。電音部ファンはおろか、同作品に出演するトラックメイカーやそのファン、界隈のDJシーンにも称賛の声が相次ぎヒットした。
先に述べた『電音部 ベストアルバム -シーズン.0-』ではCD版・配信版でもともに彼女がカバーを務めるなど、キャラクター性とも相まって注目を集めていた彼女の音楽。10月28日にリリースされた彼女にとって2曲目のソロ楽曲が「CHAMPION GIRL」だ。
Reolとの共同制作に始まり、今を時めくAdoの「踊」をTeddyloidととも作曲・編曲を担当し、「うっせぇわ」のRemix曲を制作と、いまこの日本でもっとも野蛮なポップスを作れるコンポーザーの1人だといえよう。
ベースミュージックやEDMにヒントを得たK-POPを遠景にしたトラックメイクは、サブベースがグワンと歪みつづけ、代わりにベース・キック・ボーカル以外の音を強調することなく、健屋花那のボーカルにスポットをあてた。
スポットのあたった彼女の歌声には巧みなエフェクト&エディットを施し、トゲついた声色をさらにガリガリにザラかせ、鳳凰火凛が持ち合わせているであろう攻撃的かつ荒々しさを表現。そのうえで「さぁ湧きな Jumpin’Up!」「アタシがCHAMPION GIRL!」と韻を踏みながらリスナーを強烈にアジテートする。
「アタシが最強であり、ナンバーワンである」という鮮烈なセルフ・ボースティングを詰め込んだこの曲は、不良・ヤンキー・格闘技漫画を読んだあとの「カッコよくて強くなれた」かのようなマジックをも不思議と引き起こしそうだ。
今回アニメを中心としたコンテンツソングという括りだからこそ発揮できる「表現性」「インパクト」「可能性」のような部分にも文章の中で触れさせて頂いた。
今日紹介した楽曲たちは「作品の世界観を補強・拡張する」というアニメソング本来の役割に留まらず、「他のカルチャーからの影響」「音楽的なインパクト・面白さ」「作品が放つメッセージ性をより強く押し出す」といった音・言葉・作品のメッセージ・過去の文脈など、あらゆる意味合いやクリエイターの狙いが噛み合った楽曲をチョイスしている。
それは「タイアップソング」という80年代末~90年代から続くJ-POPの習わしを踏みながらも、単なる楽曲提供には収まらないクリエイティビティを発揮し、ショックを与えてくえるような音楽かもしれない。
だからこそ、「アニメソング」はいま多くの人々から支持を得られるのではないだろうか。
文=草野虹