「ヒトハダ」旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』 鄭義信(脚本・演出)&大鶴佐助(座長)に聞く ~それぞれ違う5人が奏でるハーモニー

2022.4.16
インタビュー
舞台

(左から)鄭義信、大鶴佐助

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『焼肉ドラゴン』等、数々の傑作で知られる、劇作家・演出家の鄭義信(チョン・ウィシン)が、仲間たちと新たに劇団を立ち上げる。名は「ヒトハダ」。俳優の大鶴佐助が座長を務める。

その旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』が、2022年4月21日(木)~5月1日(日)、浅草九劇で上演される。朝鮮戦争が勃発した1950年の東京郊外のキャバレーを舞台に、異なる出自やそれぞれの事情を抱える5人が歌でつながり、共に在る姿を描いた作品だ。当初2021年3月に上演予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため1年延期されていた。待望の舞台に、1940年代アメリカンポップスに乗せて「人の肌のぬくもりのある芝居を届けたい」と意気込む脚本・演出の鄭と座長の大鶴佐助に思いの丈を聞いた。

劇団ヒトハダ


■飲み屋で盛り上がって劇団結成

--劇団「ヒトハダ」結成のいきさつを教えてください。

鄭 僕が作・演出をした『赤道の下のマクベス』(2018年)で共演していた浅野雅博さんと尾上寛之さんが「ふたりで芝居をしたい」と意気投合。そこへ僕が呼ばれて、相談を受けたのがきっかけですね。

--さらに櫻井章喜さんや梅沢昌代さんが加わり、「若い人も入れよう」と大鶴さんも誘ったんですよね。

鄭 そう。当時はまだ新型コロナウイルスが発生する前だったので、新宿とか、いろんな居酒屋でちょいちょい飲んでいたら、いつの間にか劇団を立ち上げることになっていた(笑)。若い佐助を座長にして。それぞれ劇団や事務所に所属しているけれど、自分たちでやりたいという思いがあったから、やりましょう!やりましょう!という流れになって。

--やりたいこととは何でしょう?

鄭 今、主流のプロデュース公演だと、僕らは呼ばれる側。劇団公演は自分たちが呼ぶ側、つくる側に立って発信していく、というところが一番違います。でも、劇団の方向性はまだ全然決めていません(笑)。この公演が終わったら考えようかと。もうすぐ幕が上がるので、今やることをいかに大切に育てていくか。それが一番重要なことだと思っています。

--「ヒトハダ」という劇団名の意味をお伺いします。

鄭 人の肌の温もりのある芝居を届けたい、そして、一肌脱ぐぞ! という思いがこめられています。

--当初、旗揚げ公演は21年3月に予定されていましたが、コロナ禍のため延期を余儀なくされました。その間、どんな気持ちで過ごしていましたか。

鄭 21年3月の段階では、今やっても、見に来てくださる人も自分たちも心配事を抱えることになる。せっかくの旗揚げ公演なので、今回はスパッと諦めて、次の機会のいい時期にきちんとやろうと、みんなで話し合って決めました。とにかく旗揚げに向けて頑張ろうという感じでしたね。

--生の舞台の意味を問われた時期でもありました。

大鶴 お客さんが入ると、雰囲気が全然違う。お客さんのありがたみを感じました。

鄭 僕も芝居はお客さんと一緒につくっていくものだと再認識しましたね。

(左から)大鶴佐助、鄭義信


 

■劇中歌はヒット曲オンパレード

--1年越しの待望の上演が、『僕は歌う、青空とコーラと君のため』です。

<Story>
戦後間もない東京近郊にある、米軍御用達のキャバレー「エンド・オブ・ザ・ワールド」。
そこを拠点に、いつか日劇アーニーパイルの舞台に立つことを夢に見る、ロッキー(浅野雅博)、ファッティー(櫻井章喜)、ハッピー(大鶴佐助)の 三人組男性コーラスグループ、「スリー・ハーツ」。
ある日、「エンド・オブ・ザ・ワールド」のママ(梅沢昌代)が連れてきた若い男(尾上寛之)が新たに加入して「スリー・ハーツ」から「フォー・ハーツ」として活動を開始する。
順調にグループ活動を続ける中、朝鮮戦争がはじまり、ハワイの日系二世であるハッピーが朝鮮に出兵することになり四人組の絆を大きくゆるがすことになるーー



鄭 それぞれ孤独な5人が相寄って、歌でつながり、それでも別れていくーーそんな物語です。ずっと温めてきたもの。いろいろな要素を詰め込みすぎたかもしれませんが、「ヒトハダ」の5人なら、きっとできると思っています。

--21年版から変えたところはありますか?

鄭 最初はヒップホップ寄りでノリのいいコーラスのスタイル、DOO-WOP(ドゥーワップ)をやろうと思ったけど、みんながよく知っている1940年代アメリカンポップスのヒット曲集にしました。そこが違うかな。ブギウギやジャズのノリのいい曲を選んでいます。旗揚げでもあるので、お客さんたちと一緒に楽しみたいと思って。

鄭義信

--どんな曲が飛び出すのかは、見てのお楽しみにということで、歌あり、踊りあり、笑いあり、涙ありの芝居だそうですね。大鶴さんはてっきり若い甥っ子のゴールド役だと思いましたが、ハッピー役だったのが少し意外でした。ハワイで暮らしていた彼は真珠湾攻撃の後、「敵性外国人」のレッテルを貼られたため、米国に対する忠誠を示すために志願兵に応募した設定です。本名のサチオ(幸雄)の通り、いつもハッピーになろうと思っている人です。

鄭 ハッピーは人間としてひねりがある。佐助は僕の演出に、ビビットに反応してどんどん変えてくるので、柔軟性のある役のハッピーが合っているかなと思ってキャスティングしました。佐助ならではの持ち味、面白さが散りばめられているので、楽しみにしてほしいですね。

--大鶴さんはハッピーをどういう人物だととらえていますか?

大鶴 過去にいろいろなことがあったかもしれないけれど、それはそれとして今を普通に生きている人。無理をしてハッピーに生きようとしてるわけではなく。そういう生き方はすごくリアリティーがある。人間味というか、温度感のある役だと思います。

--稽古場での鄭さんはどんな感じですか?

大鶴 2019年に鄭さんが演出した舞台『エダニク』(作:横山拓也)で初めて会ったときから、すごく愛があって、同じ地平に立って、みんなに寄り添ってくれる人だと感じていました。そして今回ご一緒してみて、より笑いを求める方だなと。

鄭 関西人の悪い血がねえ(笑)。

大鶴 それから、ご自分のことを「アジアで二番目にしつこい演出家」と言われますよね。

鄭 「しつこい」って他人からよく言われるんですよ。ただ、一番目はきっと誰かいるでしょうし、畏れ多いから二番目ぐらいがちょうどいいかなと思って(笑)。

--劇中、ふんだんに使われる歌が見どころの一つですね。

鄭 はい。生ピアノも入って、みんなで歌い、ハモります。劇中歌としてはいつもよりも多めかな。1人が1曲ずつ担当する歌もあるし。毎日歌稽古をして、日々成長しています。殺陣も入っているので、その練習も。

大鶴 歌うことで全員がつながって、団結する。歌うと楽しくなるように台本(ホン)が書かれているので、とても面白いです。

--話はそれますが、プライベートの時間など、普段、音楽はよく聴かれるのですか?

鄭 ほとんど聴きませんね。仕事で音楽をよく聴くので、あまり特定のものは入れたくないんですよ。音楽を聴くと仕事モードになってしまうので、ふだんは無音でいたい(笑)。休みのときは映画や芝居を見に行きます。1日2、3本の場合も。劇場でみんなと一緒に見るのが好きなんでしょうね。

大鶴 僕は家事をしながら、ずっと音楽をかけていますね。映画が好きなので、面白い作品があると、そのサントラ盤を聴いています。

大鶴佐助


 

■劇団はおいしいごった煮

--本番を間近に控え、稽古場の「温度」は何度ぐらいですか?

鄭 そんなにヒートアップしているわけでもなく、じっくりコトコト、焦らずといったところでしょうか。

大鶴 そうですね。丁寧にみんなで突き詰めていっている感じですね。

--居酒屋メニューに例えると?

鄭 ごった煮とか、あら煮かな。

--例えば、浅野さんは?

鄭 よく煮込んだらおいしくなる、ちょっと硬めの大根か、にんじんか。

--では、櫻井さんは?

大鶴・鄭 角煮です!

--お伺いしただけでも、おいしそうなアンサンブルですね。ところで、大鶴さんが心に残っている鄭さんの言葉は何かありますか。

大鶴 「悲しいことを思い返して言うのではなく、事実は事実として言う」です。

--鄭さん、その心は?

鄭 悲嘆するのでもなく、淡々でもなく、事実は事実として「こういうことがあった」ときちんと伝えていくことが大事だと思うんですね。誰かを責めるわけではなく。

--歴史に向けるこのまなざしは、『赤道の下のマクベス』や『焼肉ドラゴン』など、戦後史の裏面を描いたご自身の一連の作品とも相通じる気がします。最後に、観客や読者の方へのメッセージをお願いします。

鄭 『僕は歌う、青空とコーラと君のために』の5人は、似通っていながら似通っていない人たちです。それぞれ立場や生きてきた道のり、国、出自が違う。戦争に対する思いも。相手の気持ちは分かるし、自分のことを思ってくれていることも分かるけれども、それぞれの立場があるから、「ハイ、じゃあ、握手!」とはならないし、どうしても歩み寄れない。でも、いつか未来にどこかでまた出会えるかもしれないし、そうでもないかもしれない。それは観客に委ねられている。でも、そこにほんの小さな希望を感じてもらえたらと思っています。

大鶴 小さな希望というと、劇中、焼け野原で1本だけ黒焦げになって残った桜から切った一枝を託される場面が出てきます。何もなかったところに、満開の花が咲く…。そういう絵が僕はとても素敵だなと思います。それぞれの立場に立つ5人が、その場に共にいる姿を見に来ていただけたらうれしいです。

取材・文:鳩羽風子

公演情報

ヒトハダ 旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』

■脚本・演出:鄭義信
 
■音楽:久米大作
■美術:池田ともゆき
■照明:増田隆芳
■音響:藤田赤目
■舞台監督:丸山英彦

 
■出演:大鶴佐助、浅野雅博、尾上寛之、櫻井章喜、梅沢昌代
 
■会場:浅草九劇(東京都台東区浅草2-16-2 浅草九倶楽部2階)
■公演日程:2022年4月21日(木)~5月1日(日)
4月21日(木)19:00
4月22日(金)19:00
4月23日(土)13:00/17:00
4月24日(日)13:00
4月25日(月)19:00
4月26日(火)休演日
4月27日(水)14:00開演/19:00
4月28日(木)19:00
4月29日(金・祝)13:00/17:00
4月30日(土)13:00/17:00
5月 1日(日)13:00
■料金:全席指定5,500円


<オンライン生配信公演>
■生配信公演:2022年4月23日(土)17:00開演※48時間アーカイブあり
■配信料金:3,000円
■配信発売期間:2022年4月8日(金)12:00~4月25日(月)12:00
■配信視聴可能期間:2022年4月23日(土)17:00~4月25日(月)16:59
※詳細は公式HP参照

 
 
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