ドラマ『村井の恋』OP曲のFINLANDS、新曲「ピース」は初めての“ど直球”なラブソング 結成10周年、そして妊娠まで赤裸々に塩入冬湖が語る
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FINLANDS
現在放送中のドラマ『村井の恋』、そのオープニングテーマとして流れているのがFINLANDSの新曲「ピース」だ。担任教師に恋をした男子高校生・村井と、そのストレートな想いに戸惑いながらも知らず惹かれていく教師・田中との丁々発止な恋愛模様をコミカルに描いたこの物語の世界観と真正面から向き合って書き下ろされた今作は塩入冬湖(Vo.& G.)にとっては初めての“ど直球”なラブソングに仕上がった。配信限定にてリリース中のこの新境地とも呼ぶべき1曲について、また、まもなく迎えるFINLANDSの結成10周年のこと、さらには昨年の結婚報告および今年に入っての妊娠発表を踏まえた現在の心境など塩入にたっぷりと語ってもらった本インタビュー、FINLANDSに吹くいい風を存分に感じてほしい。
——ドラマ『村井の恋』のオープニングテーマとして書き下ろされた新曲「ピース」ですが、ドラマ制作サイドからのラブコールによって実現されたそうですね。
最初は『村井の恋』という漫画作品があって、それを原作にドラマを作るので、とお話をいただいて。あとになって原作者の島順太先生がFINLANDSを聴いて下さっていて、ご指名くださったと伺ったんです。
——オファーを受けた率直な感想は?
すごく嬉しかったですね。ただ、一方で自分がFINLANDSを俯瞰で見たときに、あまりストレートな言葉を使う音楽をやっているバンドではないんじゃないかなと思っていたので、『村井の恋』という“ど直球さ”が根底にある物語に採用していただけるということにすごくびっくりもして(笑)。でも、それも嬉しい挑戦だなと思って。何か題材があって、それに向けて歌を書くというのがもともとすごく好きなので、ほんと楽しかったです。
——塩入さんは“ど直球”をどう解釈されましたか。
端的に言うと“駆け引きはしない”ですかね。人の機微を探らない、というか。自分が言葉を口に出したあとの、その次の一手や次の結末というものを探らずに、今ある想いだけを言葉にして、つないでいくのが“ど直球”かなって。
——たしかにそれは今までFINLANDSで描いてこられた恋模様とはちょっと違うかも。
かなり違いました。なので、そこは意識しましたね。
——塩入さんの中にはそういった“ど直球”な要素ってあります?
そう多くはないですけど、あるとは思います。たぶん、もともとの性分は直球とは離れてるんですよ。すごく臆病な部分も持っていますし、次にうまくいかなかったり、もし自分が惨めになってしまったときの自分に対する説明とか、そういうものはどうしても揃えておこうとしてしまうタイプだ思うので。でも、それすらも考えられないぐらいに夢中になったり、そうなった時に出てくるど直球さっていうのは自分自身、経験したことがあるなって。
——そういったものを楽曲に落とし込むにあたって、どういったところから取り掛かられたんでしょう。
今回、まず何曲か作ったんですよ。いくつか提出して、その中から選んでいただいたほうがいいかなと思って。私のイメージとドラマを作っていらっしゃるみなさんのイメージ、そして島先生のイメージの3つが重なる部分っていうのが形になったほうがいいと思ったんですよね。なので3曲ほど作ったものを提出させてもらいました。歌詞も3曲それぞれに書いて。
——え、すごい。
自分の中で軸がしっかりしていないと、ちょっとずつブレてしまうというか、歌詞が自分の主観に侵されてしまうなと思ったんですよね。それで最初に“ポーズは取らずに心に従え”っていうテーマをきちんと作り上げて、そこから3曲とも書いていったんです。
——他の2曲も聴いてみたいです。
全然違いますよ。実は「ピース」がいちばん最後にできた曲なんですよね。こういう曲があってもいいんじゃないかっていう気持ちでいちばん最後に作って提出した曲だったので、これを選んでいただいたことにもちょっと驚いたんです。自分の家でギターを弾きながら歌ってデモを録音していたんですけど、そのときにたまたまコードとメロディがズレちゃって、それが妙によかったっていう。そんな偶然から作り上げたのが「ピース」だったんです。逆にそれがサウンド的な部分でも“心に従う”っていうテーマに結果として合ったのかもしれないなって。
——いい意味で作為がないというか。
そうなんです。ほんと偶発的にできていった曲なので、良くも悪くも計算がない(笑)。
——一気に駆け抜けるようなスピード感もまさにオープニングにふさわしいですよね。始まりの予感をめいっぱい孕んでいて。
嬉しいです。「行ったれ! 行ったれ!」みたいなワクワク感はドラマのオープニングというのをかなり意識したポイントでもあるので。
この曲の中で“あなたに似合ってみたい”と思ってるのは村井くんなんじゃないかなって。
FINLANDS
——これだけ速い曲がリリースされるのも久しぶりじゃないです? 前回のアルバム『FLASH』に収録の「UNDER SONIC」もかなり速かったですけど。
おっしゃる通り、アルバム曲としては作ったりするんですけどね。速い曲は好きなんですよ。ガチャガチャしたサウンドで叫びまくりたいっていう気持ちとか、BPMは速ければ速いほうが絶対にカッコいいみたいな気持ちはどこかにあって(笑)。この曲も最初はもっと速かったんですけど、さすがに速すぎるってことでこのテンポ感に落ち着いたんです。初心に返るというか、いただいたお話ですし、ドラマが始まるっていうときにバカみたいに速い曲を流したって、聴く人は何が何だかわからないんだから、一旦、落ち着いて考え直そうってサポートメンバーのみなさんとも話して。そこはちょっと私たち、大人になったなって思いましたね(笑)。
——素直に身を委ねられるサウンドのテンポ感と、そこに乗っかる歌詞のストレートさが絶妙に心地いいんですよね。歌詞はわりとすぐに書き上げられたんですか。
結構、悩みました。今までにしたことがないアプローチだったので、どこから当たっていけばいいんだろう?みたいな迷いがあって。逆に切り口が何個もあるというか、“ど直球”というアプローチで思いつく限りを試しながら、しっくりくる言葉を選んでいくっていうやり方をしていたんですよ。何も言葉が出てこなくてどうしよう、ではなく、いろんな方面からのアプローチできそうだけど、どこから行けばいいかなっていう迷いが強かった気がします。結果、余計なものを削っていって本当に大切なものだけを残したことで、より言葉やメロディが輝く1曲になったなって。
——ちなみに、この歌詞は『村井の恋」で言うところの、田中先生サイドの視点で書かれていると受け取って大丈夫でしょうか。
うん、そうですね。田中先生サイドの目線で書こうとは思っていました。自分も女性ですし、年齢的に近いのも田中先生ですし。ただ、原作を読んでいるとどうしても村井くんに感情移入してしまうことが多かったというか……何巻だったか、「何回も言いますけど、僕は言葉しかないので言葉で好意を伝えます」っていう村井くんが言う場面があって、すごく印象に残ったんですよね。それが今回、楽曲制作にあたっての根底にずっとあった気がして。その言葉があったから、“ポーズは取らず心に従え”っていうテーマが生まれたのかなって思うので、要所要所で田中先生より村井くんの気持ちのほうを汲んでしまってる部分はあるんですよ。物語を通して田中先生は徐々に変わっていくんですけど、自分が変わることに戸惑う様っていうのは「ピース」の中でも描いていて、そこはすごく田中先生の気持ちに寄り添っていると思うんですよ。で、村井くんの場合は変わってはいくけど、気持ちが一貫して田中先生だけに向かっていて。そう考えると、この曲の中で“あなたに似合ってみたい”と思ってるのは村井くんなんじゃないかなって。
——村井くんのまっすぐさを表しているワードとしてサビの“真実”という言葉にもかなりハッとしたというか、すごく印象的だったのですが。
例えば相手が今晩、誰と何をしているかとか、本当は何を考えているのかとか、そういうことを知れない関係だと思うんですよ、『村井の恋』の二人って。でも村井くんにとってはそんなことはどうでもいいんですよね。もしも田中先生が他の男性と一緒にいて、その人とご飯を食べながら一緒に笑い合っていて、その男性のことだけを考えていたとしても、それは村井くんには関係ないというか。自分が恋している人物と自分の物語の中にはその男性は登場しない。それが村井くんの真実だと思うんです。田中先生にとっての真実は“他の人とご飯を食べている”かもしれないけど、村井くんとしてはそんな真実を悲しむだけで自分が終わるわけにはいかないっていう……それも直球さの一つだと思うんですけど、その気持ちを強く感じたので“真実”という言葉を使いたいって思ったんです。
——それぞれの真実のかけら=“ピース”みたいな?
いえ、“ピース”っていうのは人が取るポーズの象徴というか……要は“ピースサイン”のことなんです。私にとっていちばん身近にあるポーズがピースサインだったので、タイトルはそこから取りました。
——なるほど! そこで「ポーズ」ではなく「ピース」にするところがとても塩入さんらしいです(笑)。
あはははは! そうかも(笑)。
——もし、こんなにもひたむきでまっすぐな想いをご自身に向けられたとしたら塩入さんはどうします?
ちょっとイヤかもしれないですね(笑)。私はたぶん村井くん側でいたいんですよ。そういう願望がずっとあって、自分に興味を持たれるよりも、自分が相手を好きで好きで仕方がないっていうほうが毎日が楽しいんじゃないかなって。ずっと長く続いていく恋愛にしても、自分が相手を好きで好きで仕方がないっていう、逆に言えば自分でやめどきを決められるほうがいいなって思うんですよね。
自分だけの変化じゃなく、作り上げてきた環境によって得られる新しさっていうのもあるのかもしれないですね。
FINLANDS
——なんだかそれ、すごくカッコいいです。ところでドラマはご覧になっていますか。
拝見しております! オープニング曲が流れ終わるまではドキドキしているんですけど、流れ終わった後は安心して一視聴者として毎週楽しく観てますね。
——ドラマの現場に足を運んだりはされました?
この間、一度ご挨拶に伺いました。主演のお二人、髙橋ひかるさん(田中彩乃役)と宮世琉弥さん(村井/春夏秋冬役)にお会いして、撮影現場も初めて見させていただいて。休憩中に伺ったのでお二人が演技しているところは拝見できなかったんですけど、本当にものすごくたくさんの方たちの力が合わさって一つの作品ができてるんだなっていうのをきちんと肌で理解できたというか……そこに私たちは音楽で参加させていただけてるんだなって改めて実感しました。今までは自分たちの手の届く世界でしか制作してこなかったけど、こうした作品に携わるということは、より多くの人たちと一緒にもの作りをさせていただくってことなんだなって。より世界が広がった気がしましたし、面白いなって感じました。
——新たなクリエイションの現場に触れたことで、プラスの刺激を得られたんですね。
お邪魔してそんなに日が経ってないので、実際に何かクリエイティブなことができているかって言われたら、今はまだ何もないんですけど……とにかくもっと広い目で見た音楽制作ができるんだろうなって、希望を感じました。今回、こうした機会をいただいて、今までになかった新しいアプローチに着手できたこと……それこそど直球なものを描くとか、ストレートに物事を人に伝えるとか、そういうことってたぶん5〜6年前だったらできなかったと思うんですよ。あの頃の融通の利かなさだったら、もしかしたら渋ってしまっていたかもしれない、でも今はすごく面白いなと思って着手できている、それ自体が新しいなと思うんですね。きっと私が取りきれない舵を、きちんと意図を汲んだ上でサポートしてくれている今のサポートメンバーの存在も大きいんだと思います。自分だけの変化じゃなく、作り上げてきた環境によって得られる新しさっていうのもあるのかもしれないですね。
——今まで積み重ねてきたもの、紡いできたものが、今回の出会いにつながって、楽曲として結実した、と。
そう思います。3〜4年前ぐらいからちょっとずつ変わってきてた気がしますけど、そこに戸惑うことがなくなってきたのがちょうど「ピース」だったんじゃないかなって。
——この「ピース」がご出産前にリリースされる楽曲としては最後になると伺っていますけど、一方でまもなくFINLANDS結成10周年のアニバーサリーイヤーも迎えられますよね。
はい。産休でちょっとお休みはいただきますけど、今年の秋冬頃から来年にかけて10周年の企みはいろいろ仕掛けていきたいなと思っていますので、その辺は乞うご期待!ということで(笑)。
きっと変わらない部分も、失っていくものもあるでしょうけど、それは本当に未知なので。
FINLANDS
——ちょっと立ち入ったことをお聞きしてしまいますが……このたびのご結婚、ご出産は塩入さんにとって思いがけないことでしたか。
どうでしょうね? 私は結婚願望自体、なかったともあったとも言えないというか、したくもなければ、したくなくもない、みたいな気持ちだったんですよ、ずっと。でも今の夫とは付き合った瞬間からずっと結婚したかったので。結婚するんだったらこの人以外、絶対に無理って思っていたので、思いがけなくはなかったかもしれないです。なんかこう、願いが叶った感じはあったというか。
——それは結婚というものをしたいというより、この人とずっと添いたいということですよね。
そうですね。だから極論、明日結婚してもいいし、10年後でも30年後でもいい。でも、できるならすごく幸せだなっていう。
——素敵です。女性のライフステージと呼ばれるものの中でも2大イベントじゃないですか、結婚と出産って。それによって、これからの音楽活動に与えられる影響も何かしらはあるとの思うのですが、それに関してはどう感じていらっしゃいますか。
本当に未知の未知の未知なので、今の段階ではまったくわからないなというのが正直なところで。当然、物理的に生活は変わると思うんですよ。でも、その中で「こういう曲を作りたいな」って構想を持ったり、実際に曲を作るってことに関しては変わらないんじゃないかなって妊娠して何ヵ月間かずっと思ってるんですよね。そこで、じゃあ子供が生まれたから愛に満ち溢れた曲を作りましょうとか、子供のことを歌い続けるとか、どういう変化になるのかは自分でもまだわからなくて。そうなるのかもしれないし、まったくならないのかもしれないし。ただ、今までも自分の生活の変化とか、それによって自分の考え方が変わっていく中で、自然と作る曲の中身も変わってきていたと思うんですね。だから、これから子供っていう家族の新しい一員が増えることで考えることが変わっていくっていうのもすごく自然なことなんじゃないかなって。
——では、変わったらどうしようとか、変わるのが怖いとか、そういうのはあまりない?
うん、特にはないですね。今まで自分の経験じゃないこともたくさん歌ってきましたし、ミステリー作家の方もよく「殺人事件を経験してないからって書けないわけじゃない」って言うじゃないですか。それと同じ感覚というか、私も、自分がキリキリするような緊張感のある恋愛模様に遭遇しなくなったとしても、例えば人から話を聞いたり、何か作品を読んだり見たりすることで作っていけるものってあると思うんですよね。きっと変わらない部分も、失っていくものもあるでしょうけど、それは本当に未知なので。
——もし何かを失っても、それは逆に今までなかったものが手に入るってことでもあるでしょうしね。人として生きていく上で当たり前にある変化なのかも。
だからもう、そこに抗う気もないっていうか(笑)。それも私の人生の一途ですし、そこで自分が感じるものに着手していくのが自然なことかなって。
——FINLANDSファンとしましては、この先、塩入さんからどんな作品が生まれてくるのか純粋に楽しみでしかないですから。なのでワクワクしながら待っていたいと思っています、もちろん10周年の企みも。
ありがとうございます。この10年、いろんなことがありましたし、すごく長かったはずなんですけど、自分の心持ちとしてはまだまだだなってすごく思っていて。まだまだやれることがありそうですし、何より昔から5年後や10年後を想像する余裕がないんですよね、基本的に。目先のことに一生懸命だから、理想通りとも理想と違ったとも思わなくて。ただ、その上でまだ、10年前にFINLANDSを始めたときと同じくらい得体の知れない自信とか音楽に対する興味が薄れてないのは、すごくいい10年間だったってことだろうなって。いいライブを観たら曲を作りたくなるし、いい音源を聴いたら興奮するし、曲を作るのはずっと楽しいし、そこだけは変わってないんですよ。私、どんなに興味を持っていても手を出した途端に飽きちゃう、みたいなことって結構あるんですけど、唯一冷めないのが音楽を作るっていう行為なんだなって最近、気づいたんですよね。
——ここまできたら一生ものですよ、絶対。
うん、やめるっていう選択肢はないんだろうなって自分でも思いますね。まずは無事産み終えて、またいろんなお知らせを持ってきたいな、と。これからのFINLANDSを楽しみにしていただければと思います。
取材・文=本間夕子 Photo by 大川直也