奥田民生、Saucy Dog、スピッツが競演ーーZepp Namba(OSAKA)10周年企画『ここからLIVEができるなら -Spring lucky Monday-』で感じたライブができている喜び
『ここからLIVEができるなら -Spring lucky Monday- Zepp Namba (OSAKA) 10th ANNIVERSARY』 撮影=河上良
『ここからLIVEができるなら -Spring lucky Monday- Zepp Namba (OSAKA) 10th ANNIVERSARY』2022.4.25(MON)Zepp Namba (OSAKA)
コンサートプロモーターのプラムチャウダーが主催するイベント『ここからLIVEができるなら-spring lucky Monday-』。Zepp Namba(OSAKA)10周年を記念してのイベントでもあるが、タイトルからして、この2年間のコンサートを取り巻く状況への熱い想いが感じられる。出演は奥田民生、Saucy Dog、スピッツ。
Saucy Dog
Saucy Dog
トップバッターはSaucy Dog。石原慎也(Vo.Gt)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr)がゆっくりひとりずつ登場する。ストレッチ的に腕をしっかり伸ばす姿からも、大試合のライブに挑む良い意味での緊張感が漂っている。1曲目は「煙」。緩やかなギター入りからして、切なさを感じる。石原の「大阪~!」なんていう何でもない観客への呼びかけからも、爽やかな疾走感が伝わってきた。続く「シンデレラボーイ」も「煙」からの緩やかさを感じながら、<夜な夜なゆらゆらいでも>といった言葉たちが、すーっと沁みてくる。リズム隊が刻むビートも気持ち良い。
Saucy Dog
MCで石原は、プラムチャウダーが2014年に大阪城ホールで開催したイベント『仮面チャウダー ~YAJIO CRAZY~ チャウ大ユニバーシティインターナショナルコラーゲンハイスクール』に行っていたことを明かす。この何気ない思い出だが、それによって演者がグッと想いを持っているイベントだという事が、しっかりと我々に届く。せとのMCからも、とにかく真っ直ぐな想いが届けられる。もちろん音にも表れていて、3人が丁寧に丁寧に一生懸命に音楽を紡いでいる。大御所2組と共演して、大御所2組のファンの前でライブする事への緊張を感じつつも、だからこそ大舞台を心から楽しみたいという強い気持ちが根底にあった。
Saucy Dog
「ここにいるあなたに!」という石原の颯爽とした語りかけから鳴らされた「ゴーストバスター」は、最もリズミカルであり、観客への鼓舞にもなる激しさもあって、よりグッと耳を傾けられた。「知らない人もいるでしょうけど、自分なりの楽しみ方で楽しんで下さい!」と言って、そのまま「雀ノ欠伸」へ。その場で聴いていても、明らかにここの流れは確実に乗っていた。石原が手拍子を煽ったら、すぐさま観客から手拍子が返ってきた事からも、会場の空気がひとつになっている事がわかる。
ラスト1曲前「いつか」に行く前に、石原は腰の辺りをパンパンと叩き、足を踏み鳴らした。せとの腕を伸ばす姿を先程書いたが、こういうちょっとした仕草から異様な緊張や異様な闘志が感じられる。だからこそ、生の舞台はおもしろいし、とてつもなく痺れる。壮大なメロディーにつぶやく様に歌っていくが、物凄く気合いが入っていることが手に取る様にわかる。サビへ行く直前に少し沈黙があり、真っ暗になり、そこから石原にピンスポット照明が当たってから歌うのは、まさしく聴きどころだった。
Saucy Dog
いよいよラストナンバーへ。その前に石原が語り出す。「まさかスピッツさん、奥田民生さんと、僕のライブ人生の中でライブができるとは……。そのライブをたくさんの人に目撃してもらうのは嬉しいです。できれば、「今日、Saucy Dogというバンドがいたな!」、「あの歌詞を覚えているな!」とみんなの人生の中に入りこめていたら。そうやって、みんなと生きていけたら……」。そう語ってから、勢い良いカウントから「猫の背」。「夢から醒めないように」の歌詞の部分で、観客から自然に手拍子が起きたのは、彼らの熱情が観客に伝わった事を証明するかの様で、とても素敵な光景であった。「ありがとうございました! 素敵な時間でした! 幸せでした! すごく緊張したけど……」。この石原の最後の言葉に全てが表れていた。私の隣にいた観客ふたりが「そりゃ緊張するよね!」と言いながら、大きな拍手を送っているのを観て、何故だかすごく嬉しかった。誠に誠実なトップバッター。
Saucy Dog
奥田民生
奥田民生
2番手は奥田民生。頭にタオルを巻いたお馴染みの姿で、椅子や楽譜やギターが用意されたお馴染みのステージへと向かう。何故か上着は道頓堀のマスコット人形風の衣装! これまたお馴染みのBGM「ブルームーンギャラクティカ」が鳴る中、手を上げて頭を下げる。弾き語りを始める前の何気ない彼の一挙手一投足を見逃すまいと凝視する観客たち。くいだおれ太郎の衣装にも「もう何かワークシャツとか作務衣とか飽きたと言ったら用意されていて。たぶん、途中で脱ぎます!」と触れ、1曲目はまさかのUNICORN「米米米」。それもメンバーのEBIが歌う楽曲というのもニクい……。そして、当たり前だがひとり弾き語りであるにも関わらず、「はい! テッシ―カモーン!」というメンバー・テッシー(手島いさむ)への呼びかけもたまらない。民生ひとりしかいないのに、UNICORNライブを観ている気になるのが不思議だ。楽曲終わり、そのままEBIとしてMCをしてUNICORNツアー告知もちゃっかりして、「民生に変わります!」と奥田民生としてMCをする。これ何を書いているんだろうと思われるかもだが、こういう細かいユーモア芸にいちいちくすぐられる。この流れで2曲目もUNICORNで「レディオ体操」へ。民生ソロとUNICORNのスタッフが違うため、本番前に「レディオ体操」をスタッフが聴いてから作業確認していたことも明かされる。
奥田民生
いつも通り、独特のペースで始まり、ようやく3曲目で民生ソロの楽曲として「ロボッチ」が歌われた。ブルージーな歌声に虜になって大満足するが、すぐ、またMCタイムが始まる。予告通り、道頓堀のマスコット人形風衣装の上着を脱ぎ、久々のプラムチャウダー主催のイベント出演だということと、楽屋で観たスピッツメンバーが老人の様だったという小ネタも入れていく。スピッツの草野マサムネが、同じく道頓堀のマスコット人形風衣装のズボンを履いて登場すると勝手な情報を流しつつ、「そういうイベントでしょ?」と言い切る。過去にはプラムチャウダー主催の『ロックロックこんにちは!』に司会だけで出演したことなどを振り返っていく。個人的には、民生やスピッツにより90年代から、音楽の音だけで無く、音楽の楽の部分、つまりは楽しさを教えてもらったんだなと感慨深くなる。僕らは学生時代から、この人たちに大人のユーモアも教えてもらったんだなと誇らしくなった。そして、彼らの音楽が今更言うことでも無いのだが、決して懐かしのものでは無くて、今もかっこいいというのが何とも言えない。それを証明するかの様な新曲「太陽が見ている」へ。
奥田民生
4曲目が終わり、時計を覗き込む民生。後5分で、後1曲しかできないと話し、こちらも呑気に楽しい時間は経つのが早いなと納得していたが、スタッフからの訂正で単なる時間読み間違えな事がわかる。これもご愛敬。まだ残り20分もあるというお茶目さ。こんなヌケた部分を見せながらも、「The STANDARD」で聴き入らせて静まり返らせる……。なのに「「イージュー★ライダー」という曲でした!」とズッコケさせる。もはや、名人芸。「この後、大御所(スピッツ)が出て来て、ググーッとやって何の心配も無いので、俺はタラタラやります」なんて言っていたが、この人のタラタラやダラダラは絵になる。締めるとこは、しっかりと締めているから、こちらは飽きずに退屈せずにずっと観てられる。毎回観る度に思うが、弾き語りで、ここまで魅せれるのは本当に凄い。
奥田民生
ここでもう1曲UNICORN楽曲で「ロックンローラーのバラード」。「ダッサいタイトルですけど!」と本人は謙遜していたが、こういう御時世だからこそロックンロールバンドの真っ直ぐなバラードが必要で聴きたくなってしまうという素晴らしい楽曲だ。「なんでもっと」をはさみ、ラストナンバーは「さすらい」。世の中では何気にスピッツの曲と思われているなんて、本人は漏らしていたが、民生が<さすらおう>と一声シャウトしただけで、何かが拓けていく感じがするから凄い。最後も最初同様、BGM「ブルームーンギャラクティカ」が鳴る中、頭を下げて、やりきった表情でダブルピース。流石の天晴れなひとり弾き語りだった。
奥田民生
スピッツ
スピッツ
いよいよトリのスピッツ。クジヒロコによる鍵盤の音色が気持ち良く、そこにマサムネの<あふれそうな気持ち 無理やりかくして>と歌われた瞬間、何故だか泣きそうになった「魔法のコトバ」。ひとつひとつの歌詞がメロディーに乗っかって、胸を締め付けられる。そこからの今の季節にぴったりな「春の歌」。一瞬で持っていってしまうグッドメロディー、グッドソングは天下一品である。勢いのまま「8823」へと突入するが、サビで田村明浩がベースを弾きながら、ステージを端から端へと所狭しと飛び跳ねている。民生の時も思ったが、キャリア30年以上ある人たちの今がいちばんかっこいいというのが、ずっと追いかけてきた我々にとっては一番の嬉しいこと。
スピッツ
驚くことに26年前の楽曲になる「チェリー」も全く色褪せる事が無くビートも跳ねて、スピッツここにありという感じである。MCではライブ自体が凄く久しぶりで、去年9月大阪城ホール以来と話していたが、まぁ今の御時世では或る意味仕方がない。また、Zepp Namba(OSAKA)10周年にも触れて、この10年で22回もステージに立っているという。改めて、ライブを大切にするバンドである事がわかる。だから、かっこいいのだ。同世代の民生については互いに老けたと笑い、彼らにとっては超若手になるSaucy Dogについても凄く素敵と褒めていた。後のMCでも互いのバンド名が犬繋がりという話題になり、民生に「トイプードルズ」なんていうバンドを作ってもらい、「ワンワンロックフェス」なんてできないかと妄想が飛躍する。この世代は、やはり音だけでなく楽しませてくれるのが最高だ。
スピッツ
スピッツ
26年前の「チェリー」で色褪せなさに驚いていたが、この日は本人たちもむちゃくちゃ久しぶりにやったという「胸に咲いた黄色い花」が聴けたのは誠に貴重だった。31年前のセカンドアルバム「名前をつけてやる」からの1曲。そら昔懐かしいに決まっている。そして、また当然だがエヴァーグリーンすぎるメロディーであり歌である事に驚くし、大興奮しかない。ここに「優しいあの子」、「大好物」という本当に最近の楽曲が並列で鳴らされて、何の違和感もないのが最高である。で、揺さぶられるかの様に27年前の「涙がキラリ☆」! どの時代の楽曲も等しく素晴らしい。こちらからしたら喜びでしかない。ラストナンバーは「みそか」。<世界を塗りつぶせ 浮いて浮いて浮きまくる 覚悟はできるか>……この歌詞は、まさしくスピッツで、この気持ちを持ち続けている限り、このバンドはずっと最強だと思った。
スピッツ
アンコール。マサムネの「バンドマンでしかいられない体になっているんで、何とか続けられる様に頑張ります」という言葉も響きまくった。そこからのエッジの効いた「三日月ロック その3」もかっこいい。遂に締めへ。思わず耳を傾けたくなる三輪テツヤのギターフレーズから「こんにちは」。<また会えるとは思いもしなかった 元気かはわからんけど生きてたね ひとまず出た言葉は「こんにちは」>という歌詞が、どうしても今の御時世、勝手に色々照らし合わせてしまうし、全く湿っぽくならない若々しいビートに燃えるし、萌える。
スピッツ
きょうび中々、普通にライブを観ることが出来ない厄介な時代だが、こんな日のために僕らは歩いてると心から思えた。『ここからLIVEができるなら-spring lucky Monday-』は、まさに春の幸運な月曜日であったし、ここからLIVEができている。また、近い日にPLUMCHOWDERが主催する音が楽しいイベントを観に行きたい。
取材・文=鈴木淳史 写真=オフィシャル提供(河上良)