『都市対抗野球』の魅力を“中の人”に聞いてみた! 社会人野球ならではのドラマとは【前編】
日本野球連盟(JABA)の片山純一氏
『第93回都市対抗野球大会』が7月18日(月)から東京ドームで行われる。
1927年に第1回大会が行われた『都市対抗野球』は、プロ野球よりも古い歴史を持つ。今年も社会人野球から約350チームが出場しており、その日本一を決めるのが同大会というわけだ。
なお、本大会に出場できるのは全32チームとなっており、前年度の優勝チームは予選が免除されるため、残り31の出場枠が各地域に振り分けられる。厳しい予選を勝ち抜くために、会社やチームのプライドをかけた戦いが繰り広げられるわけだが……、そこでは別に本業を持つ大人たちがどんな真剣勝負を繰り広げているのか?
今回は日本野球連盟企画広報委員の片山純一氏と湯本五十六氏に、『都市対抗野球』の魅力を聞いてみた。
■片山純一(かたやま じゅんいち)
広島県瀬戸内高等学校から亜細亜大学に進学。在学時には日米大学野球選手権大会の日本代表にも選出される。JR西日本に入社後、JR東日本に移籍して12年間活躍し、そのうち5年間は日本代表にも選出された。
■湯本五十六(ゆもと いそろく)
藤代高校から専修大学を経て、JR東日本へ。藤代高校時代には甲子園出場経験あり。現在はJR東日本から日本野球連盟に出向中で、主に広報を担当。
ドラフトを目指し、会社に恩を返すために…
――『都市対抗野球』とはどのような大会なのでしょうか?
片山:アマチュア野球は全てトーナメント制なので、高校野球や大学野球と基本的には同じですね。ただ、1つ違う点があるとすれば、社会人野球ではプロに行かない限り、そこで選手生命が終わてってしまうということ。高校や大学で活躍していたスター選手達が、プロ野球からのスカウトを目指して戦っています。
――『都市対抗野球』の予選に出場するためには、何か条件はあるのでしょうか?
片山:日本野球連盟に所属していれば出場できます。
――『都市対抗野球』では選手たちが会社や家族の思いも背負って出場することになりますが、高校・大学と環境が違う中、どんな思いで戦っているのでしょうか。
片山:僕の場合、学生の頃は勉強もしていましたが、「やはり好きな野球で行けるところまで行きたい」という気持ちが強かったです。ただ、社会人野球では会社で隣の席の人が応援に来てくれたり、会社の力で野球部が存続できているということもあって、「野球をさせてもらっている」という実感が芽生えるようになりました。なので、試合に向けては「会社に恩返ししたい」という思いや、「会社で席が隣の人や家族に喜んでもらいたい」という思いが大きかったですね。
一戦級で活躍している選手たちは、高校や大学を卒業したあとで、ドラフト解禁になる年(※)を目指して頑張っていますよ。それ以降はなかなかドラフトにかかるのが厳しくなるので、「自分の野球人生をどう全うするのか」と考えるようになっていきます。
※高卒は3年目、大卒は2年目で解禁
――“将来、プロ野球で活躍するであろう若手選手の活躍”が見られる場所でもあるということですね。“ベテラン選手が野球人生の幕をどう閉じるか”というところにもドラマがありそうです。
片山:『都市対抗野球』でベテランが注目されるのは、そういう所もあります。チームごとに30人の参加枠があるので、毎年競争しているわけで。「今年ダメだったら引退」という思いはベテランの方が強いはずです。『都市対抗野球』で打たれたり、打てなかったりすると、その思いも強くなっていきます。
――片山さんが初めて『都市対抗野球』に出場した時は、どんな気持ちでしたか?
片山:甲子園の出場経験はありましたが、その時は会社の方が見に来られていることで、また違うプレッシャーがありました。自分以外の人たちのために戦ったという思いが強いですね。応援してくれる人が身近にいてたくさん感じられるのは、プレッシャーでもありますが、同じぐらい勇気をもらうこともできました。
――「同じグループ会社には負けられない」といった思いはあるのでしょうか?
片山:選手の立場からするとあります。僕の場合は「同じJR勢や関東勢に負けたくない」と思っていましたよ(笑)。
片山純一氏
都市対抗野球は補強選手が鍵
――『都市対抗野球』を観戦する上でのポイントを教えてください。出場しているチームのどのような点に注目すればよいでしょうか?
片山:トーナメントを勝ち抜くためには、やはり初戦の入りが大事だと思います。ベテラン選手でもベンチ裏では緊張しますし、波に乗っているチームが勝つことも多いです。あとは、補強選手が活躍するチームは強いですね。
――『都市対抗野球』では、予選で敗退したチームから3名を、補強選手としてチームに加えることができるんですよね。
片山:高校であれば予選に負けると甲子園に出場できませんが、『都市対抗野球』では予選敗退したチームから選手を加えて、『都市対抗野球』に行くことができます。そこが他のトーナメントとの大きな違いですね。
――補強ではどのような選手が選ばれるのでしょうか?
片山:やはり主軸となるピッチャーや4番、あとはチームに足りない部分を補強する形ですね。なので、本戦では4番が2人、エースが2人といった、ドリームチームが実現するわけです。
なお、補強選手は第一代表から選択していくので、強力な補強を行いやすい第一代表同士の対決は注目されます。チーム数が多い地区の第一代表は、良い補強選手が集まるので見ものです。ただ、昨年優勝したチームは、補強選手を入れることができないルールになっています。
――補強のない優勝チームと補強のある第一代表、どちらが勝つかも見どころですね。
片山:そうですね。
――トーナメントの組み合わせでの有利や不利はありますか?
片山:トーナメント表の左側に選ばれたチームは、準々決勝の日程が1日空くんですよね。一番右側に選ばれたチームは最後が3連戦になるので、投手力がないと厳しいと思います。
――都市対抗野球で各チームの戦術面での特徴はありますか?
片山:トーナメント制での一発勝負なので、甲子園をイメージするとよいと思います。スピードボールを投げるピッチャーよりもコントロール重視のピッチャーの方が多いですし、堅実な戦術を取ることが多いですね。また、ベテランの選手の方が実力も兼ね備えているので、ベテランピッチャーが後ろに控えているチームは強いです。
グッズや応援からも目が離せない
――『都市対抗野球』では基本的にチーム関係者にグッズを配られるそうですが、これは試合ごとに違うのでしょうか?
湯本:チームによって特色がありまして、メガホンやチーム独自のタオル、扇子を用意している場合もあります。JRなら電車というように、会社のカラーに合ったグッズが用意されるので、『都市対抗野球』ファンにとっては楽しみの一つですね。
――グッズは毎年同じなのでしょうか?
湯本:同じチームもありますが、例えば、JRではビブスだったり、かぶり物を用意したりと、結構変えているチームもありますね。
――『都市対抗野球』ではドーム内でチームのグッズを購入できるのでしょうか?
湯本:基本的にはJABA(日本野球連盟)のグッズとしてドーム内で販売する予定です。
湯本五十六氏
――『都市対抗野球』では各チームが応援にも力を入れているので、それを観るのも楽しみの要素だと思います。演奏に合わせてチアが踊る様子などは圧巻ですが、その雰囲気を楽しむのにオススメの席はどこでしょうか?
片山:基本的に応援席はチーム関係者しか入れないので、応援席に近い特別席が迫力を感じられると思います。ベンチ上がベストですね。
――電車が好きであればJRの試合を観に行くのは楽しそうですね。
片山:そうですね。電車にちなんだグッズも貰えるので、そこから野球に入って楽しんでほしいと思います。
なんで『都市対抗野球』はドーム開催?
――『都市対抗野球』は毎年東京ドームで行われていますが、それだけ人気の大会ということでしょうか。
湯本:第1回大会から10年ほどは明治神宮野球場を使用していて、そこから後楽園に移りました。34年前からは東京ドームを使用していますが、やはり“日本の中心で社会人野球をやる”ということの意義が大きいと思います。
――今大会は3年ぶりの夏開催になります。運営側としてはどのような思いをお持ちでしょうか?
湯本:チームスケジュールや予選のスケジュールも変わってきているので、その辺に対応しながら進めていきます。やはり「都市対抗と言えば夏」という思いが企業にあると思うので、熱い試合を展開してもらいたいです。運営側としてもそれをサポートしていきたいと思います。
――その他、『都市対抗野球』を盛り上げるための活動がありましたら教えてください。
湯本:今年からJABAのファンクラブを立ち上げました。ファンの方にはぜひ入会していただいて、100回大会に向けて『都市対抗野球』を一緒に盛り上げていただければと思います。
片山:『都市対抗野球』はプロ野球よりもが安いので、気軽に観に来ていただける大会だと思います。高校・大学で卒業した選手がプロを目指して頑張っている中、その成長の過程を見られるのも魅力の一つですね。
なお、JABAとしては大会に向けて球場のボールパーク化も検討しています。エンターテイメント性を持たせるために、例えば選手を呼び出しで出演させるなど、テーマパークのような演出も行っていきたいですね。試合以外の部分でも楽しめるような大会にしていきたいと思います。
【後編に続く】