「バッハは一つの世界」 オルガン奏者ニコラ・プロカッチーニ、オール・バッハの『真夏のオルガンコンサート2022』に登場
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ニコラ・プロカッチーニ
ニコラ・プロカッチーニは、1995年イタリア生まれの気鋭のオルガン奏者。ハンブルク音楽演劇大学、パリ国立高等音楽院でオルガンを学ぶ。2017年の第5回アガティートロンチ国際オルガン・コンクールで第2位に入賞し、2018年の第5回ブクステフーデ国際オルガン・コンクールで優勝している。国際的な古楽フェスティバルに出演し、チェンバロや通奏低音奏者としても活躍している。昨年2021年10月には、第22代札幌コンサートホール専属オルガニストに就任した。そんな彼が、2022年7月30日(土)にザ・シンフォニーホールで開催される『真夏のオルガンコンサート 2022』に登場し、オール・バッハ・プログラムを披露する。
――オルガンとの出会いから話していただけますか?
私が生まれ育ったイタリアの小さな街、サンテルピーディオ・ア・マーレ(イタリア中部、アドリア海に面した街)には300年ほど前の歴史的なオルガンがあり、それを見て、オルガンに興味を持ちました。6~7歳の頃でしょうか。オルガン奏者になりたいと思ったのは、中学生の頃(15歳の頃)です。バッハが大好きで、なかでもオルガンの曲が好きだったのです。……ほとんどのオルガン奏者はバッハが好きですが(笑)。中学~高校生の時代は、地元の教会で、楽しみでオルガンを弾かせてもらったりしました。
その後、サンテルピーディオから近い、比較的大きな街、フェルモの音楽院で、オルガンを専攻しました。フェルモ音楽院には子供から行ける公立のアカデミーがあって、そこではいろいろな楽器が学べます。
――イタリアのフェルモ音楽院で勉強したあと、ドイツに留学されたのですね。
ハンブルク音楽演劇大学に進んだのは、ヴォルフガング・ツェラー先生につきたかったからです。また、ハンブルクには、バッハ時代の美しいオルガンがあるのです。
ハンブルクには4年間いました。この大学は、インターナショナルで、世界中の素晴らしい音楽家が集まっていますので、良い刺激を受けました。そして、バッハを中心に、ドイツ音楽をしっかりと学びました。
――そして、パリ国立高等音楽院に進まれました。
まったく違った流派でオルガンを勉強したかったからです。オルガンでは、ドイツの流派とフランスの流派はまったく違うので、フランス音楽をフランスで勉強したいと思いました。パリで勉強することによってレパートリーが広がり、音楽家として有意義だと思ったのです。また、パリでは20世紀音楽も学びました。今秋、パリ国立高等音楽院に戻ったら、現代音楽も勉強します。
――今回のオール・バッハ・プログラムについてお話しください。
私にとって、オール・バッハのオルガンコンサートは初めてのことであり、こういう機会をいただいて、ありがたく思うとともに、誇りにも思っています。
今回のプログラムでは、バッハのいろいろな時代の作品を取り上げることによって、バッハの人生を表現したいと思いました。彼の作品は時代によって違う様式をもっているので、それを聴いていただきたいです。
――バッハの人生の歩みとともに彼の音楽の変化を聴いてもらいたいということでしょうか。
そうです。若い頃のバッハは、かなり自由でクレイジーでした。彼は、歳を重ねて、より甘く、よりエレガントに、そしてより構築的になっていきました。そういうことをこのプログラムで披露したいと思います。
――バッハには数多くのオルガン作品がありますが、今回の曲を選ぶ上でどういうことを考えました?
調性関係についても考慮しました。例えば、1曲目の「前奏曲とフーガ ト短調 BWV535」、3曲目の「フーガ ト短調《小フーガ》BWV578」、5曲目の「トリオ・ソナタ第5番 ハ長調 BWN529」、10曲目の「幻想曲 ト長調 BWV572」は、調性の関係性は近いですが、それぞれの違いを聴いてもらいたいと思いました。
また、2曲目(BWV676)と6曲目(BWV711)は、「いと高きところにいます神にのみ栄光あれ」という同じコラール(の旋律)に基づいていますが、全然違う作品になっているのも興味深く思ってもらえることでしょう。
――おススメの1曲をあげるとするとどれですか?
8曲目の「フーガ ハ短調 BWV575」ですね。そんなに演奏されることが多くない曲ですし、非常に自由で独創的な発想の作品だからです。1曲目の「前奏曲とフーガ ト短調 BWV535」、8曲目の「フーガ ハ短調 BWV575」、10曲目の「幻想曲 ト長調 BWV572」は、よく似た曲調ですが、「フーガ ハ短調 BWV575」を聴くと、音楽ってこんなに自由なんだ、と感じていただけると思います。
――バッハの魅力とは何ですか?
バッハの音楽は、他の人の音楽とはまったく違います。彼は、音楽の世界を変えてきました。バッハの音楽は、とても感情に訴えてきます。私はバッハの研究の文献などにも常に興味を持っています。バッハ自身もいろいろな音楽を研究して曲を作っていました。バッハがどうしてその曲を作ったのか、今、それをより深く研究するのが、とても面白いのです。バッハはただの作曲家ではなく、一つの世界なのです。
――大阪に来られたことはありますか?
大阪は初めてです。大阪には、国際的で、カラフルで、人生が楽しめそうだというイメージを持っています。
――最後にメッセージをお願いいたします。
とても美しいバッハのオルガン音楽を共有できるのが楽しみです。良い時間を一緒に過ごしましょう。色彩に満ちた、想像力豊かなプログラムをお楽しみください。
取材・文=山田治生