市川海老蔵が8年ぶり『夏祭浪花鑑』で男を絞り切る 歌舞伎座『七月大歌舞伎』取材会レポート

2022.7.4
レポート
舞台

市川海老蔵

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歌舞伎座『七月大歌舞伎』の第二部に、市川海老蔵が出演する。2022年7月4日(月)より29日(金)まで、会場は歌舞伎座。演目は『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』『雪月花三景(せつげつかみつのながめ) 仲国(なかくに)』。取材会で海老蔵が意気込みを語った。

「歌舞伎座は、コロナ禍の再開以降、客席数を制限してきましたが、8月より100%に戻ります。11月、12月には襲名も決まりました。現段階では感染者数にまだ行き来がありますが、今は歌舞伎が盛り上がるよう頑張っていきたいです」

(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん 

公演には長女の市川ぼたんと長男の堀越勸玄も出演する。フォトセッションからは子どもたちも登壇し、取材に応じた。当日の模様をレポートする。

■8年ぶりの『夏祭浪花鑑』

海老蔵は、『夏祭浪花鑑』で団七九郎兵衛を勤める。初役の時は、十八世中村勘三郎に役を習った。

「勘三郎のおにいさんの団七九郎兵衛を見るたび、素敵だな、いつかやらせていただきたいな、と思っていました。ある時『教えていただけませんか』とお話ししたところ、お断りするつもりでおっしゃったのでしょうね。アリゾナに行くから、アリゾナにきたら教えてやるよと。ハイ、お願いします! と申し上げた時の、おにいさんの顔を覚えています(笑)」

そして勘三郎のアリゾナの別荘で、役を教わった。

「アリゾナの稽古場で、勘三郎のおにいさんが教えてくださり、七之助さんが琴浦をしてくださって、僕が教わって。そこにはなぜか篠山紀信さんもいて、写真を撮られていて。なにか不思議な世界でした」

勘三郎から教わった内容を問われると、「事細かにたくさんのことを教えてくださいましたが、あまり言いたくない」と笑顔でかわしつつ、「大事なのは、男の絞り切った汁だと教わりました」と海老蔵。

「絞り切ったあとに出てくる、男にしかないものがある。それが出るようにがんばろう、と。団七に限らず、勘三郎のおにいさんは、役者としてそういうものを感じさせる先輩でした」

市川海老蔵

初役は、2008年4月の金丸座。その後『歌舞伎座さよなら公演』、『御園座さよなら公演』、ル テアトル銀座『三月花形歌舞伎』などで勤め、今回が8年ぶりの団七となる。

「団七にとって、義平次は義理の父親。(善人とは言えない父親だが)義理の親子として、守らなくてはならない礼儀があります。また団七は、恩人のご子息である磯之丞さまを死に物狂いで守ります。その男気のために揉め事を起こし投獄されますが、牢獄から出てきても、なお、恩義の思いは変わりません。台詞として理解はしていましたが、実際に演じたことで、団七の行動の前提にある男気への認識が変わりました。こんな男は今どきあまりいない。彼はそういう男なのだ……と。勘三郎のおにいさんからお教えいただいたことはそのままに、自分の意識が変わったことで滲み出るもの、お客様に感じていただけるものは変わってくるはず。7月の公演で、それを汲みとっていただけるよう勤めたいです」

伜の市松役を、勸玄が勤める。そして一寸徳兵衛に市川右團次、お梶に中村児太郎、そしてお辰に中村雀右衛門、釣舟三婦に市川左團次という配役。

■家族3人が揃う舞踊劇『仲国』

『仲国』は、成田屋にゆかりの深い、「新歌舞伎十八番」の『雪月花三景』の一幕。上演が途絶えていたものを、2020年1月に舞踊劇として新たな構成で復活上演した。

「コロナ禍のように災いで大変な世の中が舞台です。人間界のみならず、虫の精霊たちも出てくる物語で、仲国が祈念により災いを祓います。それを華やかな群舞に仕立てた演目です」

海老蔵が仲国を勤め、蝶の精をぼたんと勸玄が勤める。

「麗禾は2019年に四代目市川ぼたんを襲名しました。2020年5月には勸玄が新之助になる……というところ、コロナ禍で襲名披露公演が延期。彼は落胆しておりましたが、7月の舞踊、そして襲名に向けた稽古もはじまり、やる気スイッチが入ってきたようです」

市川海老蔵

親子3人で歌舞伎座の舞台に立つのは初めてのこと。

「歌舞伎座は、歌舞伎俳優にとって特別な場所。家族で歌舞伎座の1ヶ月公演をさせていただくのは、我が家としては初めてのことで嬉しいです。ただ親子が同じ舞台に立つのは歌舞伎の家では特別なことではありません。2人に伝え、渡していく作業への責任が増し、もろ手を挙げて嬉しいだけではない時期になってきましたね」

ぼたんは新橋演舞場などの歌舞伎公演には出演してきた。

「彼女の舞踊に対する熱量、向き合う姿勢は、とても真摯で真面目。真面目なだけにとどまらず、見てる人に伝わるものがある。僕は俳優として彼女をそう評価し、期待しています。歌舞伎は男の子が継いでいく世界。風習、歴史、文化諸々ありますが、彼女がいつか歌舞伎座の本興行に出られたら、と夢見て準備をしてきたつもりです。いまの時代のあり方として、これからも模索を続けたいです」

■可愛らしいか可愛らしくないか論争

フォトセッションからは、ぼたんと勸玄も参加した。ぼたんは、8月公開のアニメ映画で声優に初挑戦した。予告編で「こんばんニャン」「にゃめんニャよ~」と、愛らしい声が公開され話題となったばかり。報道陣から台詞の実演をリクエストされると、ぼたんは恥ずかしそうにためらいをみせる。それを受けて勸玄が、「にゃめんニャよ~」と代理で再現すると、海老蔵が「お前がやるなよ」とツッコミを入れたので、会場は笑いに包まれた。

(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん 

歌舞伎役者としての海老蔵と、父親としての海老蔵を、ふたりはどのように見ているのか。

ぼたんは「舞台では本当にすごいと思います。『暫』でも本当にその役に見えました。家にいるときは優しくてたくさん遊んでくれて面白いです」と明かし、「あと可愛らしい」と言い添えた。うなずいて耳を傾けていた海老蔵だが、“可愛らしい”には、「そんなはずは全然ない」と反応。勸玄が「ゲームで自分が勝った時にすごく喜ぶんです。大人ならヤッタ~! くらいでいいのに、お父さんは足の先から頭まで喜びをあらわす」「大人げない」と、楽しそうに加勢すると、「ゲームは手加減しちゃいけないんだよ!」と海老蔵は臨戦態勢に。ぼたんが「そういうところが可愛らしくみえる」と笑った。和気あいあいとしたやりとりが一同を笑顔にした。

■これからも「続・歌舞伎の道」

ぼたんは「3人で踊るのは久しぶりです。歌舞伎座に、立たせていただけるのが本当に嬉しいです」と丁寧な口調で、まっすぐに思いを語った。勸玄は「11月に新之助を襲名させていただきます。7月が堀越勸玄として最後のお芝居なので、ぜひ観にきてください。精一杯がんばります」と元気に呼びかけた。海老蔵は「2人とも“努力を私に見せたくない派”のようですが、それぞれ自分のすべきことに向き合っていると感じます」と、子どもたちへの信頼を示した。

(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん 

11月、12月には、『十三代目市川團十郎白猿襲名披露 八代目市川新之助初舞台』の公演が行われる予定だ。

「新之助から海老蔵になる時は、あまり抵抗はありませんでした。團十郎という新たな世界に入るには、大変な勇気がいります。海老蔵は愛着のある名前ですし、皆様に広く知っていただいている名前。自分のことだけを考えたら、海老蔵のままでいいのではないか、とも思えます。それでも團十郎という大きな名前を相続するのは、歌舞伎のため。きれい事に聞こえてしまったら少し違うのですが、この伝統文化の中で生きる人間として、今後はより歌舞伎のために生きていくところが大きくなっていくと思っています」

歌舞伎座「七月大歌舞伎」第二部の特別ポスター

そして、今の心境を「海老蔵の名前での舞台は少なくなっていきますが、これまでの集大成を、とは思いません。今のところ特別な感情は持たないようにしています。これからもつづく歌舞伎の道。続・歌舞伎の道という感覚でしょうか」と述べ、「7月の舞台に集中し、一所懸命勤めたいと思います」と締めくくった。『七月大歌舞伎』は、2022年7月4日(月)から29日(金)まで歌舞伎座での上演。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

『七月大歌舞伎』
日程:2022年7月4日(月)~29日(金) 休演 11日(月)、20日(水)
会場:歌舞伎座
 
【第一部】午前11時~
近松門左衛門 原作より
文耕堂・竹田出雲 原作より
勝諺蔵 原作より
奈河彰輔 脚本
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 演出

三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)
市川猿之助 市川笑也 天馬にて宙乗り相勤め申し候
 
小栗判官/浪七:市川猿之助
照手姫:市川笑也
矢橋の橋蔵/横山太郎:坂東巳之助
万屋娘お駒/岡村采女之助:尾上右近
横山三郎:市川男寅
遊行上人弟子一眞:寺嶋眞秀
横山次郎:市川青虎
横山太郎女房浅香:中村梅花
旅女房およし:市川寿猿
後家お槙:市川笑三郎
横山大膳:市川猿弥
鬼瓦の胴八:市川男女蔵
浪七女房お藤/上杉安房守:市川門之助
遊行上人:中村歌六

【第二部】午後2時40分~
 
並木千柳 作
三好松洛 作

一、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
住吉鳥居前
三婦内
長町裏
 
団七九郎兵衛:市川海老蔵
一寸徳兵衛:市川右團次
お梶:中村児太郎
琴浦:中村莟玉
伜市松:堀越勸玄
玉島磯之丞:大谷廣松
下剃三吉:市川九團次
三河屋義平次:片岡市蔵
おつぎ:市川齊入
堤藤内:市村家橘
お辰:中村雀右衛門
釣舟三婦:市川左團次

二、新歌舞伎十八番の内 雪月花三景(せつげつかみつのながめ)
仲国
 
仲国:市川海老蔵
女蝶の精:市川ぼたん
男蝶の精:堀越勸玄
虫の精:市村竹松
同:大谷廣松
同:市川男寅
同:中村莟玉
同:市川九團次
小督局:中村児太郎
仲章:中村種之助
八条女院:中村福助
 
【第三部】午後6時30分~
 
宮崎駿 原作(徳間書店刊)
丹羽圭子 脚本
戸部和久 脚本
G2 演出
尾上菊之助 演出
尾上菊之丞 演出・振付
スタジオジブリ 協力

風の谷のナウシカ(かぜのたにのなうしか)
上の巻
―白き魔女の戦記―
 
クシャナ:尾上菊之助
ナウシカ:中村米吉
アスベル/口上:尾上右近
ケチャ:中村莟玉
幼き王蟲の精:尾上丑之助
幼きナウシカ:寺嶋知世
ラステル:上村吉太朗
クロトワ:中村吉之丞
ミト:市村橘太郎
トルメキアの王妃:上村吉弥
ジル:河原崎権十郎
城ババ:市村萬次郎
チャルカ:中村錦之助
ユパ:坂東彌十郎
マニ族僧正:中村又五郎
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