「歌舞伎役者それぞれに、与えられた使命がある」中村獅童が語る『超歌舞伎2022』への思い

2022.7.27
インタビュー
舞台

中村獅童『超歌舞伎2022』

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歌舞伎俳優の中村獅童と、バーチャルシンガーの初音ミクがコラボする『超歌舞伎2022 Powered by NTT』。今年は新橋演舞場、京都南座、博多座、名古屋御園座の全国4都市で上演される。演目は『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』。大化の改新の始まりといわれる、蘇我入鹿退治を題材にした新作だ。さらに『超歌舞伎のみかた』と歌舞伎の新作舞踊『萬代春歌舞伎踊(つきせぬはるかぶきおどり)』も上演される。

獅童は、放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』をはじめ、映像作品で一流の仕事をみせながら、バラエティ番組ではお茶の間に愛され、かと思えば7月には京都・薬師寺での新たなプロジェクト『meme nippon project』に携わり、8月からは『超歌舞伎2022』。あくまで歌舞伎役者として、歌舞伎にとらわれない活躍の幅をみせる獅童に、合同インタビューで話を聞いた。

『超歌舞伎2022』澤村國矢が主演するリミテッドバージョンも!

■幕張メッセではじまり、全国4つの劇場で

2016年、ニコニコ超会議の企画としてはじまり7年。

「あっという間でしたが、よく続いたな、とも思います。新しいものを定着させるには、やはり時間がかかりますよね。初演の時点で、初音ミクさんにはすでに大勢のファンがいました。歌舞伎をみたことはないけれど、ミクさんやニコニコ超会議には馴染みがある。その方々は、すぐに『超歌舞伎』に興味を持ってくれた。歌舞伎ファンの方は、「バーチャルシンガー?」「ニコニコ超会議?」から、はじまりました。だから2019年に、京都の南座という歴史ある劇場で、古典歌舞伎に親しんでいる方々を前にやらせていただき、皆さんが受け入れてくださった時は本当にうれしかった。普段着物をお召しになるような方々まで、ペンライトを振ってくれて、次は孫を連れてくるわ! なんておっしゃってくださって(笑)。今年は新橋演舞場をはじめ、全国4会場。いずれも歌舞伎の公演をやっている劇場です」

『超歌舞伎』の存在は、歌舞伎ファンの中でも定着した。しかし、会場で見たことがない人はまだたくさんいる。『超歌舞伎』の見どころとは。

「歌舞伎がお好きな方でしたら、これは『妹背山婦女庭訓』が下敷きになっているなとか、舞踊は藤間勘十郎先生か!とか、色々お楽しみいただけると思います。でも、知識なしにもやっぱり皆さんに、理屈ぬきで楽しんでほしい。恥ずかしがらずにペンライトも振っていただいて。大人の方ほど病みつきになるみたいですね。リピーターの年齢層が高かったそうです(笑)。皆様のご声援が演出効果になる作品ですから、ぜひ参加してほしいです」 

ただし、ひとつ伝えておきたいこともある。

「初めてペンライトを持たれる方は、開演前に操作をたしかめておいてください。年配の方はね、どうしてもね……操作が遅れるんですよ。 ここぞという時にスイッチをカチャカチャしはじめて、クライマックスの一番良いところで、舞台を観ずにスイッチをみている(笑)。見逃さないでいただきたいので、はやめに劇場にお越しいただき、操作に慣れておいてください。そしてリピーターとしてお孫さんやお子さんと一緒にお越しいただいたときには、操作方法を教えてあげる。これも伝統でしょう?(笑)」

■初演は大変だった

『超歌舞伎』はバーチャルと歌舞伎のコラボレーションの先駆けだ。

「我々歌舞伎チームがやるのは、あくまで古典歌舞伎。アナログにこだわって、古典歌舞伎の動き、セリフ回し、衣装、お化粧などはそのままに、バーチャル技術とともにお見せします」

だからこそ、初演のクリエイションは、決して楽ではなかった。獅童はくしゃっと苦笑いをして、懐かしそうに振り返る。

「古典歌舞伎は、歌舞伎の約束事が頭にも体に入っている同士でやります。だから少ない稽古日数でも、本番を迎えられます。でも、デジタルチームは、当然、歌舞伎の約束事も古典の間合いも分からない。だから、意思疎通から大変苦労しました。初演では、舞台に立つとミクさんの姿がよく見えなかったり、台詞が聞こえなかったりもして。デジタルチームとアナログでぶつかることもありながら、何とか本番を迎えた。そのクライマックスに、お客さんの盛り上がりが爆発。泣いている方々の顔がたくさん見えたし、幕が閉まったあと、『スタッフさんありがとーう! 超歌舞伎ありがとーう!』って、会場のミクさんのファンの方々の声が聞こえてきた。泣いてしまうよね。僕らは握手をして終わり、次もやると決めた。2回目に繋がったのは、ファンの方々のおかげです」

(C)超歌舞伎 Supported by NTT

回を重ね、ノウハウも蓄積されていった。

「技術は年々向上されています。2回目からは舞台でも、ミクさんの美しいお姿がはっきり見えましたし、セリフもはっきり聞こえました。さらにデジタルチームが、歌舞伎の約束事や間合いまで把握してきてくれて。あとはね……ミクさんが大変稽古熱心で努力家なんですよ! 年々踊りが上達されています。我々が子どもの頃から稽古してきたことを、この7年でよくぞそこまで、というレベルまで。いつか古典歌舞伎もできるんじゃないでしょうか」

成長や進化は、舞台上だけの話ではない。

「『超歌舞伎』を応援してくれる方々、大変勉強熱心なんです。この公演は大向うも自由にやっていいのですが(※感染症対策により、現在は大向う機能付きペンライトで対応)、初演の時は“茶化すような声もかかるだろう”と覚悟していた。ところが、はじまってみたら全然そんなことはない。みんな一生懸命見てくれて、純粋な気持ちで声をかけてくれる。それが伝わってくるから、たとえ歌舞伎の間と外れていようが嬉しかった。それも年々、上手くなっていくんですよね」

(C)超歌舞伎 Supported by NTT

「生配信では視聴者の方がコメントで参加されていますが、そこでは自然と、教えあう文化もできている。ミクさんが鉄杖(てつじょう)をもって登場すれば、『なんだ、あの自撮り棒は?!』と反応する人がいる。すると詳しい人がすぐに教えてあげる。今年、陽喜(※獅童の長男)が初めて出演したので、僕の見せ場で“ちちお屋~”、陽喜には“じゅに屋~”なんてコメントの大向うもかかっていた。洒落が効いているよね(笑)。僕らは、一緒に成長しているんです。ミクさんのファンの方々と芽生えた友情を大切に思っています」

■生き残るために、中村獅童独自の生き方で

伝統と革新。かねてより獅童は、この言葉を口にしてきた。

「何もしないでいたら、今生きる演劇としての歌舞伎は、死んでしまう。その危機感、使命感ですよね。また、若い方たちに見ていただけるようになれなければ、お先真っ暗でしょう? 子どもたちに歌舞伎を知ってもらい、面白いねって古典に興味を持ってもらって、30年後40年後、最終的には歌舞伎を大好きってなってくれれば」

しかし『伝統と革新』を意識しはじめた経緯を振り返ると、次のようにも語る。

「色々かっこいいことを言いましたが、本当のことを言ってしまうと、皆と同じでは生き残れないんです。僕の父親は、はやくに歌舞伎役者を廃業してしまいました。家で受け継ぐ芸がない。たくさんの先輩方や家族に支えてもらいましたが、中村獅童独自の生き方、やり方がないと残れないんですよね」

(C)超歌舞伎 Supported by NTT

過去には「あなたが歌舞伎で主役をやるのは難しい」と言われたこともあった。しかし獅童は、歌舞伎座の本興行で、新作歌舞伎『あらしのよるに』の主役を勤め、2020年11月には古典の名作『義経千本桜』の『四の切』の狐忠信も勤めている。

「歌舞伎界には、(父から子へという)特有の継承の仕方があります。それに対し、色々なご意見もあるかもしれませんが、僕は否定的には受け止めていません。応援していた役者の子どもが、舞台に立つのを楽しみにし、父親と同じ役をやるのを一緒に喜んでいただいたり。それは歌舞伎の楽しみの一つですし、今では、僕の息子も舞台に出させていただいています。そんな中で思うのは、歌舞伎役者それぞれに、与えられた使命があるのかな……ということ。大名跡を襲名し、重圧に耐えながら戦っていく人もいる。僕みたいな人もいる。僕は自分だけのやり方、“獅童ならでは”を追求してきたつもりです」

■歌舞伎は最先端の芸能だから

見た目からは想像できないが、獅童は、9月に誕生日をむかえると50歳になる。

「年齢的にも、コロナ禍ということでも、自分をふり返り、これから自分がやるべきことを考えたりしました。そして、時代に取り残されるのが一番良くないと思った。歌舞伎は、もともと流行の最先端で傾く芸能でした。『超歌舞伎』が、奇抜な試みだと感じられることもあるかもしれませんが、もし江戸時代にバーチャル技術があったら、とっくに歌舞伎に取り入れていたと思います。この3年、世の中は良い意味でも悪い意味でもガラッと変わりました。その変化の中で、古典歌舞伎をどう見せて、届けていくか考えないといけないときに来ている。いい意味で、歌舞伎界が大きく変わるチャンスでもあるのかな」

だからこそ、時代の空気に意識を向ける。

「いま、どの客層に向けて、どんなメッセージを発信したいのか。常に意識してきたことです。あまり人と触れ合わなくても生きていける時代になり、僕は本来アナログ人間だけれど、時代の空気を知り、いろんな人たちの声を聞きたくてSNSをはじめたりもした。とはいえ、やっぱり生身の人間から受けた影響が、いまの自分を作り上げたのかなとも思う。だから、若い人たちや違う業界の人たちと会えた時は、なるべく話しをするようにしています。そこで考えたことが、次のモノづくりに繋がる。色々なことをやってきましたが、どれも、自分1人で考えてできることじゃないってことです」

(C)超歌舞伎 Supported by NTT

取材中も、獅童はしばしば記者に逆質問をしていた。

「歌舞伎をみたことある? 面白かった? なるほど、お正月公演は派手だしオールスターだし楽しみやすいよね」

そして独り言のように、アイデアを口にする。

「お正月ならではのワクワクが、僕の子供だった頃と比べて薄れている気がするんだよね。お正月恒例の『超歌舞伎』とか面白いかもしれない」

■煽りは僕くらいしかできないでしょうね

『超歌舞伎2022 Powered by NTT』は、8月4日(木)開幕の博多座公演を皮切りに、御園座、新橋演舞場、南座を巡る。

「初演の時、ミクさんファンの方々が、幕の向こうから『ありがとう』と言ってくれたのは、『バーチャルの世界に歌舞伎から来てくれて、ありがとう』の意味もあったように思います。歌舞伎は、先人と歌舞伎ファンの方たちが育ててきた。そこにバーチャルを融合して生まれた『超歌舞伎』を、初音ミクさんのファンの方たちがここまで育ててくれた。この先、僕だけでなく色々な歌舞伎役者が『超歌舞伎』をやっていいとも思うし、いずれ誰かにバトンを渡す時がくるのかな。歌舞伎だから。ただ、最後のロックコンサートのような“煽り”は、ロックバンドをやっていた僕くらいしか、できないでしょうね」

言い終わるなり、冗談ですよ? と笑いを誘う獅童。しかし煽りも含め、二代目中村獅童の型として陽喜に受け継がれる可能性は充分ある。歌舞伎だからこそ。

「たしかに。陽喜はすでに家で、よく煽っています。まだまだ! まだまだ! まだまだ、できるかあ!? って(笑)」

一部の公演には、陽喜も出演する予定。歴史を重ねていく『超歌舞伎』の4都市公演、ペンライトを振って応援してほしい。

取材・文・撮影(会見)=塚田史香

公演情報

『超歌舞伎2022 Powered by NTT』
 
出演:中村獅童 初音ミク 小川陽喜 中村蝶紫 澤村國矢 ほか
会場:新橋演舞場
 
ご観劇料(税込):
【本公演】
一等席:13,000円/二等A席:7,500円/二等B席:5,000円/三階A席:5,000円/三階B席:3,000円/桟敷席:14,000円
 
【リミテッドバージョン】
一等席:6,500円/二等A席:5,000円/二等B席:3,000円/三階A席:3,000円/三階B席:2,000円/桟敷席:7,000円
歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/752
 
2022年8月4日(木)~7日(日)博多座(福岡県福岡市博多区下川端町2−1)
8月13日(土)~16日(火)御園座(愛知県名古屋市中区栄1-6-14)
8月21日(日)~9月3日(土)新橋演舞場(東京都中央区銀座6-18-2)
9月8日(木)~25日(日)南座(京都市東山区四条大橋東詰)
 
【演目・配役】
一、超歌舞伎のみかた
 
二、萬代春歌舞伎踊
真柴秀康:中村獅童
出雲のお国:初音ミク
奴國平:澤村國矢
女奴お蝶:中村蝶紫
 
三、永遠花誉功
金輪五郎今国:中村獅童
苧環姫:初音ミク
金輪小五郎陽国:小川陽喜 ※東京公演全日程、地方公演一部日程出演
蘇我入鹿:澤村國矢
定高:中村蝶紫
 
リミテッドバージョン
永遠花誉功
 
金輪五郎今国:澤村國矢
苧環姫:初音ミク
蘇我入鹿:中村獅一
定高:中村蝶紫
 
口上:中村獅童
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