モーツァルト歌劇『偽の女庭師』を関西歌劇団がアリーナ形式で上演 ~ 指揮者、演出家、出演者に聞いた
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アリーナ形式で上演した、関西歌劇団 第100回定期公演「オリンピーアデ」(19.9.21.22 あましんアルカイックホール・オクト) 写真提供:関西歌劇団
5年前に、大阪音楽大学のオペラ公演として関西初演されたモーツァルトの歌劇『偽の女庭師』が、2022年9月、関西歌劇団第102回定期演奏会で再び上演される。
「ダ・ポンテ三部作の奇跡的な完成度は、この作品の出現が必要不可欠であった」と語る演出家 井原広樹と指揮者 牧村邦彦のコンビは、関西歌劇団の若きソリスト達と共に、神童18歳のフレッシュなオペラを通してモーツァルトの違った面を私たちに見せてくれるはずだ。
指揮者 牧村邦彦、演出家 井原広樹、そして出演者5人に、歌劇『偽の女庭師』について聞いた。
南さゆり、梨谷桃子、理事長 湯浅契、井原広樹、清原邦仁、牧村邦彦、堀口莉絵、乾彩子 (左から) (C)H.isojima
―― 上演機会の少ないモーツァルトの「偽の女庭師」を5年ぶりに指揮されます。
牧村邦彦:2017年に大阪音楽大学のカレッジ・オペラハウスで関西初演をしました。手探りで勉強を重ねて色々と発見がありました。神がかった歌劇『フィガロの結婚』以降のオペラも、10年前のこういった習作を経験したことで生まれたのではないかと、天才モーツァルトの秘めた苦悩のようなものを発見した気持になり、嬉しかったです(笑)。この作品の前年に作曲された交響曲第25番の調性、ト短調で書かれたアルミンダのアリアは、この曲のためにホルンが4本使われていますし、トランペットとティンパニは全曲を通して、1曲だけにしか登場しません。贅沢というか、不経済な楽器編成は、限られた予算内でオペラ制作を行う我々の頭を悩ませます(笑)。若書きの曲だけあって、作曲技法的には後期の作品と比べると未熟な部分もありますが、色々なスタイルの曲調と、後の作品の萌芽が見て取れるので、非常に面白いです。
指揮者 牧村 邦彦 写真提供:関西歌劇団
―― 5年前の「偽の女庭師」を演出されたのは井原さんです。今回、演出面で大きな違いは何処になりますか。
井原広樹:いちばんの違いは、360度客席となるアリーナ形式での上演となることですね。会場の吹田メイシアター中ホールは、音響や舞台機構が演劇仕様になっているところが、音楽をやる上でネックとなります。ただ、アリーナ形式でステージ周りを跳ね上げると、反響版代わりとなり、音響は格段に良くなります。空間的にも濃密で、オペラをやるのには面白いと思います。四方からお客様の視線を感じながら歌う経験は、キャストの皆様には刺激的だと思います。お客様には好評ですし、他ではやっていない試みという事で、文化庁の評価も良いようです。
『偽の女庭師』美術イメージ 写真提供:関西歌劇団
―― 『偽の女庭師』は、前回の公演を観るまでは、あらすじを読んでいても良く分からなかったのですが、実際に観たら面白かったです。
井原:それは良かったです(笑)。話は相当に荒唐無稽です。先ほど牧村さんから『フィガロの結婚』の話が出ましたが、ダ・ポンテやメタスタージオの台本は完成されていて、どうして自分がそこに近づくかといった絶対的な作品です。それに比べて『偽の女庭師』は、テキストを大切にしながらも、ストーリーをコチラで動かす必要があります。構成力ではなく、キャストのチカラで魅せる作品なので、演出家として遣り甲斐はあります。
演出家 井原 広樹 写真提供:関西歌劇団
―― 井原さん、今回の公演で市長のドン・アンキーゼ役は、清原邦仁さんだけが2公演、シングルキャストとなっています。
―― 清原さんは前回の関西初演の時と同じドン・アンキーゼ役をシングルキャストで務められます。
清原邦仁:気が付けば、出演者の中で最年長(48歳)になってしまいました。ドタバタ喜劇のようなオペラがまた出来る事が嬉しいです。教訓めいたものは一切ありません。観終わった後に、吉本新喜劇を観た後のように爽快な気分になって頂ければと、そこを目指して頑張っています(笑)。このオペラはアリアが多く、アリアがお芝居になって行く感じだと思います。5年前は手探りで作って行った事を思い出します。『フィガロの結婚』、『コジファン・トゥッテ』、『ドン・ジョヴァンニ』のレチタティーヴォ・セッコ(チェンバロを伴奏に、歌うように台詞を語る事。叙唱)を知っている人なら、絶対ここに和音が行くだろうと思っていると、思いがけない和声展開で、沼地に足を取られるような思いを何度も味わいます(笑)。それでも歌っていると、紛れもなくモーツァルト!を感じるオーケストレーションもあって…。このオペラを2度も歌わせて頂けることに感謝しています。
清原 邦仁(ドン・アキーゼ役) 写真提供:関西歌劇団
―― アリーナ形式の舞台は大変でしょうね。
清原:360度お客様に囲まれて歌うのは大変ですよ。常に見られているので、気が抜けませんから。普段のオペラでは言葉のやり取りの中で、気持ちを切り替えたりしながらも、息を吐く瞬間があるのですが、アリーナ形式ではなかなかそうはいきません。しかし、最近の若い子は頭が柔らかいと言うのか、このようなオペラでも、どんどん進んで行くのが凄いです。
アリーナ形式のオペラはコチラ。 関西歌劇団 第100回定期公演「オリンピーアデ」(19.9.21.22 あましんアルカイックホール・オクト) 写真提供:関西歌劇団
通常スタイルのオペラはコチラ。 関西歌劇団 第101回定期公演「アドリアーナ・ルクヴルール」(21.9.25.26 吹田メイシアター 大ホール) 写真提供:関西歌劇団
―― 梨谷桃子さん、ヴィオランテ(サンドリーナ)役について抱負をお願いします。
梨谷桃子:大学卒業後、関西歌劇団に所属していましたが、イタリアに留学をしていたことも有り、本公演には今回初めて出演させて頂きます。『偽の女庭師』はもちろん初めて歌うオペラですが、他のオペラと比べても、それぞれの人物像や人生のストーリーがはっきりしていていると思います。私が演じるヴィオランテは、目的のために自分がボロを着てでもそれを成し遂げるとても強い女性です。同時に、とても愛情深い人でもあります。そんな彼女が、葛藤しながら生きている様を演じられるよう頑張ります。
梨谷 桃子(ヴィオランテ役) 写真提供:関西歌劇団
―― 堀口莉絵さん、ラミーロ役に挑む上での抱負をお願いします。
堀口莉絵:配役が決まった当初は、前回のアリーナ形式のオペラ、ペルゴレージ作曲『オリンピーアデ』のリーチダ役と似た感じかと思っていたのですが、男性を演じるところは同じですが、役的には全く違いました。芝居の中ではスパイス的な役割ですが、これまで学んで来た歌唱技術では足りないことも分かりました。あらたなテクニックをしっかり習得したいです。あと、体力的にも、走り込みは欠かせないと思っています。
堀口 莉絵(ラミーロ役) 写真提供:関西歌劇団
―― セルペッタ役の南さゆりさん、お願いします。
南さゆり:今年の5月まで3年半ほどイタリアに留学していました。今年の5月に戻って来たばかりです。以前はソプラノでも少し重めのレパートリーを歌っていましたが、イタリアで軽めのレパートリーを勉強して来ました。実は、2017年の『偽の女庭師』に、アルミンダ役で出演させて頂きましたが、今回は人間味が有って、チャーミングで憎めない小間使いのセルペッタ役で出演させて頂きます。戻って来てすぐに大きな舞台の出演が決まり嬉しいです。これまで経験したことのない役ですが、この機会に新たな表現方法や立ち居振る舞いなどを、しっかり勉強したいです。面白い役だったねと言って貰えるように頑張ります。
南 さゆり(セルペッタ役) 写真提供:関西歌劇団
―― 乾彩子さんも、ダブルキャストでセルペッタ役を演じられます。
乾彩子:今回が関西歌劇団のオペラデビューとなります。関西歌劇団の公演は、高校生の頃から見て来ているだけに、率直に嬉しいです。『偽の女庭師』は、関西初演だった前回公演を拝見しています。私はモーツァルトの音楽が大好きですが、このオペラを観た時はモーツァルトらしさが出来上がる前の作品ということで、新たな発見がたくさんあって、印象に残っていました。セルペッタはとても人間味がある役ですが、自分の性格とは違う所も多く、役作りには苦労しています。今回、このオペラのこの役でデビューさせて頂けて大変光栄です。皆様に喜んで頂けるように、しっかり演じたいと思っています。
乾 彩子(セルペッタ役) 写真提供:関西歌劇団
―― 牧村さん、今回アリーナ形式になることで、オーケストラとして危惧される点などありますか。
牧村:どんな音になるか、実際のところは会場に行ってみないとわかりません。歌手から指揮者が見えるかなども、現地に行ってからですね。響きなど不安な点もありますが、オーケストラがオペラを知り尽くしたザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団というのは心強いです。オペラブッファなので、楽しんでやりたいです。
『偽の女庭師』稽古風景 写真提供:関西歌劇団
『偽の女庭師』稽古風景 写真提供:関西歌劇団
―― コロナの感染対策は、何か考えておられますか。
井原:練習場も万全な対策を行っていますし、PCR検査と抗原検査を使い分けながら進めています。会場の吹田メイシアターとも定期的に打ち合わせをし、席の配置や客席では歌わないことなどを確認しています。やれることをやった上で、今回は演奏会形式ではなく、オペラを上演します。
2017年『偽の女庭師』関西初演の取材時の写真。オーケストラ・スコアを前に牧村邦彦と井原広樹。 (C)H.isojima
関西初演から5年が経過。関西歌劇団『偽の女庭師』のチラシを手に、井原広樹と牧村邦彦。 (C)H.isojima
―― ありがとうございます。井原さん、最後に「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。
井原:笑って泣かせて、最後は幸せになれるオペラです。上演機会の少ないオペラなので、この機会を外すと、二度と見られないかもしれません。ぜひ、吹田メイシアターまでお越しください。皆様のご来場をお待ちしています。
皆さまのご来場を吹田メイシアター 大ホールでお待ちしています! (C)H.isojima
公演情報
「偽の女庭師」
■指揮:牧村邦彦
■演出:井原広樹
■管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■合唱:関西歌劇団合唱部
■出演:17(土)、18日(日)の順に表記
ドン・アンキーゼ 清原邦仁(両日)
ヴィオランテ 梨谷桃子/東里桜
ベルフィオーレ 伯爵 近藤勇斗/孫勇太
アルミンダ 末廣早苗/黒田恵理
ラミーロ 堀口莉絵/北野知子
セルペッタ 南さゆり/乾彩子
ナルド 伊藤友祐/迎肇聡(客演)
※やむを得ない事情により出演者・スタッフが変更になる場合があります。
■日時:
2022年9月17日(土)16:00開演(15:15開場)
2022年 9月18日(日)14:00開演(13:15開場)
■会場:吹田市文化会館メイシアター中ホール
■入場料:S席/8,800円 A席/6,600円 学生席/2,200円
■問合せ:関西芸術振興会・関西歌劇団 TEL 06-4801-8185
■公式サイト:https://www.kansai-opera.co/