【公演レポート】師・牧阿佐美への想いをこめて牧阿佐美バレヱ団『飛鳥 ASUKA』開幕

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2022.9.3
 撮影・瀬戸秀美

撮影・瀬戸秀美

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2022年9月3日(土)・4日(日)、牧阿佐美バレヱ団では『飛鳥 ASUKA』(以下「飛鳥」)を、2021年秋に世を去った故・牧阿佐美の追悼公演として上演。「飛鳥」は1957年に牧の母である橘秋子が、日本生まれのグランド・バレエを世に送り出そうと振付・初演した作品を元に、2016年に牧がリメイクし、新たによみがえらせたもの。バレエ団初となるウラジオストクでの海外公演の演目となるなど、師弟でもある母娘の想いやバレエ団の歴史を綴る作品でもある。今回は初日の公演に先立ち行われたゲネプロ(総通し稽古)をレポートする。(文章中敬称略)

【動画】牧阿佐美バレヱ団 2022年9月公演「飛鳥-ASUKA-」P.V.

 

■細やかな演技・仕草一つひとつが物語を生む。師匠の教えを形に

 
物語の舞台は古の飛鳥の都。香土の宮(かぐつちのみや)の舞姫・春日野すがる乙女(青山季可)は竜神(菊地研)に見初められ、妃のしるしとなる珠玉を授けられる。幼馴染みの岩足(清瀧千晴)の想いと竜妃となる運命の間で揺れ動くすがる乙女だが、珠玉を手にした者の逆らえない運命を悟り、岩足に別れを告げ竜神の世界へと昇っていく。しかし竜神の妃である黒竜(佐藤かんな)すがる乙女の存在に激怒し……。


物語世界は1幕が人間の住まう飛鳥の都、2幕は竜神が君臨する竜の国である。舞台セットはプロジェクションマッピングを用いた映像で、古代の都や清々しい滝壺、荘厳な奥の院の庭などが映し出される。映像ではあるが、揺れる草木、空気の流れを意識したかのような味わいが感じられるのは、創り上げた側のこだわりだろうか。また人間界と竜の国、二つの世界の往来を表す演出はプロジェクションマッピングならではの手法といえよう。

幕が開き、人々が集まる儀式の広場に最初に登場するのは、すがる乙女に思いを寄せる岩足である。2人の思い出の象徴たるこぶしの花を手渡したいが、やんごとなき舞姫となったすがる乙女に近づくことができない。清瀧の岩足からは動き一つひとつから、純粋で繊細な、一途でひたむきな思いが伝わる。

対するすがる乙女の青山は、彼女らしい凛とした、透き通った決意が感じられる女性。彼女が仕える竜神は芸の神の象徴であり、したがってすがる乙女は芸に身を捧げる巫女。先だって行われた会見で青山は「牧先生にこの役を踊る覚悟があるか」と聞かれたというが、まさにその「覚悟」が滲む姿だ。

しかしながら凛とした乙女も、絶対的な存在・竜神に見初められることで心が揺らぐのだろう。青山や4日にすがる乙女役を踊る中川郁らは「仕草や踏み出す一歩など、動きで物語や感情を伝えるということをご指導いただいた」と語ったが、青山の踊り・演技はまさにその言葉を思い起させる。大仰な演技はないのだが、仕草や目線が岩足へ想いや別れの決意、竜妃として冠を授けられる誇り、黒竜の罠で再び甦る岩足への慕情などが手に取るように伝わってきた。師匠の言葉一つひとつを丁寧に舞台に乗せようとする、そのような思いも感じられる。


 

■菊地演じる竜神の存在感。ヴァリエーションを踊るダンサーらにも注目

一方、絶対神として君臨する竜神・菊地の存在感もさすがという味わい。特にポイントとなるのが嫉妬に狂う黒竜とのやり取りのシーンであるが、先だってのインタビューでは「感情を増幅しすぎないようにしたい」と語り、しかしその後日の会見では「やはり黒竜とのやり取りでは激情が沸き起こってしまう」など、役作りの苦心を語っていた。
そうしたなかで迎えたこのゲネプロ、高ぶる怒りを抑えながらも身体では平常を装うとする様子が見て取れ、激昂に震えながらも自身を律しようかという心の葛藤が空気を震わせているかのよう。この迫力、本番ではさらにどう炸裂するのか、実に興味深いところだ。

また2幕は新たな竜妃を迎える竜の世界の祝祭が中心で、青竜、紅竜、銀竜など様々な竜たちのディベルティスマンが続くのは、古典バレエの様式を踏襲したかのような味わい。なかでも紅竜を踊った水井駿介は1幕のクライマックスからもハッとするような存在感があり目を引く。彼は4日の岩足役でもあり、菊地が水井を称して「牧先生の指導を受けていない新しい風であり、作品を進化させ未来に繋ぐ存在」と語ったキーマンとして、注目したい。

このほか竜剣の舞を踊る阿部裕恵の小気味よさと優雅さが感じられる踊りは注目。竜神の使い役、ラグワスレン・オトゴンニャムの不気味な存在感も目が離せず印象深いものがある。
物語の顛末は敢えて語らないが、岩足の終始ブレない想いが、静かに物語を貫いていた。

取材・文=西原朋未

公演情報

牧阿佐美バレヱ団 牧阿佐美追悼公演
『飛鳥 ASUKA』(全幕)


■日時:2022年9月3日(土)、4日(日)/15:00開演(両日とも)
■会場:東京文化会館大ホール

■指揮:デヴィッド・ガルフォース
■演奏:東京オーケストラMIRAI
■改訂演出・振付:牧阿佐美(「飛鳥物語」 1957年初演 台本・原振付:橘秋子)
■作曲:片岡良和
■美術監督:絹谷幸二
■映像演出:Zero-Ten
■照明プラン:沢田祐二
■衣装デザイン:石井みつる(オリジナルデザイン)、牧阿佐美
■芸術監督:三谷恭三
■出演:
春日野すがる乙女(かすがのすがるおとめ):青山季可(3日)、中川 郁(4日)
岩足(いわたり):清瀧千晴(3日)、水井駿介(4日)
竜神:菊地 研(3日、4日)
黒竜:佐藤かんな(3日)、田切眞純美(4日)
竜神の使い:ラグワスレン・オトゴンニャム(3日、4日)
竜剣の舞:阿部裕恵(3日、4日)
牧阿佐美バレヱ団
 
■公式サイト:https://www.ambt.jp/
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