THE BACK HORN 豪雨と雷鳴と音楽が容赦なくバトルした、『「KYO-MEI ワンマンライブ」~第四回夕焼け目撃者~』東京公演をレポート
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「KYO-MEI ワンマンライブ」~第四回夕焼け目撃者~ <東京公演>
2022.9.24 東京・日比谷野外音楽堂
夕焼けは見られなかったが、代わりに我々は決して忘れえぬ光景を見た。9月24日、『THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンライブ」~第四回夕焼け目撃者~』の東京公演。それは豪雨と雷鳴と音楽が容赦なくバトルする、とんでもなくワイルドな体験だった。
身の危険を感じるほどの悪天候だが、開演前に「雷レーダーを逐一チェックしている」というアナウンスが観客を落ち着かせていたらしい。バンドは定刻の17時半に登場し、状況には委細構わず猛然と演奏を開始する。曲は「幾千光年の孤独」、「金輪際」、そして「涙がこぼれたら」。わき目もふらず、という表現がぴったりの鬼気迫る演奏だ。山田将司(Vo)が「ようこそ、第四回夕焼け目撃者へ。俺ららしい最高の天気ですね」とひとこと。今ピカリと光ったのは照明か稲光か。劇的な、あまりに劇的なオープニング。
「こういう時は音楽に没頭して、素晴らしい夜にしましょう」
松田晋二(Dr)のMCにかぶせて激しい雨は降り続ける。山田がエレクトリックギターを構えて「情景泥棒」を歌い、菅波栄純(Gt)がスライド奏法を駆使して「ファイティングマンブルース」を弾く。松田と岡峰光舟(Ba)の鉄壁リズム隊が、ヘヴィメタリックな重さとファンキーなバウンスを兼ね備えた「悪人」のリズムを叩き出す。山田がステージ前に飛び出して、雨粒を全身に浴びながら「疾風怒濤」を歌ってる。クラップを求める仕草に、満員の観客が一斉にクラップで応える。レインウェアの袖から雨が舞い込むのなんて気にしない。圧巻は「カラビンカ」だ。グランジなギターリフ、サイケでダビーなエフェクト、猛烈にヘヴィでダークな疾走感。なぜ栄純がギターを外してひょこひょこ踊りだす。解析不能の不思議なパワーに満ち溢れた曲。
「虫が鳴いてるね」
山田がぽつりとつぶやき、ゆったりとスローテンポで浮遊する「何もない世界」を歌い出す。雨音が消えた代わりに、一斉に鳴きだした虫の音が聞こえる。何もない、何もない、何もない。夏の終わりを歌う哀感が、今の野音の光景にぴたりとハマる。さらに「I believe」から「ひとり言」へ、スローセクション3曲の持つ、物寂しくも凄みある雰囲気がいい。「ひとり言」はいつどこで聴いても魂揺さぶられる曲だが、今日はとりわけ格別だ。嘆願するように、泣き叫ぶように、祈りを捧げるように、うずくまり立ち上がり、激しく歌い続ける山田から目が離せない。バンドが一丸となり奏でる静と動の劇的なコントラスト。開演から1時間、ここがちょうどライブの折り返し地点。
「予報は当たらないね。予報は外れても期待は外さないよ」
夕方までに雨は止むだろうという天気予報が外れたことを、洒落た言葉に置き換える山田。レインウェアを着こんだ観客席を見て「キノコの菌みたい」と言う光舟の言葉に笑いが起きる。楽屋話をそのまま持ち込んだような、まったりトークはいつもと何も変わらない。今日がライブ初披露だという「輪郭」は、ピアノとリズムを入れたトラックと生バンドの演奏の精密な融合がかっこいい。そしてTHE BACK HORNのライブではすでにアンセムになったと言っていい「瑠璃色のキャンバス」。魂の歌を歌おう、この場所で。2022年9月24日、日比谷野音の記憶に深く刻まれる、魂こもる熱演。
「野音は何度やってもいいですね。暗闇の中に音楽があって、光がともる感じがする。音楽、どうもありがとう」
山田が詩的な言葉を吐き、「みんなの光がほしいです」と呼びかける。照明を落とし、観客がかざすスマホのライトの中で演奏された「世界中に花束を」は、客席から見ても十分に美しかったが、ステージから見る光景は格別だっただろう。光の花束が客席で揺れ、音楽が高まり、まばゆい光がステージから放たれる。THE BACK HORNはいつも、闇を切り裂く希望の光を歌う。
さあ、ライブは終盤だ。山田が「行けるか!」と何度も叫ぶ。猛烈なスピードとエナジーにあふれる「希望を鳴らせ」ほど、ラストスパートの1曲目にふさわしい曲はない。山田がステージ前へ駆け出す。「Running Away」で観客が拳を天に突き上げる。今が盛りの「ヒガンバナ」は、秋の野音にぴったりの選曲だ。そして間髪入れずに始まった大定番曲「コバルトブルー」。このスピード、この熱気、この焦燥、この純粋、これがTHE BACK HRON。光舟が何度も両手を突き上げて観客を煽る。山田はステージに倒れ込みそうになりながら叫び続ける。ラストチューン「刃」は、もはや叫びだ。栄純がシールドを引きずってお立ち台に駆けあがる。フロント3人の暴れっぷりがすごい。ラストは全員が拳を掲げてゴールラインを一気に駆け抜ける。なんという連帯感、高揚感、そして達成感。
アンコールは、ツアーTシャツに着替えてリラックスモード。山田は「Tシャツ着ると子供みたいになっちゃう」と言って黒い衣装のまま笑ってる。ステージ後方を彩るバックドロップは栄純+光舟による力作で、「疫病退散的な」(栄純)ものらしい。見えない敵との戦いは続くが、音楽は鳴りやまない。鳴りやませない。山田のアコースティックギターと栄純のハーモニクスが美しい前半から、ぐっとラウドに盛り上がる「風の詩」。山田が「また生きて会おうぜ!」と叫び、バンドが一丸となって突進する「導火線」。そして体力気力の最後の一滴を絞り尽くすまでバンドは歌い奏で、観客が盛大な手拍子で呼応する「太陽の花」。およそ2時間15分、全22曲を全力でやりきってステージを去る4人へ、感謝とねぎらいの拍手が鳴りやまない。
終演の瞬間を待っていたように、また雨が落ちてきた。これも野音、これが野音。夕焼けは見られなかったが、代わりに我々は決して忘れえぬ光景を見た。THE BACK HORNのライブはいつだってドラマチックで、あくまでもストイックで、とことんまでロマンチック。だから行くのをやめられない。
取材・文=宮本英夫 撮影=橋本塁[SOUND SHOOTER]
セットリスト
2022.9.24 東京・日比谷野外音楽堂
01. 幾千光年の孤独
02. 金輪際
03. 涙がこぼれたら
04. 情景泥棒
05. ファイティングマンブルース
06. 悪人
07. 疾風怒濤
08. カラビンカ
09. 何もない世界
10. I believe
11. ひとり言
12. 輪郭
13. 瑠璃色のキャンバス
14. 世界中に花束を
15. 希望を鳴らせ
16. Running Away
17. ヒガンバナ
18. コバルトブルー
19. 刃
<ENCORE>
20. 風の詩
21. 導火線
22. 太陽の花
プレイリスト
2022年9月24日(土)東京・日比谷野外音楽堂、10月1日(土)大阪・大阪城野外音楽堂 セットリスト
https://jvcmusic.lnk.to/THEBACKHORN_202209241001