話題のみつなかオペラ、今年はモーツァルトの歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』~ 演出 井原広樹、指揮 牧村邦彦、出演 山口安紀子・十合翔子・迎肇聡・古屋彰久・村岡瞳・松森治に聞く
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第30回みつなかオペラ モーツァルト歌劇『ドン・ジョヴァンニ』(2021.12.11~12 みつなかホール) 写真提供:みつなかホール
兵庫県川西市のみつなかホールで毎年開催される “みつなかオペラ”。
客席数が500席にも満たない劇場が作り出すオペラは、クオリティの高さと、玄人受けする内容で、オペラファンはもとより、音楽関係者も注目しているプロダクションだ。
第30回みつなかオペラ モーツァルト歌劇『ドン・ジョヴァンニ』(2021.12.11~12 みつなかホール) 写真提供:みつなかホール
今年(2022年)の みつなかオペラ は、2022年11月5日・6日、モーツァルト屈指のアンサンブルオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』を上演する。安易な挑発に乗って繰り広げられる恋人たちのラブ・ゲームの先に、現実と直面した当事者たちが下した決断とは。
ダブルキャストのうち、初日組の出演者にハナシを聞いた。
11月5日(土)初日組(村岡瞳、山口安紀子、十合翔子、迎肇聡、松森治 前列左から) (C)H.isojima
―― フィオルディリージ役の山口安紀子さんから、役の説明とどういう風に演じようと思っているかをお願いします。
山口安紀子:フィオルディリージ役は今回が初めてです。年齢的には18歳くらいでしょうか。芯の強い女性で、フェランドの強力な誘惑にも簡単には屈しませんが、最後の最後に落ちてしまいます。その辺りの気持ちの変化を丁寧に演じられればと思っています。みつなかオペラには、今回初めて参加させていただきます。クオリティの高いオペラをやられていて、お客様も目の肥えたオペラ好きの方で客席は満杯のイメージを持っています。ドラベッラ役の十合さんとは今回が初めてですが、すっかり打ち解けています。
フィオルディリージ 山口安紀子 写真提供:みつなかホール
―― では、ドラベッラ役の十合翔子さん、お願いします。
十合翔子:ドラッベラは二度目です。とても素直な女性で、興味のある事には、積極的に行動するタイプだと思います。1幕のレチタティーヴォ・セッコでは相槌を打つような場面が多いのですが、2幕に入ると俄然、自分から歌いだすことも有り、10代の女性にありがちな、感受性豊かな気持ちの変化を上手く描ければと思っています。山口さんは大学の先輩で、声量が豊かでドラマチック。一緒に歌っていて、刺激を貰っています。みつなかオペラは今回初めて出演させていただきます。学生時代、先生方が出演されているオペラというイメージが強かったので、自分が出演することがなんだか不思議です。
ドラベッラ 十合翔子 写真提供:みつなかホール
―― グリエルモ役の迎肇聡さん、お願いします。
迎肇聡:実は今年の夏から、立て続けにモーツァルトのオペラをやっています。『魔笛』のハイライトに始まり、『偽の女庭師』、『フィガロの結婚』そして今回の『コジ・ファン・トゥッテ』がラストで4本目。指揮はすべて牧村邦彦マエストロです(笑)。これって、凄くないですか?モーツァルトがこれほど続くことも偶然ですが、牧村マエストロとこんなにもご一緒出来て幸せです。牧村マエストロのイメージですが、本番に向けてどんどん格好良くなられます。以前、「本番はこんな風に歌いたいのですが。」と言った時、「本番は好きに歌ったら良いよ。俺がちゃんと付けたるから任せとけ!」って仰っていただいて。惚れましたね(笑)!
指揮者 牧村邦彦による稽古シーン (C)H.isojima
グリエルモのイメージですが、フェランドとは違い堅物です。攻撃型ではなく、どちらかと云うと、守りに徹する手堅い男性のイメージが強いです。ただ、今回のグリエルモは、手櫛で髪をかき上げるような、少しワイルド系と演出の井原さんから聞いているので、楽しみです。みつなかオペラには、お陰様で何度も出演しています。牧村マエストロ、演出の井原広樹さん、合唱指揮の岩城拓也さんが毎回固定で、合唱団の中にも、古くから参加されているメンバーがいらっしゃいます。ファミリー色が強く、それでいて馴れ馴れしく無く適度に新鮮な、居心地のいいプロダクションです。
グリエルモ 迎肇聡 写真提供:みつなかホール
―― デスピーナ役の村岡瞳さん、お願いします。
村岡瞳:以前、ドラベッラをやったことがあります。デスピーナは前からやってみたかった役です。声的には今まで勉強して来たものとは違い、新たにタイプの違うモノに挑戦する気持ちです。二人姉妹の小間使いですが、とても利発で経験豊富。色々な事を知っているという設定です。年齢的には二人より少し上で、物語を作って行く重要な役どころです。みつなかオペラには、昨年の『ドン・ジョヴァンニ』のゼルリーナ役に続いて2度目の参加です。実力者が集う大きなプロダクションで、刺激的な時間を過ごしています。
デスピーナ 村岡瞳 写真提供:みつなかホール
―― 松森治さん、よろしくお願いします。
松森治:ドン・アルフォンゾは男性二人の大学の先生で、50歳くらいでしょうか。賭けに勝ち、女の子の浮気が発覚して、ざまあみろという事ではなく、男性二人には現実を受け入れて、今後の人生に活かすように諭しているのだと思います。姉妹に対しては愛情を持って接し、ハナシを穏便に収めてあげたいと願っています。アルフォンゾは、ドン・ジョヴァンニの流れを汲むと言いますか、女性経験も豊富で、すべての女性を愛していて広い心で受け止める、そういう感じが出せたらなあと思います。みつなかオペラには随分お世話になっています。昨年の『ドン・ジョヴァンニ』では、レポレッロ役で出演させて頂きました。
ドン・アルフォンゾ 松森治 写真提供:みつなかホール
――ありがとうございます。いきなり核心ですが、この二組のカップルは、すんなり元のサヤに収まるのでしょうか。色々な演出が存在します。
松森:演出の井原さんは、ハッピーエンドにしたいようです。
山口:最後は全員揃って歌って終わっているので、色々あったけれど仲直り、という気持ちでモーツァルトは書いているのだと思います。なので、深読みせずにハッピーエンドで終わった方が良いと思います。実際には難しいでしょうね(笑)。
迎:自分の恋人フィオルディリージに関しては浮気なんて有り得ないと思いつつ、友達の彼女ドラベッラを口説いているのは、ゲーム感覚で面白がっているのだと思います。結局女性も男性も同じでした、チャンチャン。という感じで納められればと思っています。
十合:ドラベッラで言うと、許嫁として決められていたので当たり前のようにフェランドと付き合っていたのが、ひょんなことから自分発信でグリエルモに対して恋心を持ってしまった。そのあたりの高揚感は、しっかり見せていきたいですね。
深読みせずにハッピーエンドで終わった方が良いと思います。 (C)H.isojima
迎:楽譜や音楽的なことはいったん離れてですが、オペラが終わるころには、グリエルモはドラベッラと恋人同士という感覚になるのですが。フィオルディリージ役の山口さんはいかがですか?
山口:私も相手はフェランドという気持ちになりますよ。だって物語の大半を、フェランドと一緒に動いているので、そっちの方がしっくり来るとは思います。
―― なるほど。ただ、今回はその辺りは見せないという事ですね。ドン・アルフォンゾはデスピーナの事は認めているのですか。
松森:すごく利発で、経験も豊富なので、上手く抱き込まないと賭けをする上で厄介な存在になると思って、懐柔に出ます(笑)。
村岡:アルフォンソとデスピーナの関係は、ドン・ジョヴァンニとレポレッロとの関係のように映るかもしれませんね。そのあたりは意識して役作りを行っています。
初日組の稽古シーンから (C)H.isojima
初日組の稽古シーンから (C)H.isojima
―― 迎さん、このオペラは何度もやられているのですか。アンサンブルオペラという事で、出演者同士の声質なんかの相性は如何ですか。
迎:2度目ですが、抜粋でアリアを歌う事はよくあります。全体の歌手の声質は、オーディションで制作チームが考えられていると思いますが、今回はスタイルや身長なんかも考慮して決められたのではないかと、女性姉妹を見ていて思っています(笑)。
終始、和やかな取材。このプロダクションを象徴するように感じた (C)H.isojima
―― ダブルキャストの相手は意識するものでしょうか。
迎:あまり意識はしません。この人のこういう所は良いなぁと思って聴いています。
松森:前向きな気持ちで意識して、互いに高め合えればいいと思います。
―― 今回の初日組のセールスポイントは何でしょうか?
松森:パワフルな姉妹ユニットを見に来て欲しいです。声も存在感もインパクトが強いです(笑)。みつなかオペラは初めてという事ですので、ぜひご覧になって頂きたいです。他には、合唱団の頑張りも見て頂きたいです。自分たちが歌うところ以外でも色んな所に登場して、オペラを意欲的に盛り上げてくれています。
合唱団の頑張りもこのプロダクションの魅力 写真提供:みつなかホール
稽古は本番会場のみつなかホールを使って行われる 写真提供:みつなかホール
迎:みつなかオペラの本番から3か月後に、大阪音楽大学でも大学3年生から大学院生までが出演するオペラがあります。今年は井原さんの演出で、『コジ・ファン・トゥッテ』をやるので、それと比較して観て頂いても面白いと思います。
松森:音楽を学ぶ学生さんにも、今回の『コジ・ファン・トゥッテ』から多くの事を学び、自分たちの学業に活かして欲しいです。見に来て頂いて、自分たちもこんなクオリティの高いオペラに出たいと思ってもらえると、こちらも励みになります。
迎:みつなかホールは、大阪音楽大学から一番近いホールなので、大音の学生は意識してくれていると思います。
―― 最後に、山口さんから『コジ・ファン・トゥッテ』に向けた抱負をお願い出来ますか。
山口:演出の井原さんからは、私がイタリアに住んでいたことがあるのを御存じなので、具体的な人物に例えた要求が多いです。十合さんもイタリア留学の経験がお有りなので、レチタティーヴォ・セッコでは、イタリア人がしゃべっているように歌い、リアルなイタリア人姉妹を一緒に頑張りたいです。
レチタティーヴォ・セッコでは、イタリアの姉妹がしゃべっているように歌いたいです (C)H.isojima
―― 今後の活動で、主だったものが有れば教えてください。
山口:11月20日にふくやま芸術文化ホールで、島田荘司さんの新作オペラ『黒船』に出演が決まっています。
―― ありがとうございます。十合さん、公演に向けた抱負をお願いします。
十合:私は神戸出身で、神戸女学院大学を卒業後、新国立劇場オペラ研修所で研鑽を積むため、すぐに上京しました。そして2020年からは、イタリアのボローニャに留学したため、関西でのオペラ出演は、今回の公演が初めてです。ようやく家族や友人知人の前で歌えるため、かなり気合が入っています(笑)。なかなか東京まで見に来てとは言えなかったので、ようやく私が歌っているオペラを観てもらう事が出来そうです。コロナも落ち着き、歌える環境も整って来たので、お越しいただけると嬉しいです。
みつなかオペラが終わった後は、12月22日、ザ・シンフォニーホールで行われる『オールスター紅白オペラ歌合戦』に出演します。
みつなかホールでお待ちしています (C)H.isojima
――村岡さん、お願いします。
村岡:大好きなモーツァルトのオペラを、昨年に続きみつなかの舞台で出来る事が嬉しいです。初めて挑むデスピーナは、立ち居振る舞いや表現方法など勉強すべきことが多いのですが、しっかりやりきって、見て頂いたお客様に喜んで頂けるよう頑張ります。
みつなかオペラ終了後は、12月17日に地元の奈良県文化会館国際ホールで『万葉集』という演奏会形式のオペラに出演します。
初日組の稽古シーンから (C)H.isojima
―― では迎さん、お願いします。
迎:ロココの時代ではなく、現代風に設定を変えて若い人にも違和感なく見て頂けるように色々と演出面でも工夫が図られています。ぜひご覧になって頂きたいです。
みつなかオペラ終了後は、松井和彦作曲『泣いた赤鬼』で、滋賀県と北陸の学校巡回公演を行います。11月8日に滋賀県立文化産業会館イベントホールは一般の方もお越し頂けます。
―― 松森さん、おねがいします。
松森:みつなかホールの魅力の一つに、熱いオーディションが挙げられると思います。特定のオペラ団体や学校だけが参加する訳ではなく、色々な団体が垣根を越えてオープンに実力者たちも参加した、熱いオーディションが毎回行われています。それは、これまでやって来たことの実績が評価され、ブランドとして信用されてきた証だと思います。今回もしっかり結果を残すことで、色々な歌い手の方に刺激を与えられるだけの実績を残さないといけないと思っています。
このオペラが終わった後は、来年3月にびわ湖ホールプロデュースオペラ ワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』に出演します。
みつなかオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』~恋人たちの学校~ にご期待ください (C)H.isojima
今回、フェランド役の古屋彰久さんは都合により参加頂けず、別にお話を伺いました。
古屋彰久:『コジ・ファン・トゥッテ』のフェランド役は何度か演じさせていただいています。ストーリーや音楽がどんどん展開していくスピード感のある作品ですので、本番まで、必死に駆け抜けていこうという気持ちで挑んでいます。フェランドは熱い男です。ロマンチストで、まっすぐで、少し融通のきかない、でもお調子者で、ザ・テノール、というか。そんなお調子者でまっすぐな男がこのお話でどう変化していくのかを楽しんでいただけるよう演じたいです。みつなかオペラは、ずっと出演したいと思っていたプロダクションです。出演が叶い、とても嬉しく思います。毎回の稽古が楽しく、刺激的で充実しています。
―― 2幕のフェランドのアリアは、通常カットするケースが多い中、今回の目玉だと牧村さんも井原さんも仰っていました。
古屋:愛は喜びや幸せだけでなく、痛みや苦しみもあるということを知り、フェランドが生まれ変わっていくアリア(カヴァティーナ)のことですね。フェランドの大きな変化を感じていただけるよう歌いたいです。とにかく全力で楽しもうと思います。そしてお客さまも全力で楽しんでいただける公演にしたいです。ご期待ください。
―― みつなかオペラ終了後は、どんなステージが控えていますか。
古屋:今年12月、大分二期会の『コジ・ファン・トゥッテ』にフェランド役で出演します。こちら、演出は井原さんです(笑)。
フェランド 古屋彰久 写真提供:みつなかホール
稽古の合間に、指揮者の牧村邦彦と演出の井原広樹にも話を聞いた。
井原広樹:必ず話題になるラストですが、色々あったけれども、これからは仲良くやって行こうという事で、ハッピーエンドいうカタチで終わります。密かに、お互いに手の内は分かった。今後何かあった時、参考にしよう、くらいは思っているかもしれませんが(笑)。意外な部分が見えたけれども、そこも含めて相手の事をもっと好きになる。そういうのが素敵ですよね。最近は、関係が破綻する演出が多いようですが、楽しいモーツァルトのオペラなので深読みはせずに、書かれている通りに進んで行くべきでしょう。実際、こんなことで終わってしまうようなら、何度結婚しないといけないのか。そう思いませんか(笑)。ラストの曲で、全員が一列に並んで歌う所は、最後の挨拶的な意味であって、その前のシーンでドラマ自体は終わっています。ハッピーエンドだから並んで歌うのではなく、そこは違う演出でも同じです。
演出家 井原 広樹 写真提供:みつなかホール
時代設定は原作のロココの時代ではなく、昨年の『ドン・ジョヴァンニ』の流れを受けて、今回も現代に置き換える事で、若い人や、オペラ初心者の皆様も、舞台で起こっていることを身近に感じて頂けるのではないかと思っています。
昨年、『ドン・ジョヴァンニ』をやって、今年が『コジ・ファン・トゥッテ』、来年は『フィガロの結婚』をやって、一気にダ・ポンテ3部作をやってしまおうと思っています。
引き続き、みつなかオペラにご声援をお願いします。
稽古の合間に打ち合わせ。指揮 牧村邦彦、合唱指揮 岩城拓也、演出 井原広樹(左より) (C)H.isojima
牧村邦彦:アンサンブルオペラと言われるように、モーツァルトの音楽がとても美しい『コジ・ファン・トゥッテ』を素晴らしい歌手の皆さんと、赤松由夏さん率いるザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団でお楽しみください。今回も素晴らしいキャストが集結しました。ダブルキャストですが、声質をすごく意識してチーム分けをしていますので、絶妙なアンサンブルをお楽しみいただけると思います。フィオルディリージがパワフルなのが、今回の特徴かもしれませんね。
指揮者 牧村邦彦 写真提供:みつなかホール
通常、カットをすることが多い2幕のフェランドのアリアを今回はやります。その事によって、その後の展開が良く分かりますし、フェランドのイメージが変わると思います。
『コジ・ファン・トゥッテ』はモーツァルトのオペラの中でも最高傑作の一つです。ぜひお越しください。
皆さまのお越しをお待ちしています。 (C)H.isojima
公演情報
全2幕 原語上演・字幕付
2022年11月5日(土)16:00開演(15:30開場)
2022年11月6日(日)14:00開演(13:30開場)
■会場:川西市みつなかホール
■曲目:モーツァルト/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」
■指揮:牧村邦彦
■演出:井原広樹
■合唱指揮:岩城拓也
■管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■合唱:みつなかオペラ合唱団
■出演
11月5日(土)
フィオルディリージ:山口安紀子
ドラベッラ:十合 翔子
グリエルモ:迎 肇聡
フェランド:古屋 彰久
デスピーナ:村岡 瞳
ドン・アルフォンゾ :松森 治
フィオルディリージ:白石 優子
ドラベッラ:伊藤 絵美
グリエルモ:仲田 尋一
フェランド:中川 正崇
デスピーナ:西田真由子
ドン・アルフォンゾ :西村 圭市
■料金:一般7000円、割引(小・中・高生、障がいのある人)4500円
■問合せ:みつなかホール 072-740-1117
■公式サイト:https://www.kawanishi-bunka-sports.com/bunka/index.html