大和シティー・バレエ『ガラスの靴』は一味も二味も違う等身大の「シンデレラ」~振付・宝満直也+主演・秋山瑛&秋元康臣にインタビュー
秋元康臣、秋山瑛、宝満直也
2022年10月30日(日)、大和シティー・バレエ(YCB)の秋季公演『ガラスの靴』が上演される。振付は気鋭の若手振付家・宝満直也。YCBでは2020年12月に『美女と野獣』を初演し、これが2作目の全幕作品だ。
物語のベースとなるのはプロコフィエフの音楽でも有名なバレエ『シンデレラ』だが、本作の舞台は現代のファッション界で、主人公のエラはデザイナーとして自身の道を模索する女性。王子に当たる役は悩めるスターモデルという設定だ。主人公・エラ役の秋山瑛やスーパーモデル役の秋元康臣ら(いずれも東京バレエ団)が「登場人物が身近で、気持ちがよくわかる」というように、それぞれが自分の夢へ向かって歩んで行こうとする、等身大の人物たちの物語となっている。登場人物やストーリー展開、振付などには宝満ならではのアイデアが随所に盛り込まれ、一味も二味も違う『シンデレラ』もとい『ガラスの靴』の舞台が楽しめそうだ。
出演ダンサーは主演の秋山と秋元に加え、彼等の同僚のブラウリオ・アルバレス、元東京バレエ団の高岸直樹や川島麻実子、宝満作品ではおなじみの八幡顕光らが名を連ねる。宝満と主演の秋山、秋元に話を聞いた。(文章中敬称略)
2幕、エラとスーパーモデルのパ・ド・ドゥのリハーサル/秋元康臣、秋山瑛、宝満直也
■主人公はデザイナーを目指す女性と悩めるスーパーモデル。必須アイテム「ガラスの靴」にも注目
――宝満さんの『ガラスの靴』はファッションの世界が舞台だと伺いました。
宝満 今回は鍵和田昇さんに脚本を書いてもらったのですが、最初に打ち合わせしたときに、主人公のエラにはデザイナーとしての才能があるということと、もうひとつ、ネタバレになるので見てのお楽しみなのですが、「ガラスの靴」に関するある展開を入れたいということをお話ししました。
そしてできあがった脚本をもとに僕の方で細かい流れの設定など、いろいろ肉付けをしながらストーリーを練っていくという方法で物語を作りました。
また舞台はファッションの世界ですが、そのファッション業界と王子や王国という要素がどうしても結びつかなかった。それで物語の舞台をブティックのファッションショーとし、王子をスーパーモデルに、さらに国王的なポジションにプロデューサーを置いています。
エラの夢は自分が作り出したもので人々を彩り、幸せになってもらいたいということ。継母であるガブリエラ夫人はエラの才能に目を付け、彼女を孤児院から引き取り養女とし、自分の影武者としてデザイン画を描かせる。エラはガブリエラ夫人に制御され、コントロールされている立場にあるわけです。
一方「王子」であるスーパーモデルもまた、プロデューサーにコントロールされている。天性の花を持っているのですが、自分はこんなんじゃない、本当の自分ってなんなんだろうという疑問を抱いている。自分の力で羽ばたきたいエラと自身のアイデンティティに疑問を抱くスーパーモデルが出会い、心の触れ合いを通してお互いの道を見つけていく……というのが大筋です。
――主人公の二人は等身大の若者という感じですね。いわゆる『シンデレラ』の王子は最初から非の打ち所がない輝かしい存在ですが、宝満さんの「王子」はキャラクターや物語を持っている。
宝満 僕は常々バレエの「王子」って、古典でなければ、別にかっこよくなくてもいいよなと思っていました(笑) 今回はスーパーモデルですが、康臣君がどう演じてくれるのか、とても楽しみにしています。
あともうひとつ、僕が入れたかった要素がパパラッチの存在です。今回の舞台はファッション界というきらびやかな世界で、常に世間の目が注がれている。その「世間の目」を象徴するのがパパラッチなのですが、そうした世間の目のなかで、いかに自分のやりたいことを貫き通すのか、世間の目という壁をどう越えて行くのかというところも表現できればいいなと。「世間の目を気にしていたら幸せになれないじゃないか」ということを表したいなと思ったんです。
リハーサルの様子 撮影:Bernard Languillier
■「登場人物の気持ちがわかる」。夢を持ち、悩む、主人公たち
――そのエラ役が秋山さん、そしてスーパーモデル役が秋元さんです。このお二人を選んだ理由は。
宝満 康臣さんはこれまでもガラ公演などで何度もご一緒させていただいていました。それでぜひお願いしようと思っていて、この『ガラスの靴』の話が決まったときに、最初に声をかけました。
瑛ちゃんは、以前ガラ公演でご一緒する機会があったのですが、その時にすごく素敵なダンサーだなと思ったんです。ちょっと偉そうな言い方で申し訳ないのですが、多分これからすごく伸びるダンサーだなって、率直に思いました。あとクラシックもコンテも、臨機応変に踊れるというところもありました。
――お二人の宝満さんからお話を聞いたときの印象と、実際にリハーサルを通して踊ってみた感想は。
秋山 最初お話をいただいたときは、まだファッション業界の話というのは細かく決まっていなかったんです。ただ宝満さん振付の『シンデレラ』――作品タイトルは『ガラスの靴』ですが、それに参加できること自体が楽しそうだなと思いました。
秋元 僕は最初に話を聞いたときは『シンデレラ』をやるということで、じゃあオーソドックスな王子を踊るのかなと思っていたのですが、実は違った。普通の『シンデレラ』だったら「ザ・王子」という感じで、理想の王子像そのもの、悩ましいものにも無縁な感じですが、今回はとても人間味がある王子で、またその気持ちがわかるんですよね。
秋山 うん、気持ちがわかる。普通の『シンデレラ』は「やりたいことがある」という感じの話ではないですよね。おとぎ話で夢物語。でも康臣さんも仰るように、私もエラの気持ちがすごくわかるんです。バレエではなくファッションの世界の話だけれど、縛られている時の気持ちも、認めてもらったうれしさとかもすごくよくわかるんです。
秋元 あと僕は「スーパーモデル」という役をどう出せばいいのか、ということに悩んでいます。「悩ましい王子」というのはなんとなくイメージはわかる。『白鳥の湖』のジークフリートみたいに憂いを帯びている王子は嫌いじゃないし、むしろそういう役を演じるのは好きです。でも「スーパーモデル」というのが、なかなかイメージがわかない。想像の、テレビや雑誌で見るようなものでしかイメージがわかないところもあるんですが、なるべく自分とかけ離れないようなところから役を探っていこうかなと思っています。あまりにも全く別の世界の人として役作りをすると、いざ演じるときにぎこちなくなりそうなので。普段演じさせさせてもらっている王子役の、延長線の部分から探っていければいいかなと考えています。
リハーサルの様子 撮影:Bernard Languillier
■個性的な脇役たち。既存の物語を覆す『ガラスの靴』に期待
――脇をしめるダンサーたちにも個性的な方々がそろっていますね。
宝満 ブラウリオ(・アルバレス)さんが継母に当たるガブリエラ夫人、プロデューサー役が高岸(直樹)さんで、八幡(顕光)さんは新聞記者役です。(川島)麻実子さんはブティック「グランメゾン」のオーナーで、ポジション的には一般的な『シンデレラ』の仙女役です。彼女がガブリエラ婦人のアトリエに顔を出すところから物語がはじまるのですが、いわゆる「仙女」とは違い、物語のキーポイントになっていく大事な役です。
八幡顕光、ブラウリオ・アルバレス、秋元康臣、秋山瑛、宝満直也、高岸直樹 撮影:Bernard Languillier
――『シンデレラ』に登場する四季の精に当たる役が、生地――マテリアルというのもユニークですね。
宝満 「ファッションに対する才能がある」という設定なので、僕のアイデアで四季の精をマテリアルにしようと思いました。
四季のシーンはオーナーのアトリエで、そこには世界中のいろいろな生地がある。ガブリエラ夫人が「これでとっておきのデザインを描いてごらん。それを作ってあげるから」というシーンです。
衣装デザインは佐々木三夏プロデューサーが手掛ける
――四季の精の踊りは舞踏会へ行く前のシンデレラと仙女のシーンで踊られたりしますが、ここではエラと継母のシーンになるわけですね。既存のものに引っ張られず、ご自身のこだわりも散りばめられていて、楽しみになります。
宝満 実はもうひとつ、『シンデレラ』で作品をつくると決まった時から思っていたことがあるのですが、それは主人公の2人――ここではエラとスーパーモデルは、結ばれる必要はないよな、ということなんです。
姫と王子という設定なら恋して結ばれハッピーエンド、というのもありかもしれませんが、無理にそこに向かわなくてもいいよなと、ずっと思っていたんです。だから今回も、多分素敵な男女だから結ばれるとは思うのですが、それ以上にお互いが居心地の良い、やりたいことをやっているという状態で終われればいいなと思っています。いかにも「結婚しました」というのではなく、「2人はもしかして……」みたいな、どちらにもとれるような終わり方ができたらいいなと。かつ、明らかに幸せで周りも幸せそう、というのを目指しています。
――それぞれ自立した者同士が、カップルになるならなれるし、お互いに信頼できるパートナーとして歩んでいくでもいいし、という感じでしょうか。とても現代的で大人の距離感ですね。秋山さんと秋元さんは、この『ガラスの靴』を通してやりきってみたいことなどはありますか。
秋元 僕は普段の僕がやっているのとは違ったやり方で、自分を見せられたらいいなと思っています。今までの癖だったり、自分がこうしたら安心できるといったやり方――演技の仕方だったりマイムの仕方だったり、立ち姿一つとっても慣れているやり方があり、どうしてもそっちの方へと流れてしまうものなのですが、今回はそれをいかに崩せるかということを目指してみたい。殻を破るというよりは、怖がらずに新しいものを作って行くという感じかな。新しい自分の表現を探る機会をいただいた、そんな感じでやっていきたいです。
秋山 宝満さんの振付はクラシックでも何かやったことのない組み合わせというのでしょうか、「そう来る!?」という面白さがある。また音の使い方、音楽チョイスも、この振付にはこの音楽、この音楽だからこの振付っていう必然性があるんです。踊りって曲に合っていないと振りが生きないので、合うまでがなんだか気持ち悪いのですが(笑)、でもカチッとはまると踊っていても見ていてもしっくりくる。今はそのハマる瞬間を捕まえようとしているところです。
あと、私は普段はバレエ団の気心の知れた人たちと踊っているけれど、今回はいろいろな方と踊れる。私はいろいろなダンサーさんの踊りを見るのがすごく好きなので、刺激的で楽しみですし、すごく大きな経験になると思っています。
――宝満さん、最後に一言。
宝満 多分今までに見たことのない『シンデレラ』――『ガラスの靴』になると思うので、「『シンデレラ』とはこうだ」という固定概念を捨てて、純粋に楽しんでいただければと思います。
――ありがとうございました。楽しみにしています。
舞台イメージ。舞台美術担当は長峰麻貴
取材・文=西原朋未
公演情報
宝満直也 振付・世界初演
『ガラスの靴』
■会場:大和市文化創造拠点シリウス芸術文化ホール メインホール
■振付:宝満直也
■脚本:鍵和田昇
■音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
■キャスト:
エラ:秋山瑛
スターモデル:秋元康臣
ガブリエラ夫人:ブラウリオ・アルバレス
プロデューサー:高岸直樹
グランメゾンオーナー:川島麻実子
オーナーのSP:伊藤龍平 本岡直也
ジャーナリスト:八幡顕光
姉妹:萩原ゆうき 田中杏奈
コットン:野久保奈央
デニム:河村美来
ベルベット:古尾谷莉奈
シルク:川島麻実子 中村春奈 盆子原美奈
若手女優:野久保奈央 ほか
大和シティー・バレエ
大和シティー・バレエ アプレンティス
佐々木三夏バレエアカデミー