中川大志、音楽劇『歌妖曲』新歌舞伎座での公演に緊張感「歴史として積み上がってきたエネルギーが満ち溢れているはず」
-
ポスト -
シェア - 送る
中川大志
2019年に映画『坂道のアポロン』、『覚悟はいいかそこの女子。』で『第42回日本アカデミー賞』新人俳優賞を受賞し、2022年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演した中川大志。そんな彼が主演する音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』が11月6日(日)より東京の明治座で開幕し、12月8日(木)より福岡のキャナルシティ劇場、12月17日(土)より大阪の新歌舞伎座でも上演される。昭和の歌謡界を舞台に、戦後の芸能界に君臨する「鳴尾一族」をめぐって、さまざまな思惑が交錯する同作。中川は、主人公であるスター・桜木輝彦、そしてその醜さゆえ闇に葬られた桜木のもうひとつの顔、鳴尾定の二役をつとめる。今回は普段の整った容姿とは見違えるほど禍々しく、そして舞台上で誰よりも輝いている中川へ、同作にまつわる話を訊いた。
中川大志
――今回は本格的な舞台への初挑戦作、初座長、そしてタイトルにご自身の名前も掲げられるなど、大役を担っています。そういった部分へのプレッシャーはございますか。
自分の名前がタイトルに入るなんて想像もしていませんでした。ポスターもチラシもいまだに見慣れないです。ただ、初舞台で初座長ですが、演劇の大先輩方もいらっしゃるので、ものすごく心強いです。みなさんとコミュニケーションをとり、ディスカッションを重ねながら、作品をつくりあげていきたいです。そして自分が、鳴尾定、桜木輝彦というふたりのキャラクターづくりをしっかり深め、エネルギーを持って向き合っていくことで、カンパニーや作品の推進力になれば良いなと思っています。
――定は「悪逆の限りを尽くす主人公」ということですが、どんなことが巻き起こるのでしょうか。
ひとりやふたりは……そういうことになるのかな(笑)。キャッチコピーに「唄と殺しの華麗なるショーが幕を開ける」とありますが、血生臭いものにはなるはずです。定は、自分が経験しえないような境遇を持っている人物。感情表現の度合いも今までにないほど大きいものになりそうです。そこは演じる上ですごく楽しみな部分でもあります。
中川大志
――定は妬み、嫉み、憎しみを起点に行動していきますよね。中川さんご自身はそういった「やりかえしてやろう」という経験はありましたか。
小さい頃に姉とケンカをして「絶対に次は負けない、やりかえしてやる」と復讐心に燃えたことはあります(笑)。でも基本的に自分は、そういう感情の向けどころをコントロールして生きてきました。もちろん、悔しい経験はたくさんあります。だけど自分のなかで別の感情に変換しないと、いつかきっと辛くなる。悔しさや妬みを違うベクトルに変えて、それをエネルギー源にしています。そうは言っても根は負けず嫌いなので、「悔しいものは悔しい」という思いもあります。
――それは作品の共演者に対してですか。
同世代の俳優の作品を観て、「良い役だな」、「良い演技をしているな」と悔しくなるんです。これは正直な気持ちとして、「その役は自分が演じてみたかった」と感じることもあります。だけど、そういう負けず嫌いな面がないとダメだとも思っていて、同世代に対しては特に「負けたくない」という気持ちはありますね。
中川大志
――かなり意識していらっしゃるのですね。
最近ようやく自分に自信を持てるようになってきたのですが、それまでは周りをうらやましく思えてしまう時期もありました。ただこれは自分に限らず、オファーをいただけるのは、その俳優が積み重ねてきた道筋を認めてもらえているからだと思うんです。
――たしかにそうですよね。
「自分にしかできないことをやってきたんだ」と気づいて、自信を持てるようになってからは、周りを意識することがほとんどなくなりました。そしてもっと「ほかの人がやっていないことをやってみよう」とチャレンジしたくなったんです。誰も辿っていない道を進みたいし、そうすることで後輩たちが「この人みたいになりたい」と思ってもらえるようになりたいですね。
中川大志
――なにをやるにも、その人のバックボーンが必ずあらわれるということですよね。それこそ今回のキャラクターでも、桜木輝彦として生まれ変わっても、その背景には鳴尾定として生きてきたものがにじみ出てくるような。
姿や形が変わっても、根っこは変わらない。僕自身もいろんな役をつとめさせていただきましたが、演じているのは中川大志というひとりの人間。湧き出てくる根源は同じところ。だからこそ自分も、もっともっといろんな経験をして人間を磨いていきたいです。
――そんな『歌妖曲』ですが、大阪公演では伝統ある新歌舞伎座で上演されます。新歌舞伎座の舞台を踏むことについてどのように感じていらっしゃいますか。
緊張しますね。どんな景色が広がるんだろうと。歴史として積み上がってきたエネルギーが、劇場には満ち溢れているはず。その雰囲気に飲み込まれないようにしないといけません。ドキドキしますが、でも楽しみですね。
中川大志
取材・文=田辺ユウキ 撮影=高村直希
スタイリスト=徳永貴士(SOT) ヘアメイク=堤紗也香
関連記事
中川大志「観る方をエネルギッシュできらびやかな昭和歌謡界にタイムスリップさせたい」~『歌妖曲~中川大志之丞変化~』インタビュー
記事はこちら
『歌妖曲』で任侠演じる山内圭哉「不良の大人がいっぱいいた」ーー中川大志、松井玲奈ら平成生まれが抱く昭和スター印象
記事はこちら
松井玲奈、音楽劇『歌妖曲 中川大志之丞変化』で復讐心に燃える悪役に挑戦「悪なりの正義という道理がある」
記事はこちら
編集後記
撮影現場にピリピリと緊張感が漂うほど表情に影を落とした中川。背景を変える際に「記事でも二面性を表したい」と伝えると一気に和やかになり、体を揺らしながら輝彦の「彼方の景色」を歌い出す。間違いなく目の前にいるのは中川大志だが、醸し出す雰囲気がまるで別人のよう。そんな瞬間を目の当たりにし、『歌妖曲』が刺激的な舞台になることを確信した。
桜木輝彦「彼方の景色」ミュージックビデオ
歌謡曲にありそうな曲が流れ、昭和にタイムスリップしたような明治座。高揚感が満ちる中、突如として皮膚がただれ、体は強ばり、声もしゃがれた男が現れる。パンフレットにも登場しないその男は医者らしき人物に、体が自由に動かせるようにしてくれと懇願する。そこでようやく、これが定なのだと気づく。隣で観ていた男性たちも、思わず「え!?」と声を出して驚いていたほど、想像以上に痛々しく醜い姿であった。
呆気に取られていると、美貌を手に入れた輝彦が華々しく登場する。なるほど、禍々しい姿でいるのは最初だけで、本編のほとんどは輝彦として進んでいくのか……などと高を括ったが大間違いで、輝彦と定がコロコロと入れ替わる。短時間で衣装を変えるだけでも一苦労しそうなのに、身長も表情も声も瞬時に変わる中川の演技に圧倒され続ける。とはいえ全くの別人かというとそうではなく、取材でも話していたようにふたりの「根っこは変わらない」ので違和感が全くない。
舞台映像『歌妖曲~中川大志之丞変化~』
キャラクターの濃さだけでなく、深い怨恨の中に見え隠れする家族愛もみどころ。親戚一同から煙たがられる定にも、大切に思ってくれた家族がいる。その人物は間違いなく定の、鳴尾一族の、そして会場の光だった。会場ではペンライトが販売されていて、指定の色に切り替えながら各キャラのコンサートを楽しむことができるのだが、光を失ってからは会場からもペンライトの明かりが消えてしまった。それほどまでに観客はこの音楽劇に引き込まれていた。挑戦的でいて、昭和の時代を生きたことがなくともどこか懐かしく感じられ、生臭いほどの人間みを併せ持つ音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』の世界を体感してもらいたい。
編集後記 文=SPICE編集部 川井美波