Karin.の2度目のツアー「空白の居場所」にみた、ライブのあり方と心の軌跡

レポート
音楽
2022.10.12
Karin. 撮影=関信行

Karin. 撮影=関信行

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2nd tour「空白の居場所」  2022.10.1  代官山UNIT

ライブが始まってまず思ったのは、歌がなんだかワサワサしている、ということ。すると、演奏もワサワサしてくる。バンドだから。気持ちが共振して、ボーカリストのヴァイブスがライブ全体のヴァイブスになっていくのだ。

そんなことを感じ、思いを巡らせていたら、2曲終わったところでKarin.自身のナレーションが流れ、そこで彼女は「この孤独を飲み込めるかもしれない」と言った。今度はこちらの気持ちがワサワサしてきて、というのも孤独は飲み込まなくてもいいんじゃないかなあと思ったからだ。孤独を飲み込むと何かいいことがあるんだろうか?

いろんなことがワサワサしたまま5曲目まで進んで、最初のMCで流れが変わった。Karin.は、集まってくれたオーディエンスにしっかりと挨拶し、バンドと過ごすツアーの時間のなかでの発見について話すと、まさにひと息ついたのかもしれない。ただ、その最初の挨拶で「Karin.です。2nd tour“空白の居場所”にようこそいらっしゃいました」と一気に話した場面、お節介な友達なら「そこ、拍手もらうとこ」とツッコミを入れたくなっただろう。なにせ、スタンディングのライブハウスらしい空間でKarin.の音楽を楽しむことを、ファンも彼女と同じくらい待ち望んでいただろうし、その気持ちを彼女に伝える最初のタイミングだったから。もっとも、そうしたぎこちなさのあれやこれやを笑い合ってさらに仲が深まる友人同士のように、お互いの前のめりな伝えたい気持ちを感じ合った後にはいっそう親密な空気が会場を埋め、Karin.の歌はより豊かな表情を見せるようになっていった。

出色だったのは「永遠が続くのは」で、「大人になったね」という“君”の言葉から始まって、ゆっくりと静かに、しかし決然と自分の過去に決着をつけていく主人公の物語が、歌が進んでいくスピードで聴いているこちらの物語になっていった。演奏のテンポが音源よりもゆっくりしている印象で、だから言葉が音源以上に正確に、しっかりと、耳に飛び込んできたのが心地よかった。家に帰って音源を聴き直したら、やっぱり同じ印象で、テンポを測っていたわけじゃないから正確な話ではないけれど、でも言葉が音源以上に強く印象に残ったのは確かな感触だった。それは、テンポの問題ではなくて、歌が堂々としていたということなのかもしれない。

その曲自体が望んでいる、あるいはその曲に一番ふさわしい有り様で歌われると、その曲はますます伸びやかに広がって、受け取る人間の耳に、ということはその人の心にするりと収まっていくものだ。同じことを「星屑ドライブ」の演奏でも感じたのだけれど、Karin.とバンドのメンバーはライブの現場でそれぞれの楽曲のあるべき姿を手に入れていってるということだろう。

『星屑ドライブ - ep』のリリース時のインタビューで、Karin.は1stツアーの反省も踏まえて「次のツアーではバンドのグルーヴに対応したい」と語っていたけれど、この日の「永遠が続くのは」や「星屑ドライブ」の演奏で感じたのはむしろ彼女のグルーヴがバンド化されているということ。まず彼女の歌があり、そして彼女の歌いたい気持ちがあり、それに共振してバンドのアンサンブルがドライブしていく。どちらの曲も決してアップなナンバーではないけれど、“ドライブ”という言葉を使いたくなるような駆動力で、その歌自体の物語を前に進め、そしてオーディエンスの気持ちを引っ張っていった。

ところで、今回はツアーが発表された時点で、そのインフォメーションのなかに「Key.高野勲/Ba.藤原寛/Dr.岡山健二/Gt.永高義従」というメンバーの名前がクレジットされ、この日の会場の入り口にも「本日の出演:Karin.」という掲示の下にメンバー名がクレジットされていた。それは、例えばこのバンドが“Karin.とその仲間たち”というような匿名的な集団ではなく、一人ひとりが顔と名前を持った音を差し出して彼女の音楽が形作られているということを象徴的に伝えていたんだなということに、アンコールに応えて登場したKarin.が「私が一番楽しみにしているメンバー紹介をしたいと思います」と言って、順に4人を紹介していくのを眺めていて思い当たった。そうした有機的な関係性を取り交わしている仲間を持つ彼女は、果たして孤独は飲み込まなくてはいけないのだろうか? あるいは、飲み込むと何かいいことがあるのか?

そう思った後で“なるほど”と思い直したのは、そこまでのライブ本編で冒頭に提示された「孤独を飲み込めるかもしれない」という思いを新たな表現に昇華できるまでの彼女の心の軌跡が表現されていたことに気づいたからで、とするとここからは“その次”を見せてくれるのかなと思ったら、案の定アンコールの1曲目は彼女の音楽の新局面を提示した“Karin.流シティ・ポップ”「会いに来て」だった。その軽やかなアレンジをKarin.は「私に色をつけてくれました」と形容したのだけれど、そんなふうに彼女の音楽をカラフルになっていくことで、彼女が抱えている透き通った孤独もいっそう際立つことになるのだろう。

そして、「ずっと歌を歌っていきます」と力強く宣言して最後に披露した最新曲「空白の居場所」は自分が何者なのか“君”に出会えたことでわかったという意味のフレーズで締め括られた。自分の音楽を受け取る“君”がいるから、居場所を確認できる。そういう“君”の存在を間近で感じることが彼女にとってのライブなのだろうし、その現場で自分の足元を確かめるように歌われた「空白の居場所」という曲は、まさしく彼女の現在地を伝える1曲と感じた。その「空白の居場所」も、「永遠が続くのは」や「星屑ドライブ」のように、これからライブの現場であるべき姿の輪郭をよりはっきりとさせていくことになるのだろう。

1stのツアーのステージもそうだったけれど、彼女のライブは見終わるとそんなふうにそう遠くはない未来に思いが及ぶ。それは、毎回最後に「つづく」と画面の隅に映し出された昭和のドラマのようで、期待を裏切ることはないだろうけれど、安易なハッピーエンドでもないんだろうなという気がする。

Karin.の孤独と向き合う物語はさらに回を重ね、その過程で彼女の音楽は確かに奥行きと広がりを増していることを確認した一夜だった。


取材・文=兼田達矢 撮影=関信行

リリース情報

Karin. デジタルシングル「空白の居場所」
配信中
https://karin.lnk.to/KuuhakunoIbasho
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