岡本圭人、森川葵、瀬戸さおり、高畑淳子「皆で話し合い、あたたかい物語を作りたい」 『4000マイルズ ~旅立ちの時~』日本初演
2011年にオフ・ブロードウェイにて世界初演を行い、2012年にオビー賞のベスト・ニュー・アメリカンプレイを受賞、2013年にピューリッツアー賞の最終候補にも選ばれた『4000マイルズ ~旅立ちの時~』。大学生の孫と祖母が長い時を経て再会し、それぞれの人生を見つめ直すヒューマンドラマだ。世界各国で上演されてきた本作が、ついに日本でも上演される。演出を手掛けるのは上村聡史。製作発表には岡本圭人、森川葵、瀬戸さおり、高畑淳子のキャスト4名が登壇した。
――まずは、開幕まで約1ヶ月ということで、現時点での手応えと皆さんが感じる本作の魅力を教えてください。
岡本:稽古が始まってちょうど1週間ほど経ちます。上村さんは本当に尊敬する演出家さんなので、毎日の稽古が本当に刺激的です。そして素晴らしい共演者の皆さんと一緒にこのハートフルな物語を作り上げることがすごく楽しいです。僕が演じるレオは心に傷を負っています。ヴェラおばちゃんと話すうちに少しずつ傷が癒やされ、次の人生の旅路に進んでいく。その過程を見せられるように一生懸命稽古をしています。
高畑:これだけ愛されている作品なので深いお話だと思いますが、今手応えがあるかと言うと……。91歳の役に挑戦するのは初めてですからあたふたしています。どうしたらいいだろうかと相談しているところで。色々なことを抱えて人生を模索しているレオの話を、模索しきって終焉が近いヴェラがありのまま聞いて包み込んでいるっていう構図になればいいですね。舞台上に年老いた人がそのまま出るとすごく強いですから、その境地に行きたいと思っています。
森川:台本を読んだときは具体的なイメージが湧かなかったんですが、本読みをすると高畑さん演じるヴェラのチャーミングさなど、皆さんのキャラクターがどんどん見えてきています。喪失と、そこからまた人と繋がっていくこと、両方が描かれている作品なので、そこがしっかり伝わると魅力になるのかなと思っています。
瀬戸:私も台本を読んだときは難しさを感じました。その上で、皆さんの声で聞いた時にユーモアにすごく溢れているし、思いやりがたくさん詰まった作品だと改めて感じました。まだ私自身アマンダの魅力を掴みきれていないので、稽古を通して探っていけたらと思っています。
瀬戸さおり
――岡本さんは今年様々な舞台に出演されています。作品や役の幅がかなり広いと感じますが、役作りについて考えていること、役作りのためにやっている事があれば教えてください。
岡本:本当にありがたいことに、この作品が今年3本目。いろんな役柄に挑戦させていただき、すごく刺激的な1年を過ごせているように思っています。レオついては、タイトルにある「4000マイルズ(6400km)」を自転車で横断するってどういう気持ちだろう、なんでそんなことしたんだろうとまず考えました。そこで5日ほどスケジュールが空いている時に、新潟から千葉まで、400kmくらいですが自転車で走ってみました。自分が経験した400kmの旅は6400kmには及びませんが、レオの気持ちや考えていたことが少し分かった気がしました。さらに稽古で上村さんに導いていただき、キャストの皆さんと話し合いながら作っている状態です。舞台に立った時、レオという人物が皆様の目にどう映るのかを楽しみにこれからも稽古をしていきたいですね。
――高畑さんは今回91歳の役。役作りについての工夫、上村さんとどう話しているかも含めてお伺いできればと思います。
高畑:役作りについてはすごく迷っています。高齢の役ですが、人工的なものにしたくないという気持ちがあって。レオが夜中にやってくるので、ヴェラは歯がない状態で登場するんです。「歯がない顔ってどういうこと?」と聞いたら、上村さんが実際にやって見せてくれて。他のシーンでも場を和ませようとしてくださる、とても優しい演出家さんです。ヴェラをどう演じるかまだ見えていませんが、多分彼女の夫はジャーナリスト。本を出していたりして、若い頃は論客で闊達に生きた女性だろうということは書かれています。そんな人が歳をとって言葉が出なくなり、色んなことができなくなっていくのはどういうことだろうという、内的なことから作っていけたらと思いますね。
高畑淳子
――演出の上村さんについてお話が出たので、他の皆さんからも上村さんについてお伺いしたいです。
岡本:僕は本当に上村さんの演出作品が大好きです。ただ、僕の父親とも一緒に舞台をやっているので、時々「君のお父さんはこういうリアクションをしていたよ」と言われるのはちょっと嫌ですね(笑)。毎日の稽古の中で、この物語の本当の良さを引き出すために僕が持っているものを誘い出してくれる・導いてくれるような感覚があります。稽古は始まったばかりですが、稽古場に行くのが本当に楽しい状況です。
瀬戸:私は以前ご一緒したことがあるんですが、その時もやっぱり丁寧に作品の魅力を読み解いてくださいました。私が提案したことも受け入れてくださって、本当に優しい方ですし、私のいいところも引き出してくださる演出家さんだという印象です。
森川:私は舞台の経験があまりなく、舞台の台本ってすごく色々な読み方ができるので分からなくなってしまって、すごく阿呆な質問もしてしまうんです。舞台って独特な雰囲気があって「質問するな! 自分で考えろ」みたいな印象を勝手に感じていたんですが、上村さんは質問するとすごく優しく返事をしてくれるのでありがたいです。
高畑:前に出演した作品の演出家、誰だったの(笑)?
森川:いや、何かあったわけじゃないんですけど(笑)。イメージとしてお堅いというか、自分で頑張らなきゃいけないのかなというのがあって。
森川葵
――タイトルの通り、レオの旅が物語の軸になっています。皆さんにとって思い出の旅があれば教えてください。
岡本:人生の中で色々な旅をしていますが、今一番思い出深いのは先ほどお話しした自転車での400kmです。トンネルってこんなに怖いんだとか、自転車で山を登るのってこんなにキツいんだとか、走っている途中にたぬきや猿を見たりとか。新潟からスタートしてや山や森から都会に近付いていったんですが、そこで西海岸からニューヨークのおばあちゃんの家を目指したレオの気持ちを想像したりしました。
高畑:この作品を読んで一番に思い出したのは、高校の時に北陸に行きたいと思って、国民宿舎に泊まったことです。親元から離れてどこかに行きたい、親元から巣立ちたいという願望がすごくあったことを思い出しました。
森川:数年前に一人でイタリアに行ったんですが、一人なのに一人じゃない記憶がすごく鮮明です。現地で知り合った人と教会を見て回ったり、家でご飯を食べさせてもらったり、日本のアニメのファンだという女の子とアニメの話で盛り上がってイタリア語を教えてもらったりしたのが記憶に残っています。
瀬戸:最近母から「小学2年生の時、将来は旅人になりたいって言ってたよね」と聞いたんです。一人旅をしたことがないんですが、母からその話を聞き、さらにこの作品に出会って縁を感じたので、色々な場所に一人で行ってみたいなと思っています。
――コメント映像で、高畑さんが幼い頃の岡本さんが舞台の合間に公園で遊んでいたというエピソードがありました。それから20年以上経て共演ですが、思いをお聞かせください。
岡本:本当に申し訳ないんですが、当時のことをあんまり覚えていなくて……。
高畑:3歳の坊やでしたから。でもよく劇場に来てましたよね。岡本健一さんの楽屋でどんちゃかやってて、退屈しているんだろうなって(笑)。私も三幕しか出ない役で、森光子さんが開演前にお茶会をなさるので一幕二幕は暇で。隣に暇そうな子がいるので、「日比谷公園に一緒に行く?」と。
岡本:僕、当時森光子さんと撮った写真を持っていて、舞台に出る前に必ず手を合わせているんです。今日持ってきました。この歳の頃から知っているので、すごく親近感というか安心感があります。他の女優さんと演じていたら違うんだろうなって。
高畑:すごい暴れん坊でしたからね。共演者としては、作品に近付こうという姿勢がすごい。さっきの自転車で旅をした話もそうですが、読み合わせの時、「市民農園でカボチャを持ってきたよ」というちょっとしたセリフでカボチャを出してきて。ノートにセリフを全部書いているし。
岡本:自分のノートに台本を書き直すのは、森光子さんがやってらしたなと思って。物を買ったりレオはこういう服を着るんだろうなと考えるのは、アメリカでの演劇留学時代に先生から教えてもらったアプローチです。
岡本圭人
――シアタークリエ公演が年末まで、2023年1月には各地での公演が行われるため、この作品が1年の締めくくり、スタートになる方もいると思います。この作品を通してお客様にどんな思いを持ち帰ってほしいか、意気込みを聞かせてください。
瀬戸:人と人との絆が描かれている温かい作品です。私はこの本が家族の歴史というものに興味を持つきっかけになりましたし、すごく優しい気持ちになりました。大切な人を思いながら観ていただけたらなと思っています。
森川:ここ数年本当いろんなことがあったので、12月に観る方には人生の振り返りをしていただいて。年明けに観ていただく方には、未来のことを考えるきっかけになったらいいなと思います。
高畑:役者は四人しか出てきませんが、家族のことを話します。私は今の超高齢社会を代表する、一人で暮らしている老人の役です。レオは色々模索している思春期代表。手を焼いていたり、最近の子は分からないわという親子関係だったり、皆さん何かしらあると思うんです。それを思い出したり、「ちょっと優しい言葉をかけてあげたい」と思ったり、肩の力を抜いて向き合えばいいと思っていただけたらいいと思います。
岡本:この作品の一つのテーマは「再生」だと思っていて。どんな人でも、生きていると心に傷を負う瞬間というのがあると思うんです。僕が一番大切だと思うのは、その傷をどう癒やして次に進んでいくかということ。この舞台の登場人物がそれぞれの傷を癒やしていく過程、その瞬間をお客様に見せられたらと思っています。素晴らしいキャスト、スタッフの皆さんと一丸になって、これからどう生きていけばいいのか、どう前に進んでいけば気持ちよく人生を歩めるのかを感じていただける舞台になるよう、稽古に励んでいきたいと思っています。
本作は12月12日(月)~28日(水)までシアタークリエで上演され、2023年1月には大阪、愛知、香川公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
演出:上村聡史
日程・会場:2022年12月12日(月)~28日(水)日比谷・シアタークリエ
お問い合わせ:03-3201-7777(東宝テレザーブ)
<全国ツアー公演>
【大阪公演】
日程・会場:2023年1月7日(土)~9日(月・祝)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
お問い合わせ:06-6377-3888(梅田芸術劇場)
【愛知公演】
日程・会場:2023年1月11日(水)~12日(木) 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
お問い合わせ:052-972-7466(キョードー東海)
【香川公演】
日程・会場:2023年1月15日(日)レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
お問い合わせ:087-823-5023(県民ホールサービスセンター)
製作:東宝