マカロニえんぴつが雨の野音で伝えた、10年分の感謝と愛

2022.11.18
レポート
音楽

マカロニえんぴつ 撮影=酒井ダイスケ

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マカロック”初”野音ワンマン☆東阪篇  2022.11.13  日比谷公園野外大音楽堂

結成10周年を迎えたマカロニえんぴつが、11月13日にファンクラブ会員限定ライブとして、自身初となる日比谷野外音楽堂でのワンマンライブを行った。晴天続きだった昨今から一転、この日の東京は雨模様。日比谷にも例外なく雨が降り注いだ。しかし、雨の野音の良さというものある。雨粒に反射してより一層煌めく照明と、悪天を凌ぐほどの高揚感が生み出す晴れやかなエネルギー。この日はそれらの要素が美しく絡み合い、誰しもの想い出に深く残る一夜を作り出していた。

SEが鳴りだすのと同時に、オーディエンスは立ち上がり、ハンズクラップを鳴らして彼らの登場を待った。オープニングから祝祭感満載の中、はっとり(Vo/Gt)、長谷川大喜(Key/Cho)、田辺由明(Gt/Cho)、高野賢也(Ba/Cho)、サポートドラマーである高浦“suzzy”充孝(Dr)の5人がステージに登場し、はっとりの「日比谷―!」という威勢良い一声から「トリコになれ」をパワフルにプレイ! <思わず惚れ込んでしまってくれないかな>という歌詞に沿うように、スタートからオーディエンスの心をガッチリと掴むような熱演で一気に惹きつけると、爽やかさと甘酸っぱさが気持ち良い「レモンパイ」、「日比谷、そんなもんか?」という煽りやクラップ、照明効果が相まって、会場にいる全員で疾走感を生み出していく「洗濯機と君とラヂオ」。さらに、谷川と高野が無邪気に追いかけ合うシーンもあった、茶目っ気たっぷりの爽快チューン「ハートロッカー」へと一気に続く。キメに合わせたオーディエンスのクラップもバッチリで、ファンクラブ会員限定ライブならではの一体感が生み出されていた。

「こういう雨の中で、外でワンマンっていうのもなかなかないし、初めての野音でやるっていうのに(雨に)降られるっていうのが、マカロニえんぴつだよね。でも、びしょ濡れになっちゃえば、我に返って楽しめるんじゃないかな?なんて、そちらの気も知らずに思っていますけど、どうか風邪引かないようにね!」と、状況をポジティブに捉えつつ、「みんなのたましいの居場所が、今立っている場所。そこでありますように」という言葉から、「たましいの居場所」をプレイ。マカロニえんぴつは、例えば、ポップさが詰まったメロディの中に半音下げた音をこっそり忍ばせたりすることで、幸福感の中に潜む哀しみや寂しさを感じさせるのが本当に上手い。

人生は、楽しい!嬉しい!というプラスの情だけで構成させれている訳ではないこと。泣かないことが、強さとイコールではないこと。「恋の中」や「恋人ごっこ」の中にも描かれているように、好きだからこそ相手を試してみたくなること。「春の嵐」で<たしかなものはきっと一つもないのにな/どうせ忘れるくせにな>と歌いつつも、絶対と呼べる“たしかなもの”を探し続け、この瞬間を忘れたくないと願っていること。そうした様々な違和感や矛盾を積み重ねながら、悩み、受け入れ、時に手放しながら、<明日もヒトでいれるために愛を探してる>。「ヤングアダルト」の一節を借りたが、どの楽曲にもそのように、彼らの根底にある生きる上での考えが一貫して表れているように思う。それは、彼らがメジャーデビューして以降もずっと変わらないものだ。

ライブ中盤では、事前に行なっていた「やってほしい曲」アンケートに基づいて、上位3曲を3位から演奏。エモーショナルに展開していく「零色」、豊かさと硬質さが共存するハイテンションナンバー「ワンドリンク別」、純真な音楽愛と感謝を綴ったミディアムチューン「 サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」という活動初期の楽曲たちが、プロジェクションマッピングの効果も相まって、鮮やかさと新鮮さを携えて鳴らされた。ステージバックから、弧を描くように設置された天井に至るまで、細部に渡って映像が投影されていたのだが、平面ではないからこその立体感と迫力と美しさが、オーディエンスの感動を誘う。

メンバー紹介を経て突入した後半戦、「ノンタイアップでここまで色んな人に届くことができた、みなさんが大事な曲にしてくれた曲」という前振りで届けられたのは、「なんでもないよ、」……ではなく、「イランイラン」! イントロ中に発されたはっとりの「何で!?」というコメントにも笑ったが、キーボードが明るく広がり、聴く者の前進を促すパワーのあるこの曲も、言わずもがな名曲だ。そこから一気に、ダンサブルな「愛のレンタル」や、ネオン調のライトが目にも鮮やかな「カーペット夜想曲」、ユーモラスでポップな「STAY with ME」をプレイ!「星が泳ぐ」では、流れ星を想起させる照明が会場全体を包み込み、煌びやかな光を全身で浴びながら、気持ち良く身体を揺らしながら音楽を堪能できた。

普段は素直になれないというはっとりが、「素直になってみると、気持ちいいもんです。素直になれる場所があるということが、嬉しくてたまらないんです」と言葉にしつつ、求めてもらえるからこそ、こうしてバンドを10年続けることができたんだと、噛み締めるように伝えた。素直になれない、自分は孤独だ。そうした想いを抱き続けながら歩んできた彼は、「今は1人じゃない。むしろ、ここに来れば1人になる必要はないって思えるようになりました。今日は個人的な感謝を伝える日でもいいかな?と思っています。僕にこんな場所を用意してくれて、作ってくれて、育ててくれて、本当にどうもありがとうございます」と、ありったけの感謝を告げた。その想いを乗せて最後に届けたのは、「いつでも、この先も、あなたの前にいる僕が好きだ。君といる時の、僕が好きだ」という言葉から始まった「なんでもないよ、」だった。

君が好きだ、ではなく、君といる時の僕が好きだ、という伝え方をするのが彼ららしい。誰がどう思うかを考える前に、まず自分がどう思うか?自分が居たいと思える場所はどこか?自分がどうしたいか?を自問する。それは身勝手なんかじゃ決して無くて、あなたが、あなたらしく生きていく為に大事なことなんだよと、マカロニえんぴつは教えてくれている。「バンドやっててよかったなと思える1日でした。また声が出せるようになったら一緒にはしゃぎましょう!」と、アンコールでは「愛の手」と「OKKAKE」の2曲を披露し、初めての野音公演を締め括ったマカロニえんぴつ。彼らが抱く10年分の感謝と愛が、目一杯詰まった晴れやかな一夜だった。


取材・文=峯岸利恵 撮影=酒井ダイスケ

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