ピアニスト・及川浩治の新シリーズ「ピアノ・コレクション」第1弾公演がトッパンホールで開催
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及川浩治 (C)Yuji Hori
2023年3月25日(土)トッパンホールにて『及川浩治ピアノ・コレクション「ラフマニノフ」リサイタル in SPRING2023』が開催される。
今回のリサイタルはデビュー以来、及川がほぼ毎年開催してきたサントリーホールやザ・シンフォニーホールを中心としたリサイタル・ツアーとは趣向の異なる新機軸の公演となる。及川が特に愛してやまない作曲家や楽曲を取り上げ、大ホールではない親密な空間で贈る《ピアノ・コレクション》のシリーズ第1弾だ。
東京、大阪など大都市では、2000席規模の大ホールでリサイタルを行う及川が、東京で1000席以下の規模のホールでの本格的なリサイタルは近年開催されていない。会場となるトッパンホールは客席数約400席。素晴らしい音響は世界の名演奏家からも愛されており、日本を代表するホールのひとつだ。
及川の力強く、研ぎ澄まされたフォルテッシモと繊細で美しいピアニッシモをダイレクトに味わえる規模の空間で、大ホールとは違った及川のピアノの魅力を堪能できるリサイタルになるだろう。
そして第1弾のテーマに及川が選んだのは「ラフマニノフ」。2023年、ラフマニノフは生誕150周年を迎えるが、記念すべき年に《オール・ラフマニノフ・プログラム》を演奏する。
プログラムのメインとなる「ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36」は、哀愁をおびた叙情とロマンチックな情熱的表現を備えたラフマニノフを代表する傑作のひとつで、多くのピアノ・ファンから愛される人気曲。及川は、十代の頃に受けた国際コンクールでは必ずこの曲を取り上げている。1984年ヴィオッティ・ヴァルセイジア国際音楽コンクールにて第1位を受賞した際にも演奏しており、この曲を「ピアニストとしての原点」と語っている。
また過去に2度、この曲をCDアルバムに収録(『プレイズ ラフマニノフ(1996年発売・スタジオ録音)』、『ラフマニノフ(2009年発売・ライヴ録音)』)し、2015年のデビュー20周年記念リサイタルでも演奏会を締め括るメイン曲に据えた。ラフマニノフのメモリアル・イヤーに、そして及川にとって新たなリサイタル・シリーズの第1回となる本公演で演奏するのに、これ以上ふさわしい曲はないだろう。
プログラムの重要な位置を占めるもう一つの曲が、「ピアノ・ソナタ 第1番 ニ短調 op.28」。第1番は第2番に比べて、演奏機会も少なく、知名度は決して高くない。
しかしラフマニノフが第1番を作曲した同時期には交響曲第2番を、少しあとにはピアノ協奏曲第3番を完成させており、作曲活動が非常に充実していた頃の作品だ。雄大で、情熱がほとばしるような作風で、第2番に負けず聴きごたえたっぷりの名曲となっている。特に終楽章の超絶技巧は圧巻で、及川の“情熱のピアノ”の魅力を存分に堪能できるだろう。
もともと演奏機会の少ない第1番と第2番がともに同じ公演で披露されることは極めて稀であり、今回のリサイタルの最大の注目ポイントだ。
ふたつのピアノ・ソナタ以外も充実したプログラムで、幻想的小品集op.3から第1曲 エレジーと第2曲 前奏曲を披露。(どちらもアルバム『愛の夢(2005年発売・スタジオ録音)』収録)
「鐘」の愛称で知られる前奏曲は、ラフマニノフのピアノ・ソロ曲の中でも屈指の人気を誇り、代表曲のひとつ。劇的な進行と荘厳なメロディは、リサイタルの冒頭を飾るのにふさわしいといえるだろう。エレジー(悲歌)も、その名の通り、哀感と激情が交錯する名小品だ。
第2部の幕開けとなる「楽興の時 第5番」は、ゆったりとした夜想曲風。6つの曲からなる「楽興の時」は、初演当時から高い評価を得ていたが、この後に発表された交響曲第1番が酷評を浴びてしまう。ラフマニノフは作曲がほとんどできないほど失意の底に落とされてしまうが、その挫折を経験する前の、勢いを持って作られたこの曲には、どこかあこがれや希望を感じさせてくれる趣がある。
大曲から小品まで、ラフマニノフらしい美しく情感溢れる旋律に溢れたプログラムだ。情熱のピアニスト・及川浩治の本領発揮となる演奏に期待したい。
公演情報
『及川浩治ピアノ・コレクション「ラフマニノフ」リサイタル in SPRING2023』