ラミン・カリムルーに聞く~マジカルでエモーショナルな瞬間に溢れたミュージカル映画『トゥモロー・モーニング』に主演
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『トゥモロー・モーニング』 ©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
2006年にロンドンの小さな劇場から生まれたミュージカルが、愛と人生について語りかけるような、素晴らしいミュージカル映画として生まれ変わった。それが『トゥモロー・モーニング』(2022年12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開)。主人公は、大恋愛の末に結婚して10年目を迎えたビルとキャサリン。息子も10歳に育っていたが、悲しいことに、ふたりは明日に離婚調停を控えている。しかし、「明日の朝には、すべてが変わってしまう」と嘆くふたりは、まだお互いへの愛を失ってはいなかった。ふたりの心を揺さぶるのは、10年前、愛を信じ切っていた自分たちの思い出。〈離婚前夜〉と〈結婚前夜〉、10年という歳月を隔てたふたつの時間軸を行き来しながら、愛の軌跡を美しいメロディーに乗せて描くこの作品には、マジカルでエモーショナルな瞬間で溢れている。
【動画】映画『トゥモロー・モーニング』予告編
この作品はオリジナルを手がけた気鋭のクリエイター、ローレンス・マイク・ワイスが映画のために脚本・作詞・作曲を1から再構築しているのだが、とにかくミュージカル映画としての完成度が満点。曲とストーリーの美しさはもちろんのこと、なんといっても10年前のカップルと10年後のカップルを両方とも演じているのが、世界最高峰と言えるミュージカル界の大スターなのである。それは、映画版『レ・ミゼラブル』でエポニーヌを演じたサマンサ・バークスと、舞台『オペラ座の怪人』のファントムでセンセーションを巻き起こして以来、実力・人気ともに絶好調のラミン・カリムルー! ふたりの聴かせるさまざまな心の音色、ハーモニーにはミュージカルの醍醐味がいっぱい。このふたりは日本で上演された『CHESS the Musical』で共演しており、相性のよさは証明済み。しかも監督は、その『CHESS』を演出したニック・ウィンストンなのだ。
『トゥモロー・モーニング』 ©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
ニューヨーク(現在はブロードウェイでミュージカル『ファニー・ガール』に出演中)からリモートでインタビューに答えてくれたラミンにとっても「この映画への出演は即決だったよ」と語ってくれた。「だってサム(=サマンサ)ともニックとも、すでに日本でこの上ないほどの信頼関係を築いていたから。サムは僕にとって、本当に共演しやすい人。一緒に働いてこれほど楽しい人はいないよ。僕たちの間には確固たる信頼関係があったので、シリアスだったりドラマ性を求められるようなシーンでも楽しみながら、支え合いながらできたと思う。とにかくいつもお互いを笑わせ合っていたよ。笑いすぎて腹筋が強化されたくらい(笑)。彼女は本当に面白くて、しかもものすごく頭がよくて、何が起こっているのかをよくわかっている知的な女性であり、アーティストだ。その知性、強さ、主体性ゆえに尊敬せずにはいられないね」
『トゥモロー・モーニング』 ©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
ふたりの相性が、単に声だけではなかったのは映画を見れば明らか。ふたりはアプローチのし方こそ違っていてもお互いをうまく活かし合うことができる、最強のコンビだと言える。
「たとえば、サムは事前にたくさんのことを話し合うのが好きだ。『ああいうことがしたい、こういうのはどうかしら?』と彼女が言うのを、僕は『うん、うん』って聞いて、彼女のアイディアを実践してみるのが好きなんだ。彼女とは感覚的に合うから、考えていることがすぐにピンとくるし、お互いの違いを知っているからバランスをとることができる。こんなに合うのは、僕たちが大事にしていることが同じだからだと思う。その核心は『楽しみたい』ってことにあるんだ。僕らはふたりとも、1日の終わりに『今日やったことはみんな楽しかった』と思えるって信じながら演じているんだよ」
また、歌だけではなく演技に対するストイックな役作りでも知られる彼は、「役と自分との共感ポイントから役への理解を掘り下げていく」という。そんな彼にとって、ビルは非常に共感できて、入り込みやすいキャラクターだったよう。
「僕ももう何十年か生きてきたので、20代から30代、そして40代という年代にどういう違いがあるのか実体験として知っているし、結婚が、子どもが人生にどんな影響を与えるかもわかっているからね。それに、仕事のために払わなきゃいけない犠牲がどういうものかもよくわかっている。ビルの人生、その葛藤についても共感できるところが本当に多かったよ。元になったミュージカルについては知らなかったんだけど、ローレンスと監督のニックが構築した脚本は、とてもよくできていたと思う。まるで旅のように、人生をよく描いている。映画の始めから終わりにかけて、その人物が変化していくさまを演じられるのはとても素晴らしいものだよ。人生って時として複雑なものだけど、その複雑さをよく反映していると思ったんだ」
『トゥモロー・モーニング』 ©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
映画ではサマンサとラミンが結婚前と離婚前、同じ人物のふたつの世代を演じ分けているのも見もの。これは舞台版では別々の俳優が演じていたのだが、映画版ではふたつの世代が対面する場面もある。「あのシーンは髭を生やした10年後のビルを先に撮って、髭を剃ってから向かい側に座ってもう一度撮っているんだ。髭剃り前のカットを取り残していないか、ニックやプロデューサーたちはすごく入念にチェックしていたよ(笑)。後戻りできないからね。僕は髭を剃る場所が狭くて参ったし、剃り跡が赤くならないようにするのが大変だった(笑)。でも演じ分けることは、それほど難しかったとは思わないんだ。ふたつの世代には違ったエネルギーがあって、脚本にその世代の心情がとてもよく描かれていたから。若くて責任がない分身軽で、無敵だと思えるほど自信に満ちた若さには、身に覚えがある。一方で、年を重ねたビルは貴重な経験を積んできているんだけど、それが人生を複雑にしてしまうこともありがちなものなんだよね」
ふたりが感情を乗せたナンバーの美しさは、筆舌に尽くしがたいほど。これは同時録音ではなく先にレコーディングをする方法をとったそうだが、だから演じながら「もう一度歌えたら」と思ったことも多かったそう。自分の人生と心の移り変わりを歌った「Wild」と、息子への愛を歌った「Look What We Made』」、ラストのメッセージ曲「All About Today」は特に気に入っているという。
『トゥモロー・モーニング』 ©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
「僕自身、仕事のために家族と離ればなれにならなくちゃいけなかったり、家族に犠牲を強いることも多かったから、『Look What We Made』にはどうしても感情移入してしまう。犠牲を払ったことは間違いだったのか、と考えることもあるしね。だけど自分が幸福な人生を求めて選んだ道だから、自分を哀れむつもりはないんだ。人生に選択はつきもの。だからこそ、『All About Today』のメッセージは響くと思う。日本のお客さんはこの曲を気に入ってくれるだろうなとずっと思っていたんだ。人生は一度きりだし、もし生まれ変わることがあるとしても、まずはこの人生を楽んで、ハッピーでいなきゃ。自分が落ち込んでいたら、周りまで不幸にしてしまうからね。惨めな気分でいたら、周りまで悲惨な気持ちにさせてしまう。幸せだと思えるときにこそ最高の仕事ができると思うし、幸せだからこそ最高の相手を愛することができて、光り輝けるんだと思う。それはすべて今日なんだ。明日が来る前に、最強の今日を送ることが大切だって伝わったらうれしいね」
『トゥモロー・モーニング』 ©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
メランコリックなせつなさも、恋のときめきも高揚感も、抱きしめたくなるような思い出の尊さも。ひと組のカップルがたどる旅のようなストーリーと音楽を通して、さまざまな感情を味わうことができるこの映画は、派手な大作ミュージカルにはない格別の魅力がある。もっとパーソナルで繊細な、心の機微を感じられるからだ。「ミュージカルの魅力というのは俳優が身体を使って表現する歌によって、普通に演じるより多彩で大きな感情を観客に届けられるものだと思う」と、ラミンの言う通り。ミュージカル・ファンなら、いや、ミュージカル・ファンでなくとも、癖になる美しさがこの映画にはあるのだ。
ラミン・カリムルー
取材・文=若林ゆり
上映情報
2022年12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開
■脚本・音楽:ローレンス・マーク・ワイス
■出演:サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、ハリエット・ソープ、フラー・イースト、ジョージ・マグワイア
©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
オリジナル・サウンドトラック:ソニー・ミュージックレーベルズ