大薮丘×前田隆太朗×林勇輝と演出・松森望宏、プロデューサー白樹栞に聞く『それを言っちゃお終い』への意気込み

インタビュー
舞台
2022.12.19


フランス・パリのTheatre De La Renaissanceにて上演していた『Fallait pas le dire』。これを翻訳し邦題『それを言っちゃお終い』をSociété Le théâtre Élyséeが日本初公演をする。

本作は15の短編からなる物語。母親が作るケーキのできやインターネットの閲覧履歴といった家族間の些細な問題からジェンダーや温暖化、政治にいたるまで、様々な事象を取り上げ、カップルが議論をする形で進んでいく。シニカルな視点にクスッと笑った後で色々なことを考えられる作品だ。
プレビュー前半では中津留章仁演出のもと、男女キャストで描かれた本作を、後半は松森望宏が演出を手がけ、男性同士のキャストで紡ぐ。29日(木)・30日(金)に出演する大薮丘・前田隆太朗・林勇輝と演出家の松森望宏、プロデューサーの白樹栞にインタビューを行った。

ーー林さんには前回のインタビューでお伺いしたので、大薮さん、前田さん、松森さんに、出演が決まった時、演出を手掛けることが決まった時の思いを教えていただきたいです。

大薮:松森さんの名前があったのが出演の決め手でした。前にご一緒した舞台の演出がすごく好きだったんです。自分が今考えていること、悩んでいることに関して集中的に演出してくださったのが素敵だったので、また一緒にできるのが嬉しいと思いました。

大薮丘

大薮丘

前田:僕も松森さんが演出をされると聞いてやりたいと思いました。今回は少人数でガッツリやる会話劇になるでしょうし、楽しみに感じています。

松森:プロデューサーの白樹さんからお話をいただいた時に、コロナ禍以降にできた現代劇と聞いて台本をちょっと読みました。15の短編をどう切り取ってもいいとト書にある。さらに、男女の話だけど男同士で演じてもいいし年齢も19歳から90歳まで誰が演じてもいいという自由度の高さが、今までにない面白さだと思いました。自分が今考えていることを反映できる台本はあまりみたことがないので、やってみようと。また、このトリコロールシアターってフォワイエも劇場も雰囲気が素敵ですよね。ここでお芝居をしてみたいというのもあってお受けしました。

白樹:全然違う作品のお話をしている時だったんですけど、台本を見せたらその場で「面白い!」と言っていただけて。

松森:いろんな考え方と作り方ができます。男女の話だけど男同士でやっていいというのも面白いと思いました。

白樹:(四人の女優を主人公にした)『楽屋』を男性で演じていることがあるでしょう。昔のフランスでは女優がおらず、男性が全て演じていたのもあって、そういうのをやりたいと話していたんです。

ーー台本を読んだ印象はいかがでしょう。

大薮:二人はものすごく言い合いをしているけど愛があるんだろうなと感じました。なんやかんや言いつつパートナーを信頼している。ドラマリーディングで観た方にそこまで感じ取ってもらうのは中々難しいと思いますが、伝えられたら嬉しいですね。

白樹:ただ台本を読むんじゃなく、動き回ってもらうから大丈夫だと思いますよ。

大薮:なるほど。僕らはすごく大変ですね(笑)。

ーー林さんは前半の男女ver.も出演しますが、後半は男性同士ということでまた印象が変わるかと思います。

:どちらも経験できるというのは贅沢なことだと思います。

ーーちなみにどういう組み合わせで男女を演じるかは決まっているんでしょうか。

松森:どう演出するかはまだ考え中ですが、自分が考えていること、社会をどう捉えるかを元に作っていくことになると思います。フランスの現代劇ということで、ビール飲みながら社会的な話をするなど、日本とはちょっと違う感覚もあると思います。でも、抱えている問題は世界共通ということを探りたいと思っていて。それぞれの話に「それを言っちゃお終い」というオチがつくんですが、全体の流れの中で何を提示できるかこれから考えたいです。

ーー台本を読んで共感できる部分はありましたか?

前田:僕は喧嘩をした時に理詰めしてしまうことが多いので、作中でそれぞれが言っていることは理解できるなと思いました。お互いが考えを持って喋っているのでまとまらない。日本人だと相手の言葉に流されることが多くて、ディベートする機会ってあまりないなと思います。僕にも僕の価値観があるので、作中の彼と彼女の発言に「それは違うんじゃないか」と思うことはありましたが、どちらにも共感できる部分はあると感じましたね。話によって変わってくると思います。

ーー大薮さんと前田さんは事務所が同じで、ミュージカル『テニスの王子様』などでも共演されているので仲がいいと思いますが、作中の二人のように議論になることもあるんでしょうか?

大薮:怒ってない言い合いは結構しますね。持っている意見が全然違う二人なのでぶつかることもあります。

前田:そうだね。でも、この台本を読んでいると二人ともイライラしてるように感じる。僕らはそういう感じではない。

前田隆太朗

前田隆太朗

白樹:イライラしているように感じますか? フランス人としてはこれが普通。自分の意見を押し通すところがあるんです。

前田:そうなんですか? 相手の言っていることを受け入れないわけじゃないけど、そんな言い方じゃなくていいのにと思う部分が結構ありました。

大薮:ちょっと口調が強いよね。

前田:日本人の感覚からすると「怒ってるのかな?」と感じる気がする。僕らは我を通すとかはなく、お互いの言い分を聞いて理解しようとする感じです。

ーー林さんは読み合わせをしてみて、印象に変化はありましたか?

:台本をいただいた時にも思いましたが、ジェンダーや温暖化など、社会問題をたくさん取り上げている作品。それを前田くんが言うように夫婦間の意見のぶつかり合いを通して書いているのが肝なんだと感じました。僕らがこの作品を演じることで、観ている方にも社会問題を考えてもらえるよう、大事に演じたいと感じましたね。

大薮:内容、結構生々しいですもんね。

:社会問題の中に、インターネットの検索履歴とか普通の喧嘩みたいな話もある。そこが面白いですよね。

白樹:全部『それを言っちゃお終い』というタイトルに繋がるんですよね。「ブールヴァール劇」と言うんですが、単なるコメディじゃなくて皮肉や風刺が込められているんです。ゲラゲラ笑うというより、ふふっと笑った後に「あの裏にはこんな意味があるんだよね」と考えたり話したりできる。

ーー構成や役はまだ決まっていないとのことですが、林さんは前半との演じ分けについて、大薮さんと前田さんはそれぞれの相手との作り方について、現時点で考えていることを教えてください。

前田:まずは喋ってみてですね。どこに引っ掛かりがあるかも人それぞれだと思うので。

大薮:確かに。人が変わったら面白い部分も変わるかも。

前田:長年仲が良い大薮とやるときは、ずっと一緒にいるからこその空気や距離感を出したいし、林さんとは初めてならではの化学反応を起こしたいです。テンプレートな答えになっちゃった(笑)。

:僕は前半の公演で女性キャストと演じたので、明確に違うものになりますよね。男女と男同士というところで、僕の中でも別作品のような感覚になるのかなと思っています。でも、社会問題を提示するという作品のテーマは同じなので、そこをしっかり表現できたらと思います。

林勇輝

林勇輝

大薮:結構難しいと思っていますが、掴んだら自由にできるのかなとも思います。冗談抜きに絶対面白いと思うので燃えてますね。

ーー松森さんとしては、どんなところで前半との違いを見せていこうと考えていますか?

松森:もちろん中津留さんの演出とは全然違うものになると思いますし、僕はそもそも現代劇の経験があまりないんです。この作品では社会問題やジェンダー、パワハラなど、古典だと比喩として描かれる部分もストレートに出てくる。フランスにおける議論や討論は日本人の感覚とちょっと違うかもしれないですが、僕らがやる上では、どう自分達に置き換えて落とし込めるかが楽しさだと思うんです。役の年齢も設定も僕らとは違うけど、僕らが日本で上演する意味があるものにしたい。しかも今回は若い世代のキャストですから。討論するための劇じゃなく、カップルが付き合っていたら自然と起きる問題を通して社会問題が見えてくるようなものにしたいです。これはどの作品でもそうですが、演じようとするより自分とどうリンクさせるか。男性のみでやる以上、ジェンダー問題など理解しきれない部分もあるかもしれません。でも、感じるものはある。“今”を直接的に取り上げている作品で、僕らが考えなきゃいけないことがたくさん含まれているからこそ、演出をしてみたいと思ったんです。でも、社会問題を直接浮き彫りにしたいというよりは、カップル二人の関係を描きたいです。二人の関係が広がって社会が見えてくるっていう構図になると、おしゃれな芝居になるかなと思っています。メッセージ性を強くしすぎず、人を描く作品にしたいです。

ーー最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。

大薮:年が明ける前に観て、新しい感覚で新年を迎えてほしいです。ぜひ楽しみに観に来てください。

前田:年の瀬なのでこれが今年最後の観劇になる方も多いと思います。「最後にこの舞台を観てよかった」と考えてもらえる作品にしたいです。

:シビアな社会問題を取り上げていますが、二人の会話の滑稽さなどで笑って年を越していただけると思います。ぜひ観にきてください。

松森:年末でクリスマスの後に上演します。本当に素敵な劇場なので、ここでひと笑いできるような、気軽な感じで作りたいと思っていますので楽しみにしてください!

白樹:今回はプレビューですが、ぜひ皆さんに本編もやってほしいと思いました。同じキャストでも毎回違うものになると思いますから、皆さんにもぜひ何度も観にきてほしいですね。パリのようにロングランができると良いなと思っています。

松森:パリではドラマリーディングじゃなく、普通の芝居なんですもんね。やってみたいです。

大薮:絶対に松森さんの演出が向いてますよ! すごくいいと思う!

松森:ありがたいです(笑)。

前田:プレビュー公演が話題になって広まったら嬉しいですよね。そのためにもまずは前半の皆さんに頑張ってもらって。評判がすごく良ければロングランになるかも。

大薮:そうだね、16日からの公演が評判良ければ自ずと……。

:すごい評判良かったですよ! ハードル上がりましたね。

一同:(笑)。

白樹:この舞台のいくつものシチュエーションを観ながら「こんな人と恋をしたり結婚してこんなふうに議論してみたい!」と想像頂けたら…⁈?
キャストの方々もお相手によっても日によってもお芝居が変わるのでは?
どうぞ皆さま、2022の最後を飾る素敵な俳優さんたちと様々なバージョンお楽しみくださいませ。

取材・文=吉田沙奈

公演情報

『それを言っちゃお終い ~PREVIEW~』
 
【日程】2022年12月29日(木)~12月30日(金)
【会場】六本木トリコロールシアター
 
【原作】Salomé Lelouch 『Fallait pas le dire』
【翻訳】岩切正一郎

【演出】
松森望宏(12月29日-30日公演)

【出演】
林 勇輝、大薮 丘、前田隆太朗
 
【出演スケジュール】
12月29日(木)
14:00 大薮丘/前田隆太朗
19:00 大薮丘/前田隆太朗
 
12月30日(金)
14:00 大薮丘/林勇輝
19:00 前田隆太朗/林勇輝

【ピアノ演奏】玲兎
 
】6,800円(全席指定・税込)/当日券 7,300円(全席指定・税込)

【企画製作】Société Le théâtre Élysée
【プロデューサー】白樹 栞

【公式サイト】http://tricolore-theater.com/
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