吉井和哉 集大成にして最高到達点、新たな始まりを予感させた日本武道館公演

2016.1.9
レポート
音楽

吉井和哉

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Kazuya Yoshii Beginning & The End 2015.12.28 日本武道館

2015年は、4年振りのオリジナルアルバム『STARLIGHT』を発表し、それにともなう全20公演のツアーだけでなく、各地夏フェスにも出演した吉井和哉。50歳を目前にしてもなお衰えることをしらない創作意欲を詰め込んだキャリア最高傑作を高鳴らしていたが、その1年を締めくくる毎年恒例の年末公演が、12月28日、日本武道館にて行なわれた。

『Beginning & The End』と題された今回の公演は、2015年はソロとしてキャリアをスタートさせてから初のツアーであった『YOSHII LOVINSON TOUR 2005 AT the WHITE ROOM』から丸10年ということもあり、これまでの全ツアーで披露された全楽曲の中からファン投票を実施。その結果を含めてセットリストが組まれるという、かなりスペシャルなものに。「いろんな吉井和哉をじっくり楽しんで行ってください」と話す吉井は、サポートバンドの“ナポリタンズ”--日下部 “BURNY” 正則(Gt.)、吉田佳史(Dr.)、鶴谷崇(Key)、三浦淳悟(Ba.)に加え、久々のライヴ参加となったジュリアン・コリエル(Gt.)の5人と共に、ライヴアレンジを施した楽曲を次々に繰り出していった。

吉井和哉

この日披露された楽曲は、ファン投票ということもあってか、比較的ソロ活動始動当初の楽曲が多め。吉井は「盛り上がる曲は少ないです! いや、元々少ないんです!」と、重めなトーンで構成されていた初期を振り返るような発言をしつつも、真っ赤な照明が武道館を包み込む中、ステージを歩き回りながら歌い上げた「PHOENIX」や、オーディエンスも共に大きな声をあげていた「I WANT YOU I NEED YOU」など、盛り上がらないほうが難しい曲が続く。ステージ後方と、アリーナエリアをぐるりと囲むように壁一面に張り巡らされたスクリーンに映し出される映像も、オーディエンスの興奮を煽って行く。

また、激しくオーディエンスを踊らせた「魔法使いジェニー」から間髪入れずに突入した「MUSIC」では、「武道館はずっとここにあるみたいだぜ! まだはっきりとした情報はわかんないけど、まぁここがなくなっても、俺はどこでも歌うぜ!」という力強い宣言で観客を喜ばせ、立て続けに「点描のしくみ」へ。タイトなビートに合わせて、タンバリンを叩きながら華麗なステップで魅了すれば、ダメ押しと言わんばかりに最新作から「(Everybody is)Like a Starlight」。光がめまぐるしく瞬く中、強烈なまでにポップなメロディーをたたえたダイナミックなサウンドを繰り出し、この日最大の熱狂を武道館に巻き起こしていた。

吉井和哉

過去楽曲が多いことから、自然とこれまでの歴史を振り返る側面もあり、MCでは楽曲を作った当時の思い出話も飛び出した。「BLOWN UP CHILDREN」では、「バンド活動をしていて、そのあとちょっと思うことがあってね。田舎のほうでのんびりして、悟りを開こうとしたんですが、全然悟れず(笑)。そんな時期に作った曲です」と話し、吉井がアコギをつま弾き始めたものの、イントロでちょっとミスをしてしまい、一度演奏をストップ。突如「ワセドン3」のイントロを弾き始め、客席の笑いを誘っていた。「FINAL COUNTDOWN」の曲中では、「去年(2014年)はカヴァーアルバム(『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』)をリリースして、12月28日(のライヴで演奏した曲)は、ほぼカヴァーでした。そしたらもう評判の悪いこと悪いこと! だからもう僕は決めました……僕はカヴァーを作り続けます! 売れなくてもいいんです! 今回(『ヨジー・カズボーン~裏切リノ街~』。2015年12月8日発売)だってほぼ自腹なんです! カヴァーばっかり作って儲けに走りやがったと言われますが、まったく儲かりません! バカたれが!」と絶叫(笑)。しかしそこから続けた「一番いい年の迎え方とは、恨みや憎しみを持ち越さないことです!」という言葉に、会場全体が大いに納得していた。また、2011年に発表されたアルバム『The Apples』に収録されている「FLOWER」では、東日本大震災の影響でジュリアンがツアーに参加できなくなってしまったことも含めて話した。

「30代の後半から一人の人間として、いろいろ葛藤しながら音楽を作り続けていて。そろそろ自分は古いんじゃないかなんていう恐怖が……今はもうまったく無いんですけど(会場から大きな拍手)。でもまぁそんな時期があって。でも、震災で自分の音楽観が変わり、改めて自分は音楽で何ができるか考え出した時期でもありました。「FLOWER」は、久し振りにみなさんに向かって書いた曲で、その曲を今夜、ジュリアンと一緒に武道館で出来るということを、すごく嬉しく思います。花のような皆さんに送りたいと思います」

吉井和哉

他にも、武道館全方位に向けて歌いかけた「CALL ME」や「TALI」、メロウで心地よい風を吹かせた「雨雲」や、“ナポリタンズAOR”とバンド紹介をした「SWEET CANDY RAIN」は、大人の色香漂うバージョンにアレンジしていたりと、とにかく見どころ聴きどころが満載。そんな中でも印象的だったのは、ライヴの1曲目として披露された「恋の花」と、アンケート結果で1位に選ばれ、ライヴの最後に披露された「MY FOOLISH HEART」だった。この2曲は、ライヴのオープニングを飾った駒沢裕城(ペダルスティール)、クリストファー・ハーディ(パーカッション)、松尾慧(篠笛)の3人を加えて演奏されたのだが、「本来、吉井和哉、YOSHII LOVINSONがやりたかった“洋楽なんだけど東洋の感じが混じったような世界観”」、「いろんな国の楽器が、いろんな国の人がいて。吉井和哉がソロになったときにやりたかった世界を、今日少しやらせてもらえていて胸がいっぱいです」と、吉井は話していた。事実そのサウンドは、民族楽器をはじめとしたさまざまな音が絡み合うことで、どこか遠い異国で生まれた音楽のようでありながら、日本人の琴線を揺さぶるような懐かしさを感じさせるものになっていた。

また「MY FOOLISH HEART」は、投票1位に選ばれたことから最後に披露したのかもしれないが、この曲はYOSHII LOVINSONから吉井和哉に名義を変えたシングル「BEAUTIFUL」のカップリング曲でもある。そんなバラードナンバーには、<行かなきゃ 僕はいつか行かなきゃ やるべきことのつづきに><なげだすものか 逃げ出すものか>と、当時の決意が綴られている。自身の原点と向かい合ったカヴァーアルバムの制作や、それを経て生み出されたオリジナルアルバムで最高地点を打ち出し、あのとき辿り着きたかった世界を歌いながらも、まだまだその先の未来をしっかりと見据えている──そんな沸き上がる情熱を穏やかに歌い上げて2015年の幕を降ろし、2016年、そしてその先へ向けての新たな始まりを感じさせる約3時間のステージだった。


撮影=有賀幹夫 文=山口哲生

吉井和哉

セットリスト

Kazuya Yoshii Beginning & The End 2015.12.28 日本武道館

1. 恋の花
2. PHOENIX
3. I WANT YOU I NEED YOU
4. 欲望
5. SIDE BY SIDE
6. CALL ME
7. BLOWN UP CHILDREN
8. 朝日楼(朝日のあたる家)
9. シュレッダー
10. TALI
11. 魔法使いジェニー
12. MUSIC
13. 点描のしくみ
14. (Everybodys is)Like a Starlight
15. FLOWER
16. 雨雲
[ENCORE]
17. トブヨウニ
18. SWEET CANDY RAIN
19. BLACK COCK’S HORSE
20. ノーパン
21. HEARTS
22. FINAL COUNTDOWN
23. 血潮
24. MY FOOLISH HEART