マルシィ 深く静かに心を揺さぶるメロディと物語、初のホールワンマンに見た可能性に満ちた未来

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2022.12.24
マルシィ

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マルシィ one man live 2022 “winter night”
2022.12.17 恵比寿 The Garden Hall

2022年はマルシィにとって、決して忘れられない1年になったはずだ。3月に初めての東京でのワンマンライブを成功させ、6月にアルバム『Memory』をリリースしてメジャーデビュー。7月には初めてのツアーで全国4ヵ所を回った。それまでライブ経験のほとんどなかったバンドが、フェスやイベントにも多く出演するようになった。そして今日、12月17日は、1年前に地元・福岡で初めてのワンマンライブを開催した記念日だ。会場は恵比寿ガーデンホール。初めて尽くしの1年を締めくくる、これが初めてのホールワンマンライブ。

暗闇に目と耳を慣らすようにゆっくりと音が流れ出し、白く輝く照明が雪のように降る。1曲目を飾るのは冬のバラード「白雪」だ。shuji(Gt)とフジイタクミ(Ba)、サポートの藤田亮介(Dr)、そして吉田右京(Vo&Gt)の歌が作るドラマチックな音像と、ミラーボールのまばゆい光を浴びて、ホールは一瞬でマルシィの色に染まる。ぐっとテンポを上げて、「オードトワレ」から「雫」へ。右京が力強く振り上げる手と、shujiが求める手拍子の合図に応えて、少しずつ空気が揺れ始めた。shujiのギターソロが、エモーショナルな感情を沸き立たせる。「ピリオド」から「ラブストーリー」へ、マイクを両手で包み込むようにして、右京が繊細な歌声を響かせる。動かずに歌と演奏に専念する二人に対し、タクミはよく動いてバンドのバランスを取る役割だ。3人それぞれ、1年間の成長をしっかりと感じさせるオープニング。

吉田右京(Vo&Gt)

吉田右京(Vo&Gt)

「2022年は本当にいろんなことがありました。メジャーデビューさせてもらって、初めてアルバムを出して、ツアーを回らせてもらって、思い返すと一瞬で過ぎた感じですが、いろんな人に助けられて今日という日を迎えられたと思ってます」

みんなもいろんなことがあったと思うけど、つらいことも悩みも全部忘れて、心を僕たちに預けて、一緒に楽しみましょう――。右京の力強いMCから「プラネタリム」へ、アッパーなリズムが弾け、照明が一気に明るさを増す。右京とshujiが向かい合ってギターを弾く、ロックなポーズも様になってる。ステージが七色の光に満たされた「君のこと」、そして音源にはなっていないがライブでの人気曲「もしもの続きを少しだけ」と、明るいダンスロック調の曲を連ねてぐんぐん飛ばす。「未来図」では全員の手拍子をリズム代わりに、一体感あふれるシーンを作り出す。リズムの緩急、感情の起伏、歌の表現、そして歌詞の中に綴った物語の展開に合わせてドラマチックなライブを作る。これがマルシィのライブスタイル。

shuji(Gt)

shuji(Gt)

MCは、「今年のトピックは?」というテーマだったはずが、なぜか3人で近所にあるお気に入りの温泉の話をしている。オチがみつからずに困ったタクミが、「フェスだとオレやshujiさんはしゃべらないから。たまにしゃべるとこういう感じになっちゃう」と笑っている。演奏の緊張感とは裏腹な、ゆるくて親しみやすい素顔がマルシィらしい。「今日は、今年でいちばん楽しいライブかもしれない。本当にありがとう」と、右京が観客に感謝を告げる。楽しい時間は過ぎるのが早いもの、ライブはすでに後半だ。

フジイタクミ(Ba)

フジイタクミ(Ba)

後半の始まりを告げるのは、右京が初めて作った大切な1曲「Drama」だ。歌詞に合わせて明滅する照明がぴたりとハマる。悲しい恋の終わりを歌う右京の声が、泣くのをこらえているようにせつなく響く。その続編のようなミドルバラード「花びら」へと、繊細な悲しみの情景がさらに深くなる。一転してアップテンポのロックチューン「牙」では、荒ぶる演奏に乗せて、悲しい別れの裏に潜む偽善を暴いて見せる。マルシィの世界は一色じゃない。アルバム『Memory』で見せた多様性は、ライブの場でより露わになる。

「今日のライブに合わせて新曲を持ってきました。聴いてくれますか?」

新曲のタイトルは「アリカ」。イントロなし、いきなり右京のハイトーンから始まる、エモーショナルなミドルバラードだ。幸せの在りかを探していると、いつも君にたどりついてしまう。そんな歌詞を持つ、戻らない日々の中にあった幸せを振り返る1曲。右京らしい繊細な心理描写と、シンプルに刻まれる演奏とがぴたりと寄り添う。リリースは未定らしいが、早く完成形が聴きたい。

吉田右京(Vo&Gt)

吉田右京(Vo&Gt)

「音楽以外何もできないけれど、たくさんの人に支えてもらって、こうしてみんなが聴いてくれるから作ろうと思えるし、一人ひとりに心から感謝してます。マルシィに出会ってくれて、曲を聴いてくれて、本当にありがとうございます」

誠実な右京のMCのあとは、あたたかい包容力にあふれた最新シングル「幸せの花束を」から、アップテンポで疾走する「最低最悪」へ。力強いリズムでバンドが一つになり、手拍子で観客が一つになる。余力を残さずに使い切る、爽快なエンディングに盛大な拍手が湧きあがる。マルシィのライブは、体を動かして踊ったり騒いだりするスタイルとは少し違う。その代わりに、深く静かに心揺さぶるメロディと物語がある。

shuji(Gt)

shuji(Gt)

アンコールで再登場した3人が、にぎやかにグッズの紹介をしている。来年も再来年も12月17日にライブをやりたいと、早くも未来の約束をしている。結成4年、メジャーデビュー半年、まだまだ始まったばかりの可能性に満ちたバンド。マルシィには未来しかない。

フジイタクミ(Ba)

フジイタクミ(Ba)

「来年ももっと頑張って、一生懸命音楽を作って、たくさん届けられるように、ライブももっとやれるように頑張っていこうと思います。一緒に歩いていってもらえるとうれしいです」

「最後、立っていいよ」と右京にうながされ、全員が総立ちで聴き入った最後の1曲は「絵空」だった。今日のライブタイトル“winter night”は、「絵空」の歌詞《あの冬の夜》からとられたものだ。いつか思い出になる日が来るとしても、幸せな時間は確かにそこにあった。もしかして、今日のライブもそういうものかもしれない。ミラーボールから星のように光が降り注ぐ。最後のワンシーン、右京が一瞬声を詰まらせたように聴こえたのは、気のせいだっただろうか。

客席をバックに記念撮影するメンバーが、楽しそうに笑ってる。ドラマに満ちた2022年がもうすぐ終わる。2023年、マルシィはデビュー2年目を迎える。ホップ・ステップ・ジャンプのステップを経て、来るべき大ジャンプに向けて期待は高まる。マルシィには未来しかない。


取材・文=宮本英夫 撮影=冨田味我

 

セットリスト

マルシィ one man live 2022 “winter night”
2022.12.17 恵比寿 The Garden Hall
01. 白雪
02. オードトワレ
03. 雫
04. ピリオド
05. ラブストーリー
06. プラネタリウム
07. 君のこと
08. もしもの続きを少しだけ
09. 未来図
10. Drama
11. 花びら
12. 牙
13. アリカ
14. 幸せの花束を
15. 最低最悪
<ENCORE>
16. 絵空

リリース情報

「幸せの花束を」
2022年10月26日配信
https://marcy.lnk.to/bouquetfilledwithhappiness

ライブ情報

SANUKI ROCK COLOSSEUM 2023 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786
2023年3月18日(土)・19日(日)
https://www.duke.co.jp/src
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