ダミアン浜田陛下、改臟人間の新譜『虚無回廊』を聴く(筋トレしながら)<後編>/金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第35回
-
ポスト -
シェア - 送る
ダミアン浜田陛下、高木大地(金属恵比須) (写真:山田晋也)
金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門>
第35回 ダミアン浜田陛下、改臟人間の『虚無回廊』を聴く(筋トレしながら)<後編>
聖飢魔Ⅱの創始者・ダミアン浜田陛下との対談、後編である。(前編 https://spice.eplus.jp/articles/311494 )
2022年12月7日に発表した金属恵比須のニューアルバム『虚無回廊』を陛下に聴いていただきご感想をいただこうと思ったものの、話が音楽の話題で脱線しまくる。当初は1回のみの連載の企画だったが、あまりにも多くを語りすぎたので急遽、前後編の二部作となった。それでは対談の続きを。
金属恵比須の新譜『虚無回廊』ジャケット
■新たなジャンル「人間解体メタル」提唱
ダミアン浜田陛下(以下陛下) 聖飢魔Ⅱへのオマージュてんこ盛りの「魔少女A 」だが、昭和歌謡のメタル版という感じが大変良い。
高木大地(以下高木) 恐縮です。陛下に怒られはしないかとヒヤヒヤしておりました(笑)。
陛下 この曲は1日でつくったらしいな。
高木 はい、1日でアレンジまで終えました。
【動画】アルバム『虚無回廊』収録曲、「魔少女A」PV
陛下 間奏でメインのリフが変化しながらずっと続くアレンジも秀逸だな。「なんと自由な編曲なんだ!」と感心したぞ。歌詞からは中森明菜女史の「少女A」の香りもするが、私は最初に聴いた時に牧葉ユミ女史の「回転木馬」の香りも感じ取った。
高木 ホントだ! 「あな、た」が全く同じ雰囲気ですね(笑)。
陛下 D.H.C.の「新月のメヌエット」にしてもそうだが、こういう譜割での出だしはよくあるパターンだな。
高木 「回転木馬」、いい曲ですね。
陛下 山口百恵女史がスター誕生で歌った曲で、なんとベンチャーズ作曲なのだが、胸が切なくなるメロディだ。昔の歌謡曲やグループサウンズにはそういった切ないのにカッコいい曲が多く、私はとても好きだったな。「魔少女A」もそういったどことなく切なくカッコいいメロディが良い!
高木 ありがとうございます。
陛下 歌詞を読むと背景は異なるが、虚無の闇をさまよいながら自分なりの生き方を見つける展開も共通しているな。
「魔少女A」の決定稿の楽譜
高木 陛下の音楽ストライクゾーン、広すぎですね(笑)。歌謡曲まで出てくるとは思いませんでした。
陛下 いやいや、私のストライクゾーンは狭いぞ! 幼い頃から遡って音楽的衝撃を受けたジャンルは、アニソン&クラシック→歌謡曲→フォーク→プログレ→HR/HMという順だ。しかし、それらのジャンルの中で私の琴線に触れる音楽は広くはない。結構、好き嫌いが激しい偏食リスナーなのである。
高木 失礼を省みず申しますが、陛下の作る曲は純粋なメタルではないと思っています。アリスなどのフォーク・歌謡曲系のメロディをメタルのアレンジで聴かせる印象があります。
陛下 ははは! そうだろう。あとアニソンだな。子供の頃に影響を受けた音楽からはなかなか抜け出せない。その個性を無理やり違う方面に向けるつもりもない。
高木 ところで「魔少女A」はあまりにも陛下と聖飢魔Ⅱを意識しすぎたので、アレンジではクラフトワークの要素を入れてみました。「人間解体メタル」という新たなジャンルを提唱しようかと。
陛下 そういわれてみればたしかに、イントロと間奏とアウトロにクラフトワーク臭が(笑)。「人間解体メタル」イイんじゃないのか。そなたにいわれるまでは、私はイタリアのプログレバンド、ゴブリン臭も感じ取っていたがな。この曲以外でも感じるが。
高木 MVもつくりました。
陛下 浅水るり女史(キスエク)がイイ仕事をしておる! ただ歩いたり佇んだりしているだけだが、どこかに人間の心を置き忘れてきたかのような雰囲気が良く出ているな。荒い画質も近未来の予知夢の様な不思議な雰囲気が出ていて素晴らしいと思うぞ。
■陛下、プログレマニア炸裂す
陛下 「巡礼」も素晴らしいと思ったぞ。
高木 これはキーボードの宮嶋健一が初めて金属恵比須に提供した曲をベースにつくりました。そこにディシプリン風のパートは私、フラクチャーやレッド風のパートは栗谷、とそれぞれが作曲しました。長い曲なのでセクションごとでリハーサルをするのですが、「じゃあ、次、ディシプリンやろう」とか、「レッド、難しい」みたいな会話がスタジオで繰り広げられていました。クリムゾンのコピーバンドみたいな会話です。裏タイトルは「クリムゾン・キングの巡礼」(笑)。
陛下 ははは、やはりな! 「Vrooom」と「Thrak」の香りもするな。しかし、インスパイアされた曲を金属恵比須として十分消化吸収しており、オリジナル曲として至高の完成度に仕上がっていると私は思う。冒頭のスキャットからこの曲の世界観に引き込まれる。14分超の曲の長さに対して、その長さを感じさせない変化に富んだ構成も素晴らしい。「星空に消えた少年」は昭和歌謡またはアニソン風でありながらも、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)の「悪の教典#9」の香りがプンプンするのJaguar(笑)。狙ったのかね?
高木 もちろん狙いました(笑)。この曲は渡辺宙明先生の作曲指導のアポイントが取れたので急遽作った曲です。1時間半で仕上げました。宙明先生は惜しくもその3ヶ月後に帰らぬ人となりましたが、いい経験をさせていただきました。
【動画】金属恵比須『星空に消えた少年』PV Kinzoku-Yebis
■陛下と高木の作曲対談
陛下 そなたの自信作はどの曲なのかね?
高木 「虚無回廊オープニングテーマ」ですね。
陛下 なにい? そうなのか? 意外だな。
高木 個人で作曲方法を日々学んできているのでそれを作品として発表する、いわば論文みたいな曲になりますね(笑)。
陛下 大学生みたいだな。おまえも改臟大学生にしてやろうかっ!
高木 コンセプトを次の曲以降でも匂わせるようにするため、この曲のメロディを他の曲のいたるところで使用しています。そういう意味ではさまざまなテーマメロディが入っているので『虚無回廊』の核になるかなと。欧米の映画音楽的な匂いを出すように苦心したのですが、みんなに聴かせたところ、「横溝正史シリーズの匂いがする」といわれ全く欧米の香りがしないという(笑)。なかなか日本のドラマ体質は抜けられないんだなと。
陛下 私も昭和のサスペンスドラマの雰囲気があると思ったぞ(笑)。しかし、全体的には何となくだがジェネシス『静寂の嵐』の雰囲気が感じられたな。「Eleventh Earl of Mar」とか「Unquiet Slumber for the Sleepers」のあたりのイメージだな。
高木 もちろんキーボードの使い方はジェネシスの影響もありますね。メロトロンパート以外は私が弾いています。そういえば「虚無回廊オープニングテーマ」「魔少女A」「人工実存」で使われるフレーズ「♪ラーミシミーラミシミー」の音列、聞こえますでしょうか? 共通するメロディです。
陛下 いやあ、全然気がつかんかったわ(笑)。そんなカラクリをしておったのか!
高木 アルバムをつくろうという話になった際、曲が何も思いつきませんでした。そういう時は作曲家の伝記などを読んでオーケストラ譜を写譜するんです。写経みたいに(笑)。今回はソ連の作曲家ショスタコーヴィチの「交響曲第10番」でした。それをメンバーの宮嶋に話したら、「『第10番』で使われている技法の“DSCH音型”の真似すれば?」とアイデアをもらいました。
ショスタコ「交響曲第10番」の“写経”楽譜とレコーディングのタイムテーブル。「踊る難破船」というのは「人工実存」の仮タイトル
陛下 DSCH音型?
高木 ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(Dmitrii SCHostakowitch)のイニシャルをドイツ音名と考え音符に当てはめる技法です。
陛下 なるほど。
高木 そこでひらめきました。『虚無回廊』には2人の主役がいます。アンジェラ・エンドウ(A.E.)とヒデオ・エンドウ(H.E.)。AEHEをドイツ音名と考えれば「ラ・ミ・シ・ミ」となります。これを「♪ラーミシミーラミシミー(A〜EHE〜AEHE〜)」とテーマ・メロディにしたらスラスラと曲が書けたのでした。
陛下 凝り方が尋常ではないな。
虚無回廊オープニングテーマ楽譜写真
高木 陛下もD.H.C.だったら「レ・シ・ド」になります。作曲に苦しんだらご活用ください(笑)。
陛下 ほっほ~う、そんな遊び心を音楽に取り入れた手法があるのだな。遊び心という点で、モーツァルトの「音楽のさいころ遊び」を思い出したぞ。
高木 陛下の作曲方法と思い付かずに苦しんだ時にはどのようなことをしますか?
陛下 そうだな、悔しいので、何パターンも作ってとことん産みの苦しみと戦う。D.H.C.の「Heaven to Hell」や「Running like a Tiger」などはこのパターンだ。そんなパターンさえ思い浮かばない時は他の作りかけの曲を手掛ける。そんな気力さえない時は作曲自体を丸一日あるいはそれ以上休んで他のことをする。適当に間を空けると、不思議なことにすんなりと続きができる事が多いな。
高木 惜しくも昨年2022年に亡くなられた藤子不二雄A先生は、漫画を描いているときに思いつかなくなると締め切りも考えずにゴルフなど遊びに出かけるそうです。そうすると戻ってきたらアイデアが浮かぶのだそうです。そのような境地なのでしょうね。
■陛下、将来の展望
陛下 とにかくとんでもない傑作が完成したな。小松左京ファン、キング・クリムゾン好きのプログレファン、ブラック・サバス好きのメタルファンのみならず昭和歌謡やアニソンをこよなく愛する者、ゴジラマニアなどなど多くの人が楽しめる作品だ。ヘッドフォンではなくスピーカーからできるだけ大きい音で部屋を暗くして聴くことをお勧めする。
高木 陛下の今後のスケジュールや野望を教えてください。
陛下 まだ第Ⅳ聖典も発表されていないのに、デモ音源は貯まる一方なので、魔暦25年(2023年)はそれらをどんどん世に出して魔界教育を行っていきたいと思っておる。また、ツアーの最終日に約束したようにライヴで直接魔力を浴びせる機会を設けたいとも考えておる。そして、ゆくゆくは海外にも目を向け魔界教育を施し、地球魔界化計画を遂行せねばならぬ。それでは、本日はこれにてさらばだ。
高木 ありがとうございました。そして、陛下の筋トレのBGMとして『虚無回廊』が再び使われることを心から祈っております。
文・構成=高木大地(金属恵比須)