劇作家・演出家・俳優として多方面で活躍する佃典彦が指導と演出を務める〈座☆NAGAKUTE〉が、2年ぶりの公演『風立ちぬ』を愛知で上演
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座☆NAGAKUTE『風立ちぬ』の出演者と演出家。 前列左から・江尻吉彦、しずはたまこと、あぼともこ、のりづきみな、伊藤靖徳、谷内範子 中列左から・多嘉山秀一、住奥まさか2、西尾寿江、瀬戸深雪、吉本陽子、榊原みどり、指導・演出の佃典彦 後列左から・玉木きよし、安達聡子
近年は俳優としてテレビドラマなどでも活躍する劇作家・演出家の佃典彦(劇団B級遊撃隊主宰)が、20年以上に渡って指導と演出を務める、愛知県長久手市の市民劇団〈座☆NAGAKUTE〉。老若男女の個性豊かなメンバーで構成され、既成の台本を用いて佃が演出を手掛ける形で、毎年春先に行う公演が恒例となっている。
残念ながら昨年2022年に上演予定だった作品は新型コロナウイルスの影響により中止となってしまったため、今回は2年ぶりの公演だ。その第34回公演として、『風立ちぬ』(竹内銃一郎 作)を、2023年3月18日(土)・19日(日)に「長久手市文化の家 風のホール」で上演する。
座☆NAGAKUTE『風立ちぬ』チラシ表
今作『風立ちぬ』は、1998年に竹内銃一郎が〈劇団東京乾電池〉のために書き下ろした戯曲で(2015年に改訂)、地方都市の旧家を舞台に展開されるナンセンス恋愛コメディーだ。初夏のある日、意に沿わぬ結婚式を明日に控えて憂鬱な様子の吉野さき。そんな彼女のもとへ、子ども心にほのかに恋心を抱いていた元力士・小川錦一(三原山)が20年ぶりに姿を現す。さきの心は結婚式を前に揺れ動くばかりだが、錦一は数年前に既に死んだという話も聞こえてくる。錦一に対するさきの恋心のみならず、周りの人々の間でもさまざまな恋の鞘当てが巻き起こり、てんやわんやな状況に。そんな中、なんと日本で戦争が始まり……。
〈座☆NAGAKUTE〉では毎公演、座員たちが相談して上演戯曲を選ぶ形式をとっているが、今回は佃から提案のあった『風立ちぬ』も候補に加え、協議を重ねた結果、本作に決定したという。竹内銃一郎といえば、佃が演劇を始めた大学生の頃から劇作の師と仰いできた劇作家・演出家で、1992年には佃が主宰する〈劇団B級遊撃隊〉の公演『インド人はブロンクスへ行きたがっている』の演出も手掛けているが、意外にも竹内作品を佃が演出するのは今回が初めてなのだとか。作品決定に至る流れや佃の演出・指導法などについて、佃典彦と、〈座☆NAGAKUTE〉座員で今作では小川錦一(三原山)役を演じる住奥まさか2の両名に話を聞いた。
── 今回も例年どおり、作品選びは座員の皆さんで行われたということですが、『風立ちぬ』に決まった経緯を教えていただけますか。
住奥 いつも何名かの座員から、「これをやりたい」という戯曲が幾つか提示されまして、今回は5作品挙がったんですね。それをみんなで読んだりしている時に、佃先生からこの『風立ちぬ』も候補に入れてみたら、という提案があったんです。それを交えてみんなで戯曲を読み進めていって最終的に投票を行うと、『毒薬と老嬢』(ジョセフ・ケッセルリング 作)と「風立ちぬ」の2つに絞られまして、みんなで相談した結果、『風立ちぬ』がやはりいいな、ということで決まりました。
── 他にはどんな作品が候補作に?
住奥 佃先生の戯曲でサッカーを題材にした『PK』とか、キャラメルボックスの作品もありましたね。候補作がどれも一長一短で、これはいいけどこれはちょっとなぁ…とみんなで悩んでいた時に提案があって、読んでみたらこれ面白い! という感じでしたね。
── 上演作はだいたい、皆さんが出演できる登場人物の人数ありきで戯曲を選ばれるわけですよね。
住奥 そうです。みんなが出られる作品というのも大事ですけど、「誰かスタッフだけにまわる作品があってもそれは仕方がないじゃないの」というような意見もありながら、今回もちょっと揺れていたんですけど、最終的には「やっぱりみんなが出られるものにしましょう」ということで決まりました。
── 結果的に今回は佃さんが提案された竹内銃一郎さんの作品に決まったわけですが、佃さんはなぜ『風立ちぬ』という作品を提案されたんでしょう?
佃 登場人物も多いし、座員のみんながいろいろ決めかねている様子もあったから。『風立ちぬ』は、最近出た竹内さんの戯曲集「竹内銃一郎集成 VolumeⅠ 花ノ紋」(2021年発刊/松本工房)に収録されていて、その「〈解説〉に代えて」を僕が担当して書いたんですよ。その時にこの戯曲を読んで面白いな、と思って。
『風立ちぬ』稽古風景より
── 今から25年前に書かれた戯曲ということで、当時の橋本龍太郎政権などの話が出てきたりしますが、今回の上演にあたって時事的なものを変えたりはされているんですか?
佃 変えました。一番難しかったのは電話の扱いで、当時は携帯電話が普及しだした頃で、家の固定電話もまだよく使われていた頃だったから、(家人ではない)登場人物が電話を借りに家の中に入る、というシーンがあるんですけど、舞台上には電話機はないので、そのままだと若い人が観てもピンとこないんじゃないかな、と思って。あと、力士だった三原山の星取表をネットで検索してプリントアウトしたものを持ってくる、というシーンも、「スマホにデータ送っておきますね」という風に現代の設定に修正しました。
── 今回の作品に限らず、座員の皆さんから見た佃さんのご指導や演出についてはいかがですか?
住奥 登場人物の情景とかそのシチュエーションを面白おかしく笑いを混ぜながら演出してくださるので、みんな楽しく稽古ができていると思います。本番が近くなってシビアな状況になってきても、そういったことは心掛けてみえるんだと思うんですけど、あまりピリピリした感じにならないようにやってくださっているので有り難いです。
── 佃さんとしては、今回はどのような感じの演出にされているのでしょうか。
佃 基本的にはいつもと変わらない。変わらないんですけど、横内(謙介)さんのホンとかみたいにストーリーがあるわけじゃないので、いつも以上に舞台の上にいる人達の生っぽさが出るような感じには思ってやってるかな。
住奥 私達から見ると、いつもに比べてちょっとレベルが高い要求をされているというか。
佃 そうだなあ。
住奥 舞台の上の立居振る舞いが、自然にリアリティを持って…ということを要求されたので、これまでよりひとつ上のレベルを求められているな、ということで最初はみんな四苦八苦していました。
── 登場人物の関係性が微妙だったり、設定自体が演じる上ではなかなか難しそうですよね。
住奥 そうですね。今回はこと細かく指示をして演出されるわけではなくて、ポイントポイントを押さえて、それに合わせてその人達が変わっていくのを待っているというか、なんかそういったような演出をされているな、と私は思ったんですけど。
佃 ストーリーがあるものの方がたぶん細かいよね。要するに、演出の注文が細かくなると俳優さんはそれをまずこなそうとするから、相手役とか周りのことは関係なく言われたことだけこなそうとしちゃうんですよね。ストーリーがあれば、それぞれがそれぞれのことをこなそうとしてても成立するんだけど、今回はそういうわけにいかないからポイントだけ押さえる形で。あとはとにかく相手役と合わせてやってもらわないと難しいから、たぶんそうなってるんですね、いつもよりは。
住奥 そういう意図があったんですね。
佃 そうそう。
『風立ちぬ』稽古風景より
── 戯曲を読むだけでは、人物像がわかるようでわかりづらい部分もあったり。
佃 ただ、〈東京乾電池〉に書き下ろしたホンだから、この役が柄本明さんで、この役が綾田俊樹さんで、この役が角替和枝さんで…みたいなことで読んでいくとものすごくわかる(笑)。これはベンガルさんだろうな…適当なこと言ってて可笑しいんだろうな、とか思うんだけど、それを長久手の人達に求めてもしょうがないから。でもだいぶね、長久手なりの『風立ちぬ』の人物像が見えてきてるなぁと思ってはいますよ。
── 確かにそう読むと納得ですね。
住奥 三原山とかさきは、暗い影を持ったちょっと意味ありげな雰囲気のある人物なのかな、と一見して読むとみんなそう思っていたと思うんですけど、佃先生が演出されるとなんか全然違う風になって、あれ、なんでこうなんだろう? と。今から思うと、あぁこういうことなんだ、っていう風に最初の印象からガラッと変わりましたね。
佃 そういうのって結構ありがちで、別役実さんのホンとか、竹内さんのホンもそうだけど、特に別役さんのホンは、これもうコントだよね、って思うんだけど、真面目に深刻に読む人もいっぱいいて。ただただ可笑しいだけだよねこれ、って。ちょっとコント風だったり、ただナンセンスで可笑しいということを結構下に見がちなのよ。もっと高尚なことが書いてあるんじゃないか、って読みがちなんだけど、そうじゃないんですよね。
基本的には笑えることが書いてある。それぞれの登場人物に“おかしみ”があると思うんですよ。『風立ちぬ』に限らず、どの戯曲を読む上でもまずそこから入った方が読み解きやすい。岸田國士とかもそうだけど、可笑しいなぁこれ、って思うことがまず大事だと思ってるので。『風立ちぬ』だと、さきが一番わかりづらいじゃないですか。何この子、って(笑)。さきをどう捉えるかで印象が全然違ってくる。明日の結婚式のことを、ずーっとぐじぐじ思い続けて悩んで…みたいな風に読むと深刻なことになっちゃうけど、そうじゃない気がする。
── そうですね。あっけらかんと喋っていると思ったら、全然違う印象になりますね。
佃 そうそう。ものすごく闊達な人だと思うんですよね、さきって。こうって思ったら途端に振り切れるような人でしょ。勝手に物事を自分勝手に決めてくし、そんな辛い人じゃないような気がするんだよ。ものすごい自分勝手だもん(笑)。
『風立ちぬ』稽古風景より
── 師と仰ぐ竹内さんの戯曲はこれまでもたくさん読まれてきていると思いますが、改めて演出家として今回の作品に向き合われてみて、何か感じたことなどはありましたか?
佃 昔の〈秘宝零番館〉(1980年に俳優の木場勝己と共に結成、1989年に解散)でやっていた頃のホンとそれ以降のホンはやっぱりずいぶん違ってるな、というのは思っていて。なんというのか、登場人物自体の物語をすごく感じるんですよ。1人1人のバックボーンというか、そういうものの上に成り立っているんだな、という印象が一番強いかな。登場人物の物語がそれぞれあって、その上澄みが書かれている感じ。お酒でいうと“蒸留酒”みたいな。昔は登場人物同士が今の事象に対してどうするか、ということで書かれていて、結構“どぶろく”っぽかった気がする(笑)。
── 全体が澄んで見えやすくなった、みたいな。
佃 僕のイメージはそうですね。だから演出する上では余計難しいんだけど。何か作品を演出するにあたって演出家の人達はみんな、自分の引き出しの中からいろんな道具や言葉を出したり、方法論を使ったりするじゃないですか。僕の引き出しは元が「竹内印」の家具だったりするから、そこはやっぱりいつもより意識はしますよ。それは住奥さんとか長久手の人達以上に。これは竹内さんに怒られるんじゃないかなぁ…とか(笑)。
── そんなこと思われるんですね!
佃 思う思う。観に来るんだもん、だって。だから勝手に意識してます。久しぶりに提出物を先生に見られる感覚(笑)。
座☆NAGAKUTE『風立ちぬ』チラシ裏
取材・文=望月勝美
公演情報
■作:竹内銃一郎
■演出:佃典彦
■出演:多嘉山秀一、安達聡子、のりづきみな、榊原みどり、伊藤靖徳、あぼともこ、玉木きよし、すがとも、しずはたまこと、谷内範子、江尻吉彦、西尾寿江、瀬戸深雪、吉本陽子、住奥まさか2
■会場:長久手市文化の家 風のホール(愛知県長久手市野田農201)
■料金:前売・当日1,500円 高校生以下1,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「藤が丘」駅下車、リニモで「はなみずき通」駅下車、徒歩7分
■問い合わせ:長久手市文化の家 0561-61-2888(9:00~19:00、
■公式サイト:https://bunkanoie.jp