「『X Games』は僕らの“オリンピック”」……Moto Xのレジェンド・東野貴行が『X Games Chiba 2023』を語る!

2023.4.18
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Naoki Gaman / ESPN Images

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アクションスポーツの国際競技会『X Games Chiba 2023』が、5月12日(金)~14日(日)にZOZOマリンスタジアム(千葉県)で開催される。

X Games Chiba 2023』では、スケートボード、BMX、Moto Xの3カテゴリーで競技が実施される。その中でも、Moto Xはモトクロス用のバイクを使って、後方宙返りなどアクロバティックな演技をする競技だ。

今回『X Games Chiba 2023』では、Moto Xで「ベストトリック」という種目が採用された。これは大きなジャンプ台からバイクで駆け下りてジャンプし、「トリック」と呼ばれる演技を行う、いわゆる一発勝負の競技だ。

Naoki Gaman / ESPN Images

このMoto Xの世界で、過去に『X Games』で金メダルを獲得した日本人選手の一人が東野貴行だ。東野は大阪府出身の38歳。18歳でプロに転向し、2012年、2013年に『X Games』で優勝。2013年には大阪で開催された国際大会『Red Bull X-Fighters』でも優勝している、レジェンドともいうべき存在だ。

今回『X Games Chiba 2023』に出場する東野貴行に、大会に臨む心境を聞いてみた。

『X Games』は僕のすべて、他の競技のオリンピックのような存在

ーーいよいよ『X Games』の開催が間近に迫ってきました。まずは大会への意気込みをお聞かせください。

東野貴行:『X Games』は去年から日本での開催が始まりましたが、その前に国内で大きな国際大会が開催されたのは、2013年の『Red Bull X-Fighters大阪』まで遡ることになります。こうした大会が日本で開催されることに、とても感謝しています。

だから僕的には、頑張って精一杯楽しませてもらおうと思ってます。

ーー今大会における目標を教えてください。

東野貴行:できればトップ3に入りたいですけど、予想が立てられないですね。みんなが凄い技を繰り出そうと考えていて、その分だけ失敗のリスクも高いわけで。僕の中では自分のトリックに集中しながら、自分の持ち味である“安定感"を出せたらなと思います。

ーー過去にも何度か出場している東野選手にとって、『X Games』とはどんな大会でしょうか?

東野貴行:『X Games』は僕のすべてですね。『X Games』があったからアメリカに行こうと思ったし、僕の夢でもありました。

X Games』は招待制なので、出場できるだけですごい価値のある大会なんです。ここに呼ばれるということは、世界のトップ10メンバーに認められているようなものですね。だから、僕らにとっては“オリンピック”なんです。それを目標にして、普段の練習や競技に出る。そう、他のアスリートにとってのオリンピックのような存在ですね。

そんな大きな大会なんで、それが日本で開催されることが夢のようで、いまだにちょっと信じれないです(笑)。

Naoki Gaman / ESPN Images

ーー東野選手はそもそもどんなきっかけで、Moto Xを始めたのでしょうか?

東野貴行:僕はもともとモトクロスのレースに参加していたんです。ある日、いつものようにモトクロスの練習に行ったら、フリースタイルのジャンプ台が設置されていて。それを見ていたら、周りに人が集まってきて、僕が飛ぶみたいな雰囲気になっちゃいました(笑)。とりあえず挑戦してみたところ、1回目は飛びすぎてしまったのですが、2回目は力を加減して距離を合わせたら上手く飛べたんです。観衆は大喜びでしたね。

その後、ジャンプ台を設置したフリースタイルのライダーさんから電話もらって、「お前飛んだらしいやん」みたいな話になりました。

ーーたまたまジャンプ台があって、飛んでみたのがきっかけだったと。

東野貴行:そうなりますね。それで練習していたら、ショーに呼んでもらえるようになって。日本におけるMoto Xの第一人者である佐藤英吾さんと出会って、本格的にフリースタイルに打ち込むようになりました。

レースというのは調子によって結果が左右されるので、なかなか自分の成長が実感できません。

でも、フリースタイルは技でできたという達成感が目に見えるので、どんどん楽しくなりましたね。

ーーそしてアメリカに渡った。

東野貴行:自分で練習場所を探したりして、大変な思いをしました。でも、ある練習場でジェレミー・ステンバーグという有名なフリースタイルライダーと知り合いになって、彼の家に泊めてもらえるようになったんです。その後、ジェレミーが紹介してくれた『Dew Tour』というシリーズ戦に出場したのですが、第1戦目のジャンプで、僕は怖くてバックフリップができませんでした。

結局、その大会は11位で終わってしまったのですが、「わざわざアメリカまで来て、なんでこんなビビってんやろう」って反省しましたね。第2戦ではどれだけ大きなジャンプ台であっても、僕はもうバックフリップにチャレンジしようと、自分の中で決意しました。

ただ、いざ第2戦のコースに行ってみたら、ジャンプ台がめちゃくちゃでかかったんですよ(笑)。バックフリップもトップの2人しかやってなかったのですが、それでも僕は心に誓っていたのでチャレンジしました。予選の1回目は飛びすぎたので背骨からバキバキって音が聞こえて、2回目は逆にショート。3回目でようやく成功して、予選2位になれました。向こうでは「カミカゼスタイル」って言われてましたね。

その後、ファイナルが大雨で中止になったので、予選順位がそのまま本選の結果になって、その大会は2位で終わりました。それを見て『X Games』が僕を呼んでくれたのです。

ーー初めての『X Games』はどうでしたか?

東野貴行:2007年に初めて出たときは、「自分が臆病でビビってるだけ」だと思ってたので、練習でできなかった技に本番で挑戦してみたんです。そうしたらコケて鎖骨が折れて、目が覚めたらX Gamesが終わっていました。「あれー?」って感じでしたね(笑)。

でも、そんな経験をしたからこそ、今は8割は確実にできるようなトリックを、大会に向けて準備するようにしています。

 Moto Xはここ数年で「レベルが高くなりすぎている」

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ーー東野さんは『X Games』で2012年、2013年に優勝していますが、現在との違いはありますか?

東野貴行:僕らの競技に関しては、レベルが高くなりすぎてるんです。トリック(技)も高度になったし、もう命がけのレベルですよ(笑)。

僕はMoto Xを始めた頃、バックフリップ(後方宙返り)が怖くて。バックフリップ以外のトリックに挑戦しながら、ちょっと遊びでやれたらなぁって、そんな風に思っていたんです。今はバイクを横回転させたり、前回りさせたりしているので、すごいレベルの差を感じますね。

ーーMoto X ベストトリックとはどんな競技なのでしょうか?

東野貴行:ベストトリックは一発勝負。一つのトリックで順位が決まります。だからみんな難度の高い、派手な大きなトリックを入れてくるんですよ。それだけに失敗すると大きな怪我をする危険がある。その怖さもありますね。

ーーMoto Xを観戦していると、本当に空を飛んでるような感じですが、やはり飛んでいると気持ちがいいものですか?

東野貴行:もう集中しすぎて、そういう余裕はないですね(笑)。各トリックには重要なポイントがいくつかありまして、飛んでいる時はそのことばかりを考えています。これとこれとこれをやって、このタイミングでこう戻る……って頭の中はそれ一杯なんですよ。

トリックをせずにウォーミングアップで飛ぶ時は、気持ちいいと思う時もありますけど(笑)。

ーーやはり怖いものなんですね。

東野貴行:それはもう、スタート台の上に立って、待ってる時の恐怖心といったら(笑)。ただ、トリックに挑戦することの恐怖という点では、自分の成功率が大体分かっているので、それほどでもないんです。僕の場合はもう8割ぐらいは確実にできるようなトリックをもっていくんで。

ーーその克服法はありますか?

東野貴行:このジャンプで失敗しようが、何があっても僕の人生には関係ないし、軽い大会なんだなって思うようにするときもあります(笑)。

Naoki Gaman / ESPN Images

他の競技にはない音・スピード・選手の緊張感を楽しんでほしい

ーーズバリ、ライバル選手は誰ですか?

東野貴行:あまりライバルとか考えていないんですよ。人と競うというより、自分のトリックをどうまとめるかが大事なので。自分の精一杯を出せるように努力しながら、それに対して緊張してる状態です。

他のライダーに対して、“誰が今どのレベルで、何をしてるか"はあまり分からないので、やっぱり人のことより自分のことを気にしてます。

ーー『X Games Chiba 2023』では、どのようなところに注目してほしいですか? 見どころや楽しみ方などのアドバイスをお願いします。

東野貴行:ベストトリックのジャンプ台ですと、ギア3速に入れるほどのスピードが出ます。他の競技とは音もそうだし、スピードも違いますよ。その中でも、感じてほしいのが、ライダーの緊張感ですね。集中していて、本当に命がけでやっています。

Moto Xでは転倒したら、すぐに立ち上がれる状態にはなりません。リスクを知ってライダーの緊張感を肌に感じながら、ライダーの立場になって見てもらえたら面白いと思います。

Hikaru Funyu / ESPN Images

東野は20歳で単身渡米し、拠点をアメリカに移している。現在もカリフォルニア州に住んでおり、競技のために世界中を飛び回る毎日だ。

「『X Games』は“オリンピック”なんです」と語る38歳のレジェンドは、目標であり、夢の舞台でもある『X Games Chiba 2023』最終日の5月14日(日)、ZOZOマリンスタジアムのステージに立つ。

イベント情報

『X Games Chiba 2023』

 日程:5月12日(金)予選日
    5月13日(土)開場 11:00/閉場 21:00 ※予定
    5月14日(日)開場 10:00/閉場 17:00 ※予定
 場所:ZOZO マリンスタジアム(千葉県)