真骨頂である弾き語りアレンジによって、突破口を切り拓いた徳永由希 気になる今後の行方とは

2023.4.26
インタビュー
音楽

徳永由希

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配信シングル『BE・BE・BEベイビー/あほくさ』をリリースした徳永由希。以前、私がパーソナリティを担当するラジオ番組にゲストで来てもらった時に聴いた楽曲は、デジタルアレンジやバンドアレンジであった。その時にルーツが弾き語りのシンガーソングライターだとも知れただけに、まっすぐ弾き語りだけのアレンジでも聴いてみたいなと思ったのを未だに覚えている。色々なアレンジをする事でポップさやキャッチーさが出てはいたものの、弾き語り特有の重たさや暗さが薄まり過ぎるのも勿体無いのではと、初対面ながらお節介ではあるが感じてしまっていた。

なので、弾き語りアレンジである今回の2曲を聴いた時に、自身の武器である原点が再確認できて本当に良かったと心から思えたし、これからの活動の大きな突破口になると疑いもしなかった。それくらい今回の弾き語りアレンジは良いサウンドであるし、重たさや暗さという良さそのままで気持ち良く拓けている。つまり、とてつもなくブラッシュアップが出来ている。

ところがインタビューは思わぬ展開になってしまった…。詳しくは読んでもらったらわかるが、4月28日(金)に東京で開催されるリリースイベントを区切りにしばらく休むつもりだという…。何故に突破口を掴めた今そんな突拍子も無い事を言うのかと、ひたすら引き留めるだけのインタビューに後半はなってしまっているが、意地でも止めないといけないと今でも思っている。まずは、ともかく『BE・BE・BEベイビー/あほくさ』を聴いて欲しい。ただ現時点では『ビルマの竪琴』ではないが、『おーい、徳永、帰ってこいよ』というしかない今がしがない…。でも、後ろ向きな事ばかりを言っても仕方ないし、必ず良いタイミングで、徳永は帰って来ると今は信じている。

―今回の新曲『あほくさ』と『BE・BE・BEベイビー』の2曲を聴かせてもらって思ったのが、以前はバンドとかデジタルのアレンジだったのですが、今回は弾き語り1本ですよね。こっちの方が凄い好きだなぁと思いました。

うわぁ、一番嬉しいです。ありがとうございます。

―以前にお話を聴く機会があった時に、弾き語りが御自身のルーツとは聴いていたのですが、今回、改めて弾き語りアレンジで音源を出した理由があれば教えてほしいです。

まずは制作費がだいぶきつかったんですよ(笑)。でも、出したい曲はあって。前回出した楽曲はゴチゴチのアレンジでやったし、MVもバキバキのゴチゴチというか…、普段の私とは違うみたいな感じでやったんです。だから、今回はお金がないのをいいことに原点回帰というか。むっちゃ良い音の弾き語り音源を出したいなという感じで、弾き語りアレンジにしました。前から良い音の弾き語り音源を出したいなとは思ってたんですけど、エンジニアさん難民で。誰に頼んだらエエんやろみたいな感じだったんです。そんな中で前回の2曲を一緒の人に録ってもらっていて、その人に録ってもらっている時のレコーディングが今までで一番楽しかったんですよ。それで、その人に弾き語り録ってもらいたいなって思って。荻野真也さんっていうエンジニアさんにお願いしました。

―前回2曲も荻野さんと一緒に音作りをしていく中で何がやりやすかったですか?

荻野さんは、私の癖や粗さを良しとしてくれるんです。そこを活かした方向で録ってくれるんですよ。他のエンジニアの人が『今のテイク大丈夫?』と思う様なものでも、荻野さんは『これは味だと思う』って言ってくれて。綺麗にしすぎないというか、人の個性を引き出すのがうまい方ですね。凄いやりやすかったです。

―ちなみに前回は、何故バンドアレンジやデジタルアレンジにチャレンジされたのですか?

私の中で音源とライブのモードが違うというか。ライブでは本当に人と演奏したいって思わないんですけど、音源ではそう思わなくて。元々、私はアレンジが出来ないんです。歌とコードしか付けれなくて。だから、音源だけでも人と関わって作っていかないと、本当に自分が広がらんなっていうか…。勉強も込みでと言ったらあれですが、経験として含めて、音源は普段の私とかけ離れててもいいのかなと。あと、せっかくお金かけて世に残す作品やから、弾き語りよりはアレンジしてる方が聴きやすいし、聴いてもらえるのかなと感じていました。

―実際出来上がってみての感触は、当時どうでした?
 
人と作業するのは、めっちゃ大変でしたけど、めちゃくちゃ気にいってますね。でも、バンドメンバーという関係性じゃないからやっていけたけど、バンドメンバーという関係性やったら本当にやってられへんし、気狂うなとは思いました(笑)。

―例えば、もしも予算があったら今回の2曲は弾き語りアレンジでやっていなかったですか?

弾き語り音源の方がエエやろなという曲ができたら、弾き語り音源を出したい気持ちはありましたね。

徳永由希

―今回の出来は本人的にはいかがですか?

久々に弾き語りでレコーディングしたんですけど、自分の声が良すぎてびっくりしました。『めっちゃえぇ声やん!』ってなって。それと『あほくさ』の歌詞が、めっちゃ私やなぁと思いましたね。そもそも弾き語りの音源って時点で、“私”じゃないですか。今回はあんまり作りこんだりせず、割と素に近い私って感じでいくかと思ってましたね。

―“THE私”が出た弾き語りアレンジって、時には凄く重たさや暗さが出たりする事もあると思うんですが、今回の2曲は重さや暗さが良い感じに抑えられて、とても軽やかなんですよね。

そうなんや…。ちょっと私がその領域に達せてなくて…。でも褒められてることはわかります(笑)。軽やかさとかはわかんないんですけど、弾き語りのわりには聴きやすいなとは思ってました。私は本当にアレンジが出来ないので、ギターを重ねたいとか無いですし、ハモリすら入れるべきところもわかんないんですよ。だから私の弾き語り音源って、本当にギター1本じゃないですか。それなのに荻野さんに録ってもらう弾き語りって物足りない感がないんです。何でなのかはわかんないんですけど。この2曲は、弾き語り音源として世に出るべくして生まれた子なんだなって思えるくらい完成されてますね。

―歌詞でいうと、『あほくさ』の『売れてないバンドの動画を見て今日も安心してた なんかもう流行らなくてもいいか』という2行が好きなんです。

何か常に私は割とネガティブで、病んでるんですけど…。もう本当に動画とか見てると吐きそうになるんですけど…。

―そういう動画とかを見て吐きそうになる感情は、曲を作るときにパワーになるんですか? 

どうなんやろ…。むかついちゃうかもですね。『気持ち悪い! もう嫌や!』の感情の方が勝つかもですね。調子良い時は歌にできるんですけど、調子悪い時は『もうだめだ自分は…』というモードに入っちゃって駄目ですね。作った時は、泣きながら作った記憶がありすけど。私は喋るの苦手すぎて、人にもあんまり思ってる事が言えなくて…。だから、自分で思ってる事を言った時に泣いてまうヤバい奴なんです(笑)。曲でもそうなっちゃいますね。ライブは全然大丈夫なんですけど、歌詞が出来たての時は思っている事が過ぎて泣いちゃったりしますね。

―個人的には、そういう魂を削りながら、精神を追い込みながら作る人の歌は本物なんで大好きなんですが、当の本人からしたらめちゃくちゃ大変でしんどいと思うんです。

だから全然曲が出来ないですよ。センスとかで作れないんで。何か思った事があっても、人に言われへんくて。だけど、これをデカい声で歌いたいなっていう感情と言葉に出逢うと曲が出来るんですけど、そういう作り方なので全然曲は出来ないです。だから、曲が出来ない期間は常々休みたいとか辞めたいとか思ってますね。

―それでも何で休まないし止まらないんでしょう?

何かに感動したり、むっちゃかっこいいライブとかを見たら、自分もやりたくなるのわかってるからですね…。本当は辞めれたらいいですけど、人前に出なくなったとしても、家で曲を作ってしまうだろうし…。

―それは多くの人に聴いてほしいって気持ちがあるという事ですよね。

始めたばっかりの時の方がありましたね。もっと結果ばっかり求めてましたから。今は昔よりは気にしなくなりましたけど、作る時の労力にしては結果が見合ってなさすぎるので吐きそうです(笑)。もうちょっと暮らしが豊かになりたいとは思っています。

―最初ほど多くの人に聴いてほしいっていうのを気にしなくなったっていうのは、肩の力が抜けたとか、リラックスが出来とか、そういう意味合いでもありますか?

私のやっている事は全然流行らん事なんやって事に気づいたってのはあります。だからしゃあないよなぁって…。本当に弾き語りって流行らないじゃないですか。でも、どうしても私の良さって、弾き語りをせずに違う事をしても意味が無いというか、自分の心が満たされないなと思って。『クソかっこいいのに!』と思いながら、頑固に弾き語りをしてますね。私は天邪鬼なので、弾き語りが流行り出したら、『うぜぇ〜』みたいなこと言ってそうですけど。

徳永由希

―(笑)。茨の道かも知れないですけど、次の曲たちも弾き語りアレンジでやって欲しいと凄く思っています。

次はマジで何も考えられないですね今はすっからかんです、出し切ったというか(笑)。4月28日(金)の東京でやるリリースイベントが終わったら、1回休もうかなと思っていて。この前、本当に(感情が)爆発して…、最近決めた事なんですけど。いつも『無理やわー』となっても2週間くらいで戻ってこれるんですけど、今回ばかりは4ヶ月くらいずっと戻ってこれなくて。無理矢理に人と会って励ましてもらったり、『君は天才やで!』とか言ってもらって、その日は『結局時代が遅いんよな〜』とか言いながら機嫌良く帰ってこれるんですけど、それが今回は長続きしなくて。長年続けてきて、こんなにずっとしんどいのが初めてすぎて…。4月にスタッフに休む事を言ったら、めっちゃ楽になったんですよ! ずっとマラソンの終盤みたいに足が重くて、無理矢理にでも足を動かしてるみたいな感じだったんです。それが今はイベントを終えたら休むというゴールを決めたこと事で、めっちゃ楽になっていますね。友達たちには『帰ってくる前提だよね?』と聴かれたんですけど、今の状態で帰ってくる事を考えたら、うっとなるっていうか…。まぁ、ライブを減らしたら良いだけの話かも知れないですけど。

―休んでしまったら、止まってしまったら、もう戻って来れないんじゃないかとか、忘れられるんじゃないかという不安はないですか?

不安というか、『休んで覚えてもらってるほど甘くは無い事はわかってるで!』とは思ってます(笑)。『待っといて下さいね!』なんてことは、絶対言えへん。なので、私が戻ってきたタイミングで、もし今まで私を気に入って聴いてくれてた人が違うアーティストにハマってて、もう私の事を聴かなくなってたとしても、それは仕方ないというか、当たり前の事というか。不安はありますけど、休んでみないと全てがわかんなさすぎますね。

―休んでいる間は音楽は作らないんですか?

特に決めてないんですけど、多分ね、普通に生きてたら作ってまうとは思います。だけど本当に貯金が無いので、人生のお金を貯める事を最優先にして、心に余裕が出来たら音楽の制作費も貯めるかくらいには思ってますけど。今は本当に普通に働く事しか考えていないです。

―公に休むと宣言しなくても、あくまでライブを入れなくて制作に充てる時期というので良いと思うんです。休むと公言する潔さは素晴らしいとは思いますが、あまりにも潔すぎるんです。

そうなんですよ、めっちゃ私の嫌いなところなんですけど、本当に私は白黒はっきりさせたすぎるんですよね。私も今まで休む人や辞める人を見送る側しかしてこなかったので、まさか自分が休む側になるかみたいな感じです。

―もったいないですよ…。せっかく良い2曲が出来て、これからという突破口が出来てるのに…。せっかく弾き語りという武器を再認識できた原点に戻れて、今めちゃくちゃ良い感じなのに…。徳永さんが辞めんとアカンのやったら、辞めなアカン奴めちゃくちゃいますから。

ほんまやねん!! それはほんまですねん! あんな奴らが正解とされたら、もう何したらいいかわからんすぎるんです…。最悪ですよ、こんな性格!! 嫌ですもん、生きづらくてしゃあないです…。

―もしも、すぐ戻ってきたくなったら、すぐ戻ってきていいんですよ。良い2曲が出来たんですから。辞めないっていうのも才能だと思います。

ありがとうございます。ちょっと元気が出ました。しばらく休むつもりではいますけど、エエ感じになりそうです。バリ前向きに休めそうな気がしてきました。

―とにかく戻ってきてくださいね、待っていますので。


取材・文=鈴木淳史

 

ライブ情報

徳永由希 pre.「弾き語っていくムーブ!!」
~3rd Digital Singleリリース記念公演~
4月28日(金) 渋谷 LOFT HEAVEN
 
徳永由希
Guest : 大橋ちっぽけ
 
open18:30 start19:00
¥3,000
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