レトロリロン 確かな成長を見せた1st EP『インナーダイアログ』リリースワンマンツアー、東京追加公演をレポート

2023.7.9
レポート
音楽

レトロリロン 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

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RETRORIRON 1st EP「インナーダイアログ」RELEASE ONEMAN TOUR 2023 TOKYO 追加公演
2023.7.2 Shibuya Spotify O-nest

2月にここO-nestで開催された主催イベント『朝が来るまで』の時は、入口の扉から一歩以上進めずに、超満員の観客の肩越しに音だけを聴くことになった。今回はその反省を生かして開演30分前に入って場所を確保する。レトロリロンの1st EP『インナーダイアログ』リリースワンマンツアー。本公演の東京、大阪、そして今日の追加公演もソールドアウトで、ファーストツアーでいきなりが手に入りにくいバンドになったレトロリロン。期待しかない。

「どうぞよろしく。楽しんでいこうね」

オープニングは、とにかく明るい「カウントダウン・ラグ」のリズムに乗って。心地よいシンコペーションと共にしなやかに弾むドラムとベース、軽快に転がるピアノの旋律の上で、涼音(Vo/AG)の声が伸び伸び響く。ラグタイムのリズムを取り入れた『インナーダイアログ』のリード曲は、予想通りにライブでの乗りも受けも抜群だ。さらに、飯沼一暁(Ba)の強烈なスラップをフィーチャーし、クールなダンスロック色を強めた「Don’t stop」から、涼音のミュートしたカッティングが最高にかっこいい、アコースティックギターによるファンクロック「Restart?」へ。高いスキルとセンスを兼ね備えた、体が自然に揺れる説得力を持つ音。4人はニコニコ、フロアは乗り乗り、滑り出しは上々。

「東京に来てくれた人、大阪に来てくれた人、今日初めて来る人。この日を選んで遊びに来てくれて、ありがとうございます。みんなでいい1日にしようね」

レトロリロン 6月11日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=垂水佳菜

暗く揺れる青い照明、トラックを同期させたミニマルなリズム。4曲目「それでも生きていたい」で、会場内のムードが少し変わった。永山タイキ(Dr)の繰り出す繊細なリズム、miri(Key)の奏でる独白めいた情緒的なピアノ、ジャズ/フュージョン系のグルーヴィーな曲調。そして、間奏に技巧的な変拍子を取り込んだラテンファンクチューン「エスケープ」。タイキの鬼気迫る高速ドラミングをイントロに配した「Mo-so」は、ドラム、ベース、ピアノがそれぞれのタイム感でリズムを奏で、涼音のアコースティックギターがボサノヴァ風のフレーズを弾く。「Slow time lover」は、ミニマルなトラックとエレクトリックピアノ、ギターが奏でる哀愁味が素晴らしい。レトロリロンのスロー/ミドルチューンは、ヒップホップやR&Bの要素が色濃く、メロウでアダルトな質感がとても魅力的だ。ソングライター・涼音の天性のセンスの良さに加え、音楽学校で理論と技術を学んだメンバーだからこそできる、4人だけの独特のグルーヴ。

「みんなが見に来てくれるから、追加公演をソールド出来ました。本当にありがとうございます。楽しんだもん勝ちなんで、もっと楽しんでいきましょう」

レトロリロン 6月11日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=垂水佳菜

「Document」は、EP『インナーダイアログ』の中でもとりわけ異彩を放っていた1曲。エレクトロな音色から躍動する生演奏へと展開する、作り込まれた音源をライブで再現する演奏力は本物だ。飯沼の超重低音ベースが空気をズンズン震わせ、涼音がフロアを煽り、フロアの全員を巻き込んだコーラスで盛り上がる。さらに、miriの素晴らしいピアノソロをイントロに配したアコースティック・ファンクロック「きれいなもの」から、飯沼のエレクトリックギターばりのベースソロが光るメロディアスなロックチューン「コタエアワセ」へ。レトロリロンは歌詞をしっかり聴くべきバンドだが、ライブでは演奏の面白さと高揚感にまず耳が行く。満場一致の手拍子が推進力になって気持ちがぐんぐん高まる。ライブは早くも終盤だ。

「音楽で誰かを救うなんて大層なことは考えないけれど、音楽はみんなのちょっとした支えになったり、救いになったりするもの。4人で鳴らしてる音楽が、みんなの“ちょっとした”になったらいいなと思って、これからも続けていきます。良かったらついてきてください」

涼音(Vo/AG) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ


飯沼一暁(Ba) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

みんなで一緒に前に進んで行こうねーー。声高なメッセージではなく、親しい友達に語り掛けるような静かな口調だからこそ、涼音の言葉に確かな説得力が宿る。『インナーダイアログ』の中でもとりわけキャッチーで開けたメロディ、しかし切実にエモーショナルな情感を奏でる「深夜6時」。レトロリロン流のゴスペルバラードと呼びたい、美しいメロディと誠実な自問自答の言葉を持つ「ひとつ」。盛り上がりよりもしっかり聴かせる2曲が、今この瞬間にきっと誰かの“ちょっとした”支えになっている。ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・レトロリロン。

「自分のドラムで、みんなの心が動いてくれるのがとても嬉しくて。素敵な空間を作ってくれてありがとうございます」(タイキ)
「ほんとに人来るのかな?と思ってたけど(笑)。(結成から)3年経って、こんなに知ってくれる人が増えてくれて嬉しいです」(miri)
「大阪のワンマンでめっちゃ間違えて、へこみました。でも今日はこんなに来てくれたおかげで、ちょっとしかミスらずに済みました!(笑)」(飯沼)

miri(Key) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ


永山タイキ(Dr) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

本編の緊張から解き放たれたアンコールは、メンバーの表情も言葉も実に明るい。「みんなで頑張ろうぜこれからも」と、完全に素に戻ったタイキの言葉に、「そういうのは終わってからやろうぜ」と照れ笑いする涼音。レトロリロンは涼音の作詞作曲、プロデュース能力と歌唱力が絶対の中心だが、メンバーの決意と存在がなければここまで来れなかったと強く思う。その一番新しい成果が、ここで初披露された新曲「ヘッドライナー」だ。飯沼のよく弾むベースがリードする、明快で心地よいダンスグルーヴ。初めて聴くのに決めの手拍子もばっちりハマる、わかりやすい高揚感たっぷりの1曲。そしてお別れの曲はしっとりと、AORバラードの香り高い「Life」を。ラグタイムからシティポップ、ファンクロックからヒップホップ、ジャズ/フュージョンからエレクトロ、多彩な音楽言語を駆使して魅せるレトロリロンのライブ。期待以上だ。

レトロリロン 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

ライブ後に挨拶を交わしたメンバーは、「ワンマンのペース配分がつかめてきた」と十分な手ごたえを感じていた様子だった。さらにキャパシティを上げて、次のツアーの準備も着々と進んでいると聞く。ライブ1本ごとに成長してゆくのが目に見える、伸びしろしかないバンド。今のレトロリロンを見れるのは幸せだ。


文=宮本英夫

セットリスト

RETRORIRON 1st EP「インナーダイアログ」RELEASE ONEMAN TOUR 2023 TOKYO 追加公演
2023.7.2 Shibuya Spotify O-nest

1. カウントダウン・ラグ
2. Don't stop
3. Restart?
4. それでも生きていたい
5. エスケープ    
6. Mo-so
7. Slow time lover
8. Document
9. きれいなもの
10. コタエアワセ
11. 深夜6時
12. ひとつ
[ENCORE]
13. ヘッドライナー(新曲)
14. Life
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