「俳優として転機なのかな」~伊藤英明が13年ぶりの舞台出演作『橋からの眺め』に挑む心境を語る

インタビュー
舞台
2023.8.4
伊藤英明

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ニューヨークの貧民街で姪キャサリンと暮らすエディとビアトリス夫婦。違法移民の従兄弟を受け入れたことで、一家の運命は変わっていく——。20世紀アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーの『橋からの眺め』が、イギリスのジョー・ヒル=ギビンズ演出で上演されることになった。血のつながらない姪に複雑な思いを抱く主人公エディを演じるのは、これが13年ぶりの舞台出演となる伊藤英明。意気込みのほどを直撃した。

ーー今回のオファーが来たときの心境は?

今まで演技はほとんど独学というか、現場で学んできたところが多かったので、50歳手前で挑戦したいなということと、いやだなと思うものに進んで取り組んでいこうと思うようになりました(笑)。舞台は、いやだというより、ものすごく怖いんですよね。今回、演出がイギリスの方で、アーサー・ミラーの作品ということで、大きなチャレンジだと思っています。自分自身が俳優として何かをとらえたいなと思ったときにこのお話をいただいて、縁だと感じましたし、これで芝居、演技が学べるなと思いました。今は、どこまでできるかわからないけれど、やれるだけやろうと思っています。

伊藤英明

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ーー舞台に立つのは『ジャンヌ・ダルク』以来13年ぶりですが、舞台ならではのおもしろさをどんなところに感じていらっしゃいますか。

お客さんの歓声や拍手といった反応がすぐ来るところが気持ちいいんだろうけれど、『MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人』(2004)で初めて舞台をやったとき、それを気持ちいいと感じられなかったんですよね。二幕が僕のセリフから始まるのですが、初日の二幕の幕が開いた瞬間、頭が真っ白になってセリフが飛んでしまって。僕と同じく初舞台の長谷川京子さん相手に、「どうしたらいいんだ」「どうしたらいいんだ」ってずっと舞台と関係ないことを話しているうちにやっとセリフが戻ってきたのですが、長谷川さんも口をあんぐり開けていて(笑)。それで舞台が怖くなってしまって。また舞台に立ってみたい、チャレンジしたいという気持ちが、どんどん萎縮していってしまいました。俳優というものに対し、その年代年代では真剣に取り組んできたのですが、自分のためにやっていた部分が大きかったのかなと。今回、経験も重ねてきて、この年齢で新たな挑戦の場としてやらせていただけるのはありがたいことだなと思っています。怖いけれども、演出家もいるし、共演者もいるし、スタッフもいるし、自分も精一杯やっていけばいいなと思っています。何か新人俳優みたいだな(笑)。

ーー今回、アーサー・ミラー作品に挑戦されます。

作者も知らない、どういう作品かも知らない状態でしたが、自分が役者として何かをとらえなければと思っているときにいただいたお話だったので、何かの縁だ、思し召しだ、やるしかないと飛び込みました。こんなにも壮大なスケールのすばらしい戯曲をやらせていただけるということで、今は日に日に責任を感じています。自分が望んだことなので、やれるだけやるしかない、もう逃げられないなと思っています。演出家とも共演者ともしっかり向き合って芝居というものを学びたい。本当に、新人のときに戻ったような気持ちというか、新人のときにも感じなかったような気持ちかもしれない。これだけ長い間人々に愛されてきた戯曲というだけでもスケールの壮大さを感じます。映画でもドラマでも、ここまでの愛憎劇、セリフ劇を経験したことがないので、これから自分の中で解釈がいろいろ生まれてくると思います。この戯曲には、複雑という言葉だけでは収まらない、本当の人間の感情が入り乱れるところがあって、それが演出家によってどう引き出されて、どういうものを見せられるか、稽古と本番を終えたときに自分が俳優としてどう変わっているのかなと、今はその期待感でいっぱいですね。

伊藤英明

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ーー作品に描かれている関係性についてはいかがですか。

人はそれぞれで思考していることが違うので、コミュニケーションが取れなくなると、ただ自分の思考だけで相手のことを考えてしまう。そこでズレが起きて、例えば、愛をもった言動でも、相手にとっては憎しみの言葉のように受け取られたりして。自分が作り上げた思考によってどん底に落とされて、誰も信じられなくなっていって、でも、愛だけはあるのに、みたいな怖さを感じる戯曲ですね。是枝裕和監督の映画『怪物』を観たときの感覚に似てるんですよね。自分の思考だけで怪物というものを作り上げてしまって、どんどん自分だけで落ちていってしまい、自分自身も見失ってしまう、そんなぞわぞわするような恐怖というか。僕が演じるエディは、血のつながらない姪のキャサリンのことを本当の子供のように愛しているのだと思いたいんだけれど、でも、どこかで男と女として意識しているような、そこが怖いんですよね。子供としてかわいがっているんだけど、彼女に恋人が現れて、そのとき、親としての嫉妬なのか、よくわからなくなって、追い込まれていってしまう怖さがあると思います。役作りについてはまだまだこれからですが、イタリア系アメリカ人で、日々の生活、家族や友人を大切にしながら仕事をしてきた、そんな人間がなぜこうなってしまったのかという話だと思うので、そこをしっかり踏まえた上で、日々どういう生活をしているかをリアルに想像し、突きつめながら、丁寧に演じていきたいなと思います。役が内面から出てくるように、演出家の方に引き出してもらえればと思いますね。戯曲を読んで、知っている感情を増幅させるのか、削るのか、わからないけれど、まずは稽古の中で起こった感情を素直に演出家の方にぶつけて、それをどう芝居に落とし込んでいくのか、一緒に作っていきたいと思っています。

ーー13年ぶりの舞台で楽しみにしていることは?

稽古が楽しみですね。毎日同じ時間で、ルーティンができるし。トレーニングと一緒で、それを演技としてできるのが楽しみでしかないなと。『ジャンヌ・ダルク』のときは、セリフをうまく言わなきゃとか、舞台の上に立った時にいろいろな人が観てるから緊張するなとか、稽古はいいんだけど本番が来なければいいなってずっと思っていました(苦笑)。稽古は好きなんでしょうね。映画でもドラマでもリハーサルは好きだし。先輩方は、舞台の本番はお祭りみたいなもんだ、何やったっていいっておっしゃるんですけれど。ドラマや映画だと瞬発力が必要ですが、舞台だと日々積み上げていくものだと思うので、稽古の中で自分がどう変わっていって、本番を終えたときにどう自分が変わっているか、それが今回楽しみです。

ーー舞台と映像作品とで感じる違いとは?

舞台に立っているときは、とにかくお客さんが気になってしまうんですよ。全部繊細に感じてしまうので、疲れてしまうんです。昨日ここで拍手があったのに今日はないなとか、咳が多いなとか、寝てる人がいるなとか(笑)。そのお客さんの生の反応がいい風に入れば芝居がよくなると思うんだけど。とにかく、初日にセリフを忘れてしまった過去があるので怖くて、忘れられなくて、その感覚を忘れたくて『ジャンヌ・ダルク』をやったんだけど、そのときはいっぱいいっぱいなまま終わってしまって。映像だと、対監督だったり対カメラマンだったり対共演者だったりするから、逆に緊張したことがないんですよね。

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ーーエディは男らしさに固執するところがありますが、そのあたりはいかがですか。

男らしさって女々しさじゃないのかなと思います。結婚して初めて、男って女々しいんだなって思いましたね。いろいろなことを引きずったり、くよくよする。それを隠そうとするのが男じゃないかな。女々しいって男性のためにある言葉だと思うんです。若いときは隠したりしてたんですよ。やきもちをやいているのにやいてないふりをしたり、電話したいのに電話したくないふりをしたり、甘いものが好きなのに好きじゃないふりをしたり。そういうことをするのが男らしさなのかなって最近では思うようになって。何か、強いとか、守ってやるとかが男らしさと思われているようなところがあると思うのですが、それはそれでおいておいて、本当の男らしさって女々しさなんじゃないかなと思いますね。この作品のエディの場合、男らしいがゆえに、隠さないから、彼自身もこんな気持ちになったのが初めてで、だから怖いんじゃないかな。自分自身の感情に気づいたから、もう転がっちまえって思ったところもあるのかなと思います。

ーーこれまで俳優業は自分のためにやってきたとおっしゃっていましたが、心境の変化が訪れた理由とは?

誰でも若いときはやっぱり、自分が自分がってなるところがあると思います。今までは、自分が楽しいかどうかでしかやってこなかったのですが、今は、人が喜んでくれることがうれしくなったというか、周りを見ていても、そういう年代になったのかなと思います。こういう仕事をしていると特に、自分は人を喜ばせることが好きだったのだと気づく瞬間があって。挑戦、挑戦と言っていますが、自分が舞台に出ることによって他人の人生にタッチできたり、舞台を観に来てくれた人の人生がちょっとでもいい方向に転がってくれればなと思います。今後、十年を見据えたときに、50歳になるまでに、このまま自分のキャリアや、もっているものを食いつぶしていくしかないのであれば、舞台というものすごく苦手なもの、逃げたかったものに、そこに挑戦することで何かが生まれるんじゃないかなと思っています。何かひとつ俳優として転機なのかなと思っています。

伊藤英明

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ーー舞台に対する怖さや緊張感を克服するために心がけていることは?

今までは、緊張してはいけない、緊張したらパフォーマンスが落ちる、なんで緊張してしまうんだろうというのが自分の中であったのですが、最近、緊張していいんだ、緊張はマイナスじゃないんだと思えるようになって、うまく緊張を使えるようになりました。やっぱり、いい役者になりたいと思って。自分を変えたいな、このままじゃよくないと思っているところがあるのだと思います。いい役、いい作品にめぐり合えてきたのは運だと思うのですが、そのときに運や縁をしっかり自分のものにするためには、自分がしっかりと日々に向き合っていることが大事なんだなと最近気づきました。

ーー共演者の方々についてはいかがですか。

和田正人くん以外は全員共演が初めてなんですが、キャサリン役の福地桃子さんは、彼女が女優を志す前、小さいときから知っています。初めて会ったのが小学生くらいのときなので、共演がすごく楽しみですね。

ーー初共演の方々とはどうコミュニケーションされますか。

コミュニケーション……、苦手かもしれないですね(苦笑)。でも、共演者として、どこまで自分が相手のパフォーマンスを引き出せるか、そのためにどう行動できるかだと思っています。コミュニケーションもそのためのものですよね。まずはみんなのパフォーマンスを引き出して、自分のパフォーマンスもあげてもらうっていうことを考えてやりたいなと思っています。

ーー俳優としての今後の目標は?

演技力と、芝居ができるくらいの英語力も身につけて、世界に通用する、世界で活躍する、世界に呼ばれるような俳優になりたいなと思っています。目標とする先輩方もいっぱいいますが、見ていると、やっぱり、背中でどれだけ見せられるかじゃないかだと思います。こういうところに憧れるなとか、素敵だなと思うところもいっぱいありますが、結局は人としてどうあるべきかということがまず大切なんだなと、先輩方から教わりましたね。

伊藤英明

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■ヘアメイク:今野富紀子
■スタイリスト:根岸豪

■レザーシャツ¥880,000、Tシャツ¥57,200、レザーパンツ¥862,400、シューズ¥187,000(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン〈ボッテガ・ヴェネタ〉)その他・スタイリスト私物

■問い合わせ先:ボッテガ・ヴェネタ ジャパン 0120-60-1966


取材・文=藤本真由(舞台評論家)    撮影=中田智章

公演情報

PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』
作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ジョー・ヒル=ギビンズ
出演:伊藤英明 坂井真紀 福地桃子 松島庄汰 和田正人 高橋克実
 
公式サイト https://stage.parco.jp/program/aviewfromthebridge
ハッシュタグ #橋からの眺め
 
企画・製作 株式会社パルコ
 
【東京公演】
日程:2023年9月2日(土)~24日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
料金:(全席指定・税込)
S席 11,000円 A席 9,000円
U-18 3,000円[観劇時18歳以下対象] U-30 5,500円 [観劇時30歳以下対象]
※U-18・U-30:前売のみ、要身分証、当日引換(詳細はホームページでご確認ください)
※未就学児入場不可
に関するお問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
(平日12:00~18:00※当面の間は月~金12:00~15:00までの営業となります)
公演に関するお問合せ パルコステージ 03-3477-5858 https://stage.parco.jp/
 
【北九州公演】
日程:2023年10月1日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール
料金:10,000円
(全席指定・税込)U-25:5,000円(観劇時に25歳以下対象、当日座席指定券と交換、要年齢証明書提示)
※未就学児入場不可
お問合せ:ピクニックセンター
050-3539-8330(平日12:00~15:00)http://www.picnic-net.com/

【広島公演】
日程:2023年10月4日(水)
会場:JMSアステールプラザ 大ホール
料金:9,500円
(全席指定・税込)U-25:5,000円(観劇時に25歳以下対象、当日座席指定券と交換、要年齢証明書提示)
※未就学児入場不可
お問合せ:TSSイベント事務局082-253-1010(平日10:00~17:30)
キャンディープロモーション082-249-8334(平日11:00~17:00)
 
【京都公演】
日程:2023年10月14日(土)・15日(日)
会場:京都劇場
発売日:2023年9月9日(土)
料金:11,500円
(全席指定・税込)※未就学児入場不可
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00)※日・祝は休み

テレビ番組「岐阜英明」

9月2日(土)より伊藤英明が企画・プロデュースを手がける「岐阜英明」が放送開始。
番組では、岐阜の素晴らしいところや、岐阜の皆さんにスポットをあてた体験型バラエティーになる予定。
 
放送局:ぎふチャン
日程:毎週土曜ひる14時〜(初回放送9/2)
 
企画・プロデュース:伊藤英明
 

伊藤英明
公式サイト www.hideakiito.com
Instagram https://www.instagram.com/thehideakiito/
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