ツルゲーネフの『初恋』が朗読劇に! 藤本隆宏が自身の“初恋”に重ねる主人公とは

2023.7.26
インタビュー
舞台

藤本隆宏

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2023年8月28日(月)~30日(水)、東京・あうるすぽっとにて朗読劇『First Love~ツルゲーネフの「初恋」~』が上演を迎える。

舞台は1833年夏、モスクワ。16歳の少年ウラジミールは、隣に越してきた年上の公爵令嬢ジナイーダにひと目で心奪われる。それは彼の初恋だった。ジナイーダは美しく奔放で、男たちを意のままに操ってはもて遊ぶ。そんな彼女に夢中になるウラジミールだったが、ジナイーダが恋する人物を知り——。

原作はロシアの文豪イワン・ツルゲーネフの自伝的作品であり、作者が生涯で最も愛したといわれる小説『初恋』。物語は40代となった主人公ウラジミールが16歳のころの自身の初恋を回想する形で展開されていく。

主人公のウラジミールを演じるのは俳優の藤本隆宏。40代と16歳のウラジミールをどう演じわけるのか、注目が集まるところだ。またウラジミールが恋する令嬢ジナイーダ役には歌舞伎俳優で女方の中村壱太郎が、ジナイーダの母親役には一色采子が、そのほか神里優希、柳内佑介、鯨井康介と多彩なキャストが集結。さらに作中は高本一郎によるリュートの生演奏が加わり、美しい音色と共にロシア文学の世界を色鮮やかに描き出す。開幕に先駆け、主人公ウラジミールに挑む藤本に、本作への想いと舞台への意気込みを聞いた。

藤本隆宏

■役作りは自分の“初恋”から

ーーツルゲーネフのロシア文学を朗読劇化した本作。上演台本を読んだ感想をお聞かせください。

どこか不思議な物語で、読めば読むほど面白みが増していく。登場人物はさほど多くはないので入りやすさもあり、それでいて複雑でもある。最初読んだだけでは捉えどころがなく難しい物語で、それでいてステキな作品だなと感じました。
原作も読みました。台本はかなり原作に即しているのではないでしょうか。脚本の木内宏昌さんはロシア文学に造形が深い方で、原作のエッセンスをコンパクトにして朗読用に書き上げてくださっている。すごく魅力ある台本だなと思います。

ーー作中はジナイーダに恋をする16歳のウラジミールと、当時を回想する40代のウラジミールを演じます。どのように役にアプローチしようと考えていますか?

まずは自分が少年のころ恋をしたときのことを思い出してみようと考えています。やっぱり昔の恋って覚えているんですよね。自分の中で大事なものって、ことあるごとにふと思い出したりする。そこでまた自分にとってすごく大切なことだったんだなと改めて気づかされる。人を初めて好きになった高揚感だったり、甘酸っぱい気持ちだったり……。あのときの想いを忘れずに、自分の体験をもとに役にアプローチしていくつもりです。

僕自身結構少年っぽいところがあるせいか(笑)、16歳のウラジミールも純粋に心を込めて読める感覚があります。16歳と40代の切り替えに関しては、極端に声を若くしたり、声の質を変えるようなことはなく、心の切り替えで違いを表現していけたらと考えています。心が変われば声も自然と変わっていくはず。そこは声優ではなく俳優が演じる強みであり、もしかしたらウィークポイントでもあるかもしれない。シチュエーションや相手の登場人物によってこちらの気持ちが変わっていくのは朗読劇も芝居も同じだと思うので、そこは共演者のみなさんのお力を借りてしっかり演じていくつもりです。

みなさん初共演ですが、とても力のある俳優さんたちで、今から楽しみです。ジナイーダ役の壱太郎さんは演技はもちろん女性としての見せ方や声の作り方にしても超一流で、その方を相手にいかに自分が負けないように演じていくか、そこは怖い部分でありチャレンジでもあります。

藤本隆宏

ーー通常の芝居と朗読劇で演じる上での違いとは? 朗読劇ならではの難しさを感じることはありますか?

朗読劇で何より大切なのは、言葉一つひとつを丁寧に届けること。通常のお芝居では演出やシチュエーションによってあえて潰れた声を発するようなこともあるけれど、郎読劇では許されません。いかに台詞を自分のものにし、お客様に伝えていくかが重要になる。ただロシア文学の特徴なのか、詩的な台詞も多いので、どう読めばいいのか悩むところでもあります。大変ではあるけれど、読めば読むほど深みがある。なんとも言えない味があって、やっぱりいいんですよね。

朗読劇はストーリーを読みながら演じていくので、喜怒哀楽をどこまで出すか、バランスの難しさもあります。作中はウラジミールとして台詞を喋る部分と傍白する部分があり、自分の感情を入れていいところと悪いところがあると思う。脚本の木内さんには、一文をあまり感情を変えずに、句点は飛ばしてなるべく一気に読んでくださいと言われています。句点(ブレス)による感情の変化は起こり得るもので、自分が初めて台本を開いたときの感覚を忘れずに読もうと考えています。いずれにせよウラジミールが喋る部分が多いので、しっかり稽古して臨むつもり。とりあえず読み込んで、読み込んで、喋って、喋って、喋り込む。

あと今回は作中にリュート演奏が加わるので、その音楽にどう声を乗せていくかというのも課題です。演出の彌勒忠史さんはオペラの演出もされていて、ご自身も歌を歌っている方なので、とても音楽を大事にされている。僕自身どんなものになるのかまだ未知数で、稽古の中でしっかり作り上げていきたいと思います。

藤本隆宏

■ジナイーダは苦手なタイプ!?

ーー藤本さんが16歳のころはどんな少年でしたか? 想いを寄せる方はいたのでしょうか?

あのころは水泳漬けで、朝から夜までずっと練習ばかりしてました。当時の将来像はオリンピック選手しかなくて、本当に金メダルを獲ることしか考えていなかった。将来役者になるなんて全く想像もしていませんでした。
毎日水泳ばかりで恋とはあまり縁はなかったように思います。ただ水泳シーズンは秋に終わるので、その後はちょっと余裕ができたりもする。ちょうど15、16歳のころは進学の時期ということで休みも長くあって、そんな時に恋をしたりして(笑)。そこでようやく人並みの青春を送った感じでしょうか。

小学校一年のとき、小学校六年のとき好きな子がいて、中学三年と、高校三年のとき、また好きな子ができた。どうも僕は節目節目で人を好きになる傾向があるようです(笑)。なかでも忘れられないのが、中学三年のときのこと。僕の友達がある女の子を好きになって、それを聞いた瞬間に僕もその子が好きになってしまった(笑)。恋ってパッと落ちるから不思議ですよね。

好きなタイプはあまり一貫していないかもしれません。何かの本で読んだのですが、一人は真面目な子、一人は可愛い子、一人はやんちゃな子と、人はその三角形を繰り返し好きになる傾向があるそうです。そう考えると、真面目な子、可愛い子、やんちゃな子と、確かに三角形に沿って好きになっている気がします(笑)。いずれにせよ僕の恋はどれも実ることなく、お付き合いまで発展せずに終わっています。でもそれが逆によかった気もします。実らないからこそ、その人をずっと好きでいられたのかもしれません。

ーー藤本さんご自身、ジナイーダのようなタイプの女性をどう思いますか?

ジナイーダに関しては、僕は正直そんなに惹かれなかったですね。ああいうタイプの女性は得意ではないかもしれません。でもたぶん本に描かれていないところもたくさんあって、そこも含めて想像するとよっぽど魅力的な女性だったのではないでしょうか。男性をもて遊ぶような行動を取るけれど、自分が好きになった人に対しては全然違う態度になる。そういう女性に振り向いてもらうことがまた男性のプライドでもあったりする。もし僕があの場にいたら、やっぱり男性たちのバトルには参加すると思います(笑)。

藤本隆宏

■読めば読むほどヒントに気づいて

ーー今年はツルゲーネフ没後140年にあたります。長い時を経て今なおこの作品が愛され続ける魅力はどこにあると思いますか?

本の中では説明されてないことも多く、登場人物たちのことも全て書かれてはいない。詩的な表現もちりばめられていて、何度でも読むことができる。それが大きな魅力になっている気がします。
僕自身、何度か読んでいくうちに気づいたこともあります。ウラジミールはずっと父親のことを尊敬してるし、愛してる。僕の中で父親との関係が妙に引っかかり、最初は彼ら親子の関係が理解できずにいました。けれど読めば読むほどヒントに気づいて。ウラジミールはジナイーダのことを恋してて、父のことは愛してる。愛は変わらないから愛し続けられる。でも恋は転々として、その瞬間瞬間しか感じられない。そこが何度も読んでいくうちにわかり、腑に落ちた。なにか真相を見つけた気がしました。
誰かの死を思うことで、自分が変わる。人が亡くなる意味のヒントはそこにあるのかもしれないと、この本を読んで感じています。人間の生きていく意味はもちろん、死ぬ意味というのをすごく考えさせられた。その意味が何なのか、答えはまだ見つかってはないけれど。

ーー最後に、ファンにメッセージをお願いいたします。

ここ数年大変な時期が続いて、恋することも忘れていたり、恋をする余裕もなかったという方も多いのではないでしょうか。この物語は謎解きの部分も含めてすごく面白く、男女問わず幅広い方に楽しんでいただける作品になっていると思います。ぜひみなさんこの舞台で心を休め、ご自身の初恋を思い出していただけたらうれしいです。

藤本隆宏

取材・文=小野寺悦子    撮影=谷中理音

公演情報

リーディング『First Love~ツルゲーネフの「初恋」~』
日程:2023年8月28日(月)~30日(水)
会場:あうるすぽっと
 
原作:イワン・ツルゲーネフ
上演台本:木内宏昌
演出:彌勒忠史
 
出演:藤本隆宏、中村壱太郎、神里優希、柳内佑介、鯨井康介、一色采子
リュート演奏:高本一郎
 
料金:7,700円(全席指定・税込)

企画・製作:アーティストジャパン
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/
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