市川團十郎「旅巡業を大事にして生きてきた」~『十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業』取材会レポート
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市川團十郎
『十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業』が2023年10月13日(金)から11月12日(日)まで、全国20ヶ所24公演行われる。
市川海老蔵改め市川團十郎、重要無形文化財保持者(人間国宝)の中村梅玉を筆頭に、市川右團次、片岡市蔵、中村児太郎、市川九團次、大谷廣松、中村莟玉。演目は『君が代 松竹梅』、『口上』、『毛抜』が上演される。
このほど、市川團十郎が取材会に参加し、各地での思い出のほか、公演に向けての思いを語った。
ーー2022年10月31日に「十三代目市川團十郎」を正式に襲名されて、「市川團十郎」という大名跡が9年ぶりに復活しました。約1年近く襲名披露興行を行われてきましたが、改めて今のお気持ちを教えてください。
歌舞伎座での襲名披露公演を終えて、今年3月に全国各地を巡り、「海老蔵改め團十郎です」という襲名披露公演が続いています。「團十郎」にはなりましたが、どうしてもまだ海老の殻がくっついた状態で生きている感じでしょうか。
先日も夏休みをいただきましたが、街を歩く皆さんから「海老蔵さん、海老蔵さん」とお声かけをいただきました。何十人の方々が「海老蔵さん」で、その内の2人くらいが「團十郎さん」と呼んでいただきました。まだ名前が浸透していないんだと実感しましたね。とはいえ、團十郎として生きないといけないという難しさがあるので、今もまだ模索中です。
市川團十郎
ーーお子様の市川ぼたんさんや市川新之助さんと一緒の公演と、そうではないときの気持ちの違いはありますか?
二人とも全力で舞台に取り組んでいるので、一緒だといつもより気を張ってしまいますね。子どもが一緒だと、自分のことだけでなく、子どものお世話もしなくてはいけないので、何倍も大変ですよ。今回も福岡の興行は新之助とずっと一緒に過ごすので、疲れるだろうなと思っています(笑)。
ーー酷暑が続きますが、團十郎さんの夏バテ対策はありますか?
夏バテはしないので、特に生活は何も変えていないです。日頃から夏バテに対応できる状態でいられるよう、常に身体を整えることが対策でしょうか。
ーー改めて今回『毛抜』を選ばれた理由を教えてください。
市川團十郎家の襲名公演ですので、歌舞伎十八番もしくは新歌舞伎十八番をご披露するというのが一般的かと思います。春先の巡業では『勧進帳』で開催させていただき、秋巡業の演目の候補としては『鳴神』、『毛抜』があがりました。
決め手となった『毛抜』は、一人で芝居をするところが多い点です。『鳴神』は荒事の要素は多いですが、女方と二人で芝居を進めていくことが多く、市川團十郎が中心の『毛抜』の方が襲名披露巡業としては面白いのではないかと思いました。
『毛抜』には紋切り型という幕外の型がありまして、ご当地ご当地によって幕外の景色を変えたいという思いもあり、『毛抜』に決めさせていただきました。
市川團十郎
ーー『毛抜』は大切な演目だと思いますが、どういったことを大切に演じてこられたのでしょうか? また、「八代目市川新之助」初舞台の時に新之助さんも『毛抜』を演じられました。新之助さんをご指導されるときはどのようなことを伝えられたのでしょうか?
『毛抜』はもともと二代目市川團十郎が行った「雷神不動北山櫻」という作品です。そこから七代目市川團十郎によって『鳴神』、『毛抜』、『不動』が歌舞伎十八番に選定されますがその形は途絶え、二代目市川左團次が色気ある作品に作り替えたのが今日伝わっている『毛抜』であり、『鳴神』です。今やっている『毛抜』は派生して出来ている部分も大きくあり、二代目市川團十郎が演じていたものをそのまま演じている『助六』と違い、『毛抜』は原型がどうだったかは正直分からないです。
その中で『毛抜』の粂寺弾正は愛嬌とおおらかさ、その中にひけらかさない知的さ、歌舞伎十八番の「剛の者」というすべてのエッセンスがないと出来ない、歌舞伎十八番の中でもハードルの高い役のひとつです。
また、歌舞伎十八番は荒事の印象があるかもしれませんが、お家騒動を解決していく主人公が奮闘していくところに、新しい視点でも見ていただける作品なのではないかと思います。
対して、当時9歳の市川新之助が粂寺弾正をやるということは非常にハードルの高いことでしたが、十二代目團十郎が持っているおおらかさを生まれながらに持っていると感じていましたので、挑戦させていただきました。
私の場合は『外郎売』でしたが、彼にとって『外郎売』と『毛抜』が「海老蔵」になるための特急券になればという思いで、あえて口酸っぱく言わないことに気を付けて指導しました。彼は粂寺弾正を大らかにやっていました。あの大らかさを引き出すためには、 私はあえて貝となりました。
市川團十郎
ーー今回各地を巡業されるので、いくつかの土地についての質問をさせてください。まず長野県には植樹活動で何度も足を運んでいただいていると思うのですが、長野県の印象を教えてください。
長野県は、私が舞台以外で最も行っている県のひとつです。今、おっしゃっていただいたように、植樹活動のため長年足を運んでいます。興行は長野市や松本市で行うことが多いです。特に今回お伺いする松本市では先輩の勘三郎お兄さん(十八代目 中村勘三郎)が開拓した土地だなという印象が強くて、松本にお邪魔すると、勘三郎お兄さんのことを思いながら舞台に立つ自分がいます。
もちろん息子の勘九郎さん、七之助さんたちはなおさら思いが強いでしょうけど、 私も可愛がっていただいたひとりなので、松本に行くと、お兄さんのことを良く思い出しますね。
ーー山梨県の市川三郷町は市川團十郎発祥の地という風にも言われておりますが、山梨県に対する思いをお聞かせください。
市川團十郎ゆかりの地はいくつかありますが、その中で市川三郷町は父がとても大事にしておりました。私も合併前の三珠町時代に興行に行ったことがあります。
牡丹の咲き乱れる公園(※歌舞伎文化公園)が思い出深いです。二代目市川團十郎が近衛家から杏葉牡丹(ぎょようぼたん)の付いた御下賜品を拝領して、市川家の替紋である言って使用されるようになりました。『助六』の出端の振りにも含まれておりますので、牡丹に対する思いの深さを子どもながらに感じて、素敵だなと思った記憶がございます。
私としても、現在の市川三郷町の方々との交流をもう少し深めていきたいですね。市川團十郎ゆかりの地であるということを共有できればいいなと思っています。
ーー各地の思いを語っていただきましたが、コロナ禍も開けてきてきた今、この興行に対してどのような期待をしていますか?
自分自身、襲名披露巡業のみならず他の興行を含めても各地に一番足を運んでいる役者だと思います。
なかなか歌舞伎座や博多座、大阪松竹座、南座に来られないという方々が全国に多くいらっしゃるので、そういう方々にも歌舞伎を届けられるように、巡業というものに本当に力を注いで生きてきました。今回もまた各地の方々にお会いできますので、「今まで海老蔵としてありがとうございました。團十郎として今後ともよろしくお願いいたします」と伝えられるような形の興行になったらいいなと思います。
市川團十郎
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
市川團十郎
中村児太郎、大谷廣松、中村莟玉
市川團十郎、幹部俳優出演
市川團十郎、市川右團次、中村児太郎、大谷廣松、中村莟玉、市川九團次、片岡市蔵、中村梅玉
【公演期間】 2023年10月13日(金)~11月12日(日)
【制作協力】全栄企画株式会社/株式会社ちあふる