『ダンサー イン Paris』映画初出演で初主演のバレエ団パリ・オペラ座のダンサー、マリオン・バルボーへのオフィシャルインタビューが公開

2023.9.6
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マリオン・バルボー    (C)Alex Kostromin

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エトワールになる夢の実現を前に予期せぬ出来事によって挫折してしまう、ひとりの若き女性ダンサー・エリーズの第二の人生を描いた、セドリック・クラピッシュ監督最新作『EN CORPS』が、邦題を『ダンサー イン Paris』として2023年9月15日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋ほかで全国順次公開される。

エリーズを演じるのは、パリ・オペラ座バレエのプルミエール・ダンスーズで、クラシックとコンテンポラリーを自在に行き来するマリオン・バルボー。

この度、映画初出演で初主演を務めたマリオン・バルボーのオフィシャルインタビューが届いたので紹介する。

映画『ダンサー イン Paris』予告編

マリオン・バルボー オフィシャルインタビュー

ーー映画初出演ということで、自身の演技をスクリーンで観るのはどんな気分でしたか?

スクリーンでアップになる経験には慣れていないせいか、さすがに不思議な感覚でした。ただ、すぐに自分が出ていることを忘れ、一人の観客として映画に没入できたと思います。セドリック・クラピッシュ監督の映画は、主人公たちが観る側にストーリーを語ってくれるので、その方向で引き込まれ、自意識過剰的に自分を追いかけることがなかったのでしょう。ダンスのパートに関しては、バレエの「ラ・バヤデール」も、ホフェッシュ・シェクターの振付作品も、自分がとても美しく撮られていて、誇らしかったです。

ーー家族やダンサー仲間など、周囲の人たちの映画を観た反応は?

ダンサー仲間たちの「この映画、最高だった」という感想は、私にとっても監督にとっても、最もうれしい誉め言葉になりました。この作品がダンサーたちのリアルな日常を描いている証になったわけですから。ダンサーを中心に描き、なおかつリアルだったことで、みんなが感動してくれたのです。家族は撮影中、ここまで大きな作品になるとは知らなかったようで、フランスで多くの観客を集めたことに驚いていました。最終的にスクリーンの私を観て「われわれが知ってるマリオンだ」と感じてくれたようです。

『ダンサー イン Paris』    (C)2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

ーーあなたは「ラ・バヤデール」はオペラ座の舞台でも踊っていますが、今回は映画の撮影ということでアプローチは変わったのでしょうか。

オペラ座の「ラ・バヤデール」では、ちょっと意地悪な方のガムザッティ役を演じていて、(映画で踊った)ニキヤを演じたことはありません。日本の東京文化会館などでも公演したフロランス・クレールが今回の振付のコーチを担ってくれたおかげで、映画用のカメラの前でも、実際のステージと変わらないアプローチできました。フロランスの指導は、たとえば(オペラ座の2つの劇場である)ガルニエ宮とオペラ・バスティーユ、それぞれに合わせた視線の方向などディテールにまで及びます。彼女の指導が映像にきちんと生かされていると感じました。

ーー映画の最後に、主人公のエリーズが、「ラ・バヤデール」で有名な、コール・ド・バレエ(群舞のダンサー)によるアラベスクの連続を見つめるシーンが織り込まれています。

あのアラベスクは数え切れないほど踊りました。世界ツアーではオーストラリアで踊ったのを覚えていますし、どれほど難しいかもよくわかっています。オペラ座のレパートリーの中でも、コール・ド・バレエでは最も難関な振付でしょう。アラベスクを見つめながら、若い頃を思い出し「あの時代には戻りたくない」と強く感じました(笑)。

ーーエリーズが本番のステージでケガをするシーンが衝撃的です。演じるうえでプレッシャーだったのでは?

いいえ、プレッシャーはなかったです。私には「危険なことも大丈夫」という感受性が本能的に備わっているようです。あのシーンに関しては「これは映画。フィクションだ」と割り切って、エリーズの感情には入り込まずに演じました。しかも私にはあれだけのケガをした経験がないので、トラウマに襲われることもなく、俳優として、そしてダンサーとしてまっさらな気持ちで挑んだと思います。

ーーセドリック・クラピッシュ監督は、人間としてどんな魅力を持っているのでしょう。

基本的にとてもやさしい人です。監督として観察力に優れ、私たちに高いレベルを要求しつつ、同時に相手の意見に耳を傾ける寛容さを持ち合わせています。自分の意見を押し付けず、じっと待って判断するタイプです。そして現場は笑いに溢れています。きっと自分の方針に確固たる自信があるのでしょう。

『ダンサー イン Paris』    (C)2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

ーーホフェッシュ・シェクターの振付に出ることで、ダンサーとして触発されるのはどんな部分ですか。

ホフェッシュの作品は、集団で動きを作ることが重視されます。かと言って個々のダンサーの魅力を消すわけではなく、個と集団を両立させるところが彼の才能だと感じます。同じ振付でも、どんな解釈で動くかは、一人一人のダンサーに委ねられます。一見、カオスにも感じられるホフェッシュの作品ですが、そのカオスは今の社会を表しており、しかもよく観ているとカオスは計算され、一体感を作り出しています。そういった側面をダンサーとして掘り下げるのは、ひとつの楽しみですね。クラシックバレエの場合、ソリストを際立たせるため、周囲が目立ってはいけないヒエラルキーが存在しますが、ホフェッシュの作品は全員が同等に扱われる印象です。

ーー映画の中盤、海辺の岸壁の上を散歩するダンサーたちが自然と踊り出すシーンは、ホフェッシュの作品を観ているようでした。

あの日の撮影では、崖の上に行くと大きな扇風機が用意され、セドリックもホフェッシュもアイデアが固まっていないようでした。短い打ち合わせの後、自然発生的にダンスが生まれたのを覚えています。それぞれのダンサーのエネルギーが一つの作品になっていき、自由に踊りながら細かい修正が加えられました。

ーーエリーズは26歳という設定ですが、ケガをして自身の今後について悩みます。30代になったあなたは、彼女の葛藤に共感する部分はありましたか?

もちろんです。私は17歳の頃、すぐにでもエトワール(オペラ座のトップダンサー)に登るつめる野心に溢れていました。もちろんそんなにうまく行くわけはありません。着実にキャリアを重ねることが昇進の条件ですから。私たちダンサーは、年齢とともに踊るテクニックを磨き、人生経験も積んでいきます。同時に肉体としてはピークを迎えた後に、徐々に衰えを味わいます。若い頃にできたことが難しくなるのです。いま30代に入った私は、そうした両面のバランスを実感しています。ちょうどいいバランスを瞬間的に見つけ、そこを大切に使う感じです。私の夢や野心は人生とともに変化していますし、自分の肉体を把握し、どのように管理するかを理解できていますから、映画のエリーズのような不安に襲われることはありません。もちろん長くキャリアを続けられることは願っていますが……。

マリオン・バルボー

ーー映画への出演が、その後のダンサーとしての仕事にどんな影響をもたらしましたか?

映画は各シーンを積み重ねながら作るプロセスであり、セドリック・クラピッシュ監督に全幅の信頼を置いて演技をしたことで、撮影が終わる前から、ダンサーとして大きな変化を感じ取っていました。じつは「ラ・バヤデール」を舞台で踊るシーンは、セリフのあるシーンがすべて終わり、数週間を空けて撮ったのです。映画での演技を体験したせいか、過去の自分を開放して踊ることができました。それこそが映画の影響で、ダンサーとして新しい扉が開いた感覚です。

ーー『ダンサー イン Paris』の後も、俳優の仕事は続けているのですか?

すでに1作を撮り終え、来年フランスで公開されます。フランス東部の18歳の高校生が工場で働いてストに参加するドラマです。もう1作は来年撮影の予定で、私と同年代の女性の成長ストーリー。試練と向き合いますが、その相手はなんとドローンです(笑)。2作ともダンスとはまったく関係ありません。

ーー俳優としての理想の姿、ロールモデルはいるのですか?

私は俳優としては一歩を踏み出したばかり。先日、ヴィルジニー・エフィラのインタビューを聞いたのですが、あれだけ大活躍している俳優にもかかわらず「まだまだ探求中で、これから学ぶことがたくさんある」と謙虚に話していました。そういった姿勢に私も感銘を受けます。

『ダンサー イン Paris』    (C)2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

ーーダンサーとして過酷な時間も長いと思いますが、あなたにとって踊る喜びとは何ですか?

つらい時間よりも楽しい時間の方が長い気がします。私はスタジオでのリハーサルが大好き。振付が進み、作品の全体が見えてくる過程は、ちょっとしたスペクタクルですから。観客の視線を考えなくていいので、リスクを恐れず、自由に踊ることもできます。同時にステージ上での喜びもあります、たとえばパートナーとペアで踊る際に、同じ方向を見つめ共通の思いをシェアした瞬間です。言葉を交わすわけでもなく、おまけに多くの観客に観られているのに、親密さを表現できる。それもダンスの大きな喜びではないでしょうか。

取材・文=斉藤博昭

上映情報

『ダンサー イン Paris』
 
公開日:2023年9月15日(金)より
映画館:ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋ほか 全国順次公開

監督:セドリック・クラピッシュ 振付・音楽:ホフェッシュ・シェクター
出演:マリオン・バルボー、ホフェッシュ・シェクター、ドゥニ・ポダリデス、ミュリエル・ロバン、ピオ・マルマイ、フランソワ・シヴィル、メディ・バキ、スエリア・ヤクーブ

 
【原題:EN CORPS/2022/フランス・ベルギー/フランス語・英語/日本語字幕:岩辺いずみ/118分/ビスタ/5.1ch】
提供:ニューセレクト、セテラ・インターナショナル 配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、UniFrance/French Film Season in Japan 2023
 
■公式HP www.dancerinparis.com 
 
(C)2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES
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