上野水香が語るバレエダンサーの孤独や作品監督のバレエ愛 映画『ダンサー イン Paris』トークイベントのオフィシャルレポートが到着
Photo : Mitsuhiro Yoshida
2023年9月15日(金)より公開となるセドリック・クラピッシュ監督最新作『ダンサー イン Paris』の先行一般試写会が9月6日(水)東京・渋谷のユーロライブで実施され、上映後のトークイベントに東京バレエ団のゲスト・プリンシパルである上野水香が登壇した。本イベントのオフィシャルレポートが到着した。
本作はパリ・オペラ座バレエ団でエトワールをめざす主人公のエリーズが、怪我をきっかけに第二の人生を歩み出すといったストーリー。エリーズと同様に幼少期からバレエ一筋の日々を送ってきた上野は「エリーズに乗り移ったような、そんな感覚」で映画を観たと絶賛。
ダンサーとして共感するポイントを聞かれると「ある意味で孤独を感じるところ。一般の方からすると、バレエという世界に対してどこか距離を置いてしまうところがあるようで、もちろん好きだから頑張れて、その気持ちが一番強いからこそ今もこうして進んでこられたと思うけれど、若い頃はよく分からない世界にいる人のような扱いを受けて孤独を感じました」と、ダンサーの孤独な心境を告白した。
その孤独さを救ってくれた言葉や経験などがあるか聞かれると、「30 代前半には引退を考えたことがあって、退団届まで出しました。これから先、良い未来が見えないから止めようと。ちょうどその時、偉大なバレエダンサーのウラジミール・マラーホフさんが日本にいらしていて、その話しをしたら『君はやめたら駄目だ』と言われ、でも私は『自信も無いし、自分のことが信じられないから』と答えると、彼は『自分が信じられないなら僕を信じなさい』と言われ…その一言が今でもとても印象に残っています」とダンサー同士の少ない言葉のなかに宿る、熱い交流に救われたエピソードを披露。
Photo : Mitsuhiro Yoshida
主人公のエリーズの怪我について聞かれると「怪我って、身体が休憩したがっているところで起きる。でも不思議で、踊っている時はもう辛くてしんどくて休みたくて、でもいざ怪我をするとその瞬間からすぐにでも踊りたい気持ちになるんですね。わたしの場合は怪我の 3 ヶ月後に舞台が決まっていたので、まだ骨がついていないぐらいから踊っていました。治っていく時って、割と前向きだったりするんですね。治療中に急にカルシウムを摂取したり規則正しい生活になったり」と、信じられないほどストイックな内容にも関わらず観客席からも自然に笑いが起きる。
本作は、冒頭 15 分間『ラ・バヤデール』の舞台と舞台裏を台詞無しで一気に見せる。自身のレパートリーとしても本当に大事な作品だという『ラ・バヤデール』の 15 分間について「舞台裏の緊張感だったり、本番前にざわつくようなことが起こったり、すごくリアル。オペラ座でバレエを撮っているクラピッシュ監督は本当にバレエの世界を分かっている方」と大絶賛。特にそれが顕著なシーンとして、街中でラ・バヤデールのコール・ド(群舞)が出てくるシーンを挙げる。「ラ・バヤデールでのコール・ドの意味と、本作の主人公から見たコール・ドの意味を重ねて観ると、監督のバレエ愛を感じられる」とお墨付き。
Photo : Mitsuhiro Yoshida
劇中でエリーズが踊るホフェッシュ・シェクターの『ポリティカル・マザー ザ・コレオグラファーズ・カット』については「生物の本能だったり、自然の流れだったり、そういったものを動きにしたらこうなるんだよ、というような。自然界の全てを表現しているような壮大なイメージ」と、コンテンポラリーダンスの舞台作品としての面白さも楽しめることを力説。
「映画を観終わったあとの爽やかさも素晴らしい。気付いたら感動していて、全くわざとらしさが無い。全員がハッピーで素晴らしい作品」と声を弾ませた。
東京バレエ団で20年間トップダンサーとして活躍し、今年あらたにゲスト・プリンシパルになった上野水香。今後の夢や展望などについて問われると「具体的なものは無いけど、都度、全力で自分の目の前のことをやる。それが自分らしさに繋がると思って。明日がわからないからこそ 120%の力でやっていきたい」と力強く語った。