新国立劇場 2023/2024シーズン演劇 シェイクスピア、ダークコメディ交互上演『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』 公開フォトコール&初日前会見レポート
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(左から)鵜山仁 ソニン 岡本健一 浦井健治 中嶋朋子 (撮影:田中亜紀)
新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズのチームが再結集してダークコメディに挑む!『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』が日本初の交互上演。その開幕を前に2023年10月18日、東京・新国立劇場 中劇場で公開フォトコール・初日前会見が行われた。
今回披露されたのは『尺には尺を』の五幕一場の後半のシーン。物語の始まり、密かにアンジェロ(岡本健一)の統治を見届ける目的で、旅に出ていたウィーン公爵ヴィンセンシオ(木下浩之)が、身を隠していた修道士のローブを剥ぎ取り、赤い法服姿の公爵として姿を現す。そこで結婚式を直ちにあげることを命じられるのは、岡本が演じるアンジェロと中嶋朋子のマリアナだ。突然のことに戸惑う感情を岡本は声色から伝え、中嶋は可憐さを漂わせる。あっという間に結婚式を挙げて戻ってきた彼らの前に、布で顔を隠した男性が呼び込まれる。その布を取ると、なんと処刑されたはずのクローディオ(浦井健治)。兄が生きていたとわかり、感極まる妹イザベラ(ソニン)だったが……。赤が印象的なセットは絵画のような趣で、前には本水の池が二つ。脇にはガラクタのようなものたち。鵜山が演出してきたシェイクスピア歴史劇シリーズの流れを汲むような、独創的な舞台美術に興味を掻き立てられる。
続いて初日前会見が行われた。以下、コメントを抜粋。
−−まもなく初日を迎える心境は?
鵜山 2作品の交互上演ということで、1本を最初に開けるというのはちょっと不思議なリズムですよね。初体験の交互上演がどういう形で積み上がっていくのかをひたすら楽しみにしております。
岡本 稽古を2本同時にやって今日初日を迎えますが、正直、どういう感じなのか全体像みたいなのが全く見えていないんです(笑)。お客様が入って初めて成立するものだと思うので、「問題劇」と呼ばれる作品をどう提示していくのかを劇場で見ていただきたいなと思います。
浦井 14年前に『ヘンリー六世』(三部作)から始まったこの座組で稽古をしてきて、昨日は稽古が終わってしまったんだなと寂しく感じました。稽古中は、一緒に板の上に立っていた今は亡き先輩たちの存在を感じる瞬間もたくさんありました。それは本番が始まっても感じられると思っています。
中嶋 お客様が入ってから仕上がるのだと思いますし、私たちの未知数のエネルギーが残されている、すごくありがたい作品だなと思っていて、幕が開くことを楽しみにしています。明日も初日になるのは不思議な経験ですけれども、皆さんと共有できたらと思っております。
ソニン 2作品同時に、両方同じキャストが出ているのはなかなかないことですし、私自身も初体験です。2作品だから2倍大変なのかなと思っていたら、違います。4倍大変でした。4倍の二乗の16倍くらい、深い本番になったらいいなと思っています。
−−鵜山さんは約10年前に『尺には尺を』を演出されたそうですが、今回作品に対する考えが変わったなどありますか?
鵜山 コロナがあったり、ウクライナの戦争があったりいろいろなことが起きて、今まで良いと思っていたことが必ずしもそうじゃないとか、平和だと思っていたらすぐ戦争が始まってしまうとか、どっちに軸足を置いて生きていったらいいかわからないというのを経験して。さまざまな変化、多様性に対応していくエネルギーを身につけておかないとダメなんじゃないか。芝居が率先して、多少の嘘と夢を客席にふりまきながら、そういう怖さをあらかじめ表現していかないとダメなんじゃないかと考えるようになりました。いいものと悪いものがぐるぐる回っていく。その感覚で世界を見ていかなければいけないという意味で2作はすごく似ているし、このカンパニーの実績と重なって、いろんな変化が爆発して客席に飛び出していけばいいなと思っています。
−−キャストの皆さんは、ご自身の役をどう捉えていますか?
岡本 『尺には尺を』で演じるアンジェロは、はたから見るとパワハラとかセクハラとか、権力を振りかざしたりするように見えますが、本人からすると正しいというか、政治的なことなど法律にのっとっていて、それを糧に自分を鼓舞していく。だけど女性への愛が芽生えてしまった途端に、本当に簡単に崩れていくんだなって。でもその状態も受け入れて進んでいかないといけない。あと、嘘をつくと取り返しがつかなくなるなとか、いろいろなことを考えます。毎回新たな感情、思いみたいなものが出てきて興味深いです。
浦井 『終わりよければすべてよし』のバートラムも『尺には尺を』のクローディオもすごく自分勝手で、クズみたいに言われる役ですが、演じていると懸命に生きる場所を探している感覚があったりします。実は、終着点がないところがこの役の面白さだなと思っています。
中嶋 「問題劇」と言われる一つの要素に“ベッド・トリック”がどちらにもあって、私は2作品とも身代わりとなって愛を得ようとする役目です(笑)。やっていることは同じように見えて、彼女たちが突き動かされている心情には微妙に差異はあります。しかし、愛とか、何かを得たいとか、自分の尊厳を守りたいという、いきものとしての"希求"が根源にあるのは共通していて、その強いエネルギーに立ち向かってお芝居しているところですね。
ソニン 私は“ベッド・トリック”の中で、誰かを自分だと思わせる役割。イザベラも『終わりよければ』で演じるダイアナもある種の圧力だったり、抑圧に囚われていることとして、割とその人たちを見ながらどんどん成長していくところが共通しているなと思っています。
−−2作を交互に演じる際の気持ちの切り替え方は?
岡本 『尺には尺を』ではアンジェロ、『終わりよければ』のフランス王は死にかけたおじいちゃんという全く違う役柄なので、衣裳を着たら変わっちゃいます。
浦井 僕も地毛とウィッグなので、ヘアメイクさんのところに行ったら切り替わります。
中嶋 私もそうですね。マリアナはちょっと変わった人にしたいと鵜山さんがおっしゃっていて、そこに合わせた部分があったりします。
ソニン イザベラとダイアナは立場的なものが結構似ていて稽古中は切り替えが難しいなと感じることもありました。方向性が決まってからは、イザベラは真っ白でできるだけ肌を出さない状態。ダイアナは露出が多くて胸元も空いていて、女神のような象徴的な格好なので、やはり衣裳に助けられています。
−−長く一緒にやられてきたカンパニーですが、稽古中に絆を感じた瞬間は?
岡本 信頼関係はすごくあって、人間的な部分とか性格というより、作品に対する思いの強さに対してですかね。あとは技術。結構難しい作品ですが、ちゃんと人間として表現してくれる人たちが集まっていますから。特にこの3人は突出してそういうところがすごいので、すごく信頼しています。普段の生活は全く知らないですけどね(笑)。
浦井 僕もこの板の上に乗るだけで、以前、先輩に言われた「手を抜くんじゃないぞ」という言葉を思い出したり、那須佐代子さんのセリフを通して今は亡き先輩方のことを思い出したりするんです。すごく緊張もしますが、シェイクスピアシリーズが地続きになっている感じがします。
ソニン 私はイザベラの人生が激しすぎて、演じ終えると魂と体がどこかに持っていかれるくらいの疲労感なんです。通し稽古の後は本当に疲れてしまって、そうしたら勝部演之さんが「芝居を楽しんでいるだけで、楽しいんじゃないの。笑いなさい」と。そういうことを教えてくださる方がいて、本当に幸せです。
中嶋 それで思い出したのが『ヘンリー六世』の稽古場で、けんちゃん(岡本)に「私うまくできない」と言ったら、「うまくやるってどういうこと?」と言われて。うまくやると考えていたのがちょっと違っていたのかもと思って。そこから私の演劇人生がすごく変わったんですよ。そうやって大切な何かを言ってくれる人が本当にたくさんいるカンパニーです。
(撮影:田中亜紀)
始終和やかだった会見の後、『尺には尺を』の初日が開幕。冒頭から意外なところで、「問題劇」のイメージから想像がつかないくらい、客席から笑い声が溢れていた。「え?ここでこうなる?」「まさか!」というシーン、キャラクターたちの濃さ、存在感、人間らしさに引き込まれる3時間弱。『終わりよければすべてよし』ではどんな人間ドラマが繰り広げられるのか。初の試みとなる「問題劇」の交互上演は、11月19日(日)まで。
撮影:田中亜紀
公演情報
シェイクスピア、ダークコメディ交互上演
『尺には尺を』 Measure for Measure
『終わりよければすべてよし』 All's Well That Ends Well
■公演期間:2023年10月18日(水)~11月19日(日)
■料金:S席8,800円 A席6,600円 B席3,300円 *2作品通し券(S席のみ)15,800円
*通し券は新国立劇場ボックスオフィス(電話か窓口)での受付となります(Webボックスオフィスでの販売はございません)。日程の組み合わせは自由です。
岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、ソニン、
立川三貴、吉村 直、木下浩之、那須佐代子、勝部演之、
小長谷勝彦、下総源太朗、藤木久美子、川辺邦弘、亀田佳明、
永田江里、内藤裕志、須藤瑞己、福士永大、宮津侑生
【作】ウィリアム・シェイクスピア
【翻訳】小田島雄志
【演出】鵜山 仁
【美術】乘峯雅寛
【照明】服部 基
【音響】上田好生
【衣裳】前田文子
【ヘアメイク】馮 啓孝
【演出助手】中嶋彩乃
【舞台監督】北条 孝
『尺には尺を』
ウィーンの公爵ヴィンセンシオ(木下浩之)は、突然出立すると告げ、後事を代理アンジェロ(岡本健一)に託し旅に出る。だが実は、密かにウィーンに滞在したまま、アンジェロの統治を見届ける目的があった。というのも、ウィーンではこのところ風紀の乱れが著しく、謹厳実直なアンジェロが、法律に則りそれをどう処理するのか見定めようというのだ。そんな法律のなかに、結婚前の交渉を禁ずる姦淫罪があり、19年間一度も使われたことがなかった。アンジェロはその法律を行使し、婚姻前にジュリエット(永田江里)と関係を持ったクローディオ(浦井健治)に死刑の判決を下す。だがクローディオはジュリエットと正式な夫婦約束を交わしており、情状酌量の余地は十分にあったのだ。それを知ったクローディオの妹、修道尼見習いのイザベラ(ソニン)は、兄の助命嘆願のためアンジェロの元を訪れる。兄のために懸命に命乞いをするイザベラの美しい姿に、アンジェロの理性は失われ、自分に体を許せば兄の命は助ける、という提案をする。それを聞いたイザベラはアンジェロの偽善を告発すると告げるのだが、彼は一笑に付し、「誰がそれを信じる?お前の真実は、私の虚偽には勝てぬ」とイザベラに嘯く。クローディオの命は?イザベラの貞節は?すべてはアンジェロの裁量に委ねられる。
ルシヨン伯爵夫人(那須佐代子)には一人息子バートラム(浦井健治)がいた。彼はフランス王(岡本健一)に召しだされ、故郷を後に、パリへと向かう。だが王は不治の病に蝕まれ、命は長くないと思われていた。もう一人、伯爵夫人の元には侍女として育てていたヘレナ(中嶋朋子)という娘がいて、その父は、先ごろ他界した高名な医師だった。彼はヘレナに、万病に効く薬の処方箋を残していた。そしてヘレナは、実は密かに、身分違いのバートラムのことを慕い、妻になりたいと願っていた。その想いを知った伯爵夫人は、ヘレナにバートラムを追ってパリへ向かうことを許す。パリに到着したヘレナは王に謁見し、亡父から託された薬で王の病を見事に治してみせる。王は感謝の印として、ヘレナに望みのものを褒美として与える約束をする。ヘレナはバートラムとの結婚を望むが、彼はそれを拒否し、自ら志願して、逃げるように戦地フィレンツェへ赴いてしまう。残された手紙には「私を父親とする子供を産めば、私を夫と呼ぶがいい。だがその時は決して来ないだろう。」と認められていた。ヘレナは単身、バートラムを追ってフィレンツェへと旅立つ。愛する彼と結ばれるために。