「生まれ変わったような気持ち」鈴政ゲンのこれまでとこれから
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善雄善雄が主宰するザ・プレイボーイズの新作公演『ハロー、妖怪探偵社』が2023年11月22日(水)に下北沢・小劇場B1にて開幕する。
ザ・プレイボーイズとしては1年ぶりとなる本公演は、小さな探偵社を舞台に、妖怪や夢や気持ちなど見えないものが跋扈するSF青春ミステリーコメディーになるという。
2016年から演劇活動をスタートし、今年はタカハ劇団『おわたり』や本作など活動の幅をグッと広げ始めた鈴政ゲンに、俳優としてのこれまでとこれからの話、『ハロー、妖怪探偵社』の稽古場での話を聞いた。
「これは、向き合わないといけないことが目の前で起こるかも」
――鈴政さんは地元・広島にいたときに、「演劇引力廣島」プロジェクトで『デンキ島 松田リカ篇』広島版(蓬莱竜太作・演出/2014年)を観て、俳優を志したそうですね。
はい。そのときに演劇を初めて観て、本当に開始2秒くらいで感動して涙が溢れて、挑戦してみたいと思いました。それですぐ上京することにして。そのときの所持金10万円くらいを握りしめて、上京してきました(笑)。当時24歳とかですね。
――でもそのあと、『演劇引力廣島』プロジェクトに3年連続で出演されているんですよね。
そうですね。『演劇引力廣島』プロジェクトは2016年から2018年まで蓬莱さんの作品を上演したんですけど、毎年オーディションを受け、ありがたいことに演劇に関わることができていました。2018年の公演では主役をつとめました。でもそれ以外は東京で生活していて、松居大悟さん作・演出のJ-WAVE×ゴジゲン『みみばしる』のオーディションを受けたり、というような流れです。
――お名前は芸名なんですよね?
高校の部活がバスケ部で、先輩がコートネームをつけるというのがあり、『ゲン』は先輩につけていただいたコートネームなんです。それから周りにゲンと呼ばれていたんですけど、蓬莱さんの3年目の公演『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』のときに、自分の名前で舞台に立つことになって、いつもの呼び名でゲンにしようとなりました。そしたら蓬莱さんもそのままゲンでやったらいいんじゃない?って言ってくれて。
――上京してフリーでやられている期間が長いですよね。
はい。その頃から、なんでも出たいというよりは、「この人たちとやってみたい」という直感を信じて活動していました。「自分の心が動く人たちとやりたい」を大事にして、そこからご縁が繋がっていったと思います。
――フリーでやりたかったのですか?
いえ、そこまでも考えてなくて。お芝居を通して自分という人間を知ってもらいながら繋がった方とかとやれたらなと思っていました。もちろんキラキラした人に憧れたり、ああなりたいと思うことも大事だと思うんですけど、私はいろんな感情だったり些細なことに気付かせてくれるのがお芝居だと思っているので。演劇を観たりお芝居をしているとき、私は「感じたい」と思うんですよ。
――それができる環境をキープするためにフリーでやられていたということなんですね。最初からお芝居のそういうところに惹かれたんですか?
そうだと思います。私は大学のときに人間関係がうまくいかなくて、辛くなってしまったことがあって。人と会わないように閉じこもったり、逃げるみたいに生きている時期がありました。そういう時代を経て、卒業後にたまたま『デンキ島』を観に行くことになって、緊張して劇場に行きました。初めてのことで、なにが始まるかわからなかったから。私は学校で演劇部の活動を見かけても、「なにやっとんじゃろ?」と思ってたようなタイプでしたし。でも、そこからいろんなことを経験した自分は、舞台が始まった瞬間に「これは、向き合わないといけないことが目の前で起こるかも」と思いました。「ここで今自分が演劇を観ていること」とかをぶわーっと考えて。あのとき、演劇に出会えて本当に感謝しています。
――それで「これをやりたい」となって、すぐ上京したんですね。
そうですね。やるなら今しかもうない、と思って。母に話したら「行くなら帰ってきなさんな」と言われました。そういう気持ちでやれという意味で。
自分でプロデュースした作品もつくってみたい
――上京して、最初の3年間は「演劇引力廣島」プロジェクトに参加して、そこからはゴジゲン作品やほろびて作品など、決まった劇団の公演に年1回くらいのペースで出演されていますね。今年は7月に、初参加のタカハ劇団『おたわり』に出演し、11月に同じく初参加のザ・プレイボーイズ第11回公演『ハロー、妖怪探偵社』に出演します。今、世界が広がっているところですか?
そうかもしれないです。役も今まではわりと自分に近い役というか、自分がそうしちゃってたのかもしれないんですけど、でも少しずつ役柄も変わってきている感じがします。ちょっと私のフットワークも軽くなったかも。
――それは昨年、事務所(momocan)に所属した影響もありますか?
それはもう本当にそうです。事務所に入った時から生まれ変わったみたいな。マネージャーさんに引き上げてもらっているような感覚というか、二人三脚ができている感覚です。「これ向いてると思うからやってみる?」って言われて、やったらめっちゃ楽しくて、そういう中で自信もついてきたと思うし。挑戦の意味を改めて考えなおしたりしながらも、広がっているような。先日アーティスト写真を撮り直したのですが、そのときに自分でプロデュースする機会をもらいました。そこで改めて自分を客観的に見て、マネージャーさんとご一緒させていただけることに感謝をしましたし、人とつくることがとても楽しいことだと感じました。これからも、頼って、弱さを吐き出したり、たくさんのことを共有したいと思える居場所です。一緒に世の中を感じていきたいし、関わってくださる方に楽しんでいただけるよう、一生懸命がんばりたいです。
――やってみたいことの話とかもしますか?
最近は映像にも挑戦したいなと考えています。人を巻き込んで、自分でプロデュースした作品もつくってみたい。あと常に思っているのは、故郷である広島に関わるお仕事とご縁があるといいなと思っています。
――それはどうしてですか?
プロデュースしてみたいというのは、可能性を感じてみたいからですかね。やってみることで感じられることは、どんなことでも無駄じゃないと思いたいです。広島という土地での作品に関わりたいのも、そうすることで、自分がこの世に生まれてきたこと、これから生きていくこととかに対して、さらに思いや力が宿ると思うので。“今があること”に正面から向き合える気がします。
妖怪が癒してくれると思います
――今お稽古中のザ・プレイボーイズ第11回公演『ハロー、妖怪探偵社』はSF青春ミステリーコメディーということですが、どんな作品ですか?
人を描くので、ちょっと苦しさも感じる物語だと思います。だけどそこに妖怪たちがいて、愛せるんですよ。俳優のみなさんがおもしろくするために稽古場でいろいろ試しているのを見ていると、私もがんばろうと思いますし、お客さんにも観てほしいなって思います。妖怪はずっと舞台上にいるので、きっと癒してくれると思います。
――善雄善雄さんの演出はどうですか?
すごくやりやすいです。いつもジェスチャーでグッドグッドってしてくれるんですよ(笑)。だからいろいろ試しやすいし、スベりやすい。安心してスベれる気持ちになれる環境は大きいです。
――では、いろんなチャレンジをしているところですか?
はい。そしてもっとしたいなと思っています。提案すると誰かも提案してくれるので「そうか!」と思うし。いい雰囲気だなと感じます。もちろんシビアにやるべきところはやるべきなんですけどね。
――俳優としてはどんな発見をしていますか?
私は感情の振り幅が大きい役なんですけど、途中で感情が裏返るようなシーンがあって、それによってもともとあった感情も本当にその感情だったのかなって考えてしまうようなところがあるんです。そういう複雑なものがちゃんと届くためにはどう居たらいいのかなということを考えているところです。気持ちを繊細に表現して、相手役を感じてつくっていけたらいいなと思います。
――改めて鈴政さんは俳優としてこれからどんな風になっていきたいですか?
芯はありながらも、柔軟に楽しんでいられる人であれたらいいなと思っています。自分なりにもがく、みたいなモチベーションは常に持ち続けていたい。
――そのためにはどうすることが大事だと思いますか?
相手になにか届けようとする気持ちを忘れないようにしたいです。あと、自分の軸からはみ出して、触れ続けようとすることなのかなって思います。触れるまでの道のりはいつも楽しいので。
――わかりました。ありがとうございます。
過去の自分、苦しかった自分も置いてけぼりにせずにやっていけたらいいなと思います。
取材・文=中川實穗 撮影=北浦敦子
プロフィール
1991年、広島県出身。大学卒業後、体育教諭を目指すも、広島で上演する『演劇引力廣島』プロジェクトで蓬莱竜太の作品に触れ演劇を志す。24歳の時に10万円を握りしめて上京。2018年『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』(作・演出:蓬莱竜太)で主演を務める。松居大悟 作・演出 J-WAVE× ゴジゲン『みみばしる』にオーディションで参加。その他、山西竜矢、細川洋平、高羽彩など今注目の演出家作品に数多く出演。
公式ウェブサイト:https://momocan.co.jp/actor/gen_suzumasa/