四星球、結成の地・徳島 鳴門で開催された『ふざけてナイト』、新たな「世界の始まり」が告げられた記念すべき日を振り返る
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BOAT RACE鳴門 presents「四星球企画 ふざけてナイト」 撮影=Yohei Suzuki、アミノン
BOAT RACE鳴門 presents「四星球企画 ふざけてナイト」2023.12.9(SAT)徳島・BOAT RACE鳴門
12月9日(土)に徳島・BOAT RACE鳴門 presents 『四星球企画 ふざけてナイト』が開催された。BOAT RACE鳴門、すなわち鳴門競艇場で、四星球主催のライブイベントが開催されたということだが、私も初めてベース兼マネージャー兼事務所社長でもあるU太から夏前くらいに話を聞かされた時は、よく詳細を掴めておらず呑気に捉えていた。実際に12月8日(金)に前乗りで会場入りしてから、ようやく意味が理解できていく。夕方16時に高速鳴門バス乗り場に着き、とことことBOAT RACE鳴門と大きく書かれた建物を頼りに歩く。敷地内にある「UZUホール」は入り口と片方の横側がガラス張りの為、中を確認できるので辿り着きやすかった。中を確認できたというのは、四星球名物の康雄によるスタッフ全員との台本進行構成内容打ち合わせ風景が飛び込んできたという事。すぐにメンバーはライブリハに入り、実際に細かくスタッフとの動きを確認していく。UZUホール外観がZepp外観に似ているなと思いつつも、中に入ると下手側横一面がボルタリング用壁とマットが置いてあったり、上手後方には漫画本が置いてあるキッズスペースであったりと町の公共施設の体育館な雰囲気。ライブでの音の聴こえ具合は、体育館特有のボワンボワンした音に聴こえるかと思いきや、本家Zepp並みと言うと言い過ぎかもしれないが、予想以上にライブの音として聴こえる。それは良い驚きであった。
17時半リハ終わり、康雄の指示により小道具で使うゴムボードを段ボールでスタッフたちが補強する。UZUホールを出てすぐ芝生広場があり、そこには飲食やアパレルの屋台テントやFM徳島特設スタジオやゲームコーナーなど、いわゆるフェスというよりは学園祭的な雰囲気が漂う。芝生広場を挟んでUZUホールの真向かいには、漫才・サイエンスショー・弾き語りライブなどの出し物が行われる「なるちゃんホール」がある。競艇場に来られる方用の飲食売店やコンビニがあり、イベントの為にも当日営業が行なわれた。
ボートの展示や予想をする為の紙が置かれた机などもあり、競艇場の臨場感が味わえるし、何よりも本格的な舞台が設置されている。UZUホール・芝生広場・なるちゃんホールの奥には、小鳴門海峡上にある競争水面と競艇場ではお馴染みの大きな大きな電光掲示板。海には高速道路が架かっており、奥田民生の名盤『股旅』を彷彿とさせる山も鎮座している。ロケーションが最高すぎる……。電光掲示板の先の方に、山の隣の方に見えるのが鳴門教育大学。ドラムのモリス以外のシンガー北島康雄・U太・ギターまさやんの母校であり、四星球が結成された場所でもある。この情報はもちろん昔から知っていたが、何故かBOAT RACE鳴門とは繋がらず、リハや準備終わりの康雄と話していて、どんどん紐解かれていった。
私も降り立った高速鳴門バス乗り場を康雄たちも学生時代に使っていた事や、近くにはマイケルというスーパーくらいしか無かった事や鳴門競艇場から橋を越えたら大学や鳴門競艇場も物凄く近代的にリニューアル改装された事など、どんどん話しは溢れ出す。当時、聴いていた音楽や中高時代だった90年代に聴いていた音楽についても何気に話題になる。当時、聴いていたピーズが今回出てくれる喜びや、学生時代の憧れの人には恥ずかしがらず緊張しすぎず、どんどん話しかけていかないとね、逢いたい人には会わないとなど喋る。
18時の退館の時間になり、U太・まさやん・スタッフらとJR鳴門駅近くの居酒屋へ。ちなみに学生時代にも行っていた居酒屋だそう。翌日があるので19時半にはお開きになり、ひとり少しだけ駅前を歩く。最近は、どこの地方に行っても開発が進んでいて何でもあるが、ここには良い意味で「何でも」が無かった。昔ながらの昭和の風景が並んでいる。JR鳴門駅の改札は自動ではなく、駅長がいるタイプの囲いスペースがあり、今にも寅さんが降り立ちそうだった。四星球の3人が青春時代を過ごした街であり、ドラムのモリスも実は少しだけだが住んだ事があるらしい町であり、明日この町に多くの人が集まる。ワクワクとドキドキが止まらなくて、単なるライブレポートのライターである私も興奮で中々寝付けなかった。
12月9日(土)朝8時会場入り。快晴であり、12月真冬のはずが秋晴れのような陽気で温かい。芝生広場が校庭のようで、UZUホールが体育館のようで、昨日より学園祭な感じがする。『ふざけてナイト』という手書きの看板が建物2階に飾られたり、まさやんお手製段ボールモニュメントが飾られたり、各屋台の用意も進んでいく。康雄・U太・スタッフの3人が芝生広場で立ち話をしながら打ち合わせしているが、その様子も完全に学園祭の実行委員である。四星球とのコラボ商品でもお馴染み徳島の銘菓マンマローザを販売する会社イルローザの方もお菓子が入ったプラチックケース山積みを朝から一生懸命テントまで運ぶ。気が付くと、メンバーやスタッフや私など、その場にいた人間が全員自然と手伝っている。これは完全に学園祭であり、この祭りを全員で成功させたいという想いが伝わってくる。朝11時トップバッターのバックドロップシンデレラも朝イチからリハをしているが、この時点で気迫をとてつもなく感じていた。後程ゆっくり書きます。
朝10時25分。一発目の出し物が始まる。出し物という書き方も、どうかと思うが、控室としてテントは使っているが、スタジオ自体は青空の下に丸出し状態であるFM徳島特設スタジオを観ると、ついつい出し物と書いてしまう。毎週金曜夜21時30分~21時55分までレギュラー放送されている『四星球のスーパーがいなRadio in ふざけてナイト supported by 鳴門屋』の公開収録。鳴門屋についても後程ゆっくり書きます。観ながらメモを取っていると御婦人に話しかけられる。会場スタッフと思われて、何かの質問かなと思ったら、何とモリスの母君だった! この日はまさやん御両親にもお会いしたし、各メンバーの家族には大体何となく会った事はあるのだが、モリスの母君は直接話しかけて下さった上に、四星球の私が関わったライブレポート感想も話して下さり、学園祭の朝に生徒の保護者から感謝を伝えられた気分でほっこりした。
さて、肝心の内容はFM徳島女性DJ2人をバックにメンバー4人で話す事を「予算の無い金スマ状態!」と絶妙の例えをしたりしながら、やはり鳴門や徳島の地元話が中心になっていく。彼らのホームであり、育ててもらった徳島市内のライブハウス「club GRINDHOUSE」で自主イベントを開催した時に、サブステージ用のビールケースと板を地元盟友バンドTHE春夏秋冬から借りていた話も出る、この日もビールケースと板を借りて、その上にまさやんお手製段ボール小道具としてメンバーの楽器が飾られている。これは本日ラスト大見どころとなるなっていく。余談だが、いつも四星球のイベントはそうなのだが、そのTHE春夏秋冬や四国後輩バンドの古墳シスターズや大阪出身東京在住の盛り上げ師アイアムアイも夜行バスに乗り込み朝6時着で駆けつけて、みんなスタッフとして何から何までお手伝いをしている。公開収録が10時45分に終わり、10時55分前説の為、四星球はUZUホール裏口へと向かう。すると昼12時15分出番であるピーズのボーカルはるさんとギターのアビさんがベースとギターを持って佇んでいる。ただ佇んでいるだけなのだが、あまりにも絵になるふたりに四星球と見とれて痺れてしまう……。
10時55分。前説で康雄は愛媛でもロックイベントが開催されていて徳島名物すだち酒を贈った話をするが、四国でライブを観れる貴重さや四国でフェスイベントが開催される貴重さが改めてわかる。鳴門がバンドの結成の地である話をして、唯一モリスが鳴門に思い出が無いので思い出を作る事なども話されるが、ここで康雄がトップバッターのバックドロップシンデレラについて少しだけ喋る。東京から前日夜バンドワゴンで出発して、明け方3時に大阪に着き、少しだけ仮眠して朝イチリハに合わせてきたという。ボーカルでんでけあゆみのライブ中のフットワーク軽さに絡めて、ボルダリングスペースを指差して、「あゆみ、あそこまで行く予想!」と笑わせる。
バックドロップシンデレラ
当のあゆみは1曲目から観客頭上でゴロゴロ転がりながら歌い暴れているが、ホール後方までみっちり満杯の観客に驚く。鳴門に、それも朝イチで、ここまでの観客が集まるなんて……。前夜の私の勝手な危惧なんて全く必要なかった。ギターの豊島“ペリー来航”渉も「こんなにたくさん集まっていたら成功してるようなもんだよ!」と言っていたが、本当にそう想う。3曲目「フェスだして」は、まだ彼らがフェスに呼ばれなかった2017年春にリリースされたフェスへ出たい切実なる想いをユーモア込めて歌われた楽曲だが、メンバーが演奏も歌も何もしていない状態で、観客全員がアカペラで「フェスフェスフェスだせよ」と大合唱……。海外ロックフェスでアンセムが観客全員によって熱唱された様な光景には、思わずぐっとならざるおえなかった……。2017年夏リリースのアンサーソング「フェスでれた」でフェスに出れた喜びを四星球たち仲間と一緒に爆発させるMVも観ていただけに、この光景はたまらなかった。最高のトップバッター。
バックドロップシンデレラ
これまた余談ですが、あゆみがMCで「業務連絡。康雄君、僕もあそこ(ボルダリングスペース)まで登りたいけど、マイクのケーブルが足りないです!」と明かしていたのも最高だった。ただ、その時、なるちゃんホールで11時30分から始まる漫才ステージへと康雄は向かっていたので、僭越ながら私から康雄には伝えさせて頂きました。
なるちゃんホール。11時30分から男性ブランコ・ツートライブ・デルマパンゲ、12時45分から金属バット・ミルクボーイの出番。舞台後ろにある引き戸から漫才師が登場する姿も襖がある古い寄席小屋みたいで良かったし、何よりも観客の四国で人気の漫才師たちを観れるという事で温かくも熱狂的に迎える姿がとても素敵だった。自分は関西在住なので生であったりテレビで普段から漫才を観る機会が多いが、海を越えた四国では、これだけの人たちが漫才を渇望していたというのがわかる。想定以上に多くの人が駆けつけ過ぎて、後ろまでマイクの音が届きにくく、慌ててU太とスタッフが動き回って、どうにか解決しようとしているのも微笑ましかった。
ピーズ
昼12時15分。ピーズ。本番前のリハ終了後もステージからはけずに出番を待つピーズ。はるは、スタッフから15分になると合図が出るからなどとステージの上で段取り説明を受けている。全てをさらけ出すスタイルは潔くもあり微笑ましい。
「生きとるよ。死ぬまで生きる」そう言って、はるは1曲目「生きのばし」を歌い出す。「僕、今50代のバンドマン、マジでめちゃくちゃ愛してるんで、ほんとみなさん長生きしてください。お願いします。」
そう4日前にXにポストした康雄の言葉を思い出す。その康雄は名残惜しそうにステージを見つめながら、なるちゃんホールへの漫才へと向かう。U太もライブを観ながら芝生広場へと向かうので、ふと気になり目で追う。すると子供向け用の巨大黒ひげ危機一髪が故障したらしく、直しに行っていた。主催者のバンドマンが、そんなところまで気にかけているなんて、本当に手作り感を改めて感じて良い祭だなと感激する。
「結構おっさんなんですけど、こんな若者のイベントに呼んで頂いて……、と言ってもおっさんですけど」と笑いはる。若者時代からピーズを聴いていた四星球も、康雄とU太は40歳。何歳になっても、若者の気持ちを忘れないおっさんは素敵じゃないか。余談だが、はるが四星球のブリーフをずっとふんどしと言い続けているのも可愛かった。
般若
昼13時30分。般若。唯一のHIPHOPであり、DJとふたりきりで挑み、凄い勢いでラップを畳みかける姿は格好良かった。美空ひばりの「東京キッド」をサンプリングした「TOKYO KIDS」。入り口出口もガラス張りであり、閉めていても音が芝生広場へ漏れるのだが、出口に立つイベンタースタッフ若手ふたりが思わず体を揺らして口ずさんでいる。自分たちの町へ東京のHIPOHOPスターが来てくれたのが嬉しくてたまらなかったのだろう。そこへU太が通りかかり、中で聴いても良いと促す。ふたりは流石に勤務中だからと躊躇しながらも、中へと促されて、遠慮しながらも入り口付近で軽く口ずさみリズムを取っている。何でも無いシーンなのだが、地方の学園祭で実行委員会の子たちが喜びを嚙みしめている空気が届いてきて、とても好きだった。般若も大好きな釣りの話をしながら、観客とコミュニケーションを取ったりとリラックスしている。後から康雄に聞いたのだが、芸人出演者勢の般若への反響も凄かったらしく、ロックとはまた違うHIPHOPの影響力を凄く感じた。
けちゃっぷ先生サイエンスショー
昼13時45分。なるちゃんホールでの「けちゃっぷ先生サイエンスショー」。モリスも参加しながら繰り広げられるショーだが、子供たちの反応がいちいち大きくて、とても良い雰囲気。けちゃっぷ先生が14時20分からのFM徳島公開収録のモリス出番を気にしながら進行するのも朗らかで面白い。モリスはギリギリまで実験に参加しながら、最後はダッシュで公開収録へと向かった。
昼14時20分。本日二度目となるFM徳島『四星球のスーパーがいなRadio in ふざけてナイト supported by 鳴門屋』公開収録。鳴門屋の「みんなの!なるとン」という御菓子を四星球のメンバー4人が公開収録を観に来た観客に投げている。普通、こういう場合の量は良い意味で知れているのだが、もう観客は大雨を浴びるかのように大量の『なるとン』を受け取るというよりも真っ向から浴びている。そして、ラジオにもゲスト出演する鳴門屋社長が「なるとン配って赤字になりました!」とひとこと。誠にわかってらっしゃる社長だ! 四星球も遠慮なく社長をいじりまくり、社長もボケたりイジリ返したりと自由気まま! 関係性が伝わってくるし、単なる商品紹介の為のスポンサーな在り方では無くて、心から四星球の祭を楽しんでいる。理想的な関係性であった。まぁ、それにしても、なるとンの配布量は尋常じゃなかったが!
OKAMOTO'S
昼14時45分。OKAMOTO’S。登場SEが鳴り出すと、観客の拍手手拍子が鳴りやまない。朝からずっと満員御礼ではあるが、見る見る間にUZUホールが超満杯になっていく模様は凄かった……。オカモトショウとハマ•オカモトは、ボルタリングスペースや漫画が読めるキッズスペースを例に出しながら、「凄いところでやっていますね!」と笑う。また、良い意味で考えられない出順だと、般若の後に自分たちが出る事を楽しんでいる。地方の学園祭実行委員会が自分たちと、そして観客となる学生をただただ喜ばしたい為だけに、呼びたい人を純粋に呼びまくっているラインナップ。純粋さしか感じない。
「水上でやりたかった!」このハマの言葉には激しく同感でしかなかった。競艇場の横でやれるだけで凄い事だし、競艇場をすぐ眺めに行けるのも凄い事だが、やはり競艇場でボートが走るところを観れたならば、大人から子供から大興奮であっただろう。水上ステージがあって、ボートに乗せられた出演者たちが、その水上ステージへと向かう!……、なんていう勝手な妄想をしてはウヒウヒしてしまう。この祭が毎年恒例の祭になり、色々な事が可能になっていったら、本当に素敵である。
「四星球の精神性が現れている」楽屋で会ったハマは、この祭をそう言葉で表現した。ここまで書いてきた数々の出来事は、他のフェスやイベントでは中々観る事ができない出来事ばかりだ。それは四星球が地元の徳島で開催している祭だからなわけで、とてつもない賞賛の言葉だなと心から想った。
四星球・康雄 x 高橋久美子
昼15時45分。なるちゃんホール。高橋久美子。チャットモンチーの元ドラマーであり、鳴門教育大学での康雄・U太・まさやんの先輩に当たる。「まさか鳴門競艇場でライブするとは……」と話しながら、橋渡って大学に行っていた話や、渡し船がある事、康雄からも聞いていたが近くのスーパーであるマイケルなどなど思い出話が溢れ出ている。康雄とU太が軽音サークルの1個下であり、U太に関しては学部の1個下でもあるので、学園祭で一緒にたい焼きを売っていたとも明かす。部室に集合して海に行っていた話などは、初めて来た地であり、彼らと何も青春の想い出を共有しているわけでもないのに何故だかジーンときてしまう……。鳴門に何の思い出も無いなんて言っていたモリスも、私の横でじーんときている……。
「懐かしいと思う日がいつか来るのかなと思っていた時が懐かしいです」この言葉はセンチメンタルであり、ノスタルジックであり、彼女が朗読する詩の一部の様にも感じられた。大学の後輩である康雄を呼び込み、学生服を着て中学生に扮した康雄と「交換日記俱楽部」という四星球とコラボした朗読楽曲を披露する。実際に高橋と康雄がメールでやり取りして制作した交換日記調の歌詞。より青い春を感じざるおえない……。ふたりは思い出話もあるが、康雄が校内の自動販売機に登ったり、まさやんが校内の配管パイプによじ登ったりと、軽音サークルによる校内ライブでの若い思い出が、高橋から語られていく。
高橋久美子 x 四星球・康雄&まさやん
そうそう、「交換日記倶楽部」終盤では、まさやんがサプライズで学生服姿でギターを弾きながら登場するのだが、先にまさやんが出てくる事を披露前に言ってしまったりと、そんなうっかりな部分も可愛らしかった。「僕いります!?」とまさやんが嘆いたり、客席エリアのモリスを発見して、「モリスも忘れてないよ!」と話しかけるも何の想い出も出て来なかったりと、とにかく高橋ワールド。そのほんわかした柔らかい雰囲気は、一気に2000年代初めの鳴門教育大学へと一気にタイムスリップさせてくれた。康雄とU太が入学してすぐに高橋とPOTSHOTのコピーバンドを結成した事も、後から康雄が教えてくれた。
「U太も立派になられて……」学生時代の話をした後に、ふと言った高橋のこの言葉に個人的には一番ジーンと感動してしまった……。後輩が母校のすぐそばで祭を開催した事への最大の賞賛だと感じた。出会って21年経っても、こうやって一緒にライブが出来るなんて、本当に羨ましいくらいに素晴らしい関係である。
FLOW
夕方16時。FLOW。今年20周年を迎える彼らでも、徳島は来た事があるものの鳴門は初めてだという。初めて来た場所で、それもコロナ禍が落ち着いて声出しOKでライブが出来る事を心から喜ぶ。「GO!!!」に代表される様に知名度がある楽曲がいかに盛り上がるか、そしてアニメタイアップソングで子供たちがはしゃぐ姿は、この祭ならではの空気感があった。
前川真悟(かりゆし58)
なるちゃんホール16時45分での前川真悟での弾き語りライブでも同じ様な事を感じる。かりゆし58の「アンマー」を歌い出した瞬間に、ホール内のコンビニの店員さんや競艇場の関係スタッフの方などが観に来ていた。普段はライブには観に行かない様なタイプの方々だったが、興奮した面持ちで聴いていた。大衆的な普遍的なヒットソングの強さをまざまざと感じる素敵な夕暮れ時の時間であった。
ヤバイTシャツ屋さん
夕方17時15分。ヤバイTシャツ屋さん。芝生広場でも子供たちが聴きながら走り回っている。FLOW、かりゆしにも感じるポップさキャッチ―さがあるのだなと感心する。自分たちと四星球は、いつもフェスではトップバッターが多い事にも触れて、その上で今回トリ四星球前の出番である事に感謝していた。再度、演者にとっての出順の大切さの意味合いが理解する事が出来たし、ヤバTにトリ前の出順を任せた四星球の粋さも理解する事が出来た。
夕方18時10分。いよいよ大トリ四星球。すっかり日も暮れているが、UZUホールは超超満杯状態。「けっちゃっぷ先生presentsふざけてナイト!」康雄の第一声、いわゆる一発目のボケはこれだった。大祭の大舞台の第一声目だと色々丁寧に緻密に考え過ぎてもおかしくない中、この大雑把(良い意味で!)なボケは最高だった。後から康雄も「一発目やのに雑ですね~!」と楽屋で笑っていたが、これで逆に気負い過ぎずにリラックスして挑んでいる事が伝わってきた。そこから「ボートレース観たくないですか?!」という事から、メンバー4人がトーナメント戦で観客の上を水上に見立てて、ゴムボートにヘルメット姿で乗って戦いが始まる。
四星球
四星球
U太の本格的な前傾姿勢は愉快だったし、まさやんお手製の段ボールによる赤と白のソフトクリーム状なターンマークでターンして舞台から舞台へとゴムボートが観客によって走らされていく。康雄はギックリ腰持ちという事もあり、安全を考えて、スタッフたちがゴムボートを支えて担いで走らせる事に。ただ全く走らず康雄もゴムボートの上でしゃがんだままだと思いきや、生まれたての仔馬に扮していて、「UMA WITH A MISSION」へという鉄壁の流れ。そして、メロディックハードコアアレンジをした「馬コア」バージョンも歌われて、康雄いわく競馬場というサークルモッシュが起きる。
四星球
「鳴門教育大学で結成したのが21年前。今日は凱旋です! そこの軽音部の練習場で21年前に作った曲です。ずっとやってます」。「クラーク博士と僕」は21年前の楽曲ながら、彼らの代表曲であり、いつ聴いても初期衝動があり、その初期衝動は常にブラッシュアップされていて、今の歌として僕らの心に飛び込んでくる。曲の途中、観客の少年に呼びかける。「四星球はちゃんと長生きしますから宜しくお願いします!」ふと先述の康雄の50代のバンドマンへのXポストを思い出す。少年たちにとったら康雄はロックヒーローだ。だからこそ少年たちに長生きしての活躍を誓ったのかなと想ってしまった。
四星球
「この町で生まれた曲! どうもチャットモンチーの同級生です!」そう言って歌われた「潮騒ぎ」。チャットモンチーのベース福岡晃子は康雄とU太の同級生だ。ホール後方ガラス張りの前には物販エリアがあり、高橋が自身の物販エリアからガラス越しに四星球のライブを見守っている。鳴門教育大学先輩の高橋が鳴門教育大学後輩たちを中心に結成された四星球の故郷に錦を飾る凱旋ライブを見守っている。これをエモーショナルと呼ばずして何と呼ぶ……。
四星球
康雄とU太の鳴門教育大学ひと学年後輩まさやんを歌った「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」。本日も数々の段ボール小道具がステージでも芝生広場などありとあらゆるところで活躍していたし、ヤバTのありぼぼへの結婚お祝いとしてウエディングケーキを作ったものも披露する。本当に芸が細かい……。康雄に似ている事でも知られるが全くの別人であるヒーローちょんまげマンも登場! ゴムボートに乗り、ホール後方の出口まで行き、まるでリンボーダンスみたいに体を反らして出口を出て、また入り口から入って来る。無理な体勢を強いてでも、わざわざ出たり入ったりしなくてもいいのに、一見無駄に見える事を本気で真剣にやるのが四星球……。いや、これはちょんまげマンだから四星球とは無関係だが、とにかく四星球もちょんまげマンもかっこいいヒーローには違いない。「Paint Pain」でボルダリングエリアに果敢に向かう康雄も、まさしくヒーローそのものだった。
四星球
四星球
「去年20周年でアスティとくしまでやって、今年は結成の地でやりたくて。自分たちが楽しかったら良かったで5年やって、「ゆとり教育の星」(2007年発表ファーストアルバム)出してから、しっかり届けたいなとなり、今は一周周って自分たちが楽しかったら良かったにきてます。自分たち(四星球)が自分たち(観客)になりました。お子さんから90歳まで一斉に笑ってもらえるライブをしたいです。そういうバンドになりたい。21年目の挑戦であり、そういうバンドになると(鳴門)誓います!」
四星球
「Mr.Cosmo」曲中で康雄は言葉遊びを交えながらも宣言した。大学で鳴門に来た時に何も無い町である事に驚きながらも、だからこそ自分たちで面白い事を作ってきたという。そして、それを全国で共有できるバンドへと成長した今。でも、アホな事をやり続けている事に変わりはない。地元ゆるキャライジリネタをしながら、ユルキャラの「なるちゃん」を観客エリアで歩かせたり、どこを歩いているかわかるようにとバクシンあゆみの高くジャンプする写真パネルを目印にしたりと、とことんアホでふざけている。イベント名でもある『ふざけてナイト』では、なるちゃんが外に出て、寄ってきた子供と踊ったり、記念撮影をしている。近所に住む子供たちも気軽に遊びに来ている学園祭……、まさしくそんな感じであった。
四星球
『M-1グランプリ』を彷彿とさせる「アナザーストーリー」をしんみりしっかりと聴かせた後は、「こんな日、こんな夜はなんぼあってもいいからね~!」とM-1王者を彷彿とさせる言葉を投げかけて、本編ラストナンバー「オモローネバーノーズ」へ。90年代大ヒットナンバーをもじったタイトルナンバーだが、前日のリハから薄々と感じていたが立派なアンセムとして聴こえてくる。
四星球
「僕たち音楽作ってません! 時代作っています!」四星球は時代のアンセムを高らかに歌っている。去年のアスティとくしまでの主催フェスは規模も大きくて大変だった為、またすぐに何かやりたいとは思わなかったらしいが、今日はまたやりたいと思っていますとも宣言する。
「貸してもらえるような、貸したいと思ってもらえる事をして終わります!」康雄の言葉も力強い。「鳴門という町に人生狂わされました。鳴門に来て良かったです」このU太の言葉には重みがあった……。高橋ではないが、「立派になられて……」という言葉しかない……。
四星球
四星球
康雄とU太の言葉に沁みている中、モリスは相変わらず「鳴門に思い出が無い!」と漏らし、そこにまさやんが「思い出を作ったらいい!」と提案をして、何故かモリスへ熱いキス……。山下達郎のクリスマス大名曲が流れる中、ふたりは相撲を取るかの如くの熱いキス……。それをバックにこれまた何故か再び登場のちょんまげマンが山下達郎を歌っている。そう簡単には感動に浸らせてくれないカオスな四星球とちょんまげマンだが、一度ハケて、再度出てきてもモリスまさやん熱きキスが続いているのには呆れ果てて大爆笑するという謎の感情に!
四星球
「オーバーグラウンドとアンダーグラウンドのちょうど中間地点地べたはいずり回って「ふざけてナイト」やってます!」そして、こう叫んでアンコールナンバーへ。「これが世界の始まり! 「薬草」!!」死にたくなるあなたへ、死にそうなあなたへ、生を訴えかける歌……。世界の終わりと思ってしまうような悲しい死の出来事があって、個人的に落ち込んでいた数日であり、それは私だけでなく康雄や多くの人もそうであっただろう……。そんな中、康雄が「世界の始まり」と明言してくれたのは頼もしすぎた……。
アンコールラストナンバー「ふざけてナイト」へいく前に、康雄から「ふざけてナイト」のMVをこの場で制作したい旨が伝えられて、観客にステージに上がってきてもらうようにお願いする。可能な限りの多くの観客がステージに上がったが、たくさんの子供たちがステージに上がっていて、今日ならではの観客層で嬉しかった。
四星球
「記念撮影していい?! フォトスポットがあったから、そこに行きましょう!」康雄が呼びかけて、マイクから拡声器へと持ち掛けて、メンバーも楽器を持って、歌いながら芝生広場へと移動する。観客も聴きわけが良く、全員が率先して混雑に陥らないように緩やかに落ち着いて移動している。もちろん、その間、「ふざけてナイト」はずっと大合唱されているのだ。
序盤に書いた地元盟友バンドTHE春夏秋冬から借りているビールケースと板で作られた芝生広場のステージを覚えているだろうか? まさやんお手製段ボール小道具としてメンバーの楽器が飾られているが、メンバーみんな本物の楽器から段ボール楽器へと持ち替えて、エアーで弾いたり叩いたりしながら大合唱。それをホールにいた観客全員が囲って聴いている。前方には子供たちの姿も目立ち、親子で大合唱している。彼らの原点とも言える場所で、原点とも言えるステージでの大演奏と大合唱はたまらなかったし、何だか美しく輝いていた。
四星球
「出ちゃったぁ」全て終わり、芝生広場から観客のいないUZUホールへと戻ってきた康雄は、そう照れ笑いしながら呟いた。「世界の始まり」と明言した事への言葉だった。この日、間違いなく四星球の新しい世界の始まりが告げられた……。そして、この「ふざけてナイト」は必ず毎年恒例の祭にして欲しい。そう思いながら、高速鳴門のバス停から家路へと向かった。
取材・文=鈴木淳史 撮影=Youhei Suzuki、アミノン
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