【コラム】第66回グラミー賞では何が起きたのか? 音楽ライター/ジャーナリスト・粉川しのはこう見た!
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テイラー・スウィフト
やっぱりテイラー・スウィフトは強かった。今年も様々な話題を振り撒き、感動のスピーチやパフォーマンスを生み出し、少なからず議論も呼んで幕を閉じた第66回グラミー賞だが、主要部門の「最優秀アルバム賞」をテイラーの『Midnights』が受賞した瞬間が、授賞式のハイライトだったのは間違いない。これによってテイラーは同賞の史上最多(4回)受賞アーティストとなり、文字通りポップ・ミュージックの歴史に名を刻む偉業を達成した。彼女は「最優秀ポップ・アルバム賞」も手にしたが、同賞の受賞スピーチではニュー・アルバム『The Tortured Poets Department』が4月19日にリリースされることを告知。グラミーの晴れ舞台を新作プロモーションの機会として使う余裕としたたかさも、テイラー・スウィフトならではだろう。
強かったのはテイラーだけではない。事前の予想通り、女性アーティストが圧倒的な存在感を示したのが今年のグラミーだった。主要4部門(「最優秀レコード賞」、「最優秀アルバム賞」、「最優秀楽曲賞」、「最優秀新人賞」)を女性アーティストが独占したのに加え、ポップ、R&B、ロックの各部門でも女性が席巻。特にフー・ファイターズやメタリカを下して「最優秀ロック・パフォーマンス賞」、「最優秀ロック楽曲賞」をボーイジーニアスが掻っ攫ったのは快挙と言っていいだろう。フィービー・ブリジャーズはボーイジーニアス、ソロ名義を合わせ、今年度最多の4冠に輝いている。
ここで筆者の事前予想(※本文後にURL掲載)を振り返ってみると、読みはかなり当たっていたと言ってもいいかもしれない。アルバム部門の大本命のテイラーに加え、曲単位ではマイリー・サイラスの「Flowers」が「最優秀レコード賞」と「最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス」を制した。マイリーにとっては初のグラミー受賞だが、同曲が昨年最もストリーミングされたナンバーだったことを思えばそれも納得だ。でまた、映画『バービー』旋風はやはりグラミーにも及び、ビリー・アイリッシュの主題歌「What Was I Made For?」が「最優秀楽曲賞」や「主題歌賞」、「ヴィジュアル・メディア賞」を、そして『バービー』として「サントラ賞」を受賞している。「最優秀新人賞」と「最優秀R&Bアルバム賞」を手にしたヴィクトリア・モネも、下馬評通りの手堅い選出だった。
その一方で最多9部門にノミネートされ、3冠(「最優秀プログレッシブ・R&Bアルバム賞」、「最優秀R&B楽曲賞」、「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」)に輝いたSZAが、アルバム『SOS』、楽曲「Kill Bill」で主要部門の受賞を逃したのは少々残念だ。SZAの今回の結果を昨年に「最優秀アルバム賞」を逃したビヨンセと重ね、「グラミーの多様性はまたしても失敗したのか」と報じる海外メディアもあった。「ドクター・ドレー・グローバル・インパクト賞」を受賞したJay-Zが、受賞スピーチで「グラミーの最多受賞者が、主要部門の最優秀アルバム賞を獲っていないのはおかしい」と妻であるビヨンセの名前を伏せつつも批判したように、この問題は未だに根深いものがある。
グラミー授賞式はその豪華なパフォーマンスの数々にも定評があり、今年も圧巻のダンスで飾ったデュア・リパのオープニングから、貫禄の歌声で締め括ったビリー・ジョエルのエンディングまで、数多くのアーティストが素晴らしいステージを見せてくれた。中でも個人的にグッときたパフォーマンスを上げるなら、日本刀を使ったアクロバティックな殺陣とシネマティックな演出で、「Kill Bill」の世界を見事体現したSZAはやはり外せない。トレイシー・チャップマンの「Fast Car」のカバーで昨年大ブレイクしたルーク・コムズが、同曲をトレイシーとのデュエットで披露したのも感動的だった。
また、昨年亡くなったアーティストたちをトリビュートする特別企画では、ティナ・ターナーの追悼というよりも、ティナのパワフルな歌のメッセージに鼓舞されるようなファンテイジアによる「Proud Mary」のカバーや、アニー・レノックスが(プリンスのザ・レボリューションズのメンバーだった)ウェンディ&リサと共にシネイド・オコナーの「Nothing Compares 2 U」をパフォーマンスし、シネイドと共に同曲の生みの親であるプリンスにも捧げるパフォーマンスとなったのも忘れ難い。いずれにせよ、そうしたパフォーマンスの面でも女性アーティストの活躍が際立っており、やはり第66回グラミー賞は「テイラーの歴史的記録達成」と「女性アーティストの台頭」の2トピックによって記憶されることになるのではないだろうか。
文=粉川しの
主要6部門 受賞結果
▼年間最優秀レコード
マイリー・サイラス/Flowers
▼年間最優秀アルバム
テイラー・スウィフト/Midnights
▼年間最優秀楽曲
ビリー・アイリッシュ/What Was I Made For? [From The Motion Picture "Barbie"]
▼最優秀新人賞
ヴィクトリア・モネ
▼年間最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)
ジャック・アントノフ
▼年間最優秀ソングライター(ノン・クラシック)
セロン・トーマス