DEZERT、千秋(Vo)の誕生日に開催したアルバムツアー東京公演オフィシャルレポート
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DEZERT
3月2日に渋谷Spotify O-EASTで開催された『DEZERT LIVE TOUR 2024 “The Heart Tree”【PHASE_1】-延命ピエロ編-』のオフィシャルレポートが到着した。
3月2日、『DEZERT LIVE TOUR 2024 “The Heart Tree”【PHASE_1】-延命ピエロ編-』の東京公演が、東京・渋谷Spotify O-EASTで開催された。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
DEZERTは、結成13年目を迎えた今年1月にアルバム『The Heart Tree』でメジャーへ進出したばかり。そのアルバムを引っ提げて2月3日よりツアーがスタートし、この日は6公演目。3月29日からは後半戦となる<DEZERT LIVE TOUR 2024 “The Heart Tree”【PHASE_2】-匿名の神様編->の開催も予定しており、合算すると約5ヵ月かけて全国を巡る、ロングツアーの真っ最中ということになる。さらに、12月27日には念願の日本武道館でのワンマンライブも控えている。
バンドとしてはこれ以上なく勢いづいた状況に加え、この日は千秋(Vo/Gt)のバースデー当日。メンバーも観客も、特別に気合いを入れて臨んだライブだったことは言うまでもない。会場に設置されたフラッグには千秋へのバースデーメッセージが寄せ書きされ、入口には豪華なフラワースタンドが並ぶなど、お祝いムードも高まっていた。しかし、ライブを振り返ってみれば、贈り物をもらったのはこちら側(観客)だったのかもしれない。それほど、DEZERTからファンへ、愛に溢れる音楽と言葉が注がれ続けた夜だったのだ。
ツアー全体を通して、セットリストは『The Heart Tree』の楽曲中心だが、アルバムの曲順をほとんど崩さず、間に既存曲を差し込む形で展開されてきた。この日も、『The Heart Tree』の1曲目「Hopeless」からスタート。メジャー一発目とは思えないダークなこの曲こそ、希望と絶望を不安定に行き来するDEZERTのライブの幕開けに相応しい音楽ではないだろうか。Miyako(Gt)の放つ歪んだ音が満員のフロアに響き渡り、千秋が「行こうか、東京!」と煽ると、観客は歓声と拳で応え、SORA(Dr)が全身全霊で叩きつけるドラムと、Sacchan(Ba)のヘヴィなベースの音に合わせ、一心不乱に頭を振る。
ステージが真っ赤に照らし出されると、ドクドクと脈打つようなイントロから「君の脊髄が踊る頃に」へ突入。激しいサウンドと解放感のあるメロディでフロアの熱量はどんどん上がっていく。滑り出しから十分な盛り上がりに見えたが、曲の最中にSORAが「もっと!」と言わんばかりに自分の胸を拳で殴って見せ、千秋も「そんなもんちゃうやろ! 近づいてこい!」と焚きつける。「包丁の正しい使い方〜実行編〜」の怪しいイントロが始まると、歓喜の声があちこちで上がり、さらにヒートアップ。ヘッドバンギングの嵐の中、青い光に照らされるメンバーの狂気が滲む表情にゾクゾクさせられる。
「自分探してる? 居場所探してる? 色々探してるよな。見つかんないかもしれないけど、僕たちの音楽が何か見つけるための糧になる。そう信じています。だから今日一日、僕たちの音楽を信じて」。そんな力強い千秋の言葉を前置きに始まったのは、アルバムの中でも特にメロディの美しさが際立つバラードソング「楽園」。優しい歌声と芳醇なサウンドが会場を包み込んだ。リラックスムードを一変させたのは「異常な階段」。じっとりとした陰鬱なメロディを淡々と歌い上げる様は、「楽園」とは真逆のアプローチに思えるが、どちらもDEZERTの持つ求心力の源だろう。美メロの最新バラードから、10年以上前に無料配布音源として世に出たコアなバラードという流れは、この日のセットリストの中でも特に聴き応えのあるフェーズであった。
「あと何回あんたたちの音聴けるだろう。あと何回お前たちは俺たちの音に触れるんだろう。考えてもきりないけど、今日精一杯鳴らしてほしいな! 100%、いや200%、出せるだけのもん出して帰るから応えてくれ。信じてくれ。俺たちの居場所、守っていくためにお前たちと戦っていく。その中で出会えたこと、嬉しく思います」。
怒涛の勢いで投げかけられる、千秋のストレートな愛の言葉。その思いの強さを証明するように披露したのは、「僕等の夜について」だった。バンドからファンへ向けたラブソングのようなこの曲では、<綺麗事も汚さも全部 届いてくれよ 僕等の夜には意味があるんだと 照らしてくれよ こんな僕を 君の歌で>と、小細工なしの真っすぐな言葉を観客の心へ届ける。曲が終わると、彼らの思いを確実に受け止めた観客から、この日一番の大歓声が沸き起こった。バンドやライブの本質を体現したような美しい光景に、大きな感動を覚える瞬間であった。
2022年の初回リリース時から進化を遂げた「モンテーニュの黒い朝食」に続いて披露された「生活」は、普遍的なタイトルからは想像できない爆発力の高い一曲。Sacchanの超絶技巧プレイから始まり、ダークでヘヴィなサウンドに飲み込まれていく。音源で聴く以上の迫力があり、圧倒的な存在感を放っていた。本ツアーのタイトルでもある「延命ピエロ」は、アルバムの中で最もハードな楽曲。デスボイスを繰り出す千秋の鋭い視線がフロアを射抜き、3人のプレイもこれまで以上にアグレッシブさを増していく。それに呼応するように、観客の熱量も急上昇していた。「「誰にも渡しちゃいけない場所を心と名づけ」」で、苦悩する心の内側をそのまま吐き出すように歌い上げたあとは、「Dark In Black Hole」、「半透明を食べる。」を続けて披露。この2曲はどちらも2019年リリースのアルバム『black hole』の収録曲だが、当時よりもさらに強力な武器としてセットリストに加わっているようだ。
「今日、誕生日です。(中略)こうやって祝ってもらうと、なんか悲しい気分になるわけ。こんな俺ごときが祝われるなんて世界はおかしいって。ムカつくことも色々あるけど、俺は君たちを好きになる努力をしてる。もう好きだけどね。だからといって何でもしていいわけじゃないじゃん。長いバンドだから言えることだけど、あなたたちも、俺たちにじゃなくていいから誰かに好かれる努力をしてみてください。お前ら好きになる努力はすげぇからさ(笑)。でも俺は本当にこの場所を信じてるし、ライブしてると武道館なんてどうでも良くなっちゃう。俺の羅針盤はここしか指してねぇの。俺の未来は音楽しか指してない。それを信じてついてきてほしい。もっと好きになって、歩み寄ってほしい。全然大丈夫だよ。そういう関係でいよう。お前らとは友達にはなれねぇけど、それ以上の関係になれると思ってるんで」(千秋)
不器用で素直で人間味しかないこの言葉は、紛れもなく彼の本心なのだろう。思いの丈を伝えたあとに届けたのは「ともだちの詩」。どこか懐かしく心に沁みるようなこの曲を、淡々と、しかし優しく歌い上げ、「また生きて会おうね」と言い残し、本編は終了となった。
感動的だった本編ラストとは裏腹に、アンコールのMCでは、Miyakoが「12月の武道館では銀テープの代わりに現金を飛ばそう」と狂気の提案をしたり、千秋が「ヴィジュアル系か否かのラインは腋毛の有無だ」と主張したりと、突拍子もない話題が飛び交い、観客を沸かせる。
和やかなムードの中、アンコールで最初に届けたのは、アルバム表題曲の「The Heart Tree」。DEZERTが伝え続けてきた、ライブという空間を誰かの居場所にしたいという願いを込めた、大きな愛が溢れる壮大なバラードソングだ。昨年9月に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催したワンマンライブで、メジャーデビューを宣言した後にこの曲を初披露し、メジャー進出後も変わらない姿勢であることを、音楽を通して真摯に伝えた姿は記憶に新しい。この日は「全力で歌います。(各メンバーを指して)全力で弾くし、全力で叩くでしょう。だから全力で受け止めてください。僕たちの居場所、今日は間違いなくEASTです」と、観客はもちろん、メンバーや自分自身にも、“ここが居場所だ”と言い聞かせるように、ステージの床を素手でバシバシと叩きながら丁寧に伝える姿が印象的だった。
「The Walker」でさらに前進するバンドの未来を予感させ、「Sister」をきっかけにハードな楽曲を怒涛の勢いで投下し、アンコールを駆け抜けていく。「「秘密」」で観客が暴れ狂う中、Miyakoと肩を組んだ千秋は「みーちゃん、入ってくれてありがとよ。まだまだ夢見るぞ!」と叫ぶ場面も。そして「武道館の最後はこの曲で」と以前から宣言してきた「「切断」」で最高の一体感と高揚感を生み出し、フィナーレを迎えた。
DEZERTのこれまでのライブでは、自身の思いを丁寧に言葉で伝える姿から、誠実さや真摯さを感じてきたが、この日強く感じたのは、目の前の観客に対する思いの深さ、つまり愛である。彼らが観客の心へと一歩踏み込み、さらに近づこうとしていることは、メジャー第一弾にしてベストアルバムのような積み重ねた思いを感じさせる作品『The Heart Tree』を通しても伝わってくる。より多くの人々へ伝わるように広く、伝わった人にはより深く。文字にすれば当たり前のようにも感じるが、DEZERTというバンドがメジャーという舞台に立っても堅実に歩を進めている証拠と言えるだろう。
この途方もなく優しく、愛に溢れたヴィジュアル系バンド・DEZERTの未来を心から信じたい。そう強く思う夜であった。
取材・文=南明歩 撮影=西槇太一